リストカットなどの自傷行為がやめられない、もしくは身近な人で自傷行為を繰り返してしまう方はいらっしゃいますか。このコラムでは、よくないとわかっていても自傷行為がやめられない理由と対策、身近な人の自傷行為に対する関わり方について解説します。
目次
- 自傷行為の現状
- 自傷行為とは
- おわりに
2010年に行われた調査(※1)では、アンケート回答者の7.1%が1回以上の自傷行為の経験をしており、年代では16–29歳が最も多いという結果になっています。また、1回以上自傷行為の経験がある人のうち、約半数が繰り返し自傷行為を行なっているという結果も出ており、自傷行為を繰り返す傾向にあることがわかります。
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自傷行為は、代表的なものとして手首を傷つけるリストカットやアームカットの他に、髪の毛を抜く、ライターやたばこで故意に火傷をする、けがをするまで身体や壁などを殴る、過剰に薬を飲むなどがあります。
自傷行為をする人は精神疾患を患っているイメージがあるかもしれませんが、必ずしもそうとは言えません。普通に生活している人でも、自傷行為に悩まされている場合があります。
自傷行為は自分の身体を傷つける行為です。しかし、死にたいと思うから傷つけるわけではありません。
実は、自傷行為はヒト以外の動物にとっても、ポピュラーな問題です。
血が出るまで皮膚を舐め続けるネコ、羽根を引き抜いてしまうトリ、自分の尻尾にかみつくヘビなど、あらゆる動物が自傷行為をします。
ではなぜ、ヒトやそのほかの動物達は自分を傷つけてしまうのでしょうか。
動物達の自傷行為は、「過剰なグルーミング」という形であらわれます。ネコが血が出るまで皮膚を舐め続けるのは毛皮のグルーミングの延長である、というのはイメージがしやすいと思います。
グルーミングは本来、多くの生物にとって、食べる・眠る・呼吸するのと同じくらい、生きていくうえで根本的な活動です。
私たち人間も、例えば熱いシャワーを浴びたり、マッサージを受けたり、化粧をしたり、ひげを剃ったりしてグルーミングをしています。
こうしたグルーミングからはとても強い自己安堵感が得られ、気分が良くなったり、気持ちが良くなったりします。
ではグルーミングが「過剰」になるとどうなるかというと、グルーミングの本来の効果に加えて、痛みを感じることによって体内にエンドルフィンとカテコールアミンという脳内物質が分泌されるのです。
エンドルフィンはランナーズハイの際にも分泌される、多幸感を感じる物質です。カテコールアミンは血糖値の急上昇・瞳孔の拡大・心拍数の増加などを引き起こし、身体を活動的にさせる効果があります。
アカゲザルは自分の身体を噛む自傷行為をする動物ですが、そのアカゲザルを用いた実験の結果、サルが自分の身体を噛もうとしたとき心拍数がぐんとあがり、そして噛んだ瞬間急降下することがわかっています。
スリルや恐怖で心拍数が早くなった後、急降下するとき、こころには安らぎが生まれるのです。更に、脳内物質の分泌によって、多幸感を感じるために、自傷行為をした後は気持ちが晴れやかになり、スッキリする効果があるのです。
自傷行為をする人は、「衝動的に行ってしまう」「煙草を吸う、お酒を飲む、それと同じノリで切ってしまう」という方が多くいらっしゃいます。
それは、心拍数の急な上昇と降下によって安らぎを感じ、脳内物質によって多幸感を得るためです。煙草を吸う人が、ニコチンによる脳内の作用が減少したためにまた吸いたくなるのと同じように、自傷行為は習慣化してしまいやすいのです。
自傷行為に及んでしまうトリガーとなるのは「孤独」「ストレス」「退屈」の3つと言われています。
強いストレスにさらされているとき、孤独や退屈によってこころのエネルギーが不足しているときに衝動的に、またはなんとなしに自傷行為に及んでしまう方が多くいらっしゃいます。
孤独への対処は、理解してくれる人の存在が必要不可欠です。それは家族でもいいですし、カウンセラーや医師でも良いでしょう。自傷行為に及んでしまったことを「教えてくれてありがとう」と歩み寄り、どういうときに行為に及んでしまうのか「一緒に考えよう」としてくれる人の存在が孤独を癒します。
「ストレス」に対しては、ストレスのない環境に移ることが重要ですが、それがなかなか難しい場合も多いと思います。ストレスの多い環境にいる人については、愚痴を言えたり、相談ができる場があるといいでしょう。
「退屈」へのアプローチは、周りの人には対処することが難しいかもしれません。意識的に本を読んだり、映画を見たり、日記を書くなどして時間を使い、「何もしていない時間」を作らないようにするのが効果的でしょう。
一時的な対処法としては、自傷行為の代わりになることを探すのもおすすめです。
自傷行為では、脳内物質であるエンドルフィンやカテコールアミンが分泌されることで多幸感や身体が活発化する効果がありますが、同じような効果が期待できるのがチョコレートです。
チョコレートにはフェニルエチルアミン、カフェイン、砂糖、脂肪が凝縮されており、砂糖はセロトニンの分泌、フェニルエチルアミンはエンドルフィンの分泌を促します。また、カフェインは身体を活発にする効果が期待できます。
セロトニンも「幸せな気持ち」を引き出す脳内物質ですから、自傷したくなったときにチョコレートを食べるようにすると、気持ちが穏やかになるかもしれません。
チョコレート以外では、エンドルフィンの分泌を促すサプリメントとして、「エゾウコギ」があります。
こういったものを日常に取り入れると、自傷したい気持ちが落ち着くかもしれません。
ただし、食品によるエンドルフィンの分泌は効果が持続しませんし、チョコレートを食べ過ぎてしまうと太ってしまい、それがストレスになってしまう場合もあるかと思いますので、あくまで一時的な対処方法として覚えておくと良いでしょう。
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では、自傷行為をしていることを打ち明けられた場合、どのようにすると良いでしょうか。
自傷行為には気持ちを穏やかに、また活発にする効果があるため、根本的な解決のためには単に「もうしないで」と言うだけでは足りませんし、「もうしない」という約束をしたとしても、常習化してしまっている人にとってその約束は重く、次にしてしまったときに隠してしまうようになるかもしれません。
まずは打ち明けてくれた勇気に感謝し、その人がなぜ自傷行為に及んでしまったのかを聞いたりして、自傷行為をしたことを否定しないことが大切です。
前述の対処法のように、一緒に自傷行為の代わりになることを探すのも良いでしょう。
対処法をご紹介してきましたが、ひとりで自傷の衝動に対処する、というのはなかなか難しいものです。やめたいのにやめられない、どうしたら良いのかわからない、周りに理解してくれる人がいないという場合は、お気軽にうららか相談室にご相談ください。
(参考文献)
※1 わが国における自傷行為の実態 2010年度全国調査データの解析 阿江 竜介, 中村 好一, 坪井 聡, 古城 隆雄, 吉田 穂波, 北村 邦夫 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jph/59/9/59_665/_pdf(参照:2020-06-17)
人間と動物の病気を一緒にみる : 医療を変える汎動物学の発想 合同出版