WAIS-4(ウェクスラー成人知能検査)は、ウェクスラー式知能検査の一つで、心理検査においてよく用いられますが、一体どのような内容のものなのでしょうか。
WAIS-4の目的や受け方、発達障害とどのような関係があるのかについて解説していきます。
目次
- おわりに
私たちの知能、すなわち考えに基づいて行動したり、知識を習得・選択・応用したりする能力には個人差があります。この個人差を、数字にあらわすことを知能検査といいます。
知能検査には種類があり、ビネー式知能検査とウェクスラー式知能検査がとくに有名です。もとはビネー式知能検査によって、はじめて知能を検査するということがされましたが、のちに心理学者のウェクスラーが、指数や項目によってさらに実用的な知能検査をつくりました。これが、ウェクスラー式知能検査です。ウェクスラー式知能検査には、対象の年齢ごとに以下の種類があります。
・WPPSI(Wechsler Preschool and Primary Scale of Intelligence)
就学前の幼児を対象にしたウェクスラー式の知能検査です。「ウィプシ」や「ウェクスラー幼児用知能検査」とも呼ばれます。
・WISC(Wechsler Intelligence Scale for Children)
5歳~16歳の児童を対象にしたウェクスラー式の知能検査です。「ウィスク」や「児童向けウェクスラー式成人知能検査」とも呼ばれます。
・WAIS(Wechsler Adult Intelligence Scale)
16歳~90歳を対象にしたウェクスラー式の知能検査です。「ウェイス」や「ウェクスラー成人知能検査」とも呼ばれます。
それぞれ、時代とともに内容が改定されています。WPPSI-III、WISC-IV、WAIS-IVのように右側についているローマ数字は第何版かということを指しています。ウェクスラー成人知能検査ではWAIS-IVが最新ですので、第4版ということになります。(以下、WAIS-4と記載します。)
WAIS-4(ウェクスラー成人知能検査)はどういったときに、一体どのような目的で受けるものなのでしょうか。
まず誤解してはならないのが、WAIS-4によって全ての知能が測れるわけではないということです。
例えば、自分の人生のあり方について考える能力はテストや数値で測れるでしょうか。自分の人生のあり方を考えることも、知能の一つですが、このような知能はWAIS-4で測ることができません。
WAIS-4で検査を行うのは、知能の中でも主に「認知能力」という力になります。認知能力とは、視覚や聴覚などにより外部から得られた情報をどのように把握するか、という能力です。
では、認知能力を測ることでどのようなメリットがあるのでしょうか。
認知能力といっても、言語能力、記憶力、計算能力、空間把握能力、注意力、論理的思考能力など、多くの項目に細分化することができます。そして、この様々な能力のそれぞれに個人差があります。この細分化した能力を測ることで、自分が得意なことや苦手なことを把握し、治療や日常生活に役立てることができるのが、WAIS-4のメリット・目的といえます。
例えば、仕事でよく失敗をする人が「なぜ自分は失敗するのか」を考え、「次はこうしよう」と思ったところで、根本的な失敗の原因が分からなければ、また似たような失敗を繰り返しますよね。ここで、WAIS-4によって「一般成人に比べて記憶力がかなり低く、計算能力がかなり高い」という自分の認知能力を把握していたらどうでしょうか。
この場合、一例として
という実用的な解決策が得られやすくなります。
日常生活を送る中で、例えば「自分は空間把握が苦手だ」「記憶力には自信がある」と思うことはあるかもしれませんが、それが実際どの程度のものかという客観的な確認は、検査でしか行うことができません。また、WAIS-4によって、思いもよらなかった自分の得意分野や苦手意識の思い違いに気づくことができるかもしれません。
>WAIS-4などの心理検査と「カウンセラーへの相談」がセットになったプログラムはこちら
心理検査において予習は結果を無意味にする可能性がありますので、行わないようにしましょう。
WAIS-4(ウェクスラー成人知能検査)が受けられる場所は、精神科・心療内科・カウンセリングルームなどですが、すべてで受けられるわけではありません。全国に窓口がある「発達障害者支援センター」に問い合わせをすることで、住居の近くでWAIS-4を実施している機関を知ることもできます。
また、うららか相談室では、「WAIS-4を含めた4つの心理検査」と「カウンセラーと一緒に結果の解釈を行う相談」がセットになったカウンセリングプログラムを実施しています。
