自閉症スペクトラム障害(ASD)という障害について知っていますか?ここ15年ほどで、ドラマや映画の題材になることも増え、自閉症という障害名を耳にしたことのある方も多いと思います。しかし、「自分の殻に閉じこもる心の病気でしょ?」「知的障害のことじゃないの?」といった誤解も多く、まだまだ自閉症スペクトラム障害がどんな障害なのかきちんと知っている方は少ないと思います。ここでは、自閉症スペクトラム障害についてわかりやすく解説していきます。
目次
- どうしてこんな名前になった?自閉症スペクトラム障害の名前の由来
- おわりに
自閉症スペクトラム障害とは、共通の特性をもった社会的コミュニケーションの困難を抱える障害です。ASDとも呼ばれています。知的障害をともなうものとそうでないものがあり、知能では推し量れない面があります。社会的コミュニケーションの困難さとは「他人に関心が持てない」」「場の空気をうまく読み取ることができない」など、会話や人との交流に困難さを抱えている状態です。
自閉症スペクトラム障害は、発達障害(神経発達障害)という精神障害の一種です。精神障害の診断基準であるDSM-5では、知的障害群、コミュニケーション障害群、自閉症スペクトラム障害、チック障害、注意欠如・多動性障害、限局性学習障害、運動障害、その他の神経発達障害群が神経発達障害群に分類されています。発達障害は知的障害よりも歴史が浅いために関連する法律や診断基準が異なります。また、発達障害は脳機能の先天的な(=生まれつきの)障害であり、原因ははっきりと特定されておらず、生まれた後に健診で気づくことが多いです。
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自閉症スペクトラム障害は、診断基準が見直されるごとに様々な呼び方をされてきました。そのなかには「アスペルガー症候群」「高機能自閉症」という分類が存在します。
アスペルガー症候群は知的障害をともなわない自閉症のことを指します。言葉の発達や知能には問題がないけれど、自閉症の特徴である社会的コミュニケーションに困難がみられる障害です。遠回しな表現や相手のしぐさから気持ちを汲み取ることができず、悪気なく相手を傷つけてしまったり自分の話ばかりしてしまったりという傾向がみられます。
高機能自閉症は、知的障害はみられないものの「対人関係の障害」「コミュニケーションの障害」「パターン化された興味や活動」があるため、言語発達には遅れがみられます。
「自閉症」という言葉はどこからやってきたのでしょうか。社会関係の障害に「自閉」という言葉が用いられるようになった由来はなんでしょう。自閉症という言葉の起源は1940年代に遡ります。オーストリアの小児科医アスペルガーと、アメリカの精神科医カーナーがまったく別の症例に「自閉症(autism)」と命名しました。彼らはそれぞれの症例を、ギリシャ語で「自己」を意味するautosという単語に由来する「対人関係の相互作用」に対する障害ととらえたのです。それが翻訳された際に「自閉」という言葉があてがわれました。
また、スペクトラムとは「連続体」を意味しており、切れ目が不明確で境界がわからないことを表しています。もともとは、(高機能)自閉症、アスペルガー症候群などが、それぞれ症状の異なる別の障害として考えられていました。しかし、観察される一つ一つの症状の程度は人によって多様であり、(高機能)自閉症とアスペルガー症候群などの間で明瞭な差異を持たない(=連続している)ことが明らかになりました。そして、それぞれの分類の基準となる境界を設けることがあまり有効でないという理解が進んだ結果、自閉症スペクトラム障害という診断名にまとめられました。
自閉症スペクトラム障害は、知的障害や言語障害の有無やその程度に関わらず、自閉の特徴を持っている障害ということになります。
※スペクトラムのイメージ
これまで述べてきたように、自閉症スペクトラム障害には共通した特性があります。大きく分けると以下のようなものです。
1.他人に興味が薄く、感情的な交流が苦手
相手の気持ちや意図を汲み取ることが難しく、情緒的な交流が難しいという特性があります。視線の変化や言葉の抑揚から気持ちを想像することが難しいためです。
2.こだわりが強く、特定の物や行動に執着がある
自分のやりたいこと、やりとげないと気持ちが落ち着かないことがあり、妨げられると強いストレスを感じます。例えば、建物に入ったら必ず手を洗うというルールを持っている場合、手を洗えない環境になると落ち着かず、入ってはいけないエリア(従業員用スペースなど)に入ってしまうようなことがみられます。
