現代社会の中では、通信機能を超えて娯楽や情報収集など、あらゆる場面でスマートフォンを使うことにより、生活が便利に快適になっています。
その反面、大人だけでなく子どもにもスマホ依存が広がっており、視力低下や睡眠障害、運動機能や体力の低下などの不調が見られます。
ここでは、現代の子育てでだれもが避けて通れない、スマホでの動画・ネット中毒についての対策を考えていきます。
目次
- おわりに
令和元年度の内閣府による「青少年のインターネット利用環境実態調査」の結果では、10歳から17歳の青少年5000人のうち、93.2%がインターネットを利用していると回答しています。インターネットを利用する機器は、スマートフォンが63.3%、携帯ゲーム機が31.2%、タブレットが29.6%と続きます。
インターネットを利用すると回答した青少年の利用内容の内訳は、高校生ではコミュニケーション(90.1%)、動画視聴(87.8%)、音楽視聴(84.3%)、中学生では動画視聴(84.3%)、ゲーム(76.4%)、コミュニケーション(75.3%)、小学生ではゲーム(81.7%)、動画視聴(72.0%)という結果です。
また、0歳から満9歳までの低年齢層については、調査委対象3000人中、57.2%がインターネットを使用し、インターネットを利用する機器は、スマートフォンが31.2%、タブレットが27.4%、携帯ゲーム機が15.1%という結果です。低年齢層の利用内容の内訳は、動画視聴(89.2%)、ゲーム(59.0%)です。
スマホ依存の影響は、朝から晩までスマホを手放せない、食事の時もスマホをいじっている、何度もSNSをチェックしないと気が済まない、SNSで友だちとの会話から抜けると悪口を言われるのではないかと不安になるなど、様々な心理的影響を引き起こします。
子どもからスマホを取り上げると泣きわめく、激怒するなど、情緒が不安定になる場合もあります。
そのほか、心身の問題として挙げられるのが、ブルーライトによる睡眠への影響です。就寝前にスマホの画面から発する光に含まれているブルーライトを浴びると、睡眠に関わるメラトニンというホルモンの分泌を抑制するため、眠れなくなったり睡眠の質が低下したりする可能性が指摘されています。就寝の2時間前には、動画やSNSなどネットから離れることが理想ですが、それができない子どもも多く、眠りが浅くなり次の日の不調につながります。
また、狭い画面を見続けることで、内斜視にもなりやすいとも言われています。
スマホ依存症やネット依存症は、正式な病名ではありません。診断がつくとすれば、多くはゲーム障害(2022年から適用、ゲーム依存症と呼ばれるもの)となるでしょう。
臨床心理士とは・・・
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ネット依存には、正式な診断基準はありませんが、リスクの判定に用いられるチェック方法があります。インターネット依存度テストは、アメリカのキンバリー・ヤング氏の「インターネット依存度テスト」が有名ですが、ネット依存が問題となっている韓国では独自のKスケールを開発、使用しています(開発者:韓国情報化振興院、翻訳者:久里浜医療センターTIAR)。ネット依存の治療で有名な病院も使用していますので、お子さんがネット依存では?と心配な方は、ぜひ試してみて下さい。
◇インターネット依存自己評価スケール(青少年用)Kスケール
以下の15の各質問について、最も当てはまる回答を選択してください。
全く当てはまらない:1点、当てはまらない:2点、当てはまる:3点、非常に当てはまる:4点で計算します。
ただし、項目番号9番、10番、13番、14番は、
全く当てはまらない:4点、当てはまらない:3点、当てはまる:2点、非常に当てはまる:1点で採点します。
1. インターネットの使用で、学校の成績や業務実績が落ちた
2. インターネットをしている間は、より生き生きしている
3. インターネットができないと、どんなことが起きているのか気になってほかのことができない
4. 「やめなくては」と思いながら、いつもインターネットを続けてしまう
5. インターネットをしているために疲れて授業や業務時間に寝る
6. インターネットをしていて、計画したことがまともにできなかったことがある
7. インターネットをすると気分がよくなり、すぐに興奮する
8. インターネットをしているとき、思い通りにならないとイライラしてくる
9. インターネットの時間をみずから調節することができる
10. 疲れるくらいインターネットすることはない
11. インターネットができないとそわそわと落ち着かなくなり焦ってくる
