以前は素直で聞き分けの良かった子どもが急に怒りっぽくなり、暴れ始めたら、親としてどのようにすればいいか分からなくなってしまう人は少なくないでしょう。
小学校高学年くらいでも、体格の良い子で、親が小柄である場合、子どもから親への暴力を止めるのが困難になることがあります。
警察白書の「少年による家庭内暴力の対象別状況(令和5年)」によりますと、家庭内暴力の総数は4,744件、暴力の対象は母親が58.6%を占め、続いて父親13.5%、兄弟姉妹10.6%となっています。これは、警察の認知件数ですので、通報しないで耐えている家庭を含めると、実際はもっと多いでしょう。
この統計からも、母親が暴力の対象になることが多いですが、自分より大きくなった子どもを相手にするとなると、家庭内で解決するというのはかなり難しいと容易に想像できます。
子どもが親に暴力や暴言という形で発しているサインを受け止めることも大事ですが、外部に助けを求めることも必要です。
専門機関と連携し、暴力的な子どもの気持ちに寄り添い、解決に向けて動き出しましょう。
ここでは、家庭内暴力の原因や子どもが暴力を振るう心理、対処法などについて解説していきます。
目次
- 家庭内暴力とは
- 家庭内暴力の原因
- おわりに
家庭内暴力とは、一般的に、家庭内で子どもから親に振るう暴力のことです。
広い意味では、家庭内で起こる家族間の暴力のことをいいますが、暴力を受ける対象者が誰かによって、配偶者への暴力は「DV(ドメスティックバイオレンス)」、親から子どもへの暴力は「虐待」と呼ばれ、区別されることが多いです。
殴る蹴るなどに加え、暴言や、ものを壊すといったことも家庭内暴力に含まれます。
警察庁生活安全局人身安全・少年課の報告によると、少年の家庭内暴力の認知件数は、令和3年を除き平成24年から増加し続け、令和5年は過去最も多い4,744件になっています。また、近年は小学生の家庭内暴力が大きく増加している傾向があります。
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家庭内暴力が起こる原因の一つとして、子ども自身が、「勉強が嫌いで宿題をしたくない」「友だち関係がうまくいっていない」など、家庭の外でのストレスをかかえていることや、親に対する不満を言葉にできない子どもが、突然ストレスを爆発させてしまうことが考えられます。
「今まで真面目な子どもで、聞き分けがよかったので、親に対する不満ではない」と親が思っていても、子どもの立場では、親に対する不満をずっと我慢し続けて、すでに限界がきていることがあります。
これは、子どもが自分の意見を親に聞いてもらえず、親が子どもの行動などを決めてしまっているケースに多いです。警察庁生活安全局人身安全・少年課の報告によると、少年の家庭内暴力の原因・動機については、「しつけ等親の態度に反発して」が約7割となっています。
また、暴力を振るう子どもの中には、発達障害や、うつ病などの精神疾患を抱えている可能性もありますが、この場合も何かストレスがかかったことで、怒りが爆発し、暴言・暴力につながっていると考えられます。統合失調症では、治療により症状が改善されると、多くは家庭内暴力が見られなくなります。
家庭内暴力に発展しやすい子どもや親には以下のような特徴が挙げられます。
中高生になると、ものごとを自分で決断する場面も増えます。親や先生の言うことを疑わずに従ってきた子どもは、自分で決めること、意見を持つことに慣れていないので、ストレスをためてしまうことが多いです。家庭内暴力を振るう子どもの多くは、真面目であるがゆえに、家庭外では問題がないように見えるという傾向が見られます。
自分のことは自分で決めたいのに、親がなんでも決めてしまい、自分の意見を聞いてもらえない、思うように行動できない、と感じている場合や、言葉で伝えても親に言い負かされてしまうと感じている場合には、子どもは暴言・暴力で対抗するしかなくなります。
「嫌だ、やめてほしい」ということを口に出せず、はっきり断れない、嫌なことを我慢してしまう、という子どもは、いつのまにかストレスがたまってしまいます。積極的に人と関わらず、友人関係が希薄である傾向が見られます。
せっかちで、言葉で伝えることが苦手なために、先に手が出てしまう子どもは、物を投げつけたり、「死ね!」などの短絡的な言葉で暴言を吐くことがあります。
