なかなか寝てくれない、興奮しやすい、癇癪がひどい、こだわりが強いなど、「うちの子は、育てにくい」と感じたことはありますか?
小さいうちは個性だと思っていても、幼稚園や保育園、学校などで集団生活をする中で、指示を聞けない、うろうろしてしまう、友だちと頻繁にトラブルを起こす、集中できないなどの言動を先生から指摘されることもあります。
両親には自分の育て方に対してダメ出しをされ、ママ友だちに相談したら「うちの子はきちんとしている」と言われ、落ち込んだり、混乱したりすることもあります。
また、夫は「自分もそうだった」と気にしなかったりと、常に子どもを見ている母親だけが悩みを抱えてしまうことになりがちです。
気になることがあるときは、一人で悩まず、子どもの発達の専門家に相談したり、自分で知識や対応の仕方を学んでみることも参考になります。
ここでは、発達障害についての解説と診断を受けるメリット、相談機関などについて紹介します。
目次
- 発達障害とは
- 受診の準備
- おわりに
発達障害とは、生まれつき脳の機能に何らかの原因があり、発達の問題が見られる障害の総称です。治療では、脳の特性そのものを治すということは行われませんが、症状を抑えたり、症状とうまく付き合う方法を習得したりします。
発達障害の診断には、DSM-5「アメリカ精神医学会の統計診断マニュアル第5版」と、WHO(世界保健機構)が使用しているICD-11(国際疾病分類)の2つが診断基準(方法)として利用されています。
DSM-5は2013年に改訂(DSM-Ⅳより)、ICD-11は2019年に改訂(ICD-10より)され、一般的によく知られている「アスペルガー症候群」は、自閉症、特定不能の発達障害とともに「自閉スペクトラム症(ASD)」に統一されました。
まだ、改訂されて間もないこともあり、現在は、両方の診断名が混在している状況で、一般の方には、とてもわかりにくい状況になっていますが、今後は、少しずつ、「自閉スペクトラム症」という名称に統一されていくでしょう。
ところで、「スペクトラム」とは、「連続体」の意味です。
診断する立場から見ると、「自閉症」と「アスペルガー症候群」を明確に分けることが難しく、境界線を引けないことから、診断基準の改訂がなされたようです。
最新の診断基準、DSM-5では、「神経発達障害」という名称が使われていますが、日本では、「発達障害」がまだ一般的ですので、こちらのコラムでは、そのまま「発達障害」を使用します。
発達障害には、以下の障害が含まれます。
聞きなれない言葉が並び、イメージが湧きにくいかもしれませんので、以下に主な障害について、特徴を挙げていきます。
臨床心理士とは・・・
悩みを抱える人との対話をベースに、精神分析や心理療法を使って問題の解決をサポートする「こころの専門家」です。
臨床心理士の資格は厳しい学習条件が求められ、心理業界では長年にわたり根強い信頼性を持っています。
うららか相談室には、多くの臨床心理士が在籍しています。
メッセージ・ビデオ・電話・対面、あなたが一番話しやすい方法で、悩みを相談してみませんか。
1.自閉スペクトラム症
自閉スペクトラム症には、前述のDSM-5によると、以下の二つの特性が含まれます。
典型的には、1歳ごろから症状のサインが出始めます。
人と目を合わせない、指差しをしない、他の子どもに関心がない、などが特徴です。
集団生活が始まると、一人遊びが多く集団行動が苦手など、人との関わりが独特なことに気づきやすくなります。
また、会話のキャッチボールが苦手で、一方的に話したいことを話し続け、好きなことや興味のあることは、何時間でも熱中する傾向があります。
さらに、子どもにとって初めてのことや、予定変更などが苦手で、パニックになってしまうこともあります。
熱中しやすさ、一方的なおしゃべり、予定変更で癇癪を起こすといったことは、発達障害でなくても幼少期には珍しくありませんが、上記のような特徴が著しく見られる場合は、自閉スペクトラム症の疑いがあるかもしれません。
自閉スペクトラム症があると、毎日関わる親は、コミュニケーションの取りにくさや関わりにくさから疲弊してしまいます。
診断後、子育てでできる対応としては以下のようなことが挙げられます。
2.注意欠如・多動症(ADHD)
DSM-5によると、以下の条件がすべて満たされると「注意欠如・多動症」と診断されます。
「注意欠如・多動症」は、学童期で3~7%存在し、男子が女子より数倍多いといわれています。
特に、集団生活をする学校では、話を聞いていないように見える、忘れ物やなくしものが多い、気が散りやすい、そわそわしている、うろうろする、順番が待てない、他人を妨害するなどの言動から、先生から怒られることも多いでしょう。
