「療育」という言葉は、具体的に何をするのか、何のためにあるのか、分かりにくいと思われる方が多いと思います。
例えば、健診で保健師から、「療育を受けた方がいい」と勧められたが、何をするのか分からなくて不安に思っている、あるいは、お子さんが療育を受けているけれど、効果がなかなか目に見えない、わざわざ通う必要があるのか分からないと悩む保護者の方もいらっしゃるでしょう。また、ご家族に「遊んでいるだけで意味があるの?」と言われたときに、返答に困ってしまうことがあるかもしれません。
ここでは、療育(発達支援)を受ける意味や、期待できる効果、いつまで受ければいいのかということについてお伝えできればと思います。
目次
- 療育とは
- おわりに
療育とは、もともとは肢体不自由児が自立するための援助で、医療と教育の分野を併せ持つアプローチを意味する言葉です。現在では、身体障害以外に、発達の遅れや心配があるお子さんも対象とされています。
厚生労働省では、療育とほぼ同じ意味で「発達支援」という言葉を用い、「障害のある子どもに対し、身体的、精神的機能の適正な発達を促し、日常生活及び社会生活を円滑に営めるようにするために行う、それぞれの障害の特性に応じた福祉的、心理的、教育的及び医療的な援助である」と定義しています。(児童発達支援ガイドラインより)
さらに、厚生労働省の児童発達支援の内容は、障害のあるお子さん本人の支援のほか、家族支援、地域支援なども含め、より広い内容を含んでいます。
発達障害のあるお子さんに関する援助は、「発達支援」「家族支援」「地域支援」に分かれています。
「発達支援」は、例えば、日常生活をスムーズにするための支援や、遊びなどを通してコミュニケーション能力を高める取り組みなど、お子さん本人にはたらきかける幅広い支援を指します。
「家族支援」は、子育ての相談や同じ悩みを持つ親同士の仲間づくり、子どもとうまく関わるためのペアレントトレーニング、レスパイト(休息)の場を提供します。
「地域支援」は、地域で暮らす障害のあるお子さんと家族を支援する事業で、地域独自の様々な仕組みがつくられています。
ここからは、「発達支援」の内容について述べていきます。
発達支援の「本人支援」は、以下の5つの領域にまとめられます。
(厚生労働省「児童発達支援のガイドライン」より抜粋)。
これに沿って、各施設でお子さんに合わせた支援が行われますが、内容は施設ごとに異なります。各々の領域の「ねらい」と「支援内容」をまとめましたので、こちらを参考に、どんな支援を受けたいのか、どんな行動を身につけさせたいのかなどについて考えてみるとよいでしょう。
①「健康・生活」
◇ねらい
「健康状態の維持・改善」「生活リズムや生活習慣の形成」「基本的生活スキルの獲得」
◇支援内容
②「運動・感覚」
◇ねらい
「姿勢と運動・動作の向上」「姿勢と運動・動作の補助的手段の活用」「保有する感覚の総合的な活用」
◇支援内容
③「認知・行動」
◇ねらい
「認知の発達と行動の習得」「空間・時間、数等の概念形成の習得」「対象や外部環境の適切な認知と適切な行動の習得」
◇支援内容
④「言語・コミュニケーション」
◇ねらい
「言語の形成と活用」「言語の受容及び表出」「コミュニケーションの基礎的能力の向上」「コミュニケーション手段の選択と活用」
◇支援内容
⑤「人間関係・社会性」
◇ねらい
「他者との関わりの形成」「自己の理解と行動の調整」「仲間づくりと集団への参加」
◇支援内容
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発達障害のお子さんは、一人ひとり抱える問題も特性も様々です。
そのような状況で、保護者の方が一人でお子さんと向き合うのは、大変な労力を使い、疲弊してしまいやすいです。子育てのストレスを軽減し、お子さんの特性に合った指導を受け、過ごしやすい環境調整をするために、次のような意味を持つ発達支援は必要だと考えられます。
①障害の特性に早めに気づくことができる
障害に気付きやすい時期は、次のように発達障害の種類によって様々です。