12. 一度インターネットを始めると、最初に心に決めたよりも長時間インターネットをしてしまう
13. インターネットをしたとしても、計画したことはきちんとおこなう
14. インターネットができなくても、不安ではない
15. インターネットの使用を減らさなければならないといつも考えている
依存レベルの判定については、中高生と小学生別に分かれます。
①中高生
総得点が44点以上、あるいは3つの要因得点の全てが以下に該当する場合
<要因別得点>
A要因(1,5,6,10,13番)が15点以上
B要因(3,8,11,14番)が13点以上
C要因(4,9,12,15番)が14点以上
②小学生
総得点が42点以上、あるいは3つの要因得点の全てが以下に該当する場合
<要因別得点>
A要因が14点以上、B要因が13点以上、C要因が13点以上
上記に該当する場合は、インターネット依存傾向がありますので、専門機関に相談をしましょう。
インターネットの利用内容は、前述した内閣府の調査結果によると、動画視聴がすべての層において多く、コミュニケーション、音楽視聴は12歳以降で増加しています。
低年齢層の子どもの保護者のうち、「ルールを決めている」のは81.9%で、子どものネット利用の管理方法としては、「大人の目の届く範囲で使わせている」(90.2%)、「利用する際に時間や場所を指定している」(57.1%)が多くみられます。
また、青少年の保護者も84.8%が何らかの方法でネット利用を管理しているとの結果でした。対策で多いのは、「子どものネット利用状況を把握」(39.6%)、「フィルタリング」(37.4%)です。
子どもはなかなか自分で動画視聴やゲーム、SNSをやめられません。保護者の方が意識して、ネット依存にさせないように気を付けることが大事です。
ここでは、すぐにできる方法をいくつか挙げておきます。
①子どもの前で親がスマホをいじらないようにする
親が子どもといるときに、スマホの画面ばかり見ていると、子どももスマホに依存しやすくなります。子どもが親のスマホとの付き合い方を真似するだけでなく、親子のコミュニケーションが不足することも影響します。せめて子どもといるときは、子どもとの会話を大事にする、一緒に何か趣味の活動をするなど、なるべくスマホから離れましょう。
②外へ連れ出すなどスマホから離れる環境を作る
ネット依存やゲーム依存の子どもの治療では、スマホを完全に断ち、キャンプなどで自然体験をするという方法がとられることもあります。
そこまではできなくても、スマホを使えない環境や時間を家庭内で意識して作るということも効果的です。
③スマホの影響について話し合い、ルールを決める
動画を見ていたら静かだから、子どもに「みんなが持っているから」と懇願され、根負けしたから、といった理由でスマホを買い与えてしまった場合、お子さんがスマホの悪影響を十分に理解していないことがあります。
今更と思わず、スマホやネット依存の怖さなどを親子でよく話し合いましょう。
学校からスマホ依存に関する啓発のお便りをもらったり、先生から話を聞いたりすることもありますが、多くの子どもは家庭での話し合いなしにはルールを守れません。
子どもが聞く耳を持たなくてもトラブルの事例などを話して、使う場所はリビングだけ、SNSでの連絡は学校の友だちに限定する、ゲームは課金しない、30分利用したら10分間は目を休めるなど、利用する内容によって、いくつかルールを決めましょう。
ルールを守れなかった場合は、なぜ守れなかったのかについて、その都度話し合い、ルールが厳しすぎれば少し緩めるなど、「絶対、禁止」と強制せず、妥協点を見つけることが大事です。
強制的にスマホ利用を禁止すると、子どもは納得できず、陰でこっそり動画を見ていたり、SNSを長々とやっていたりすることが少なくありません。その結果、通信料が高額になったり、人間関係のトラブルや不規則な生活による体調不良など、子どもに深刻な問題が発生する場合もありますので、親が一方的に意見を押し付けず、両者が納得できる形で解決したいところです。
④ルールが守れたときは、たくさん褒める
ルールを破ったときだけに子どもを注意する親が多いですが、ルールが守れたときには「すごい!今日は、時間を切り上げられたね!」「SNSを見るのが短時間で済んだね」と良い点を褒めましょう。
これは、なかなか難しいですが、お子さんの普段の様子をよく見ていると、褒めるポイントが見つかるかもしれません。
