ASDのかたによくある悩みとして、「仕事が継続出来ない」というものがあります。理由は仕事で些細なミスが多く、同じことを何度も上司に注意されることや、同僚に言った一言が怒りやひんしゅくを買ってしまい、職場で居づらくなってしまったなどです。このような現状の中で、ASDのかたに向いている仕事や、仕事を継続するにあたっての注意点・工夫できる点などをまとめてみました。
目次
- おわりに
ASD(自閉症スペクトラム)は、感情や認知といった部分に関与する脳機能障害だと考えられています。親の育て方や環境には関係しない先天的な障害であり、社会的なコミュニケーションや他の人とのやりとりが苦手で、興味・活動が限定されるという特徴を持っています。広汎性発達障害・アスペルガー症候群といった呼び方をされることもあります。
子どもの頃は周りに溶け込みにくい、と感じる程度だったけれど、大人になり、仕事をするようになってから実はASDであったと気づくかたも多くいらっしゃいます。
心理検査(WAIS-Ⅳ/ロールシャッハなど)によるメタ認知で、自分らしい人生を見つけませんか。
こんな悩みはありませんか?能力や性格を心理検査で把握し、自分らしさを活かしていくためのお手伝いをさせていただきます。
ASDの特徴にはどのようなものがあるのでしょうか。ここでは、職場において困りごとになる可能性のある特徴についてご紹介します。
周りと協調することが難しい
仕事をする上で重要となる「仕事の優先順位」の判断が苦手なため(これは、こだわりとも言えます)、どうしても周りと協調出来ないと捉えられてしまいがちです。また、報告・連絡・相談においても、「この事柄は報告すべきなのか?・自分自身で判断することなのか?」などの決断力が苦手であることも特性のひとつです。
他者との距離感が掴みづらい
ASDの方は、他者との距離感が掴みにくい所があるため、人間関係を良好に継続させるのが難しい面があります。他者の本音と建前が理解しづらく、自分自身の感情を深く考えずそのまま言語にしてしまいトラブルを起こしがちです。又、気配りをしているつもりでも、相手によっては望んでいない場合もあり、気配りをしたつもりが悪い方向へ働く場合もあります。ASDのかたの素直な人柄が、誤解をまねいてしまう場合も多々あります。
曖昧な予定・指示に対する不安感
感情の裏表が読みにくく、他者の話を額面通り受け取るASDのかたの場合は、仕事でもスケジュールがはっきり決まっていないと不安感が増大します。
極端なこだわり・過集中
何事に関しても真摯に取り組む一方で、0か100かといったアンバランスさがあり、「程々に・適当に」という感覚が理解しづらく、さらに、独特なこだわりにより過集中しがちになり周囲との波長が合いにくいです。
ASD特有の「パニック」
ここでいうパニックとは、ASDのかたの感情の読みづらさ(これは、他者のみでなく自分自身も含む)からくるものです。ASDのかたは、ルーティーンの作業に安心する傾向があります。そのため、突然の予定変更などは、パニックを引き起こす可能性があります。一旦パニックになると、人によっては、発汗が止まらなくなったり、仕事を中断しなくてはならない状況になってしまったりします。健常者からすると、ただの癇癪や我儘に見えてしまうこともありますが、そういったものとは異なります。
臨床心理士とは・・・
悩みを抱える人との対話をベースに、精神分析や心理療法を使って問題の解決をサポートする「こころの専門家」です。
臨床心理士の資格は厳しい学習条件が求められ、心理業界では長年にわたり根強い信頼性を持っています。
うららか相談室には、多くの臨床心理士が在籍しています。
メッセージ・ビデオ・電話・対面、あなたが一番話しやすい方法で、悩みを相談してみませんか。
向いている仕事は、淡々と自分のペースで出来る仕事であり、尚且つ人との関わりが少ない仕事だと言えます。例えば、在宅での翻訳・イラストレーター・清掃員・工場でのライン作業等が挙げられます。なお、職場や周りの人の理解や協力が得られる環境であれば、これらの職種に限らず、様々な仕事ができるでしょう。
