ふとした瞬間に「ひとりになりたい…」とつぶやいていることはありませんか?
「大好きな家族や友人、パートナーがそばにいるのに、一人になりたいって思うのは、おかしい?」
「子育て中で小さな子どもが目の前にいるのに、一人になりたいなんて思っちゃダメなのかな?」
と考える人もいるかもしれません。
「一人になりたい」と思うことは誰しもあることです。おかしなことでも異常なことでもありません。
子育て中に「一人になりたい」という考えが出てくるのも自然なことですから、そんなことを考えてはダメだとご自分を責める必要もありません。
このコラムでは、一人になりたいときはどのような心理状態になっているのか、その原因や病気の可能性について解説します。また、一人になりたいときの対処法やストレスケアについてもご紹介します。
目次
- おわりに
一人になりたいときの心理としては、心と身体の疲れが蓄積し、ストレスが溜まっていることが多いでしょう。また、一人になりたいときは、周りの人や環境に振り回されて、自分のペースで物事を進められないことがストレス要因となっている場合も多いのではないでしょうか。具体例としては、以下のような心理状態が挙げられます。
・人間関係で疲れている
学校や職場、プライベートでも、生活をする中で人との関わりを避けることは難しいものです。現代では、直接人と会う機会だけでなく、SNSやオンラインゲームなど、インターネット上で人と関わる機会も増えています。
特に家族は、同じ家の中で長時間生活しているため、自分と親、きょうだい、子どもの境界があいまいになりやすく、自分だけの時間や空間を確保することが難しい場合があります。普段、仲の良い家族であっても、自分と家族の境界があいまいなまま過ごしていると、知らず知らずのうちに関係性に疲れてしまい、家族の存在をわずらわしく感じてしまう場合もあります。
「家族に疲れた」、「パートナーと距離を置きたい」、「職場の上司が苦手」など、人間関係での悩みがうまれると、疲れてしまい「一人になりたい」と感じることが多くなるでしょう。
・家事で疲れている
主婦や主夫の方は、家事で疲れ「一人になりたい」と感じることがあるでしょう。一口に家事と言っても、料理、洗濯、掃除といったことだけでなく、家計や家全体の管理、日々の“名もなき家事”と呼ばれるようなちょっとした作業、家族のサポートまで含めると非常に幅広く、「終わりが見えない…」とさえ感じることもあるのではないでしょうか。そんなときに「家事をしなくていい環境にいたい。家族のことを気にせず、一人になりたい。」と思うのは自然な心の反応です。
・育児で疲れている
「かわいい我が子に愛情をもって関わりたい」と考える人は多いでしょう。しかし、子育て中は、慢性的な寝不足、赤ちゃん時代は子どもから目を離せない緊張感、自分のペースで物事を進められないストレスなど、心身のエネルギーを使い続けています。可愛い、愛おしいという気持ちがある一方で、「一人になりたい」、「子どもに合わせたペースでなく、自分のペースで生活したい」という気持ちも同時に出てくるのは、自然なことです。
・仕事で疲れている
仕事で疲れているときに「一人になりたい」と感じる人は多いでしょう。業務量や業務内容によって、心身の負担が大きい場合には、「仕事のことを忘れて、一人になりたい」と感じる場合があるでしょう。
また、先ほど挙げたように職場の人間関係において、部下を指導したり、上司に気を遣ったりする中で「周りの人たちのことを何も気にしなくていい環境で、一人になりたい」と思うこともあるのではないでしょうか。
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前章で解説した心理状態となる原因として、以下のようなことが考えられます。
・ストレスによる心身の疲労の蓄積
ストレスによって、心身の疲労が蓄積し「もう何もしたくない…一人になりたい」といった気持ちが引き起こされます。「一人になりたい」と感じるのは、心と身体が「ストレス過多だよ!キャパオーバーしてるよ!」とSOSを出しているサインだと言えるでしょう。
・思春期
前章で家族との人間関係に疲れ、家族をわずらわしく思う場合があると解説しました。これは、親側だけでなく、子ども側からも親をそのように思うことがあるでしょう。
特に、思春期の中学生や高校生が親・きょうだいと離れて「一人になりたい」と思うことはよくあります。思春期はアイデンティティを確立し自立に向けて動き始める時期ですので、自分自身と向き合うためにプライバシーの守られた一人になる時間や空間を必要とします。そのため「一人になりたい」という気持ちが出てきやすくなります。
・親和回避欲求
「他者と親しい関係を築きたい」、「誰かと一緒にいたい」という欲求を「親和欲求」と言います。それを回避したい、つまり「誰とも関わりたくない」、「一人にしてほしい」という欲求を「親和回避欲求」と言います。この親和回避欲求は心身の疲れやストレスが溜まっているときや、精神的にショックな出来事が起こったときなどに起こりやすく、「一人になりたい」気持ちにつながります。
