近年は、「小1の壁」などと言う言葉も生まれていますが、小学生の親としては、子どもが早く学校になじめるか、楽しく通えるか、学習に遅れないか、友だちとうまくやっていけるのか、など心配は尽きません。
お子さんの「不登校」、「登校しぶり」も年々増えており、「不登校」に対する考え方も変わってきています。
多くの家庭では、お子さんのために仕事を休んだり、留守番を長時間させることができないため、「不登校」は親としても早く解決したい課題です。
ここでは、小学生の不登校の現状と親ができる対処法、受けられる支援などについて述べていきます。
目次
- 「不登校」とは
- おわりに
文部科学省では、「不登校児童生徒」とは、「何らかの心理的、情緒的、身体的あるいは社会的要因・背景により、登校しないあるいはしたくてもできない状況にあるために年間30日以上欠席した者のうち、病気や経済的な理由による者を除いたもの」と定義しています。
文部科学省の「令和元年 児童生徒の問題行動、不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」によると、不登校児童生徒の割合は、小・中学生ともに、平成27年頃から右肩上がりに増えています。
令和元年では、小学校の不登校は、53350人で全体の0.83%、つまり120人に1人という割合になります。
不登校児童生徒数を学年別にみると、小学校1年生では2744人ですが、学年が高くなるほど多く、6年生では16594人です。
参考までに、中学生の不登校の割合をみてみると、小学生より明らかに多く、127922人で生徒全体の3.94%、つまり25人に1人、と決して珍しくない数字になっています。
また、この調査によると、90日以上の長期欠席者は、小学校で22632人(不登校児童の42.4%)、中学校で78225人(不登校児童の61.2%)を占め、不登校が長期化している生徒が多いことがうかがえます。
不登校が長期化すると、生活が不規則になり、ゲーム依存などによる昼夜逆転、外出や人と会うのが億劫になるなど、ひきこもりの心配も出てきます。
家庭によっては、時間的・経済的な余裕もあり、無理に登校しなくてもいい、という考えもあると思います。
いじめや何か学校や家庭でのトラブルがある場合、お子さんが心理的な問題を抱えている場合などは、速やかに対応することが望まれます。
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先ほどの統計によりますと、不登校の原因として主たるものとして多い順に「無気力・不安」が41.1%、「親子の関わり方」が16.7%、「生活リズムの乱れ、遊び、非行」が10.3%、「いじめをのぞく友人関係をめぐる問題」が10.2%と上位にあがっています。
ただし、小学生の不登校は、はっきりした理由がないことも多く、特に低学年男子は、もやもやした悩みをはっきり言葉にできないことも多いです。
また、調査は不登校児童生徒のクラスの教員がつけることが多いため、対象児童や保護者にもよく話を聞く、スクールカウンセラーなどの心理職の介入を行い、より正確な原因を探る工夫が必要と感じます。
この結果を見て、今までの親子関係を否定された気分になり、落ち込んでしまう方や、他に原因がないか探ろうとする方もいるかもしれません。しかし、数年後にならないと、理由がはっきり分からないことも多いです。不登校の原因は、もしかすると、お子さんが親に話しにくい内容、言葉でうまく伝えられないこと、「こんなこと言っていいのかな」と子どもなりに悩んでいることかもしれません。
ですので、「今、お子さんに何ができるのか」ということに焦点を当て、気持ちを切り替えていくことが重要です。不登校の原因追及にこだわるより、まずは、ご家庭で話しやすい雰囲気を作り、「なんでも、話していいんだよ!」という安心できる環境を作ってあげて下さい。
参考までに、NHKが2018年度にLINEリサーチの協力を得て、「不登校」「不登校傾向」があった中学生1968人に行ったアンケート調査結果を示しておきます。
「教員との関係」が文部科学省の調査では2.2%ですが、NHKの調査では23%と大きな開きがあります。
「いじめ」についても文部科学省の調査では0.4%ですが、NHKの調査では21%でした。
