場面緘黙(選択性緘黙)という言葉は、聞き慣れない方が多いのではないでしょうか?場面緘黙症は、生まれ持った性格や養育環境が起因していると考えられてきましたが、実はそうではありません。もしかすると、特定の場面が苦手で上手く話せなかったり、身動きがとりづらくなる症状は、場面緘黙(かんもく)によるものかもしれません。
目次
- 場面緘黙症の症状
- 場面緘黙症の原因
- おわりに
場面緘黙症とは、特定の場所や特定の人、特定の状況下で話すことができなくなることをいいます。米国の精神医学会が定める、精神障害の世界的な医療診断基準である「精神障害の診断と統計の手引き(DSM-5)」によると、場面緘黙(DSM-5上は選択性緘黙)とは「他の状況で話しているのにも関わらず、特定の社会的状況において話すことが一貫してできない」状態であると定義されています。
小児期に発症することが多いですが、性格によるものだと周りから判断されてしまうことが多いため、「場面緘黙」という症状であることが気づかれにくいのが現状です。進学や就職などを機に、学校や職場に所属して、初めて場面緘黙症であることに気づき、困難に直面することも少なくありません。大人の場面緘黙症といわれるのは、このためです。
臨床心理士とは・・・
悩みを抱える人との対話をベースに、精神分析や心理療法を使って問題の解決をサポートする「こころの専門家」です。
うららか相談室には、多くの臨床心理士が在籍しています。
メッセージ・ビデオ・電話・対面、あなたが一番話しやすい方法で、悩みを相談してみませんか。
場面緘黙症の症状は、学校や職場における特定の場面で、本人の意思に関係なく話すことができない、身体が思うように動かない、というのが一般的です。世界保健機関(WHO)の「疾病及び関連保険問題の国際統計分類 第10版(ICD-10)」には、場面緘黙は、情緒障害として分類されています。米国の精神医学会が定める「精神障害の診断と統計の手引き(DSM-5)」には不安障害群として分類されており、より具体的な医学的診断基準として、下記の5項目が記載されています。
このように場面緘黙症の診断基準は5項目定められていますが、原因や症状が明確にされていないため、今後も議論がされていく状況です。
場面緘黙の症状により起きる困りごとは、具体的に下記のようなことが挙げられます。
【学校の場合】
【職場の場合】
場面緘黙症の原因は1つに特定されておらず、いくつかの要因が複雑に絡み合っているとされています。その根底には、人とのコミュニケーションにおける強い不安感があるとされ、先天的異常や性格によるものではありません。以前は「親の養育」が関係しているとの見解もありましたが、明確な因果関係がないため、この見解は撤回されています。
場面緘黙症は、適切な治療によって改善が期待できます。症状が長期的に改善されずに固定化し、職場や人間関係に影響を及ぼすことを防いでいくためにも、早期から積極的に治療に試みていただけるとよいでしょう。
具体的に場面緘黙症の原因には、下記のような要素が影響していることがあります。
など
このような特徴が、子ども時代における進学や引っ越しなどによる大きな環境変化によって、発症すると考えられています。
場面緘黙の症状や特徴は、特定の会話や場面におけるコミュニケーション能力の低下がみられることから、発達障害に類似する点があり、発達障害と場面緘黙の区別がつきにくいことがあります。しかし、場面緘黙症は、特定の場面以外では、流ちょうに話すことができ、言語能力の低下が見られないことが特徴で、医師による慎重な判断が必要です。また、場面緘黙症は、社交不安症、うつ病、吃音等が併存していることもあります。その場合は、医療機関にてそれぞれに合う治療もされますので、自己診断はせずに、まずは、医療機関を受診されてみてください。
場面緘黙症の治療は、表面的に現れている状態のみに注目するのではなく、その根底にある「不安」にうまく対応できるスキルを身につけていくことが有効であるとされています。例えば、「自分から話すことができない」という状態に対して、「自分から話すことができる」ようになる練習をするのではなく、まずは、自分から話すことへの不安要因(自分の発言に対する人の反応への恐怖など)を探し、そこを改善していくようなイメージです。
場面緘黙症の治療では、大きな改善をすぐに求めるのではなく、小さなステップを作り、無理なく一歩ずつ改善していくという考え方が大切です。
場面緘黙症かもしれないと思われる場合は、自己診断せず、まずは精神科や心療内科を受診するのがよいでしょう。お住まいの地域の病院については、居住地にある精神保健福祉センターや保健所にお問い合わせいただけると情報提供してもらえることもあります。病院選びに迷う場合は、こういった専門機関への問い合わせも検討されてください。病院のホームページやブログなどで、それぞれの診療方針や治療方法などを見て、ご自身が「ここなら相談できる」と思える病院を探していくのも大切です。
場面緘黙症への具体的な治療方法は下記のようなものです。
【認知行動療法】
考え方のクセや行動パターン、傾向を把握し、それらの変容を図ることでストレスを軽減する治療方法です。
【薬物療法】
場面緘黙症の不安症状を軽減するために、抗うつ剤などによる薬物療法が用いられることがあります。これによって、不安の原因となるような場面に慣れていくことができます。
【エクスポージャー法】
薬物療法と併用されることが多く、不安の原因となるような場面に段階を踏んで馴らしていく治療方法です。
【ロールプレイ技法】
特定の場面を再現し、役割を演じることで、自分の発言や行動を客観的に見ることができます。役割を疑似体験することで、特定の場面への対処の選択肢を増やし、柔軟に対応できるようになることを目指します。
【言語聴覚士によるサポート】
病院によっては、言葉や聴覚の困りごとをサポートする専門家の言語聴覚士によるトレーニングが受けられるところもあります。
1人ひとりの症状や程度を鑑み、それぞれに合う治療法が検討されていきますので、上記のみが場面緘黙症への治療方法ではありません。例に挙げたような治療法だけではなく、「周囲への理解をどうしたらいいのか分からない」など、場面緘黙症とみられる症状により、社会生活での困りごとを抱えておられる場合は、その対処法や選択肢をカウンセリングをとおして考えていくこともできます。
特定の場面で話せなくなる場面緘黙の症状に一人で苦しんでいませんか?
