これまで素直だったお子さんが、思春期になって、親に反抗したり、話しかけても無視したり、部屋にこもる時間が長くなると、親はとても不安になると思います。親と一緒に出かけるよりも、友だちと遊ぶことを優先し、親としては少し寂しい気持ちになることもあるかもしれません。また、子どもが暴言を吐いたり、心を閉ざしたり、何か悩んでいるようだけれどどうすればいいか分からないという親も少なくないでしょう。
この記事では、思春期のお子さんの心についての理解や対応の仕方などについてお伝えしていきます。
目次
・おわりに
思春期とは、小学校高学年から高校生くらいまでの、こころと体が著しく発達する時期を指します。
WHOの定義では、第二次性徴の出現(乳房発育や声変わりなどの時期)から性成熟(18~20歳ごろ)までの期間を思春期としています。日本産婦人科学会でも、体の成長を指標として、女子の場合はおおむね8~9歳ごろから17~18歳まで、男子は少し遅れて10~11歳から17~18歳ごろまでとしています。
このように、体の発達や変化に着目し「思春期」が定義されていましたが、身体的発達と心理的・社会的な発達は必ずしも一致しないことが指摘されています。心の発達という側面から、小学校高学年から中学生前半までを「思春期前期」、中学生後半から高校生までを「思春期後期」と呼ぶことがあります。
このように、思春期の定義や年齢は、医療や心理、教育現場といった視点の違いや、時代の流れによって異なり、明確ではない部分もあります。
思春期の子どもには、以下のようなこころの変化が見られます。
思春期は、お子さんが一人の大人としての自分を確立する時期であり、親から自立したいという思いと自立に対する不安が入り混じっています。
親から自立したいという気持ちを心理学者のホリングワースは「心理的離乳」と呼んでいます。子どもが親の管理から離れて自分で意思決定したいと思い、自己裁量を求める時期を指し、親への反抗・反発を伴います。
その一方で、思春期の子どもは自信が持てず、傷つきやすく、精神的に不安定になったり、親に対して依存的になったりするため、親は子どもが何を考えているのかよく分からないと感じることがあります。
このように思春期の相反する心の状態は「両価性(アンビバレント)」という言葉で表されます。反発や甘えという一見すると正反対に見える子どもの態度は、親からの自立と依存の間で揺れていることであり、日常生活に支障をきたさない程度であれば、成長していくために必要な過程といえます。
思春期の子どもは、親からの独立に対する不安や戸惑いを軽減するために、仲間と一緒にいたいという気持ちが強くなります。特に中高生は、友人の中に自分との共通項を求めて、仲間として同じ価値を持つことに意義を見出そうとするため、そのような仲間が見つからないとストレスを感じやすいといいます。実際に、中学時代のいじめの被害は、精神的健康度の低さと関連していることが分かっています(浅井・兼坂・大井田, 2008)。
「自分とは何者か」ということを、発達心理学者のエリクソンが「自我同一性(アイデンティティ)」という言葉で表現し、それが揺らぐことを「自我同一性の危機」と呼びました。
思春期の子どもは、仲間や社会の影響を受けながら、一人の大人として自我同一性を確立していくといわれます。一方で、自我同一性の危機に陥りやすく、社会が期待する役割に沿うのが難しいという葛藤を抱えたり、自分を見失ったりすることも多い時期です。思春期には自意識が強くなり、容姿や能力などを他者と比べて、落ち込んだり悲観したりすることもあります。
このように、思春期はいわゆる「自分探し」の時期であり、子どもは「自分はどのように生きたらいいのか?」「自分らしさとは?」といったことについて真剣に向き合います。
高校生になると、これまでは友人関係や家族関係の中でのストレスを処理してきましたが、社会との関係の中でのストレスを処理する能力が求められるようになります。中学時代は、学校や部活などの狭い友人関係やグループの仲間に意識が集中しており、その中でうまくやっていけるか、仲間と同じ部分を持っているかということが重要視されましたが、高校生になると、将来を意識し、社会と自分との関係を見つめ、自分と他者との違いなども少しずつ受け入れるようになります。
思春期の子どもとの上手な付き合い方について、カウンセラーと一緒に考えてみませんか?