調査条件の違いは考慮すべきですが、「生徒本人」に直接調査している、という点では「理由」として信憑性がありますし、「教員との関係」「いじめ」の多さについては、考えさせられます。
お子さんに「学校に行きたくない!」と言われたら、「えっ!どうして?」と焦ってしまうと思います。
親としては、「突然、登校拒否になった!」と感じるかもしれませんが、お子さんにとっては、これまでずっと頑張ってきて、「もう無理だ!」と電池切れになってしまった状態です。
まずは、次のような対応をしてみましょう。
1.少し休ませて、心身の不調があるかどうかを確認する
頭痛、腹痛がする、吐いてしまう、なかなか布団から出てこない、起き上がれない、泣いているなどの状況であれば、まずはお子さんの様子をみることを優先しましょう。
学校には、連絡を入れ、お子さんが落ち着いたところで、「登校できそう」ということなら、遅刻して連れていくのもいいと思います。
低学年のお子さんだと、不安が体に出てしまっても、それを上手に言葉で表現できないことも多いです。ここで急かしてしまうと逆効果ですので、まずは、ゆっくり休ませて、体調を観察しましょう。
2.体の不調が続くなら、念のため受診をする
心因性(ストレスなどが原因)の不調の場合、腹痛、頭痛、だるい、眠い、吐き気がするなど、毎朝、様々な不定愁訴(※)のような訴えがあり、親としては、困惑してしまいます。
鼻炎が原因で睡眠不足になっていることもありますし、起立性低血圧や低体温などのお子さんは、朝に体調がよくないことが多いです。
体の不調が続くとき、医師の診察を受けておくと、心因性の不調なのかストレス以外のはっきりとした原因があるのかという判断材料になりますので、気になるなら受診をおすすめします。
(※)不定愁訴…医療用語で、客観的な原因が認められないにも関わらず、様々な自覚症状があると訴える状態)
3.子どもの話をよく聞く
「どうして学校が嫌なの?」、「理由は何?」とお子さんを責め立てると、ますます理由を話してくれません。
お子さんは慣れない学校でも頑張り、家でも「こんなこと言ったら、お母さんは怒るかな?」などと顔色をうかがっていることもあります。
「学校に行きたくない」と言われても、「早く理由を言いなさい」と追求するのではなく、「何でもいいから話してよ」「話したくなったらいつでも聞くからね」と余裕のある対応をして下さい。
特に,明確な原因もなく、モヤモヤを心にためている場合、話をするだけでも落ち着いて、また元気に登校できることもあります。
4.明確な理由があるなら、それについて対応をする
「クラスに意地悪をしてくる子がいる」「体育が苦手で友だちに馬鹿にされた」など、何かきっかけになるようなことがあった場合、お子さんと話をして、担任の先生にそのことを伝えるといいと思います。
「もっと強くなりなさい!」「気にするな」と言っても、お子さんはどうしたらいいか分かりません。
明確な出来事が原因で登校しぶりになっているなら、相手を責めるのではなく、「クラスの○○君にこんなことを言われて気にしてしまった」など、お子さんから聞いた事実を伝えればいいと思います。
お子さんが、「先生に言えば、もっと意地悪される」と思っていることも多いですが、先生は、クラス全体に話してくれることもありますし、同じような思いをしているお子さんも他にもいるなら、学校でも早めの対応ができるので「報告してもらえてよかった!」ということもあります。
勇気がいりますが、お子さんも、話しにくいことをやっとの思いで親に話しているのです。
また、一度、担任と話しておくと、次に何かあったときにも相談しやすくなります。クレームではなく、「こんなことがあって、子どもがこう感じた」と淡々と話せば、スムーズに対応してもらえると思います。
5.スモールステップで通える時間帯に登校する
学校が嫌、怖い、と思っているお子さんが、一日中、狭いクラスの中で過ごすということは、とてもストレスです。
登校したら、長時間過ごさないといけない、となると、ますます学校から気持ちが遠ざかってしまいます。
ですので、お子さんが好きな教科だけ参加する、保険室など、別室登校でもよしとする、早退、遅刻も認めてあげる、などの対応をとると登校のハードルが下がります。
学校自体に近づけないお子さんならば、放課後、通学路を歩いてみる、車で学校まで送るなど、学校にまず行ってみる、ということも効果的です。
