家庭内の問題は、家族だけで解決することが困難な場合もあります。
何か問題が起こっても、みんなで話し合い、解決策を考えることが理想ですが、そのような理想的な家族は、むしろ少ないかもしれません。
問題を感じている人が、家族のために、どんなに努力してもなかなか解決できない問題もあります。
実際、家族のことを悪く言いたくない、自分が我慢すればいい、外に家庭の恥をさらしたくないなどと考えてしまうことが多いと思われます。
しかし、家庭内で心身に不調をきたすのは、決まって「家族のために頑張ってきた人」です。
「もしかして、うちの家庭は問題があるのでは?」「このままでは苦しい、辛い、何とか今の状態から抜け出したい」と考えているなら、すぐに正しい知識や気づきを得て、解決のために動き出してみましょう。
目次
- 機能不全家族とは
- おわりに
機能不全家族とは、家庭内で弱い立場にある人に対して、身体的または精神的ダメージを与える機会が日常的に存在している家族状態のことです。
家庭内でダメージを受けやすいのは、子どもや高齢者など弱い立場の人です。虐待や育児放棄(ネグレクト)のほか、親の依存症、家族同士の不仲や対立、貧困、子どもへの過剰な期待なども含まれます。
アメリカのセラピスト、クリッツバーグが著書『The Adult Children of Alcoholics Syndrome』(1985)で述べている「機能不全家族」の特徴には以下のようなものがあります。
これらの事柄に対し、トラウマがあり、強いストレスを感じているならば、機能不全家族である可能性が高いです。
臨床心理士とは・・・
悩みを抱える人との対話をベースに、精神分析や心理療法を使って問題の解決をサポートする「こころの専門家」です。
うららか相談室には、多くの臨床心理士が在籍しています。
「アダルトチルドレン」という言葉が日本に入ってきたのは、アメリカのソーシャルワーカーだったクラウディア・ブラックの著書が1989年に齋藤學により「私は親のようにならない」という表題で翻訳されたことがきっかけです。
「アダルトチルドレン」とは、機能不全家族で育ったことにより、「親から守られる」「適切な教育を受ける」などの正常な成長過程をたどれず、成人してからも生きにくさや心に傷を抱えている人のことを指します。
アダルトチルドレン(AC)には、以下のような特徴があります。(医師の竹村道夫による)
また、前述のクリッツバーグの定義によると、担ってきた役割により、次のようなタイプがあります。
1.ヒーロー(英雄)
成績優秀、スポーツが得意、優等生など、世間的に評価されるような行動をとる子のことです。
条件付きの愛情を与える親の元で育った人に多く、自分の意思ではなく、「親に褒められたいから」「親に認められたいから」という理由で頑張っていることが多いです。
「優秀でない自分は価値がない」「頑張らないと見捨てられる」などと考えることもあります。
2.スケープゴート(身代わり)
家族に疎まれるタイプです。
寂しさを感じやすく、「自分を認めてほしい」「注目してほしい」という想いが強く、問題を起こしてしまうタイプです。
大人になっても、怒りっぽい、依存しすぎるなど、人間関係で苦労することが多いです。
3.ロスト・ワン(いない子)
おとなしくて手がかからない子、目立たない子と思われ、特に周囲に気にされません。
家庭に余計な刺激を与えないように過ごしてきた子に多いですが、大人になり、「自分は必要とされていない」などと孤独になってしまうこともあります。
4.クラウン(道化役)
家庭の緊張を和らげるための役割を担ってきたため、周囲をよく観察し、気を配りすぎるところがあります。
いつもおどけて周囲を笑わせてきたので、辛さ、悲しさ、怒りなどを抑えてきた過去があります。
それにより、自分の本当の感情が分からなくなってしまうことがあります。
5.イネイブラー(支え役)
きょうだいだけでなく、親の世話もしてきたタイプです。テキパキしたしっかり者ですが、いつしか家族の世話に生きがいを感じ、自分はどうしたかったのか?と自分の人生について考える機会を逃してしまいます。
6.プラケーター(慰め役)
泣いている母親を慰めたり、家族のストレスを癒してくれる存在です。
親の愚痴を聞いて、依存されても「私は親に頼りにされている」「私がいないと困るだろう」と親に人生を縛られてしまう人も多いです。
カウンセリングを通じて、自身の内面とじっくり向き合ってみませんか?
