「大人の発達障害」という言葉を近年よく耳にするようになりました。長年人付き合いに悩んだり、職場を転々としたり、どうしてもミスが直らないなど、様々な面で壁を感じていた方が、大人になってから実は発達障害であることが分かり、これまでの生きづらさの原因が次々と紐解くように解明されていくようなことが珍しくありません。みなさんのお子さんについて「あれ?」と思うことが続いていませんか?ADHDについて親御さんが早期から知っておくことは、将来のお子さんを助けることに繋がるかもしれません。
目次
- おわりに
ADHD(注意欠陥・多動性障害)とは「不注意」「多動・衝動性」を主な特徴とする発達障害の1つで、12歳以前から症状が見られます。ADHDをもつ子どもの脳ではドーパミンという物質の機能障害が起きていることが考えられていますが、明確な原因は明らかになっていません。ADHDの有病率は、報告により異なりますが、およそ小児の3~7%といわれており、もともとは小児の障害とされていましたが、大人になってもADHDの症状に悩まされている方は多くいらっしゃいます。子どもによって障害の程度に差があり、周りの環境によって上手くサポートされてきた場合は、家族にも他者にも気づかれないまま本人が生きづらさを感じていることも多く、抱えている問題に気づきにくい障害でもあります。また、複数の精神疾患を併発しやすいのも特徴の1つです。
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ADHDの子どもの特徴としては下記が挙げられます。「不注意」「多動・衝動性」に分けて見ていきましょう。
◇「不注意」の特徴
◇「多動・衝動性」の特徴
こういった特徴は、どの子どもにも見られやすい傾向にあるため判断が難しいこともありますが、同年齢の水準に比べてより頻繁に、持続的に、そしてより強く、その特徴が認められます。しかし、「不注意」と「多動・衝動性」の特徴の出現度合いは子どもによりそれぞれ異なり、両方の特徴も持つ子もいれば、「不注意優勢型ADHD」「多動・衝動性優勢型ADHD」といったようにどちらかの特徴が強く出ている子もいます。
ADHDの診断は、アメリカ精神医学会のDSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル 第5版)に基づき、主に下記における条件が満たされた場合に診断されますが、ADHDがそれ単独で診断できるような確立された医学的検査はありません。
医師により、患者の話を聞いたり、心理検査などを行なったりしたあと、様々な基準や指標をもとに診断がされるので、自己判断はできかねますが、DSM-5のいくつか項目の例を挙げると下記のようなものがあります。
ADHD、自閉スペクトラム症(ASD)、学習障害(LD)、発達性協調運動障害(DCD)などの発達障害は、互いに類似している症状が見られる場合もあったり、そもそも障害ではなく、身体的な疾患、不安定な子育て環境が発達障害と類似した症状を引き起こす場合もあります。こういったことから、自己判断ではなく、熟練した医師による医学的判断はとても重要です。みなさんのお子さんにも気になる点があれば、小児科、小児神経科、児童精神科等にまずは足を運ばれることをおすすめします。
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ADHDの特性があると診断された場合には、程度によって医学的治療が必要になります。また、その子に携わる人や、取り囲む環境を整え、ADHDの子が苦手なことを上手く補完し、強みを伸ばしていくという考え方で改善をしていく方針も大切です。医学的治療としては、環境、行動、薬物療法の3つの面から介入し、組み合わせてアプローチしていくと効果がより期待できるとされています。治療といっても、ADHDは生まれ持った脳の特性であり、それ自体を治せるものではありませんが、服薬によって症状の出現を抑えたり、療育(発達支援)やソーシャルスキルトレーニング(SST)によって問題を生じにくくしたりすることが可能です。
ADHDを持つ子どもは、非ADHDの子と同じ働きかけをしても効果が期待できないことがありますし、本人の意思、意図とは別にADHDという障害によって、どうしてもじっとしていられなかったり、忘れ物が減らせなかったりします。このような行動は、周囲に叱られたり、理解してもらいづらかったり、友達にからかわれてしまうこともあるため、本人は「どんなに頑張ってもできない自分」というようなネガティブな印象を自己に抱きやすく、心の病を併発することも頻繁にあります。このような場合には、この併発した二次障害の治療が必要となります。
本人と、本人を取り囲む人たちがADHDの特性について正しく理解し、本人の強みを伸ばす考え方やみんなで支えていく姿勢がADHDの子どもをサポートしていく上でとても大切です。
ADHDを抱える子どもに親はどのようなことをしてあげられるのでしょうか。以下に見ていきましょう。
◇暮らしやすい仕組みを作る
ADHDの子どもにとって暮らしやすい環境を整えていくには、本人が少しでも集中しやすく、そしてパニックや混乱を招きにくいアイデアや仕組み作りも大切です。例えば、集中できない子どもを叱るのではなく、教室や家における勉強机の置く位置や場所を変えて集中しやすい環境を創ることも改善に繋がる場合が多くあります。時間割も文字で示すだけではなく、時計や各教科の絵や写真を組み合わせたタイムテーブルを作るなどして、視覚的に工夫することもいいでしょう。また、注意散漫にならないよう、勉強机の周りには不要な掲示物などは貼らないこと、勉強机に視界を遮るボードを設置するなどの工夫や、ノイズキャンセリングのヘッドホンを着用すること、勉強時間を短時間に分けて設けるなども有効なことがあります。