これらの対応をする場合は、担任の先生とよく話し合い、「今日は、図工だけ参加します」、「放課後、誰もいない教室に行ってみたいです」と伝えておくとスムーズです。
今の時代、不登校についての対応、家庭の考え方はいろいろなので、学校側も「学校に来て!」とは強く言いません。何もしないと、時間ばかり過ぎてしまい、もったいないです。
ですから、保護者の方の「不登校」についてのとらえ方、親子の「こうしたい!」という意向をしっかり担任の先生や関係者に伝えておくことは大切です。
6.学校以外の居場所を確保する
学校は行けなくても、塾や習い事には行ける、というお子さんもいます。
学校では緊張するけれど、好きなことなら頑張れる、ということであれば、そのような場所があると、お子さんも家にこもりきりにならずにいいと思います。
また、親しい友だちに、家に遊びに来てもらう、放課後、近所の公園で遊ぶなど、お子さんがリラックスできる時間を確保すると笑顔も増えるでしょう。
友だちや好きなことがきっかけで、登校し始めるお子さんも多いので、好きな科目や得意なことを大事にし、仲良しの友だちと過ごす時間も作れると良いと思います。
7.スクールカウンセラーなどの専門家に相談する
登校しぶり、不登校の問題は、親子だけで解決できる問題ではありません。一進一退なので長い目で見ていくことも大事です。
解決には、労力や時間がかかりますので、お子さんをサポートする保護者の方は、疲弊してしまうこともあります。
保護者の方が疲弊しきってしまわないためにも、不安や悩みをその都度聞いてくれる専門職がいると安心です。
公立の学校には、月に数回ほど、スクールカウンセラーが訪問しています。
学校には行けないけれど、外出はできるというお子さんは、教育支援センターや、家庭の問題も抱えているなら、家庭児童相談室のカウンセラーに相談することも可能です。
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不登校になる原因は様々ですし、解明されていない部分も多いですが、不登校になるお子さんが発達障害と関係がある場合もあります。
発達障害の中で、特に、ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如・多動症)のお子さんが不登校になりやすい傾向があるようです。
一方、不登校がきっかけで、お子さんの発達障害に気が付くこともあります。
発達障害は、治ることはありませんが、適切な療育を受ければ、症状を落ち着かせることができます。
ASDのお子さんは、相手の気持ちを推察することが苦手で、相手を傷付けることを言ってしまうなど、孤立したり、対人関係のトラブルが多いです。
ADHDのお子さんは、落ち着きがない、忘れっぽい、集中力がないなどのために、叱られたり、からかわれたりすることがあります。
家でも学校でも叱られてばかりで、誤解を受けやすいという点は、お子さん本人がいくら頑張っても解決できません。
気になることがあれば、速やかに発達障害の診断ができる医療機関に相談してみましょう。
クラスで一斉授業が難しければ、教科によって、特別支援教室を利用するなどの対応を担任と相談するとよいでしょう。
また、保健室の養護教諭や特別支援教育担当でないと、これらの障害について理解が十分ではないので、担任の先生にもお子さんの特徴を話し、対応策などを話し合っておくと安心です。
発達障害ではないですが、最近では、HSC(人一倍繊細な子)という概念も注目されています。
HSCのお子さんは、音や匂いなどの刺激に敏感で、クラスの騒がしい雰囲気が苦手です。一斉に同じ活動をする場面など自分のペースを守れない部分がストレスになることも多いです。
この場合も、お子さんや担任と相談し、苦手なことを無理強いしない、辛いときは参加しない、疲れたら休むなどの対応を決めておくと、お互い安心です。
これらの特徴がみられなくても、今のクラスになじめない、嫌なことを引きずり、気分が落ち込んでしまうというケースは多いです。嫌なことと距離をとるなど、環境を変えることで、何もなかったように通学できるお子さんも少なくありません。
登校しぶり、不登校の前兆には、次のようなものがあります。
普段の様子と違う、学校がない日は元気、否定的な発言が多くなる、やる気がないようにみえるなどです。