うららか相談室では、あなたの「変わりたい」という気持ちを、臨床心理士などの専門家がしっかりとサポートさせていただきます。
「アダルトチルドレン」の原因は、子どもの頃の機能不全家族が背景にあります。
「アダルトチルドレン」は診断名ではなく、状態像であるので、薬で治療できるものではなく、まず、自分がアダルトチルドレンであることを自覚し、自分軸で生きていくことを決意することが重要です。
今までは、親の考えに合わせたり、顔色をうかがって決めてきたけれど、今後は、自分がどうしたいのかという「主体性」を持つことが克服のポイントになります。
治療は長期に渡ることもありますが、まずは、次のようなことを意識するとよいでしょう。
まず、このことを認識しないと、治療が進みません。
アダルトチルドレンの人は、無意識に「もっとこうすればよかった」「私が何とかできなかったのか」など、社会に出ても、「自分が悪いのでは?」と感じてしまうことも多いのです。
いつも親の顔色をうかがってきたので、自分の意見や価値を認められず、「自分の責任では?」と感じてしまうことがあります。
子どもながらに、家族のことを考え、できる努力をしてきた、自分はずいぶん頑張った!と認めてあげて下さい。
アダルトチルドレンは、親の考えに合わせ、顔色をうかがいながら生きてきたので、自分の本当の感情に気が付くことが苦手です。
子どものころ、泣きたかったのに泣けなかった、怒ることができなかった、悲しかったのに笑っていたなど、子どもらしい率直な感情の表出ができないことが多かったと思われます。
大人になっても、周囲に合わせすぎて「自分は本当はどう感じているのか?」ということに気が付けません。
子どもの頃、感情を抑えすぎてきたことが、大人になってからの不調を引き起こしているので、「子どもの頃のあの場面で、どんな感情を抑えてきたのか?」「本当は、その時どうしたかったのか?」に気づくことが大事です。
アダルトチルドレンを克服するには、自分の子ども時代を客観的に見つめなおすことが重要です。
しかし、一人で振り返るのは大変な作業ですので、カウンセラーや医師などの治療者と一緒に行うとよいでしょう。
まずは、子ども時代にトラウマを抱えていることを認識し、「今まで自分が悪いと思っていたけれど、特別な家庭環境で我慢を強いられてきた。今の考えのままだと苦しいので、これからは変えていこう」と決意することが必要です。
なお、振り返りのときに、我慢を強いてきた両親や祖父母などに恨みを持っても、良い方向へは進みません。
過去はやり直せないので、前へ進むためには、苦しい思い出を一緒に共有してくれる治療者(カウンセラーや医師など)と共に進め、「本当はこうしたかったのにできなかった」というもやもやした想いをひとつひとつ確認していくことで落ち着いてくると思います。
辛い作業になるので、精神状態の良いときにすすめましょう。
アダルトチルドレンは、自分軸ではなく、親の考えや周囲の考えを重要視してきたので、「自分の意見を言えない」「何かうまくいかないと自分に原因があるのではと考えてしまう」「自分に価値があるのか」「もやもやとしたむなしさ」のような悩みを持っていることがあります。
そこで、今の悩みを具体的に考えてみます。
例えば、「自分の意見が言えない」という悩みに対しては、子どもの頃は「親から子どものくせに意見するな」と言われていたので、言いたいことがあっても押し殺してしまう習慣があったことに気が付くことが第一です。
次に、「今までは、親が絶対だと信じていて、子どもだから自分の意見を持ってはいけないと思っていたが、自分の意見をもってもいい」という考えに変えていくのです。
このように認知のゆがみ(考え方のくせ)を変えていくには、治療者との連携が必須です。
急に考え方を変えるのは大変な労力がかかりますし、意識しないと、元に戻ってしまいます。
すぐに自分の意見が言えるようにならなくても、「言えなかったけれど、あの時本当は、こう言いたかった」など、意識するだけでも進歩です。
自分の意見を持つことにまずは慣れるなど、スモールステップで意識を変えていきましょう。
機能不全家族で育つと子どもの人格形成に悪い影響を与えることが一番の問題です。
虐待やネグレクト、あるいは過度な期待など、愛情が受け取りにくい家庭環境では、子どもが自由に意見を言い、感情を表現することは許されません。