この傾向が強い場合は、精神科や発達障害専門の医療機関に相談することが特に有効かもしれません。
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子どもが暴力を振るう心理には、自分の気持ちに気づいてほしい、親の愛情を感じたい、もっと自分を信頼してほしい、といった様々な気持ちが隠れていることがあります。
例えば、以下のような心理状態が考えられます。
1.暴力を振るうしかない自分をつくった親への抗議
勉強や友人関係などでどうしてもうまくいかないことが多いと、自分の力ではどうすることもできないため、そんな自分をつくった親への抗議の意味も兼ねて親に暴力を振るうことが考えられます。
親が厳しい、いつも怒られてばかりで褒められたことがない、子どもの意見を聞いてくれない、辛いときも気にかけてもらえず寂しかったなど、長年の不満でいっぱいになっている場合には、特にそのような心理が強く働いているといえます。
親には言いくるめられてきたことも多く、「どうせ親には自分の気持ちが理解できない」など、話し合いによる解決をあきらめていることがあります。
2.自立したいという心理
本来は家庭外で自立を経験するものの、不登校などでそれができない場合、今まで自分を支配してきた親を操作することによって、自立を試みていると考えることができます。親や先生の言うことをよく聞き、おとなしく、聞き分けがよかった子どもにこの心理が多いです。親が厳格に子どもを管理したい、進路も親が決めてしまう、小言が多いなどという家庭の場合、今まで我慢していたけれど、実は子どもは、「私にもやりたいことがある!」「僕の意見も聞いてほしい!」と思っていることがあります。
自己主張が苦手で、気持ちを言葉で上手く伝えられないとき、暴言・暴力としてこうした心理が現れてしまうことがあります。
3.愛情を感じたい
暴力に相反して、弱った親の世話をしたり、仲直りのように甘えたりすることを繰り返す子どもには、親の愛情を感じたいという心理もはたらいていると考えられます。
これは、「もっと自分を見てほしい」「甘えたい時期に甘えられなかった」という気持ちが子どもにある場合です。
怒りが爆発したと思うと、親の心配をしたり、急にスキンシップを求めてきたり、今までできたことを「できない」と言って急にだらしなくなったりすることがあります。
こうした「子ども返り」に親は戸惑いがちですが、子どもの心理状態を考えると、年齢にそぐわないと感じて拒否してしまうことは、解決を遅らせることにつながります。
4.自分の力を確認して欲求を満たしたい
ストレスやイライラする気分、とりわけ自身の無力感を、物を壊す、暴言を吐く、自分より強いと思っていた親を相手に暴力を振るう、といった形で発散することで、自分の万能感を満足させたいという心理がはたらいていることも考えられます。
強いと思っていた親を殴ったり蹴ったりすることで、自分の強さを感じ、物を壊すことで、すっきりするなど、先を考えず、衝動的に行動することが多いです。
子どもが家庭内暴力を行なったら、以下のような対処を考えましょう。
1.怪我の危険があるときは、安全を確保し、少し落ち着くまで待つ
家庭内暴力は幼児の癇癪(かんしゃく)と違って、子どもに暴力を振るわれた親も怪我をしてしまう恐れがあります。モノを投げつけたり、暴れたりしているときは、まずは、安全な距離をとって、少し落ち着いたら、話ができるかどうか声をかけてみましょう。
子どもによっては、ひとしきり暴れたら、ふっと我に返ることもあります。
子どもに暴力を振るわれた親がなだめようとして、「やめなさい!」と大声で叫ぶと、もっと興奮することもあります。
安全な場所から、様子をうかがい、落ち着いたようなら、「入ってもいいかな?」と声をかけるなど、冷静に対処しましょう。
頻繁に子どもからの暴力があり、身の危険を感じているなら、事前に警察の少年担当に相談しておくと安心です。
警察に相談となると、「そこまでしなくても」とためらってしまうかもしれませんが、子どもに「暴力は悪いこと」「警察を呼ぶような問題」であることを理解してもらう必要があります。
事前に相談しておくと、サイレンを鳴らさない、私服で来てくれるなどの配慮をしてもらえるケースもあります。