◇自閉スペクトラム症(ASD)
1歳以降から、指差しをしない、目が合わない、他人に関心を持たないなどの特徴が見られ、健診などで保健師や医師から障害の可能性を指摘されることが増えてきています。
◇注意欠如・多動症(ADHD)
集団生活を始めたころに、園での友だちとのトラブルなどから障害が疑われることがあります。
◇限局性学習障害(SLD)
学校に入学してから、読み書き計算の不得意が目立ち、障害に気が付くことが多いです。
このように発達障害は、保護者の方が「なんとなく育てにくい」と感じていても、ある程度の年齢にならないと、正しく判断できないものも多く、軽度やグレーゾーン(傾向は認められるが診断は下りない程度)の場合は、大人になるまで気がつかないこともあります。
発達支援を受けることで、早い時期に子どもの得意・不得意な分野を見極め、社会生活に必要なスキルを身につけることができます。
保護者の方も「育てにくさ」の原因が分かり、専門職から子育てのアドバイスを受けたり、悩みを聞いてもらえたりと、一緒に考えてくれる存在がいることは心強いと思います。
②困りごとにうまく対処できるようになる
発達支援は、お子さんが日常生活で心身の安定を図り、自立することを目的としています。
たとえ、保護者の方が「障害があることを周囲に知られたくない」「少し変わっているけれど、親としては困っていない」と思っていても、人生を生きるうえで困るのは、お子さん本人です。
例えば、自閉症スペクトラム症のあるお子さんは、友だち関係などで困っていても、言葉で伝えられず、癇癪やパニックになることがあります。周囲の友だちからは、「興奮しやすい子」「キレやすくて怖い」と思われることもあるでしょう。しかし、知能に問題がないことが多いため、周囲から「ちょっと変わってる子」と思われても見過ごされやすく、中高生以降に本人が「周囲の子とうまくやれない」「みんなと違うみたい」といったように、生きにくさを感じることが多いようです。自閉スペクトラム症はコミュニケーションの問題が大きいので、このような困りごとを減らせるように、場面にあったやりとりについて学んだりすることができます。
また、保護者の方も障害の特徴を知り、子どもとの向き合い方を考えることができます。
③遊びや課題ができたことで自信を持てる
ADHDのお子さんは、衝動的な行動や怒りっぽさが特徴です。園や学校では先生から怒られることが多くなり、友だちとのトラブルも目立ち、自尊心が低くなることがあります。このような症状を減らすために、専門医療機関で医師と相談し、内服で落ち着きのなさを軽減するほか、気が散らないような環境作りなどのアドバイスをもらいます。
発達支援の場では、「落ち着きのなさは大目にみる」「落ち着いて席に座っていることができたら大いに褒める」といったように、お子さんの自尊心を守りながら、適切な行動を増やす訓練をしていきます。また、「学校の休み時間には思いきり体を動かす」などの提案をして、普段の集団生活で困らないような方法をお子さんや保護者と一緒に考えます。
限局性学習障害は、読み、書き、計算の理解に関わる脳機能の問題があり、文字がゆがんで見える、鏡文字を書いてしまう、数字の概念がわからないなどの困難が見られます。特定の学習が困難なため、外からは「さぼっている」「不真面目」と思われたり、お子さん自身も「自分は勉強が苦手だ」と自信を失ったりしてしまいます。
発達支援では、その子が抱えている問題へ個別にアプローチし、例えば「読み」が困難なお子さんには「文の少ない絵本を交代で音読する」、「鏡文字を書いてしまう」などのお子さんには「なぞり書きを何度も繰り返す」「間違えても叱らず、正しい文字を見せる」といったように、学校では難しいところまで根気よくかかわります。
このようにお子さんの特性に合った工夫をすれば、苦手なことも軽減され、「できた!」という自信になります。特性に合った配慮がされないと、達成感を味わうことができず、「自分はダメな人間だ」といったように意欲を失い、うつ病などの二次障害を併発することがあります。