偏った考えを持つ保護者もまた、機能不全家族に育ってきたという事例も少なくないですし、どこかで世代間連鎖を断ち切る必要があります。
機能不全家族で育つと、自分を肯定することができず、価値のない人間だ、周りに評価されないと駄目な人間だと思い込んでしまいます。常に、周囲の反応をうかがい、自分の意見も持てません。
過度な落ち込みや自己否定を繰り返すうちに、うつ病、精神疾患に罹患することもあります。
また、虐待の連鎖や親子間の共依存の危険性もあります。
「共依存」は、人間関係に依存してしまう状態で、「自尊心が低い人は、他者から必要とされたい想いが過剰になる」ということが原因です。
機能不全家族から抜け出したいと思うなら、次のことを試してみましょう。
書籍を読んだり、カウンセラーなどに相談し、正確な知識を得ることが第一歩です。
また、経験者などの話を見聞きすることも自分を理解するうえで参考になります。
一人で解決することは難しいことも多いです。
専門職に辛い胸の内を聞いてもらい、一緒に過去を振り返ることで、認知の歪みを矯正していくことができます。
本で得た知識やカウンセリングでの気づきを実際の生活の中で活かしていくことが重要です。
例えば、「自分のせいだ」と自己嫌悪に陥ってしまいそうになったら、そのことに気づき、「私のせいではない」と考え方を変えていくことです。
また、自己主張が苦手な方も多いので、「自分の意見を持つこと」を意識してみるなど、少しずつできることから実践してみましょう。
自分を変えよう!と決意しても、実践することは難しいです。
一日の終わりに、「今日は職場で、上司に自分の意見が言えた」「同僚の誘いを断ることができた」など、自分で決めて行動できたことなどを記録しておくのも振り返りの役に立ちます。
急には変われませんが、例えば、「自己主張ができること」が目標であれば、「自分がどう感じているか気づく」「伝えたいことを一人でつぶやいてみる」「親しい人に自分が考えていることを伝える」「少人数の中で自分の考えを伝えてみる」など、できるところから少しずつ始めていくとよいです。
慣れないことをすると、「やっぱり言わなきゃよかった」と後悔することもありますが、そのもやもやとした思いは、日記などに書き出し、気持ちを切り替えて、改めてできそうなことから始めるとよいと思います。
自助グループとは、同じ苦しみを抱える者同士がともに困難を乗り越えていくための集まりのことです。
同じ悩みを持つ仲間同士で、それぞれの想いを話し合うことも心の安定に役立ちます。
家庭環境に悩み続けてきた仲間たちと、お互いの想いを共有し合うことで、「みんな辛くても乗り超えようとしている」と勇気をもらえると思います。
また、心が折れそうになったとき、機能不全家族でない人に相談しても、共感してもらえないことで、かえって傷ついてしまうこともありますが、同じ悩みを抱えている仲間なら、「わかるよ」と受け止めてもらえることも多いです。
家庭の問題は、親の常軌を逸した厳しさや偏った考えも「しつけ」や「愛情」などとすり替えられてしまうこともあります。
子どものうちは、親を信じているので、助けを求められないことも多いですが、大人になった今は自分の力で変えていくことができます。
時間は有限ですし、「なんとかしたい!」「苦しみから抜け出したい!」と思ったら、適切な知識と専門職、親しい人たちを味方につけて、少しずつ前へ進んでいきましょう。
<参考文献>
アダルトチルドレンの由来 | JUST | NPO法人 日本トラウマ・サバイバーズ・ユニオン, https://www.just.or.jp/?terminology=000856(2021-01-15 最終閲覧)
機能不全家族とは - アダルトチルドレン.net, https://xn--cck0cd1ag5rcj7d.net/(2021-01-15 最終閲覧)
用語集 | JUST | NPO法人 日本トラウマ・サバイバーズ・ユニオン, https://www.just.or.jp/?page_id=110(2021-01-15 最終閲覧)
アダルトチルドレンがおちいりやすい問題、症状のチェックリスト, http://www2.wind.ne.jp/Akagi-kohgen-HP/AC-Problem.htm(2021-01-15 最終閲覧)