そして、登校しぶりの初期には、頭痛、腹痛、吐き気、倦怠感、布団から出てこない、表情が暗い、学校に行く時間は不調だが、休むと元気になるなどの特徴がみられます。
このような前兆がみられたら、お子さんの話を聞く、リラックスできる雰囲気を作るなどして、登校を急かさないようにしましょう。
親としては、先が見えず心配ですが、お子さん自身が、もやもやを外へ吐き出すことができて、心も充電できれば、「行ってみようかな」と思えることもあります。
まずは、家庭に安心できる居場所を作ってあげて下さい。
1.スクールカウンセラー
公的な支援であれば、まず、各学校に訪問しているスクールカウンセラーに相談するとよいでしょう。月に数回、学校に来ているので、担任に予約をとってもらい、登校しぶりや不登校の悩みを相談すると、アドバイスがもらえます。
お子さんが同席してもいいですし、保護者だけでも相談できます。不登校が長引く場合は、自宅訪問をしてくれることもあります。
2.教育支援センター(適応指導教室)
主に市町村が設置している施設で、学校には登校できなくても、外出ができれば、親の送迎により通所し、学習支援やレクレーションなどの活動をできる施設です。市町村に申請すれば、登校扱いになります。
3.家庭児童相談室
都道府県、市町村が設置している施設で、カウンセラーが不登校や家庭内の悩みなどについても相談にのってくれます。
遊戯療法などで、お子さんの言葉にできない気持ちを引き出してくれたり、心理状態を把握することもできます。
4.児童福祉課
市町村の児童福祉課に配置されている児童福祉司の方も、不登校や家庭の悩みなどの相談を受け付けています。
5.フリースクール(民間)
作業などをしながら自由な雰囲気で過ごすことが多いようです。費用についてもさまざまで、通いやすい場所ではないこともありますので、利用する際は、費用や場所、活動内容をよく検討しましょう。
ここでは、登校しぶり、不登校についての概要、不登校になってしまったときの親の対応、利用できる支援について述べてきました。
不登校に対する考え方は様々ですが、登校できたほうが、お子さんの規則正しい生活、学習意欲、友だちとの関わりを保ちやすいです。
また、長期化すると、お子さんを支える保護者の負担感も強くなります。
ひきこもりやゲーム依存、昼夜逆転の生活、学習の遅れなどが出てしまうと、元の生活にも戻すのには相当の時間と労力が必要です。
ですので、不登校の兆候が表れて、不安に感じたら、担任の先生やスクールカウンセラーなど、まずは身近な人や専門職に相談してみましょう。
一番の問題は、不登校が長期化すると、親子で社会から孤立してしまうことです。
学校関係者や専門機関、友だちとの関わり、学校以外の居場所作りなど、社会との接点を意識しておくと、十分、心を休めた後、徐々に登校し始める、ということもあります。
そして、お子さんを支える保護者の方も悩みを話せる場所をもっておくことは、お子さんに余裕をもって接することができるという意味では、とても大切です。
<補足>
HSCは正式な診断名ではなく、HSCと非HSCを分ける明確な基準というものはありません。発達障害(ASD / ADHD)の症状がHSCの特徴と似ていることがありますので、発達障害の診断ができる医療機関に相談してみましょう。
<参考文献>
・令和元年文部科学省「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」
・不登校新聞「中学生に直接聞いた不登校理由、国の調査と大きな隔たり」507号、2019年6月1日|https://futoko.publishers.fm/article/20440/
・加茂聡・東条吉邦(2013)「発達障害に見られる不登校の実態と支援に関する研究―広汎性発達障害を中心に―」自閉症スペクトラム研究第10巻
・「発達障害型不登校」不登校研究所|http://futokoo.com/disorder
・文部科学省パンフレット「不登校への対応に当たって」
・【保存版】登校拒否・不登校の前兆や初期症状と適切な対応 | 脱不登校の道 (futoukou-consultant.com)
・稲垣真澄・加賀佳美(2020)e-ヘルスネット「ADHD(注意欠如・多動症)の診断と治療|https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-04-003.html