他人の目を気にするあまり、自意識過剰なのではないかと悩んでいる人は少なくありません。自意識過剰といわれる人の中には、対人への恐怖や不安が大きく、自分は病気なのではないかと考える人もいます。では、他人の目が気になるのは一体何が原因なのでしょうか。また、自意識過剰を治すにはどうすればいいのでしょうか。
目次
- 自意識過剰とは
- まとめ
一般的に自意識過剰とは、他人からどう見られているか、など自分自身に関することを意識しすぎている状態を指します。
心理学では、自分自身を意識することを自己意識(または自意識)といいます。自己意識には大きく次の2つに分けられています。
自分が他人にどう思われているのかを気にすること
自分自身の内面を気にすること、内省すること
つまり、一般的に自意識過剰といったときには、公的自己意識が高すぎる状態を指しているということが分かります。
「公的自己意識」そのものにネガティブな意味合いは含まれませんが、公的自己意識が高すぎる場合は対人の問題を抱えやすくなると考えられています。
また、自意識過剰や他人の目を気にするというと、「ナルシスト」という言葉が浮かぶ人も多いと思います。ナルシストとは、自己愛(ナルシシズム)が強い人のことを指します。もとは心理学において、精神分析という理論や治療法の創始者であるフロイトがナルシシズムという概念を形にしました。フロイトのナルシシズムは自分自身への性的な愛を示していますが、一般的に自己愛というと広く自分自身への愛を指します。「自己愛」そのものにネガティブな意味合いは含まれませんが、自己愛が強すぎる場合は対人の問題を抱えやすくなると考えられています。
自意識過剰と指摘されても、自分が他人にどう思われているのかを気にしすぎているからといって、必ずしも自分自身への愛が強すぎるわけではないということが分かります。
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自意識過剰といわれるときに、自分が他人にどう思われているのかを気にしすぎているという可能性と、自己愛が強すぎるという可能性があります。それぞれはその人の生まれ持った特性のほかに、次のようなことも影響していると考えられます。
おもに環境によって、「自分は他人と協力し合う社会の一員である」という捉え方が強くなると、他人との関係を重視するため、他人にどう思われているかを気にしやすいことが分かっています。また、このような人は相手の気持ちを察して共感したり、他人と比べて自分が劣っていると感じたりしやすいと考えられています。例えば、学校での人間関係の失敗などの経験が挙げられます。
親が過度に批判的であったり、あるいは甘やかしすぎたりすると、自分に対する感覚がうまく育まれにくくなるため、自己愛が強すぎる性格をつくる可能性があると考えられています。
自意識過剰といわれる性質が及ぼしやすいネガティブな影響について見ていきましょう。
自分が他人にどう思われているのかを気にしすぎる人で、自分自身の評価が低い場合は、他人の目に対する不安や緊張、恐怖を抱えやすくなると考えられています。対人に不安を抱えると、他人と話したり人前に出たりするのを避けるようになる可能性があります。
自分が他人にどう思われているのかを気にしすぎる人で、自分自身の評価が高い場合は、自己顕示欲が強くなると考えられています。自己顕示欲が強すぎると、他人とのコミュニケーションにおいて、相手から嫌がられたりする可能性があります。
自分が他人にどう思われているのかを気にしすぎる人も、自己愛が強すぎる人も、気分が落ち込む「抑うつ状態」になりやすいことが分かっています。
自己愛が強すぎる人は、人前で失敗したり他人から批判されたりすることを気にするため、怒りながら相手に反撃したり、引きこもったり、失敗する恐れのある状況を避けたりしやすくなる可能性があります。
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他人の目が気になりすぎることで、自分は病気なのではないかと考える人は少なくありません。
他人と話したり人前に出たりすることに大きな不安や恐怖、緊張を抱えたり、そのような場面を避けたりして、日常生活に支障をきたしている場合は、社交不安症と診断される可能性があります。社交不安障害では、薬で不安を抑えながら、徐々に他人と話したり人前に出たりすることに慣れたり、自分で不安をコントロールする方法やうまく他人と接するための方法を習得したりするといった治療が主に行われます。
また、他人から称賛されたいという欲求が強く、人前で失敗したり他人から批判されたりすることを気にしすぎるあまり、怒りながら相手に反撃したり引きこもったりして、日常生活に支障をきたしているような場合、自己愛性パーソナリティ障害の診断を受ける場合があります。自己愛性パーソナリティ障害では、カウンセリングを含む精神療法が主に行われます。
では、自意識過剰といわれるのを治すにはどうすればいいのでしょうか。
自分が他人にどう思われているのかを気にしすぎる人は、他人からの評価によって自分の価値を実感している傾向があります。他人の目を気にしないようにするには、自分の中だけでの目標をつくることを意識するといいでしょう。例えば、誰かに認められることや褒められることを目指すのではなく、「今の自分よりも~ができるようになりたい」といった目標をつくることが挙げられます。
自分の中だけの目標は、なるべく自分にとって無理のないものを考えてみるといいでしょう。高い理想と現実とのギャップが大きい人は、まだ他人の目を気にしすぎている可能性があります。
ものごとの捉え方や行動パターンは人によって異なります。例えば、友達と話していて相手の口数がいつもよりも少なかったときに、「自分のことを嫌いになったのではないか」と考えて落ち込む人もいれば、「相手は疲れているのだろう」とそっとしておく人もいるでしょう。このとき、後者よりも前者のほうが他人からの評価を気にしすぎているといえます。このように自分が「前者のような捉え方ばかりしている」ということと、「後者のような捉え方もできる」ということに気づいていくと、他人の目を気にしすぎず、ストレスにうまく対処できるようになると考えられます。
具体的には、自己中心的だと指摘された場面で自分の頭に浮かんだことや感情を思い起こして紙に書き、ほかの捉え方ができないか考えるというトレーニング方法が挙げられます。
自意識過剰といったとき、自分が他人からどう思われているのかを気にしすぎていることと、自己愛が強すぎることを指す可能性があります。自分が他人からどう思われているかを気にすることも自己愛もそれ自体はネガティブなものではなく、過剰である場合に対人の問題を抱えやすくなります。どちらも生まれ持った特性に加えて、環境による影響も考えられており、自身のものごとの捉え方の癖を把握したり、自分の中だけで無理のない目標を考えたりすることで、自意識過剰といわれるのを治しやすくなると考えられます。
カウンセリングでは、自意識過剰といわれる原因や対策をカウンセラーと一緒に考えていくことができます。具体的には、カウンセラーとの対話の中で、自身の「他人に対する心理」や「ものごとの捉え方の癖」に気づいていくといったことが挙げられます。
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