このようなことでお悩みではないですか。
思春期には、アンビバレント(相反的)な感情を持ちやすく、反抗したと思えば、急に甘えてきたり、ちょっとしたことで傷ついたり、不機嫌になったりといったように心の不安定さが目立つため、もしかすると病気なのではないかと心配になる人も少なくないと思います。
本人が「辛い」「苦しい」と訴えていたり、日常生活に支障をきたしていたり、ひきこもっていて他人との関わりがないなど、何か問題が生じている場合には、早めに行政や医療などの専門機関に相談することをおすすめします。
思春期には、以下のような問題がみられることがあります。
これまで素直だったお子さんが、親に反発して言い返したり、モノを投げつけたりすることがあります。「言葉で上手く伝えられない」「話しても分かってもらえない」という思いも隠れています。
お子さんが興奮しているときには距離を置き、落ち着いているときに、「暴言や暴力は相手も自分も傷つける」ということを伝え、暴れそうになったときにクールダウンする方法を一緒に話し合いましょう。
文部科学省(2019)によると、不登校児童の割合は小学生で0.8%、中学生で3.9%、不登校児童のうちの90日以上の長期欠席者数の割合は小学生で4割、中学生で6割と、中学生になると不登校の人数は増え、期間も長期化します。
不登校の主な要因として、「無気力・不安」が3分の1以上を占めており、思春期特有の悩みを抱えていることも想像に難くありません。
無理に登校させなくても、生活リズムの乱れがなく、家庭で穏やかに過ごしているのであれば問題はないですが、学習の遅れや昼夜逆転、ゲーム障害、ひきこもり、暴言・暴力、大きな気分の落ち込みなどが見られる場合は、早期に行政や医療などの専門機関に相談し、問題解決に努めましょう。
そのほか思春期によく見られる問題行動や症状として、非行や飲酒、いじめ、自傷などが挙げられます。
思春期は体と心が不安定なため、特有の病気が見られやすくなります。一見すると怠けているように見えたり、「反抗期で不機嫌なだけだ」と思われ、見過ごされたりする不調も多いです。
いつもと違う心身の不調を感じたら、早めに医療機関に見てもらうことをお勧めします。また、周囲がお子さんの不調に理解を示すことも病気の回復には欠かせません。
以下に、思春期に罹患しやすい病気を挙げておきます。
思春期のうつ病の症状は成人のうつ病と基本的には同じで、抑うつ(大きな気分の落ち込み)、無気力、無感動、孤独感、不安、集中力の低下、不眠や過眠といった睡眠障害などがみられます。特に思春期には、言葉で気持ちを伝えられず、無口になったり、イライラしやすくなったりすることも多いため、反抗期と思われてしまい、見逃されることもあります。
起立性調節障害は思春期の子どもに多く見られる、自律神経の機能がうまく働かないことによる疾患で、血圧が低下し脳へ血液が回りにくくなるため、起立時に立ちくらみやめまい、動悸、失神、息切れ、食欲不振、倦怠感、頭痛、乗り物への酔いやすさなどの症状がみられ、朝起きられずに学校へ間に合わないことが起こりやすくなります。日中や夕方は元気なのに、朝になると体調が悪くなるので、怠けていると誤解されることもあります。
思春期妄想症は、自分のにおいや視線、容姿の醜さによって他人を不快にしているに違いないといった妄想がみられる病気です。相手に不快感を与えていて、自分は嫌われている、避けられているという妄想も併せ持ち、人と会うのを避けたり、家にひきこもったり、死にたい気持ちになることもあります。また、家族のような親しい人や、逆に全く知らない人に対しては、そのような妄想はみられにくく、顔見知りのような関係に対して妄想が現れやすくなります。
思春期妄想症でみられる妄想は、大きく次の3つに分けられます。
自己臭恐怖は、自分のにおいを過剰に気にしたり、臭いにおいを自分が発していると思い込んだりする症状です。においがすると思い込んでいるところを何度も洗ったり、消臭剤を過剰に使ったりすることがあります。
視線恐怖は、自分の視線によって相手を不快にしていると思い込む症状です。話をしている相手から目をそらしたり閉じたりすることが多いです。
醜形恐怖は、自分の容姿が醜く、大きな欠点があると思い込む症状です。そのような欠点はないことを指摘されても聞き入れず、過剰に身づくろいをしたり、外出が苦痛になったりすることがあります。
思春期やせ症は、思春期のお子さんが、痩せている体型への執着や太ることへの恐怖を伴い、過度な食事制限を自分に課したり、ものを食べなくなったりする疾患です。
女子・中学生に多く、近年はさらに低年齢化しているといいます。過度な食事制限によって栄養失調になり、命を脅かすこともあるので注意が必要です。
思春期やせ症には、以下のような症状や行動が見られます。
思春期の子どもの様子について心配なとき、まずは気軽に相談してみてください。
このようなことでお悩みではありませんか?