また、家庭でも、宿題をやり遂げられない、すぐに投げ出す、じっとしていられないといったことで、母親をイライラさせるかもしれません。また、睡眠障害(寝つきが悪い、夜泣きがひどい、ぐっすり眠れない、眠りすぎるなど)も起こる可能性が高いようです。
発達障害を抱える子ども自身では、症状をコントロールできないので、親にイライラされたところで、子どもにストレスが溜まってしまうだけです。
診断後、子育てでできる対応としては、以下のようなことが挙げられます。
なお、注意欠如・多動症は、内服で多動性、衝動性がコントロールしやすくなるので、問題が見られる場合は、早めに専門医療機関に受診されるとよいと思います。
3.限局性学習症(SLD)・学習障害(LD)
学習障害(LD)と呼ばれてきた限局性学習症(SLD)には、知的な発達の遅れはなく、「読む」「書く」「計算する」などの特定のことができないという特徴があります。
具体的には以下のようなことが挙げられます。
限局性学習症があると、子どもは周囲から、勉強への意欲がない、頑張りが足りない、と思われがちで、だんだんと自信を失ってしまいます。
ですので、家庭や学校で、障害に合わせた適切な支援が必要です。
診断後、家庭でできることとしては、一緒に勉強を見てあげて、子どもに「できた」という自信を持たせることが大事です。
学校でも、なるべく個別や少人数で学習をみてもらえるといいでしょう。
抱えている問題はさまざまなので、どんな部分が困難なのか、専門機関と連携して、必要な支援をしていくことが大切です。
これまでに、主な障害について述べてきましたが、適切な支援を早めに受けることで、親や本人のストレスも周囲の人たちの戸惑いも軽減することができます。
診断を受けるメリットは,子どもにとっても家族にとっても大きいです。例えば、以下のことが挙げられます。
①子どもの行動が理解できて、適切な対応をとることができる
まず、診断を受けることで、原因が分からずもやもやしていた問題が理解でき、子どもに対してのイライラが軽減されます。
また、学校や友だちに対しても、子どもの特性について話をし、理解を深めてもらうことができます。
低学年ぐらいの子に、障害の理解は難しいかもしれませんが、トラブルがあったら、その都度、「○○は、音や匂いが気になるんだ。癇癪を起こしてびっくりしたよね。」と伝えれば、子どもなりに何かのハンディがあって、過剰な反応をしているんだな、と感じることができると思います。
②園や学校で必要な支援や配慮をお願いしやすい
幼稚園、保育園、学校は集団生活ですので、前もって、配慮してほしいことをお願いしておくと、保護者と先生がお互いに協力することができます。
一部、発達障害を抱える子どもが特別支援学級を利用する場合があります。
特別支援学級の利用に抵抗がある保護者の方がいるかもしれませんが、お子さんにとっては、大勢のクラスでストレスを抱えながら怒られて過ごすよりも、少人数でゆっくり自分のペースに合わせて教えてもらえた方が落ち着いて過ごせることもあります。
反対にデメリットは、「あの子は発達障害だから」と心無いことを言う人がいたり、子どもが発達障害であることを誰かに知られるのが嫌だと感じたり、他の子とは違うと思い知らされて悲しい、という点でしょうか。
診断を受けて、発達障害だと分かれば、多かれ少なかれショックを受けるかもしれませんが、それまで苦労してきたことに対して、「育て方のせいではない」ということもはっきりします。
大人になるまで発達障害に気づかなかった場合、必要な療育が受けられていないため、進学や就職、結婚や子育てなど、人生の様々な場面で苦労し、本人が生きづらさを抱えることになります。そのとき、親はいつまでも子どもの世話を続けられません。
早めに適切な診断を受け、必要な対策をとっておき、自立に向けて前向きに進むことが大事です。
また、発達障害の特徴の中には、誰にでも見られるような特性も含まれます。これは、程度によって医師が判断するので、自己判断で発達障害と決めつけるようなことはしないでください。診断は、はっきりつかないケースもあります。この場合は、「診断基準には満たないが、自閉スペクトラム症の傾向が見られる」といったように医師に告げられます。このようなケースは、発達障害のグレーゾーンと呼ばれます。
グレーゾーンであっても、本人が生きにくさや問題を抱えたときに、環境をきちんと整えて、発達障害の傾向によるストレスが引き起こす二次障害を予防し、フォローすることが必要です。
お子さまの発達が心配・不安なとき、まずは気軽に相談してみてください。
このようなことでお悩みではありませんか?
