人からの愛情や関心を確認したくてする行動を「試し行動」と呼ぶことがあります。試し行動は、子どもが親の愛情を確かめたいときによく見られますが、大人でも起こり得ます。
試し行動は、された側が困る行動であることが多いものですが、試し行動の背景や意味を知っておくことで、不要なトラブルを避けることも可能です。
今回は、試し行動をする心理や望ましい対応などをお話していきます。
目次
- 試し行動とは?
- おわりに
はじめに、試し行動とはどんなものなのか見ていきましょう。
・大切な他者の反応を引き出すための行動
試し行動とは、主に幼児期以降の子どもが親などに対して、怒られること、良くないことだと分かりながらも愛情や関心を確認するために取る行動です。
自分が大切な相手に愛されていること、ちゃんと見てくれていることを確かめたくてする行動なので、基本的にはどうでもいい相手には向けられません。
ただ、新しい環境やまだよく知らない人に対して、どんな場所、相手なのかを確認するために試し行動に出ることもあります。
・意図的な意地悪や反抗、甘えなど
よく見られる具体的な試し行動としては、このようなものがあります。
☑きょうだいや友だちに意地悪をする
☑言われたことと逆のことをする
☑人の持ち物やお店の商品を取ったり隠したりする
☑嘘をつく
☑年齢や状況に不相応な振る舞いをする
☑過度に甘える
体調や機嫌が悪いときや、2歳前後から始まることが多いイヤイヤ期などに、同様の行動が見られることもありますし、それらすべてが試し行動というわけではありません。
試し行動の場合、以前叱られたことがあったりして悪いことだと分かっていながら、敢えてその行動を取ることが多いです。
子どもの試し行動の背景にある心理や原因には、どんなものがあるのでしょうか。
・愛情の確認
相手が自分に対してどれくらい愛情を持ってくれているかを確かめたくて、試し行動をすることはよくあります。
子どもが主に養育者、園や学校の先生など関りのある大人に対して、ちょっと悪いことをしても許してもらえるのを確認したい、自分の方を見てほしい、気を引きたい、というような気持ちから、良くないことと分かりつつも試し行動に出るのは珍しいことではありません。
・大きな環境の変化
入園や入学、きょうだいが産まれるなど、子どもにとって大きな環境の変化が訪れたときは、普段は落ち着いている子でも不安になりやすいものです。ただでさえ不安が高まっているところに、親の方もやることが増えて子どもへの目配りができる余裕が減ってしまいがちなため、ますます子どもが自分への関心を求めるようになるのも自然なことです。
・相手を知るための手段
新しい環境や人に会ったとき、その相手がどんな人か、どこまで受け入れてくれるかを知るために、試し行為を行う子もいます。相手からの反応を見て自分の行動を調整することもあれば、受け入れられないことに不満を持ったり、自分を主張したい場合などは試し行為が続くこともあります。
子どもの試し行為にうんざりしたり、腹を立てたりしてしまう大人も多いかと思いますが、どんなふうに対応すればいいのでしょうか。
・頭ごなしの叱責や無視はしない
意図的に繰り返される試し行動にはイライラさせられてもおかしくありませんが、厳しく頭ごなしに叱責したり、無視をしたりするのは得策とは言えません。
試し行動をする子は叱られてでも気を引きたい、あるいは叱られるときくらいしかこちらを見てもらえないと感じていることもあり、叱責は試し行動を強化してしまいかねないのです。
また、無視をすると、反応を求めてさらにひどい試し行動を引き起こしてしまうこともあり得ます。
・気持ちを受け止める
そのため、まずは試し行動をしてしまう背景にある経緯や気持ちを受け止めるようにします。
「どうしてそんなことをしたの?」「こんな気持ちだったのかな?」と詰問ではないトーンで聞くなど、子どもの気持ちを言葉で引き出せるような声かけをすると良いでしょう。そして、子どもが抱いた気持ち自体は「そうだったんだね」と受け止めることを続けていくと、子どもは安心できるようになります。
・やってはいけないことと代案を繰り返し伝える
気持ちを受け止めたうえで、やってはいけないことはダメだときちんと伝える必要があります。
すぐには試し行動がおさまらないことも多々ありますが、試し行動の背景にあった気持ちは否定せず、そう感じていることは悪くないし自然なことだけれど、その気持ちをその行動で表すのは良くないことである、と繰り返し話します。
そして、試し行動をしたくなったら代わりに取るべき、より適応的な対応を教えていくと良いでしょう。たとえば、人を叩く代わりに柔らかいボールを叩く、気持ちを言葉で伝える、何らかの合図をする等、人や物を傷つけない別の方法を示し、「今度そうしたくなったら、代わりにこうしてみてね」と伝えます。それがうまくいかなかったら、その都度子どもと話し合い、できそうなことを探っていきましょう。
・大切であることを伝える
愛情を求めたり、自分の存在意義を確認したかったりする気持ちが満たされ安心できるよう、子どもに愛情や「あなたをとても大切に思っている」ということを繰り返し伝えていくことも、試し行動への適切な対応となります。
試し行動をしなくても大丈夫だと思えるようになり、愛情を実感できれば、試し行動も次第に落ち着いていきます。