ASDのかたが苦手とする他者との距離感を学ぶには、SST(ソーシャルスキル・トレーニング)に参加して社会的なスキルを身に付けることが役に立ちます。SSTなどに参加することに抵抗があるかたは、周りの友人や家族がどのようにしているか真似をしてみても良いかもしれません。SSTの内容としては、一般常識に加えTPOに相応しい服装や、食事マナーなどがあります。また、このような内容の一般の講師が開催しているセミナーなどでも学ぶことが可能です。職場では、仕事の評価の中に仕事をきちんとこなす以外に、周囲のかたに対する挨拶・気配り・言葉遣い・身だしなみ等も含まれるため、社会的スキルを身に付けることは、仕事を継続させる上でとても重要になってきます。
障害特性の一つである「目に見えない事に関する不安感」に対しては、一日のスケジュールをホワイトボードなどに記入し、視覚で一日の仕事のスケジュールを確認出来るようにすると、ASDのかたは不安感の減少へと繋がります。又、特性の一つである過集中に対しては、タイマーなどを使用することによって、自分自身の仕事の時間配分を把握することが、過集中の予防へと繋がります。ASDのかたは、ルーティーンワークは非常に得意なため、仕事での時間配分をある程度理解しリズムに乗れれば、本来持っている真面目さを仕事で発揮出来ます。
仕事での成功体験を積み重ねていくことも、仕事を継続させるために大切なことです。特性が理解されないことにより叱責された経験などから自信喪失されているかたもいるため、成功体験を積み重ね、社会の一員として必要とされているという自覚を持つようになることが自信へと繋がります。又、仕事を継続させていく上では、自己肯定感を高めることも必要不可欠となります。自己肯定感を向上させるには、精神科デイケアなどの認知行動療法などもありますが、自分自身でできる自己肯定感を高める方法としておすすめなのは、一日のうち自分の良いところを三点ノートに書いて、寝る前に見直すことです。自分自身の出来ないところより、出来る所を毎日意識することが重要だと思います。
>大人の自閉症スペクトラムの悩みを相談できるカウンセラーはこちら
二次障害とは、適正に合わない仕事に就いた場合や疲労が自分自身で分かりづらいために起こるフラストレーションが許容範囲を超える事により起こる適応障害のことです。結果として、うつ状態や自傷行為に繋がって行きます。ASDは特性が各々違うため、適正に合わない仕事に就いた場合、本来持っている真面目で丁寧に仕事をこなす良い面が潰されてしまい、そのような状態が続くことにより、二次障害(例:うつ状態や自傷等)を引き起こしかねません。このようにASDのかたは、環境に非常に左右されやすい特性がありますので、注意が必要です。
基本的には職場での周りの声掛け(休憩を取るように等)が必要ですが、自分自身での対処方法としては、仕事を中断し一旦仕事場から距離を置くのが良いでしょう。休職あるいは転職などにより症状が緩和されるかたもいます。また、症状が酷い場合は、精神薬の服用等が必要になる場合もあります。
服薬の場合の注意点は、服薬の量が増えると副作用(眠気、意識混濁等)から仕事に支障をきたす場合がありますので、その場合は、迷わず信頼できる主治医に相談しましょう。
私個人の意見としてですが、服薬と同様に、「自分の障害を理解してくれる人の存在」が、ASDのかたの二次障害の緩和へと繋がると思っています。先に述べたように、「他者に相談しなくてはいけない事・相談せず自分自身で判断すること」の分別がつきにくく、自分でもよく分からないうちに、仕事で困った事などを自分自身で抱え込んでしまいがちです。そのため、自分の障害を理解してくれるかたと信頼関係を持ち、フラストレーションを溜めない方向で仕事を継続させていくことが大切です。
以上のようにASDのかたは、非常に環境に左右されやすいという特性を持っています。特性のひとつであるこだわりは、言い換えると「並外れた集中力」とも言えます。並外れた集中力が、丁寧で几帳面な仕事へと繋がることも多いです。しかし、何事に関しても真摯に取り組む一方でアンバランスさがあり、「程々に・適当に」という感覚が理解しづらく、ストレスや疲労にも自分では気がつきにくいという側面もあります。
じわじわとフラストレーションが溜まって行くと、特性の良い面が潰されてしまい、仕事の継続が難しくなってしまうこともあるため、支援者・職場の上司、同僚の理解を得ることは必要不可欠になります。
職場の理解が得られず悩んでいる、周りに理解者がいなくて不安というかたは、お気軽にうららか相談室にご相談ください。