子どもは、家や学校だけでなく、様々な場所に出かけていく中で社会での行動やルールを学びます。「間違いや失敗を繰り返す中で、障害を持ちながらも少しずつ適応していくもの」という視点を持つと、注意しすぎたり、叱りすぎるということも減るはずですので意識してみてください。
◇ほめ方を工夫する
ほめ方としては、具体的な行動についてほめることが大切です。そうすることで本人に、何をどうすることがいいことでほめてもらえるのかが伝わるので、「また次もそうしよう」という意思に繋がりやすくなります。また、間違った行動や言動に対して叱るのではなく、やる気が出るような言葉かけや自信を持てるような声かけも大切です。「こうしたらもっとよくなるよ」と提案してあげる言葉かけにより、よい行動を増やすことにもなるでしょう。このように言葉かけの工夫をすると、本人も親も「できない自分(子ども)」に対してイライラしたり、自信をなくしたりすることを防ぎ、自尊感情を持てるようになりやすいでしょう。
また、問題になっている行動や言動が無くなるまで、ほめないのではなく、そのプロセスの中で少しでも頻度が減ったり、抑制できたときにはそこもしっかり気づいてあげてほめていきましょう。できた時にシールやポイントをあげて、シールやポイントが集まったら、本人へご褒美をあげるというように、楽しく学べ、やる気の出るような仕組み作りも有効なことがあります。
◇学校に伝えること
同じADHDを持つ子どもでも、1人ひとり苦手なことや得意なことが異なりますし、家庭での様子と学校での様子が異なる場合も少なくありません。ですので、担任の先生に配慮してほしいことや注意して見てほしい状況などがあれば、伝えておくと安心です。学校での様子も教えてもらえるように先生とのやりとりをする機会を設けてもらうのも良いかと思います。学校には同世代の子どもたちもいますので、友達とのやりとりはできているのか、本人が困っていそうなことはないか、どういう時に楽しそうにしているかなど、お子さんの特徴を先生の目線からも見てもらえると前向きな気づきが得られるでしょう。
◇親の心理状態にも注意する
ADHD児を持つ親は、子どもに何度同じことを伝えても改善されなかったり、自分の子どもと他の子を比較してしまったり、学校生活が始まるとADHDの子が苦手であることが多い自己管理が必要な機会(宿題の提出など)が増えていくため、お子さんだけでなく親も頭を悩ませ、ストレスを抱えたり、不安感や怒りの感情を子どもに当ててしまうこともあります。こういったことから、子育ては親だけで抱え込んだり、頑張りすぎたりせず、お子さんにとってのよりよい養育環境のためにも社会的なサポートを活用したり、カウンセリングなどを通して親の気持ちも定期的に解放し、専門家と一緒に頑張っていくという考え方も大切です。
◇周囲への理解・協力を求めるかどうかの判断
ADHDの症状の度合いや、日常生活にどの程度の困難を感じているかにもよりますが、学校や習いごと先、祖父母など、お子さんが頻繁に関わる環境において、ADHDの特徴を周りに理解してもらうことで、お子さんがより心地よく時間を過ごせるようになるかどうかというような視点で、周りへの協力を求めるかどうかを考えていくのもよいでしょう。障害を持つ子の親は、「子どもが障害を持っている」と周りに伝えたときの反応を恐れていたり、社会の目を気にするあまり、家族内だけで悩みを抱え込んでしまったりすることが少なくありません。ですので、小さなことでも話せる人、子育ての協力者が身近にいるととても安心です。その相手は、ご近所の方やママ友でもよいでしょうし、具体的なサポートを求めているのであれば、医療や心理、福祉関係の専門家もよいでしょう。また、カウンセリングを活用して日頃の思いを打ち明け、具体的な支援を専門家と一緒に考えていくこともできます。
ADHDの子どもと関わっていく上で、問題となっている行動や態度を、大人が抑え込もうとするスタンスでは、子どもの自尊感情が築かれにくくなったりと、なかなか良い変化が生まれません。大人の立場から浮き彫りになっている子どもの問題と、本人の立場からの現状の見え方、捉え方、困難さの程度は異なる場合も多くありますので、本人の立場から考え、強みを伸ばしていき、弱みを上手く補完できる方法を一緒に考えていくことが大切なのではないでしょうか。ADHDの子をもつ親が、その子の良いところに目を向け、応援していく雰囲気でいることができると、そのような親の前向きな雰囲気を読み取り、自然と子どもも一緒に頑張ってくれるようになっていくはずです。
<参考文献>
ADHD(注意欠如・多動症)の診断と治療(厚生労働省)
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-04-003.html
注意欠陥・多動性障害に関する学校における配慮事項について(文部科学省)
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/046/siryo/attach/1311209.htm
みなさんにわかってほしいこと(国立障害者リハビリテーションセンター発達障害情報・支援センター)
http://www.rehab.go.jp/ddis/understand/facts/