警察を呼ぶことが、子どもによっては、刺激が強すぎることもありますので、判断に迷ったら、事前に地域の保健センター、精神保健福祉センター、児童相談所などに対応を相談しておきましょう。
2.子どもが暴言を吐き、ひたすら親を無視する場合も見守りは続ける
子どもが暴言を吐いたり、親のことを無視したりする場合でも、落ち着いたときに、子どもと話をしてみましょう。
子どもは、「もっと親にこっちを向いてもらいたい」とSOSを送っていることがあります。
子どもの心理とは裏腹に、ひたすら無視をしたり、「うるせえ!あっちへ行け!」など暴言を吐いたりしていることが考えられるため、言われたとおりにずっと放っておくのもよくないのです。
子どもが部屋にこもってしまうなら、「見守っている」ということを食事を運んだ時に伝えたり、手紙やメールで「心配なんだよ。話がしたい。」と伝えるといいでしょう。
多くは無視されるでしょうが、根気よく続けるうちに何か反応があるかもしれません。
3.子どもが自由に話せる雰囲気を作る
子どもと話ができるようなら、じっくりと向き合って、話を聞きましょう。
いつも親が主導となって子どもの言動を決めることが多かったのであれば、「これからは、○○が思ったことを自由に話していいんだよ」と伝え、話しやすい雰囲気を作りましょう。
子どもが、言葉で思いを伝えてもいいんだ、自分の話を聞いてくれるんだ、と思えば、お子さんの心も軽くなり、話しやすくなるでしょう。
親を殴る子どもは、「どうせ話を聞いてくれない」「親は話をさせてくれない」と思っていることも多いので、話を聞いてくれるということを分かるようにすれば、少しずつ思っていることを話し始めるかもしれません。
そして、話をするようになったら、子どもの話をよく聞き、子どもの意見も尊重してあげましょう。親が選択肢の一つとしてアドバイスするのはいいですが、親が「こうしなさい」と命令口調になると子どもは反発します。
また、親が完璧な人間にみえる場合も、子どもに逃げ場がなくなり、弱音を吐けなくなってしまいます。
親の失敗を話したり、親も不安に思うことやダメなところもある、という人間らしさを伝えたりしてみるとよいでしょう。
4.子どものストレスの原因を知る
家庭内や学校や友だち関係などで、我慢していることや、ストレスを溜めていることがあるかもしれません。
ストレスの原因を知り、嫌なことから距離を置くことが先決です。嫌なことから距離を置けない場合は、うまく対応する方法を、子どもと一緒に考えましょう。
子どもの口から、抱えている問題を語ってくれればいいですが、子どもが本音を話してくれるには、時間がかかるかもしれません。しつこく聞き出すのもよくないですが、いじめや金銭・インターネット上でのトラブルなど、あからさまな問題を抱えている場合は、親が知っておかないといけないこともあります。そうした問題ほど子どもは話したくないものと思われますので、「もしかするとこういった問題を抱えているかもしれない」と分かれば、学校などに確認の協力を依頼するのも一つの手です。
あるいは、ストレスの原因が親の言動にある場合も、子どもはなかなか言い出せないかもしれません。
もし、親の言動に不満があることがわかっても、決して怒ることはせず、冷静に対応して下さい。
子どもに悩みがあるようなら、「いつでも話は聞くよ」と長い目で見守る姿勢で接しましょう。
5.親が暴言や暴力に傷ついていることと、暴言や暴力は絶対にいけないことをきちんと伝える
子どもが親に暴力を振るうようになると、暴言を吐くことも増えると思います。
「死ね!消えろ!」「くそババア!」などと毎日言われると、子どもからの暴力を受けていなくても精神的にまいってしまいます。
自身が傷ついていることを伝え、親も完ぺきではなく、弱い部分も持っている一人の人間であることを知ってもらいましょう。
6.子どもの心を満たせること、落ち着くための方法を子どもとよく話し合う
子どもと落ち着いて話ができる場合は、暴言を吐いたりモノや人に当たったりする前にどうしたらいいか、ということを話し合いましょう。
暴力的な子どもには、まずイライラした自分に気が付いてもらえるようにすることが大切です。
そして、怒りが爆発しそうな時に自分の気持ちを落ち着かせる方法を、一緒に考えてみましょう。
また、何か欲求が満たされていないことがイライラする原因になっている場合は、その欲求を満たすにはどうしたらいいのかを考えます。