・HSP
アメリカの心理学者エレイン・アーロン博士が提唱したHSP(Highly Sensitive Person)とは、医学的な診断名ではなく、日本語では「とても敏感な人」と訳される心理学的な概念です(*1)。文字通り、環境や人間関係において、周りの人が気づかない小さな変化・刺激を敏感に感じとる性質があります。これは気にしすぎる性格ではなく、生まれ持った繊細な気質だと言われています。
HSPの人は、周囲の環境の変化や刺激を五感(視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚)で敏感にキャッチします。人間関係においても同様に、他者の感情や変化を敏感にキャッチしています。たとえば、近くにいる人がイライラしていると、その変化を敏感にキャッチして、「何かあったのかな?私が何かイライラさせるようなことをしてしまったんじゃないか?」といった考えに結びついてしまうことがあります。
このように、HSPの人は様々な変化や刺激にさらされると、それらを敏感に感じとりやすく、疲れてしまうため、「一人になりたい」と思うことが多くあるでしょう。むしろ、HSPの人にとっては、一人になる時間が心を安定させるために必要不可欠だと言えるかもしれません。
「一人になりたい」と思うときに、以下のような状態が見られる場合には、精神的な病気のサインかもしれません(参考:*2)。このような状態が長く続く場合(目安は2週間以上)には、精神科医、臨床心理士、公認心理師などの専門家に相談することをお勧めします。
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・元気がなく気持ちが落ち込んでいる。
・寝つけない、途中で目が覚める、予定していた時間より早く目が覚めてしまう、寝過ぎてしまうなど、睡眠状態がよくない。
・食欲がなくなる、反対に通常と比べて大量に食べるなど、食事面の変化がある。
・物事への興味、関心がなくなる。
・物事を楽しめなくなる。
・イライラして怒りっぽくなる。
・極端にハイテンションになる。
・人と話したり、他者の前で行動したりすることに、強い不安や恐怖を感じる。
・人と関わる場面への強い不安や恐怖から、そのような場を避け、学校や職場などに通えなくなる。
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ここまで解説したとおり、一人になりたいときは心身の疲労やストレスが溜まっていることが多いものです。一人になる時間を作り、自分自身のケアをしてあげることが大切です。
そこで、まずは、一人になる時間を作るための方法を状況別にご紹介します。
【家庭の中で一人時間を作る方法】
①自宅で一人で過ごせる場所と時間を確保する。
家族がリビングにいて一人になれない場合には、寝室など、家族のいない一人で過ごせる場所を見つけます。そして、家族に「この時間(何時~何時まで/30分、1時間など一定時間)は一人で過ごしたい」ということを伝えて、一人で別室で過ごしましょう。別室がないなら、キッチンやトイレ、洗面所など、家族と離れられる場所で一息つくだけでも、リフレッシュになります。
車を運転できる人なら、自宅の中でなくとも、車の中で過ごすことも一人時間となります。ドライブをしたり、車を停めて一息ついたり…車の中も一人になれる空間の一つとして活用できます。
一人で過ごせる部屋も車もないということでしたら、家族が寝ている朝早い時間や夜遅い時間などに、リビングで一人で過ごす時間を確保するという方法もあります。
②家事代行などのサービスを利用する。
家事に疲れている場合、家事を代行してくれるサービスを使うことも一人時間を作る方法です。料理や掃除などの家事代行、お弁当やミールキットなどの宅配サービス、庭木の手入れなど、家事をプロにお任せするサービスを利用することで、その間一人で過ごす時間を作ることができます。
③家族でもお互いのプライバシーを尊重する。
家族がお互いのプライバシーを尊重することは、心地よい家庭を築いていく上で大切なことです。
特に、中学生・高校生の親が子どものプライバシーを尊重することは、子どもの一人時間を守るために大切です。前章で解説したように、思春期の子どもが大人へと成長していく過程において、アイデンティティを確立し自立に向けて動きだすためには、一人になる時間は大切です。プライバシーの守られた空間で、自分自身を大事にする方法を身につけていくことは、ストレスに対処する力をつけることにもつながります。そのためには、子どもが自分の部屋で過ごしているときに好きなことをできるように、大人は干渉しすぎず、部屋を覗くことはせず、プライバシーを尊重することが必要です。