うららか相談室では、メッセージ・ビデオ・電話で自宅にいながら、臨床心理士などの専門家に悩みを相談することができます。
発達障害の診断は、乳幼児期の健康診査で指摘される場合もありますし、普段の生活で癇癪がひどい、園でのトラブルが多いなど、何か変だなと思ったときに、まずは園の先生に状況を聞いてみたり、地域の保健センターに相談してみるといいでしょう。
変わった言動に気が付いたときや、周囲との違いが気になったときに、早めに子どもの発達に詳しい専門機関に相談し、診断を受けた方がいいのか、少し様子を見たほうがいいのか、ということについて意見を聞けると安心です。
落ち着きがない、集中力がない、忘れ物が多いなどは、学校に入学してから明らかになるケースも多いので、担任や養護教諭、スクールカウンセラーに相談し、学校での様子を聞くことも参考になります。
子どもに発達障害の診断を受けさせるかどうか悩んでいる方が利用できる相談窓口を以下に紹介します。
①発達障害者支援センター
他機関と連携しながら発達障害者の支援に関わる専門施設です。子どもから大人まで相談可能です。
②児童相談所
0歳~17歳までの児童を対象とした発達障害などの相談にのっています。
医師、児童福祉司、児童心理士のアドバイスが受けられます。必要に応じて、発達検査を行うところもあります。
③子育て支援センター
主に入園前の乳幼児の利用が多く、子育て中の母親と子どもが交流できる場所です。子どもを遊ばせながら、保育士に子育ての悩みを相談できます。
④保健センター
乳幼児健診、小児予防接種、健康相談、成人病検診、がん検診、訪問指導、機能訓練教室など、地域住民の身近な支援に関わる機関です。
発達や言葉の遅れなど、子どもの成長過程で気になることがあれば、相談してみましょう。必要があれば、専門機関につないでくれます。
⑤市町村の児童福祉課や児童家庭支援センター
児童家庭支援センターは、児童相談所等の関係機関と連携しつつ、地域に密着した、よりきめ細かな相談支援を行う児童福祉施設です。
発達障害かよくわからないけれど、育てにくさを感じる、どこに相談していいのか分からない、などと困っているときに利用してみましょう。必要に応じて専門機関との連携を調整してもらえます。
発達障害の診断は、発達障害者支援センターや保健センター、児童相談所などに相談し、地域の医療機関を紹介してもらうのが良いと思います。
診断を受けた後、内服のコントロールや療育などのフォローも必要ですし、発達障害の診断のための受診で何か月も待つというケースもあったり、心の問題や障害の診断が確定するまで初診から2~3か月かかることもあります。
悩みや問題によっては、なるべく早く診断を受けて、今すぐアドバイスが欲しい、という保護者の方もいらっしゃると思います。
しかし、正確な診断には、子どもと信頼関係を作り、子どもの話をよく聞いたり、家庭や学校などでの生活の様子を聞き、知的能力や行動面の検査も行うなど、丁寧なかかわりが求められます。
時間も労力もかかり、予約まで待つ期間もあると思うと、受診をとまどってしまいやすいですが、診察を待つ期間は、地域の専門機関と連携をとりながら、お子さんの悩みについてアドバイスをもらうとよいでしょう。
前述した発達障害の診断ができる専門機関は少ないため、予約をしてから数か月待ち、ということもありますが、かかりつけ医の紹介状をもらうとスムーズにいく場合もあります。
また、家庭や学校、園での様子、運動機能や集団生活の様子、友だちとのかかわり、家族や本人が困っていること、気になることなどをあらかじめメモしておきましょう。
生育歴も診断の参考にしますので、家族の病歴や、乳幼児の頃に育てにくいと感じたことや気になることがあったか、などについても記録しておいて下さい。
お子さんは、慣れない場所で緊張するでしょうし、待ち時間も長いかもしれません。
受診の日は、他の予定は入れず、できれば一緒に話を聞いてくれる家族の同伴、お子さんがリラックスできるグッズや、待たされても飽きないための絵本、漫画などの用意もしておきましょう。
お子さんは初めての医師に対して、緊張すると思います。
事前に「学校や幼稚園で生活しやすいように、病院で相談するんだよ。長い時間かかるかもしれないけれど、お母さんもお父さんも一緒だから、がんばろうね」など、安心する声かけをしてあげて下さい。