発達支援の効果は、なかなか目には見えにくいかもしれません。しかし、専門職から特別な配慮が必要なお子さんへのアドバイスがもらえたり、困りごとの相談に乗ってもらえたりする安心感のほか、保護者の方から見れば些細なことかもしれないですが、お子さん自身には「褒めてもらえた」「できることが増えた」という達成感があると思います。
ただ、発達支援を受けるだけですぐに効果がはっきり目に見えて現れたり、問題がすべて解決したりするわけではありませんので、過度な期待を持ちすぎないことが大切です。そして、家庭や学校といった日常生活や普段のコミュニケーションなどで工夫できることについて職員からのアドバイスを活かし、できることは実践してみるとより効果的かと思います。
障害によるトラブルや問題など、気になることがあれば、自然には解決しにくいため、早めに発達支援を受ける準備をすることをおすすめします。
早期療育が効果的といわれる理由と、どのぐらいの期間まで続ければいいのかという疑問について見ていきましょう。
①発達支援を早めに受けたほうがいいと言われる理由
お子さんの障害による症状は多種多様で、周囲の理解や環境によって抱える苦労も人それぞれです。学校生活だけでなく、就職や結婚、子育てなど様々な場面で、障害による不利益があり、そのような生きにくさを抱えていくことは、お子さん自身にとって、とても辛いと思います。
発達支援は、幼児や学童期のサービスは比較的充実していますが、高校や大学に進学すると、それぞれの学校の体制によって受けられる支援にばらつきがあります。さらに、大人になってから発達障害が分かった場合は、専門医療機関で個別に医師の診療や心理士のカウンセリングを受けるということになります。しかし、大人の発達障害は、本人に社会経験があるため障害の特性がみえにくく、診断が難しいうえに専門医も少ないのが現状です。
また、「発達支援を早めに始めた方がよい」といわれるのは、年齢を重ねると、お子さん自身がほかの子たちと比べてしまい、発達支援を受けるのを拒否することも多いからです。
そして、年齢が上がるとトラブルや問題も解決されにくくなるので、周囲から孤立してしまうことがあります。生きにくさを長く抱えていくのは、本人にとってとても辛いことであり、その状況を言葉にうまくできず、分かってもらえる人もいない状況になると、発達障害の症状に加えて、うつ病やパニック障害などの二次障害を併発するリスクが高く、症状を軽減するのがますます困難になります。
このようなことを考えると、発達障害と診断されたり、強く可能性を疑われたり、保健センターなどから発達支援を受けるよう勧められたら、なるべく速やかに支援を行っている施設を見学し、情報収集をするとよいでしょう。
特に、就学前の児童発達支援は、集団生活をスムーズにするためには大切です。お子さんのストレスが強すぎる場合は、早期療育を受けても集団生活が難しいこともありますが、就学時に「通常学級か支援級か、それとも特別支援学校の方が合っているのか」といったように、進路を判断するためにも、幼少期の発達支援は重要になります。
②「いつまで続けたらいいのか」という疑問について
発達支援は18歳まで受けられることになっていますが、お子さんの年齢が上がってくると、例えば「放課後デイに行きたくない」と言うこともあるでしょう。辞めたいと言ってきたときは、無理して続けなくてもいいと思います。ただし、事前に施設の担当者やケースワーカーなどと、「本人が辞めたいと言っているが、どうでしょう?」と相談することをおすすめします。
また、本人ではなく、保護者や周囲の身内の方が「辞めさせたい」という場合も、施設の担当者のアドバイスを受けるといいと思います。発達支援の効果はわかりづらいかもしれませんが、施設が学校以外のお子さん自身の居場所になっている場合もあります。
本人が日常生活に必要なスキルを身につけ、保護者の方も「そろそろ卒業かな」と思う場合は、無理に継続しなくてもいいでしょう。発達支援に通っていた時間をピアノやスポーツなどの習いごとに充てるということもできます。
お子さまの発達への向き合い方について、専門家に相談してみませんか?