子どもの児童期までは、親が叱る、注意する、褒めるなどして、親側がコントロールできたものが、思春期になると同じ方法では通用しなくなります。子どもの心の成長に応じて、以下のように親の関わり方も見直してみましょう。
思春期の子どもは自立心が強くなるので、親の思いを一方的に押し付けることは避け、重要なことは話し合いをして決めましょう。その際、受け入れられないことや、その考えは不安だと思う部分があれば、話を最後まで聞いた後で、親として必要なアドバイスは率直に伝えましょう。子どもの細かい行動まで管理するのは難しくなりますので、日常生活で普段の会話を大事にして、気になることはその場で伝えるとよいです。
子どもが中高生になると、あまり話をしてくれなくなる場合もあり、親としてはとても不安になるでしょう。小学生のときのように、友だちや学校のことをあれこれと聞くと嫌がられることが多いです。お子さんは一人でいたいときもありますので、話をしたくないときや「うるさい」と怒り出したときには、それ以上は干渉せずに見守りましょう。
親が厳格で子どもを統制し、心理的なサポートをしないことは、子どもの無気力と関係があるといわれています。親が厳しすぎると、子どもは失敗を恐れて、自分から物事に立ち向かうことに消極的になってしまうようです。
思春期のお子さんは、親に管理されたくないという気持ちが強くなるので、子どもの意思を尊重しつつ、それでも認められないという部分はきちんと理由を伝えましょう。
スマホやゲーム、お小遣いの管理でもめる親子も多いですが、「○○はダメ」と一方的に禁止にするのではなく、子どもの意見も聞いたうえで、ルールは一緒に決めると守りやすいです。ルールを破った場合には理由を聞いて、必要であれば、その都度ルールを変更するなど、柔軟に対応すると、お子さんも自分の意見を聞いてもらえたと納得するでしょう。
自由に物事を決定したいという欲求を制限されたり、自由を脅かされたりすると心理的反発を覚える「リアクタンス理論」(Brehm, 1966)という考えがあり、一方的に押し付けるのではなく説明を加えることは、子どもの自尊心やストレスの低下と関連する(Holmbeck et al, 1995)といいます。
思春期のお子さんは、自分自身の価値を見出そうと葛藤しています。周囲の子たちと、容姿や成績、能力などを比べて落ち込みやすい時期です。そのようなときに、親から兄弟姉妹や友人と比べられたらとても傷つくことがあります。お子さんをほかの子と比べることはやめましょう。
思春期にかかわらず、親が子どもの気持ちを和らげるように接することが、子どもの自尊心の向上やストレスの低下と関連するといいます。
親の支援が高まるほど、子どもの自尊心や自己有能感が高まり、仲間からの人気も高く、問題行動としての飲酒経験も少なくなることが確認されています(Kurdec and Fine, 1994)。
お子さんを温かく見守り、「いつでも話は聞くよ」とお子さんが悩みを乗り越えられるよう、困ったときは手を差し伸べられる立場でいることが大事です。話を聞くときは、「そう感じているんだね。では、どうしたらいいだろう?」と問いかけて、お子さんが自分で乗り越えるヒントを考えさせましょう。
小さいころのように、素直に喜ばないかもしれませんが、お子さんはいくつになっても親には認めてもらいたいものです。何か手伝ってもらったりしたときは、きちんと感謝の言葉を伝えましょう。
また、お子さんがこれまでと比べてよくなった部分や、すごい!と感じた部分は率直に褒めてあげると、「親は自分を見てくれている」と嬉しく思うでしょう。
お子さんから無視されたり反抗的なことを言われたりすると、腹が立つと思いますが、親が興奮するとお子さんもさらに反発するでしょう。