一度で診断名はつかないことも多いですが、その都度、困っていることに対してアドバイスをもらい、園や学校の先生にも伝えておくと連携が取りやすくなります。
園や学校でも、先生がお子さんの対応に戸惑っていることがありますので、そういったところにも診断過程の医師からのアドバイスを伝えることで、お子さんについて適切な配慮ができる環境を少しずつ整えていくことができます。
発達障害の概念も診断も複雑でわかりにくいですが、少しでも理解が深まればと思います。
他の子と違うなんて、障害があるなんて嫌だ、と最初は混乱するかもしれませんが、「集団の中で他の子と比べたときに、何か気になることがある」「普段の生活で育てにくさを感じ、子どもを可愛いと思えなくなった」などの悩みがあるのであれば、診断はともかく、身近な保健センターの保健師や子育て支援センターの保育士、園の先生、学童期ならスクールカウンセラーなどに、まずは気軽に相談してみて下さい。
診断を受けるメリットとしては、専門機関と連携を取り、普段の生活を過ごしやすくすることができるということや、診断がつくことで、その後の進路を考えることができたり、利用できるようになる制度もあるということが挙げられます。
お子さんを「育てにくい」と感じることで、育児は辛い、限界と思ってしまうなら、迷わず相談して下さい。
<参考文献>
子どもの発達障害とは? その特徴について | メディカルノート, https://medicalnote.jp/diseases/%E7%99%BA%E9%81%94%E9%9A%9C%E5%AE%B3(2022-01-26参照)
富山県(2012)ひとりじゃないよ <学齢期> 発達障害支援ハンドブック
宇都宮市(2015)発達障害を正しく理解しよう 乳幼児期編(パンフレット)
内山登紀夫, アスペルガー症候群という診断はもう使わないのですか? - 大正大学臨床心理学科内山研究室, https://www.uchiyamaken.com/%E8%A7%A3%E8%AA%AC/(2022-01-26参照)
アスペルガー障害がなくなったの?|疾患について|名古屋市瑞穂区の心療内科・精神科あらたまこころのクリニック, https://www.mentalclinic.com/disease/p7458/(2022-01-26参照)
発達障害|病名から知る|こころの病気を知る|メンタルヘルス|厚生労働省, https://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_develop.html(2022-01-26参照)
稲垣真澄 加賀佳美(2020)発達障害 | e-ヘルスネット(厚生労働省), https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/heart/yk-049.html(2022-01-26参照)
榊原洋一 岩波明(2020)子どもの発達障害 「注意欠如・多動症(ADHD)」とは?症状など徹底解説 | NHK健康チャンネル, https://www.nhk.or.jp/kenko/atc_347.html(2022-01-26参照)
榊原洋一 岩波明(2021)子どもの発達障害「限局性学習症(SLD)・学習障害(LD)」とは | NHK健康チャンネル, https://www.nhk.or.jp/kenko/atc_354.html(2022-01-26参照)
厚生労働省(2007)児童相談所運営指針 第1章 児童相談所の概要|厚生労働省, https://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/dv11/01-01.html(2022-01-26参照)
厚生労働省(2005)市町村児童家庭相談援助指針について:第5章 関係機関との連携|厚生労働省, https://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/dv-soudanjo-sisin-honbun5.html(2022-01-26参照)
本間博彰(2019)発達障害の診断が確定するまで——診療の流れについて | メディカルノート, https://medicalnote.jp/contents/190514-003-UU(2022-01-26参照)