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伊藤賢一氏(2017)の「小中学生のネット依存に関するリスク要因の探求」という論文では、男子生徒はゲーム、女子生徒はSNSに対する依存傾向があることを調査により明らかにしています。また、ネット依存の防止に有効な「ネット利用に関する約束」の方法は明らかになっていないものの、ネット利用に関して何も「約束がない」と答えた生徒がネット依存の高リスク群に多く、親の放任主義は子どもの依存問題にマイナスの影響を与えることがわかっています。
どっぷりとスマホに依存していた生活から、急にスマホなしの生活に切り替えるのは至難の業です。スマホ・ネット依存の専門家である中山秀紀医師は、「特に中学生以降は本人が納得できないと、家庭内での暴言や暴力に発展しかねない」と、本人が問題を認識しないままスマホなどの機器を取り上げるのが逆効果になる可能性があることを指摘しています。
ただ親が子どもを叱りつけるばかりでは、何も解決しません。便利だからと与えてしまったスマホをいきなり取り上げるのではなく、親子で納得ができるルールを決めることから話し合わないといけません。
ここでは、スモールステップで無理なく子どものスマホ利用を減らしていく方法をお伝えします。
①スマホを何にどれくらい使っているのか、子どもに確認する
子どもにせがまれて仕方なくスマホを与えてしまったという親は、子どもがスマホを何に使っているのか把握していない場合も多いです。
その場合は、まず、お子さんがスマホをどのようなことに、どれくらい使っているのかを把握して、目に見える形で示すことから始めましょう。
動画、ゲーム、SNSなど、何に何時間くらい使っているのかを親子で確認し、紙などに書いてみて、「ゲームに使いすぎだね」「SNSはもう少し早く切り上げることはできるかな」など、利用傾向を掴み、やめられない理由について考えましょう。
具体的に何に使っているか把握することで、お子さんがスマホ利用をやめられない理由が見えてきます。
②やめられない理由について子どもと話し合う
次に、スマホ利用をやめられない理由を見つけたら、どうしたらその時間を減らせるか話し合いましょう。
ゲームに時間を使いすぎている場合には、親の知らぬ間に子どもが課金をしていることも疑ったほうがいいでしょう。友だち同士などで金銭的なトラブルが起こる可能性があるだけではなく、課金が絡むとスマホ依存から抜け出すのも難しくなると考えられます。特にゲーム内の「ガチャ」という課金システムは子どもにとって魅力的で、「今までに課金した分を取り返したい」と、欲しいアイテムのために何度もお金をつぎ込んでしまうことがあります。そのほかにもゲームをやめられない理由はお子さんによりそれぞれですので、ゲーム依存などの専門家や相談窓口のアドバイスが必要になることもあります。
SNSに夢中な場合には特に、学校でなじめない、勉強がつまらない、部活もやめてしまって退屈など、寂しい気持ちが隠れていることがあります。
オンラインゲームでも同じことが言えますが、知らない人とつながってしまうトラブルも多いので、子どもが隠し通していても、根気強くSNSの危険性を伝えていく必要があります。
また、幼少期の子も夢中になる動画視聴への依存傾向については、子どもがどんな動画を見ているのか、きちんと確認しましょう。Youtubeは、一度再生すると次々に関連動画が流されますので、小さい子どもは自らの意志でやめることができません。これは、小中高生でも同じです。子ども部屋が与えられるようになる小学生以降は、何を見ているのか、何をしているのかわからないことが多いので注意しましょう。
③子どもがスマホ依存の問題を理解できなくても、根気よく関わる
スマホに依存している子どもが自らスマホの利用時間を減らすのはかなり困難です。
親子での数回の話し合いだけでは、スマホ依存の問題を子どもが認識することは難しいでしょう。
そもそもスマホに依存してしまった原因は、スマホ以外に楽しみがない、寂しいということが多いので、親が気にかけているという意思表示をしてください。
今更遅いと思われるかもしれませんが、何もしなければ現状は変わりません。決して、いきなり感情的に怒るということはせず、「今日はスマホなしで過ごしてみよう」と、外出やスポーツに誘って外の空気を吸う気持ちよさを味わってもらう、スマホで動画視聴するのではなく映画を見に行く、スマホで課金ゲームをするのではなく親子で対決型のゲームをするなど、他の方法を提案してみましょう。
なかなか難しいことだとは思いますが、スマホに依存する前に子どもが好きだったことなどを思い出し、興味が持てそうなことを提案してみて下さい。
④スマホの利用時間を少しずつ減らす