3.パターンが決まっているものに安心する
子どもによくみられるのが、電車に強い関心を持つ様子です。単に電車が好きということではありません。外と中の境界がはっきりしていて、乗るには必ず駅を通らなければならず、線路という決まったルートを通る・・・など、自閉症スペクトラム障害を抱える子どもにとって安心できるパターンが電車には揃っています。他にも、決まった時刻に始まるテレビや規則的な動きをするおもちゃなどに安心感を覚えます。
自閉症スペクトラム障害に限らず、精神障害の診断にはDSM-5というアメリカ精神医学会の診断基準とWHOの基準であるICD-10が用いられます。DSM-5による自閉症の診断基準は以下の通りです。
A 社会的コミュニケーションおよび相互関係における持続的障害
B 限定された反復する様式の行動、興味、活動
C 症状は発達早期の段階で必ず出現するが、後になって明らかになるものもある
D 症状は社会や職業その他の重要な機能に重大な障害を引き起こしている
これらの条件を全て満たしているものが自閉症スペクトラム障害です。
これまでお伝えしてきたコミュニケーションの困難さや対人関係を築くことの障害、パターン化されたものを好む傾向が、社会生活を営む上で重大な問題を引き起こしている状態を障害ととらえます。もともと持っている特性によって、学校や職場で困ることがあり、初めて気づくこともあります。
ご自身に思い当たることがある場合は、精神科を受診するかお住まいの地域の発達障害者支援センターに相談してみましょう。お子さんが心配な場合は、定期健診のときに保健師さんに相談してみることをおすすめします。うららか相談室では、自閉症スペクトラム障害の支援をしているカウンセラーも多数在籍しているので、お気軽にご利用ください。
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生まれながら持っている特性が大きく関係している自閉症スペクトラム障害ですが、どのような治療が行われるのでしょうか。
子どもの場合はソーシャルスキルトレーニングやこだわりを和らげる訓練を取り入れた「療育」を行います。お住まいの地域の療育センターや病院、民間施設でも提供されており料金体系も異なります。児童福祉法に基づくサービス利用の場合は、補助があるためお住まいの市区町村でサービス利用の手続きを行いましょう。
大人の場合、自閉症スペクトラム障害だけでなくうつ状態やパニック症状などを併発している場合が多いです。症状に応じて、抗うつ剤や向精神病薬、眠剤を用いた薬物療法とソーシャルスキルトレーニング、認知行動療法を併用して治療を行います。障害特性に応じたコミュニケーションスキルを学んだり子どもの頃からの挫折によって低下した自己肯定感(自尊心)を取り戻したりすることで、健康的に社会生活を送ることを目指します。大人の場合も精神科に併設されたデイケアや民間施設で治療を受けることができ、障害者総合支援法に基づくサービス利用の手続きが必要です。
サービスへの疑問や手続きの心配があれば、うららか相談室のソーシャルワークを得意としたカウンセラーに相談してみてください。お住まいの地域の保健所などにも公共の相談窓口があります。
自閉症スペクトラム障害には、共通した特性があります。しかし、言葉の発達や知的障害の有無など、個人差が大きい障害でもあります。それぞれの困りごとを個別に相談できる環境がとても大切です。小さなことでも生活でお困りのことはお気軽にご相談ください。
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参考サイト
自閉症スペクトラム障害とは? 一般社団法人全国地域生活支援機構 https://jlsa-net.jp/zhi/z-spectrum/
ASDについて e-ヘルスネット https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-03-005.html
自閉症スペクトラム障害とは ASDの森 https://asd-autism.net/common-questions/what-is-the-difference-between-autism-autism-spectrum-disorder-and-developmental-disorders/#toc_id_2