イラッとしたときは一時的にお子さんと距離をとり、気持ちが落ち着いてから「さっきの言葉はショックだったな」などと自分の気持ちを伝えましょう。言い争って険悪な空気になってもお互いに傷つくだけで、いいことはありません。
暴言や暴力があったり、不登校でひきこもりになっていたり、家族を無視して全く話さなかったり、何か悩みがあるようだけれど話さないといった問題がある場合は、夫婦で問題を共有し、学校やスクールカウンセラー、児童家庭支援センターの心理士や児童福祉の相談員などに話を聞いてもらうと、何か解決策が見つかるかもしれません。
あまり深刻な問題でないと感じるのであれば、信頼できる友人やママ友に相談してみるのもよいでしょう。思春期の子どもの対応に悩んでいるのは自分だけではないことが分かり、安心できる場合もあります。
思春期の心理的特徴や抱えやすい心の病気、問題行動、親の対応について述べてきました。「思春期だから」「反抗期だから」と考えて、親はお子さんの心のSOSを見落としてしまいがちですが、「おかしいな?」と気になることがあれば、早めに学校や行政機関、医療機関、カウンセラーなどに相談しましょう。
不安定な時期のお子さんに付き合うのは本当に大変ですが、普段の親子のかかわりを大事にすることが安定した青年期の発達にもつながっていくと思います。
<参考文献>
向井隆代(2010)思春期の身体的発達と心理的適応-発達段階および発達タイミングとの関連-,カウンセリング研究, 43(3), pp.202-211.
平石賢二・河野荘子・笠井清登・大久保智生・吉澤寛之・齊藤 誠一(2018)思春期における問題と発達と問題行動, 教育心理学年報, 57, pp.264-272.
石村佳代子・岡本典子・影山セツ子(2014)思春期・青年期年代生徒のメンタルヘルスの実態に関する文献検討, 常葉大学健康科学研究報告集, 1(1), pp.11-23.
平岩幹男(2011)思春期保健からみて, 小児保健研究, 70, pp.23-25.
宮本信也(2016)思春期の心の問題, 成長科学協会 研究年報, 40, pp.183-186.
山本和代(2006)思春期子の子どもたちの日常生活上のストレッサーとストレス対処行動についての検討, 看護・保健科学研究誌, 7(1), pp.11-19.
浅井貴美・兼坂佳孝・大井田隆(2008)中学生の睡眠と精神的健康度に関する調査, 思春期学, 24(3), pp.465-472.
古川綾子(1972)親の自己認知と子どもの認知による子どもに対する両親のリーダーシップ行動測定について, 実験社会心理学研究, 12(1), pp.41-52.
角田博之・宮岡等・高木謙・角田和之・高森康次・永井哲夫・中川種昭,・藤野雅美・片山義郎(2003)自己臭症状を伴う思春期妄想症の1例, 日本歯科心身医学会雑誌, 18(2), pp.85-88.
末盛慶(2007)思春期の子どもに対する親の養育行動に関する先行研究の概観―親の養育行動の次元構成および子どもに与える影響について―, 日本福祉大学社会福祉論集, 117, pp.51-71.
思春期のやせ | 女性の健康推進室 ヘルスケアラボ|厚生労働省研究班監修, https://w-health.jp/puberty_trouble/pubescence_diet/(2021-11-09 最終閲覧)
清田晃生, 思春期のこころの発達と問題行動の理解 | e-ヘルスネット(厚生労働省), https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-03-002.html(2021-11-09 最終閲覧)
青木省三(2009)「思春期のこころの病~悩みと病の見分け方~」NHK厚生文化事業団, https://npwo.or.jp/books/801(2021-11-09 最終閲覧)