うららか相談室では、臨床心理士などのカウンセラーにメッセージ・ビデオ・電話・対面で悩みを相談することができます。
①療育を受けられる施設
療育を受けられる公共施設には、介護サービス、相談支援、リハビリなどの機能訓練、社会活動への参加、コミュニケーションの訓練などの福祉サービスを行う「福祉型」と、これに加え、疾病の治療や看護、医学的管理のもとでの食事、排せつ、入浴などの支援を行う「医療型」があります。
福祉型には、中核的な専門施設である「児童発達支援センター」と、身近な存在で地域支援も行う「児童発達支援事業所」があります。
医療型には、「医療型児童発達支援センター」があります。
②療育の形態
療育のサービスは、大きく分けると「通所」「訪問」「入所」の3つの形態があります。
・通所系サービスには、「児童発達支援」「放課後等デイサービス」があります。
「児童発達支援」は、6歳までの就学前のお子さんが対象で、日常生活に必要な基本的な動作の指導、集団生活に適応するための訓練を行います。この中には、医療的なケアができる施設も含まれます。
「放課後等デイサービス」は、就学している障害児(幼稚園・大学を除く)を対象に、放課後や夏休みなどの長期休暇中に、生活能力向上の訓練、社会との交流のための支援を行います。
・訪問系サービスには、「居宅訪問型児童発達支援」「保育所などの訪問支援」があります。
「居宅訪問型児童発達支援」は、重い障害があり外出が難しいお子さんの自宅を訪問し、支援を行います。
「保育所などの訪問支援」は、障害について専門知識を持った児童指導員、保育士、理学療法士、作業療法士、心理士などの職員が、保育所や児童養護施設など、障害のあるお子さんが日中に生活している場所へ訪問し、障害のあるお子さんが集団の中で無理なく生活できるように様子を観察したり、お子さん本人のほか、周囲の環境調整や園の保育士への助言をしたりします。
・入所系サービスには、「短期入所」「長期入所」があります。
「短期入所」は、ショートステイとも呼ばれ、家族のレスパイト(休養)や冠婚葬祭、病気などの際に利用できますが、事前に児童福祉課などに申請が必要です。
「長期入所」は、「身体障害、知的障害、発達障害を含む精神障害のある18歳未満のお子さんのうち、自閉症などの知的障害のある方、肢体不自由のある方、心身障害がありその症状が重症の方」が対象になります(厚生労働省 障害児支援の体系~平成24年児童福祉法改正による障害児施設・事業の一元化~より)。家族に何らかの事情があるなど、どうしても自宅で障害のあるお子さんが過ごすことができない場合に利用できますが、全国に378か所(厚生労働省『児童発達支援の現状等について』によると、平成28年7月時点で、福祉型が190施設、医療型188施設)しかないため、入所を希望しても難しいことが多いです。入所の判断は、児童相談所、市町村保健センター、医師などが行います。
そして、入所サービスには、福祉型と医療型の施設がありますが、両者に共通して受けられる支援は、介護サービス、相談支援、リハビリなどの機能訓練、社会活動への参加、コミュニケーションの訓練などです。
医療型はこれに加え、疾病の治療や看護、医学的管理のもとでの食事、排せつ、入浴などの支援が加わります。
③療育における指導方法
療育の指導方法には、「個別型」「集団型」があります。
「個別型」は、言語、運動機能、摂食(身体障害の場合)など、十分な配慮が必要なもの、不得意、つまずきがある領域に向いています。
「集団型」は、社会性、対人関係、コミュニケーションの領域に適しており、実際の場面に近い状況で、複数のお子さんとやり取りをすることを目的としています。
ここでは、発達支援を受けるまでの基本的な流れを述べていきますが、市町村により多少の違いがあるようですので、担当窓口に確認して下さい。
支援を提供する施設やお子さんの特性により、期待できる効果や受けられる支援の種類も異なりますので、「この施設では、どんな支援が受けられて、どのような効果が期待できるのか」を見学へ行った際などに、事前に担当者へ確認しましょう。その際に、施設や職員との相性も確認することができます。前述した「児童発達支援ガイドライン」の項目を参考に、「この子にはこんな支援を受けさせたい」といったことを事前に考えておくと、施設見学の時の質問もスムーズです。何が必要か分からないという場合も、診断を受けた医師や発達支援を勧められた機関で、「どのような発達支援が必要ですか?」と率直に尋ねてみましょう。
療育の効果や発達支援を受ける意味はわかりづらく、お子さんの発達への影響が見えにくいため、疑問に感じることも多いと思います。しかし、様々な専門職の助言を受けると、一人で悩むよりもスムーズに解決することがあります。お子さん自身も、園や学校以外の居場所を作れたり、特性に合わせて工夫された課題を通して、自信をつけたりすることができます。保護者の方が一人で子育ての悩みを抱え込むことのないよう、療育に興味を持ってもらえたら幸いです。
<参考文献>
厚生労働省, 児童発達支援ガイドライン(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000117218.html)2021-06-29最終閲覧
全国社会福祉協議会(2018)障害福祉サービスの利用について(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000096052.html)2021-06-29最終閲覧
厚生労働省, 障害児支援の体系~平成24年児童福祉法改正による障害児施設・事業の一元化~(https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12200000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu/0000117930.pdf)2021-06-29最終閲覧
厚生労働省, 児童発達支援の現状について(https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12201000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu-Kikakuka/0000144238.pdf)2021-06-29最終閲覧