例えば、「勉強がわからない、やりたくない」という悩みを抱えているならば、勉強をする必要性をよく考え、興味・関心のある分野に取り組んでもらうことで学習のコツをつかんでもらったり、本人に合った勉強法を試したりと、親も一緒に悩む姿勢が大切です。
7.信頼できる身内や知り合いに相談する
家庭内暴力の悩みは、親が一人で抱え込まずに、信頼できる身内や友人など、相談できる人がいれば、話をしましょう。身内や友人は専門家ではないので適切なアドバイスは難しいですが、悩みに寄り添ってもらえる人がいるだけでも心強いです。
8.専門機関に相談する
家庭内暴力は外部の人には相談しにくく、被害を受けている人が一人で抱え込みがちです。しかし、それではいつまでたっても解決しません。
勇気をもって、都道府県の精神保健福祉センターや児童相談所、市町村の保健センター、児童福祉課、児童家庭支援センターなどに相談してみましょう。
9.精神疾患や発達障害が疑われる場合は、医療機関と連携をとる
長期間部屋に引きこもって出てこない、声をかけただけで怒りを我慢できずに暴力を振るうなど、ストレス耐性の低下が著しく、会話もできないようであれば、精神疾患や発達障害の二次障害による影響も考えられます。
その場合には、精神福祉保健センターに相談し、近くの精神科を紹介してもらうなどの対応が必要です。発達障害を指摘されたことがある場合は、発達障害者支援センターで相談して、発達障害に詳しい医師を紹介してもらうのもいいと思います。
10.日常的にひどい暴力があるなら、専門施設への入所など、子どもと距離を置くことも考える
子どもの暴力が日常的に行われ、家族も怪我を負っている、あるいはその恐れがあるようでしたら、家族と距離を取り、公的あるいは民間の専門施設に入所させ、様子を見る方法も一案です。
ただ、子ども本人が納得していない状況で入所させると、逆効果になるかもしれません。以前から関わってくれている専門機関があるなら、担当者とよく相談して、できるだけ子ども本人の意思で入るようにするのが理想的です。
専門施設に入所させる場合も、「決して親が見捨てたわけではなく、暴力に耐えかねてやむを得ないことであり、何とか暴力をやめさせたいと思っている」という気持ちを、子どもが理解することが望まれます。
家庭内暴力について相談できる公的機関を以下に紹介します。
1.精神保健福祉センター
都道府県に設置されている専門機関です。心の問題、精神医療に関わる問題を扱っています。医療につなげる判断もしてくれますので、子どもから親への暴力がひどい場合は、精神保健福祉センターに相談して、地域の精神科を紹介してもらうのもいいでしょう。
2.児童相談所
18歳未満の子どもの福祉や健全育成に関する家庭からの相談に応じている専門機関で、都道府県に設置されています。非行相談や不登校、家庭内暴力、子どもが暴れるなど、暴力的な子どもの性格や行動上の問題に関する相談を受け付けています。
3.保健所、保健センター
不眠、うつ病などの心の病気、不安や悩みの相談に応じている、身近な地域にある専門機関です。
4.児童家庭支援センター
市町村に設置され、児童相談所と同じように、家庭内の子どもの悩みについて、相談を受け付けています。
5.教育支援センター、教育委員会
高校生相当の年齢の子ども、保護者からの学校教育や家庭教育に関する相談に応じています。相談内容は、不登校、いじめ、友人関係、発達障害などです。家庭内暴力を引き起こしているストレスの原因が学校関係の悩みであれば、こちらに相談するのも一つの方法です。
家庭内暴力は、子どもからの「助けてほしい!」「苦しい、辛い」というサインが含まれていることが多いです。保護者の方もとても辛いですが、子どもも暴力でしか表現できないほど、苦しんでいます。子どもの気持ちに寄り添って見守る姿勢を示したうえで、専門家に相談して危険を回避するなど、家庭内だけでの解決に期待せず、外部に助けを求めることが大事です。
また、子どもがどんなにストレスを溜めていても、怒っていても、「暴力は絶対にいけないこと」「人を傷つけてはいけないこと」を根気よく伝えることも大事です。
<参考文献>
警視庁(2024)少年による家庭内暴力の対象別状況(令和5年), 令和6年版 警察白書 統計資料
警察庁生活安全局人身安全・少年課, 令和5年中における少年の補導及び保護の概況