子どもだけでなく、大人でも試し行動をすることがあります。恋愛などでよく見られる試し行動の心理や原因についてもお話します。
・生育歴や環境の変化
人は誰しも他者から存在を認められ大切にされるべき存在で、養育者や周囲の人たちにそうされることを通じて、自然に自分を大切に思う気持ちや安定した人間関係を身につけます。
しかし、親子関係や家族関係が良好ではなく、じゅうぶんな自尊心や自己肯定感、人間関係の持ち方などを子どもの頃から今に至るまで育めなかった場合、大人になってからの恋愛関係や友人関係も不安定になるケースは珍しくありません。
愛され大切にされている実感や、自分がそれに値する存在だという感覚を持ちづらいので、試し行動で確認しようとしてしまうのです。
普段はそうでもなくても、環境の変化などで不安が強まったりした時は、試し行動が現れることがあります。
・不安や自信のなさ
恋愛や友人関係において、自分の方が相手を大好きで、それに比べて相手から自分への気持ちが少ないように感じたり、相手への劣等感や自分とは釣り合わないという考えがあったりすると、相対的に自信が持ちづらくなり、自信を穴埋めしたい気持ちや不安に耐え難い衝動から試し行動に出ることもあります。
・言葉で伝えられず行動で伝えてしまう
パートナーに不満や不安が生じたとき、適切に言葉で伝えて話し合えればいいのですが、大人でもいつもそれが可能とは限りません。
強い感情に揺さぶられたとき、疲れやストレスがたまっているときなど、何らかの事情で言葉で上手くコミュニケーションが取れないとき、言葉の代わりに試し行動で気持ちを分かってもらおうとすることがあります。
また、元々、適切な言葉によるコミュニケーションの経験が少なかったり、苦手意識があったりする人は、言葉の代わりに試し行動の方を選んでしまいがちです。
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大人の試し行動については、どのような対応をすればよいのでしょうか。
・安心してもらえるような関わりをする
不安や自信のなさが試し行動に繋がっていると思われる場合は、不安を取り除いてもらえるような関わり方をするのがもっとも効果的です。
不安や自信のなさが大きかったり、その人にとって試し行動が対人関係のベースになっていたりするようなときは、いったんは安心できてもまた不安になって試し行動を繰り返すことも多いです。
可能ならば、そのつど安心させられる対応を繰り返していくことで、試し行動をしてもしなくても何も変わらない、ならばわざわざ試し行動なんてしなくてもいい、ということを体感してもらえれば、自然に試し行動が減っていくと思われます。
・適切なやり方を伝える
試し行動は、される側が不快感や怒りを抱かされることもありますし、何度も繰り返されると安心させるような対応が難しくなっていくこともあるでしょう。
もしできそうなら、試し行動をする時の気持ちを話してもらい、試し行動は逆効果であることを伝えたり、またそのような気持ちになった時にどうしたらいいのか、自分が受け入れやすい代替手段を一緒に考えたりすると、試し行動から少しずつ適切な言動に移行させていくことにつながります。
・いったん距離をおく
試し行動に疲れて関係が悪化してしまいそうになったら、いったん適当な距離をおくのも一手段です。
どちらかが無理して我慢し続ける関係はいつか破綻しかねないので、長い目でみたときのお互いの健全な関係性のためにも、一時的に距離をおくのは悪くない方法です。
大人の試し行動は、どうしたらやめられるのでしょうか。
・期待する効果は得られないと理解する
大人が恋愛等でしがちな試し行動には、急に連絡を絶つ、意図的にわがままや相手を困らせること、否定するようなことを言う、「別れる」と言うなどが代表的ですが、これらは相手を振り回し、消耗させるだけのことが多く、愛情を確かめたいならばその効果は得られないばかりか、逆効果になるのだと理解することが大切です。
そして、試し行動をしてしまいそうになったら、このやり方ではお互いにとって良いことがないと意識して、試し行動を抑えたり、別の表現方法をしてみたりするのも、徐々に試し行動を減らす一手段です。
・自分自身を知る
なぜ試し行動をしてしまうのか、自分でも良くないと思っているのになぜやめられないのか、いったん立ち止まって考えてみるのも大切なことです。
いつ頃から試し行動をしていたか、何かきっかけになる出来事や気持ちがあったか等々、振り返って考えてみて、試し行動を引き起こす自分自身の心のうちを知ることは、試し行動の抑制につながることも期待できます。
・カウンセリングを受ける
自分でもなぜ試し行動をしてしまうのか分からない、やめる方法を試してもうまくいかないという場合は、カウンセリングを受けるのもひとつの手です。
カウンセリングでは、カウンセラーとともに試し行動の要因や引き金、それに沿った対処法などを話し合っていくことができます。
子どもも大人も、試し行動の背景には内なる不安や気持ちがあり、けれどそれを適切に表現できないために、その代わりにあまり良くない形で表してしまうことが多いです。
試し行動はする方もされる方も消耗することが少なくないため、時には第三者やカウンセリングにも頼りつつ、より適切な表現方法や適度な距離の保ち方を調整していけるといいですね。