うららか相談室では、メッセージ・ビデオ・電話で自宅にいながら、臨床心理士などの専門家に悩みを相談することができます。
場面緘黙症の治療のための一歩として、ぜひうららか相談室をご利用いただければと思います。
場面緘黙症の症状は、一人ひとり異なりますので、まずはご自身の具体的な症状を整理していき、学校や職場などにおける、どの場面の、どういった時に症状が出て、支障をきたしやすいのかを把握していきましょう。苦手な状況、不安のきっかけとなっている原因が分かるようになると、具体的な対策を考えることができるため、周囲にも説明がしやすくなり、理解や協力を得やすくなります。
周囲に理解してもらうまでのプロセスは、下記のようなイメージです。
①ご自身の症状を客観的に理解する
どのような場面、どのような人、どのような時に症状がでるのか具体的に書き出してみましょう。例えば、「上司の〇〇さんと話すとき」「発言を会議で求められたとき」などです。
②症状が出ることにより、支障が生じやすいものから順に①で書き出したことを並び変える
①で挙げた状況を「苦手だけど可能」「努力をすることにより可能」「困難である」といったように難易度をつけてみましょう。難易度をつけたら、はじめから難易度が高い状況への対策を考えるのではなく、一番克服までの道のりが近いと思われる、難易度が低い状況から対策を考えていくようにします。小さなステップを確実に克服していくプロセスが、自信にもつながります。
③周りの人に伝える
伝える相手が職場の方であれば、全てのことを伝えるのではなく、仕事を円滑に進めるうえで周りの理解があった方がよいと思われる状況のみ伝えるという考え方でもよいでしょう。また、仕事上でできることと、できないことを明確にしていくことも大切です。
職場における場面緘黙の症状に対する配慮や対策としては、以下のようなものが挙げられます。
場面緘黙症について、どの程度、どのように周りの人に伝えたらよいのかを考えるのは難しいことですので、お一人で抱え込まず、カウンセリングを活用していただき、専門家とともにお一人おひとりに合った伝え方を考えていくことも検討していただけたらと思います。また、信頼できる友人や家族、同僚などに周囲への伝え方について助言をもらうのもよいでしょうし、職場の産業医に相談し、同席してもらって、上司に相談するのもよいでしょう。
周りの人に伝えるときは、ご自身の状況を「すぐに相手が理解してくれる」という考えではなく、時間の経過とともに、相手が場面緘黙症の症状や状況を徐々に理解してくれるというような考え方がいいでしょう。相手の方も、当事者の方とともに時間を過ごしていく中で、少しずつ場面緘黙症への理解を深めてくださるはずです。
場面緘黙症の支援団体が作成しているリーフレット等を活用し、周囲の方に理解を求めるのもよいでしょう。周囲の人たちが場面緘黙の症状や困りごとへの理解をしてくれると、当事者もとても暮らしやすくなります。支援団体が作成している、誰が読んでも分かりやすい資料を活用していくことは、適切に、そしてスムーズに周りの方に理解を求めていく上で、とても有効だと思います。
また、特定の場面において口頭での応答が難しい場合、意思伝達をサポートするアプリもあります。「緘黙 アプリ」などとインターネットで検索すると見つけることができますので、医師のもとで治療を受けながら、日常生活において一時的に、このようなツールを活用していくのもよいでしょう。
場面緘黙症かもしれないと思った際には、自己で判断せず、まずは医療機関へ足を運ばれることをおすすめします。適切な治療で改善ができますので、専門家支援のもと、より心地よい毎日を過ごすために前向きに進んでいただければと思います。
参考サイト
日本場面緘黙研究会|https://mutism.jp/about-sm/
大人の緘黙の存在|https://smjournal.com/adults-about.html
かんもくネット|http://kanmoku.org/