以下から詳細をご確認いただけます。(※実施は東京都内)
うららか相談室では、WAIS-Ⅳやロールシャッハなどの心理検査をもとに、自分らしく生きる方法をカウンセラーと一緒に考えるプログラムを実施しています。
大人の発達障害かもしれないと思っている方にもおすすめです。
WAIS-4(ウェクスラー成人知能検査)の問い合わせ窓口が発達障害者支援センターとなっているように、WAIS-4というと発達障害の人が受けるイメージが強い人も多いのではないでしょうか。しかし、WAIS-4は発達障害かどうかに関係なく、全ての人が受けて結果を活用できるものです。
もちろん発達障害の人がWAIS-4を受けることは非常に有効なことです。発達障害では、認知能力の得意・不得意を自身で把握し、解釈に基づいて生活の工夫を考えることが、自分らしく生きるための助けになるためです。
WAIS-4に発達障害のイメージが強いせいか、ウェクスラー式知能検査で発達障害の診断ができるという誤解をしている人も多く見られます。実はWAIS-4だけで発達障害を診断できるものではありません。なぜなら、発達障害かもしれないと思う人は、何らかの生きづらさや違和感を抱えていることが考えられますが、発達障害と診断するためには、そうした症状がどのように生活に影響しているかということや、ほかの原因によるものではないことを確認しなければいけないからです。発達障害の診断は、子どものころの行動に関する問診や脳の検査などを含め、より総合的に行われます。
また、うつ病などの精神疾患では、うまくストレスに対処できないことが発症のリスクとなっていることが多く、治療が思うように進まない原因でもあると考えられています。そして、うまくストレスに対処していく方法を考えるために、WAIS-4が有効となることがあり、うつ病などの精神疾患の治療においても、WAIS-4が使われることがあります。
WAIS-4(ウェクスラー成人知能検査)の検査時間は全60~90分ほどです。パズルや知識問題など様々な項目があります。問題の特徴を事前に知ることは、あまり有意義ではないため、ここで全てを取り上げることはしません。
WAIS-4は言語理解指標、知覚推理指標、ワーキングメモリー指標、処理速度指標という4つの指標に基づく問題が出題されます。
10項目の基本検査と5項目の補助検査があり、そのうち3項目の補助検査は16歳~69歳のみが対象になります。
WAIS-4(ウェクスラー成人知能検査)では、まず「全検査IQ(FSIQ)」が算出されます。これは全ての基本検査によって算出されるものです。こちらは認知能力全体の水準をあらわすものであり、これだけで得意・不得意の分析ができるものではないといえます。
そして、先ほどの4つの指標ごとの基本検査によって以下の群指数が算出されます。(補助検査が代替されることもあります)
それぞれについて見ていきましょう。
◇言語理解(VCI)
言語に関する認知能力についての指数です。コミュニケーションや思考など、言語を使う場面での知識力や理解力などの得意・不得意を比較することができます。
◇知覚推理(PRI)
視覚的な情報に関する認知能力についての指数です。図や空間の把握能力などの得意・不得意を比較することができます。
◇ワーキングメモリー(WMI)
一時的に情報を保持しながら何らかの処理を行う能力についての指数です。記憶力や注意力などの得意・不得意を比較することができます。
◇処理速度指標(PSI)
情報を処理する速度についての指数です。時間が限られた環境の得意・不得意を比較することができます。
これらの4つの指数だけでなく、15個の各検査の得点からも様々な分析をすることができます。また、同じ指数を持っている人が、同じように行動すればいいというわけではありません。WAIS-4の結果は、本人の意思や性格、環境などによって、様々な解釈が考えられるからです。
心理検査(WAIS-Ⅳ/ロールシャッハなど)によるメタ認知で、自分らしい人生を見つけませんか。
こんな悩みはありませんか?能力や性格を心理検査で把握し、自分らしさを活かしていくためのお手伝いをさせていただきます。
WAIS-4(ウェクスラー成人知能検査)は認知能力を検査するもので、これによって客観的に自分の認知能力に関する得意・不得意を知ることができます。また、WAIS-4だけで発達障害を診断できるものではありません。
WAIS-4の結果から算出される群指数などを分析し、自分の生活と重ね合わせながら、困りごとを解決するための工夫や自分らしいビジョンとは一体何かについて考えることで、WAIS-4をうまく活用することができるでしょう。