お子さんが反抗的になったり、荒れたりすることもあるため、いきなりスマホを取り上げることは逆効果です。子ども自身が「スマホをやめたいけれどやめられない」と思うようになれば、スマホ利用のルールを話し合い、何にどのくらいの時間を使うのかあらかじめ決めてもらい、それを守るように親子で確認しましょう。
目に見える形でホワイトボードなどへ表にして、守れた日はチェックするなど視覚的に分かりやすいようにするとよいです。親はルールを守れることが当たり前だと思わず、子どもができたことを思い切り褒めてください。できたことを褒めることで、子どものモチベーションがあがります。
ルールを守れる日、守れない日と一進一退ですが、根気よく続けましょう。
子どもがスマホ依存から抜け出せなくて困っている親は世の中にたくさんいます。
スマホに依存する理由は、前述したように様々ですが、スマホの利用時間を減らすために親子の話し合いさえ持てないほどコミュニケーションが不足していることが多いです。子どもの部屋に一切入れない、何をしているかわからない状況の中で、スマホの請求額の大きさや、SNSで知り合った人と会っている、友だちにSNSで仲間外れにされている、引きこもってしまうなどの問題に発展して、初めて子どものスマホ依存度合いの大きさを知ることもあります。
前述の「小中学生のネット依存に関するリスク要因の探求」では、生活満足度に関する調査も行われており、「ネットへの依存傾向は生活の不満足と関連しており、オフライン上の不満足を埋め合わせるように作用している可能性が示唆された」と述べられています。
ネット依存で不眠気味になり、朝起きられず学校へ行けなくなったり、授業が頭に入らなくなったりして、自己嫌悪によってさらに生活が乱れるなどの悪循環に陥ると、なかなか元の生活に戻れなくなります。
うちの子はこのままではいけない!と思い立ったなら、外部の専門機関を利用することも必要です。
18歳までのお子さんであれば、児童家庭支援センターで心理士のアドバイスや診断を親子で受け、そこからゲームやネット依存の専門機関につなげてもらうという方法もあります。都道府県の精神保健福祉センターも幅広くメンタルヘルスにかかわっていますので、ネット依存の医療機関を紹介してくれます。現実的には、身近にネット依存の専門機関があることは少ないですが、問題が大きい場合は、たとえ予約や診察に時間がかかっても医療につなげることが近道になるでしょう。
いつでも好きな動画を見ることができて、どこにいても友だちと連絡が取れるスマホは、とても魅力的なものです。大人でもスマホ依存をやめられない人は多く、子どもの場合はなおさら親の介入なしでは、スマホを延々と使うことになりやすいです。スマホを与える前に、「本当にスマホが必要か?」ということを検討するのも大事ですし、与えるときも利用目的をしっかり決めてから渡すことが大切です。
また、スマホを与えて放任するのではなく、きちんと約束を守って使用しているかどうかを親が確認することも大事です。
子どもは寂しさや退屈した時間の埋め合わせでスマホに依存することも多いので、家庭や学校、および地域の中での人とのかかわりを大事にして、部活や趣味、習い事など何か好きなことを見つけてもらうのも大切です。
すでに、子どもがスマホ依存に当てはまっていても、あきらめずに相談機関の力を借りながら、少しずつ生活を改善していきましょう。
参考にしたもの
・高校生のスマートフォン・アプリ利用とネット依存傾向に関する調査報告書 平成 26 年 7 月 総務省情報通信政策研究所
https://www.soumu.go.jp/main_content/000302914.pdf
・橋本良明(2018)ネット依存の現状と課題―SNS 依存を中心として, ストレス科学研究, vol.33, pp.10-14
・伊藤賢一(2017)小中学生のネット依存に関するリスク要因の探究 ―群馬県前橋市調査より ―, 社会情報学部研究論集, vol.24, pp.1-14
・子どもの「ネット依存」 対策の先進国「韓国」に学ぶ|NIKKEI STYLE(2021.03.22参照)
https://style.nikkei.com/article/DGXNASFK0100W_R00C13A8000000?page=3
・令和元年度青少年のインターネット利用環境実態調査 調査結果(速報) 令和2年3月 内閣府
https://www8.cao.go.jp/youth/kankyou/internet_torikumi/tyousa/r01/net-jittai/pdf/sokuhou.pdf
・ネット依存を防ぐ取り上げるのは逆効果|医療ニュース トピックス|時事メディカル|時事通信の医療ニュースサイト(2021.03.22参照)
https://medical.jiji.com/topics/687