大人が子どものプライバシーを尊重することで、子どもも家族や他者のプライバシーを尊重できる人に育っていきます。お互いに気を遣いすぎず、適度に配慮し合える関係を築いていくことができるでしょう。
【子育て中に一人時間を作る方法】
「小さい子どもを育てている中で、一人になる時間を作るなんてできない」、「子どもから離れて一人になる時間を作ってはいけない」と思う人もいるかもしれません。
しかし、「一人になりたい」と思うほど疲れてしまい、ストレスを溜めている場合、親が一人になる時間を作ったほうが親にとっても子どもにとっても良い影響があります。親が一人時間を作ってリフレッシュすることができると、心の余裕ができ、子どもに笑顔で接することができるようになり、結果的に好循環が生まれていきます。
①他者にお世話を任せる。
子どものお世話を以下のような他者に任せることで、一人時間を作ることができます。
・配偶者、両親、親戚などに子どものお世話をお願いする。
・ベビーシッターや一時預かり保育、ファミリーサポートなどのサービスを利用する。
・商業施設内の託児ができる遊び場、託児施設などで、子どもを預ける。
②子どもが寝た後の時間を一人時間として利用する。
子どもを寝かしつけた後、寝室から離れて一人時間を過ごすこともお勧めです。赤ちゃんや子どもがまだ幼く、寝ている間も目が離せない場合には、ベビーモニターなどを使用して離れた部屋から子どもの様子を確認できるようにしておくと安心です。
【パートナーや恋人、友人と距離を置いて一人時間を作る方法】
①一人の時間がほしい理由と時間を伝える。
一人になりたいからと言って、いきなり連絡を断って距離を置く方法はお勧めできません。パートナーや友人と離れる時間がほしいだけで、関係を断ち切りたいわけではありませんよね。そういった場合には、「一人でゆっくり過ごしたい時があるんだよね」、「自分の趣味に充てる時間がほしい」といった理由を伝えてみましょう。
この時、具体的に、いつのタイミングで、どのくらいの時間一人になりたいのか、ということも伝えておくと、相手の人も安心できるでしょう。
②一人になる時間を決めておき、スケジュールに入れておく。
一人になる時間を決め、相手の人に伝えたら、カレンダーや手帳、スケジュールアプリなどに一人時間を記入しておきましょう。そうすることで、相手の人に誘われてしまった場合も「この日は一人時間を作るんだった」と思い出すことができます。相手の人とスケジュールアプリなどでお互いの予定を共有しているのであれば、相手の人にも「この日の、この時間は、私の一人時間」と伝わるように予定を入力して共有しておくことをお勧めします。
一人で過ごす時間ができたら、以下のような対処法でストレスケアを行いましょう。
・疲れている人間関係から距離をとる
先ほど解説したように、一人になりたいときは、周囲の人との関係に疲れている場合が多くあります。
疲れている人間関係から距離をとることは、ストレスケアにつながります。
距離をとるといっても、縁を切る必要はありません。一時的に離れてみるだけでも十分な効果があります。たとえば、お仕事での人間関係に疲れているとしたら、業務上の関わりをなくすことは難しいでしょうが、休憩時間であれば離れやすいでしょう。ランチを職場の人と一緒ではなく、一人でとるようにするのも一つの方法です。
・心と身体を休める
ストレスにより疲れた心と身体を休めることも大切です。
心と身体を休めるためには、まず、一人になってリラックスできることをする過ごし方がお勧めです。たっぷりと睡眠をとるのもよいでしょうし、マッサージやエステなどに行って、プロに身体のメンテナンスをしてもらうのもよいでしょう。
リラックスして心と身体を休めることができたら、心と身体のエネルギーを回復していく行動をとることをお勧めします。心のエネルギーを回復させるには、自分の好きなことをして気分転換をするとよいでしょう。好きな飲み物をゆっくり飲む、TVや動画・映画を観る、読書をする、音楽を聴く、散歩をする、ショッピングに出かけるなど、自分の好きなことを自分のペースでできる時間を作りましょう。
身体のエネルギーを回復するには、運動することがお勧めです。ウォーキング、ジョギング、ストレッチ、ヨガ、筋トレ、水泳、球技など、軽い運動でも少しハードな運動でも、身体を動かして心地良いと感じられるものであれば何でもOKです。運動することは身体のエネルギーの回復にも、心のリフレッシュにもつながります。
・カウンセリング
ここまで解説してきたように、一人になりたいときは、悩みやストレスを抱えていることが多いものです。カウンセリングで話を聞いてもらうだけでもストレスが軽減される場合があります。また、「一人になりたい」と感じている要因が、今抱えている悩み事なのであれば、カウンセリングで話して悩みが解決することでストレスが解消され楽になれるかもしれません。
人間関係に疲れて「一人になりたい」と感じているのであれば、他者との関わり方や距離のとり方について、具体的な方法を一緒に考えることもできます。
「一人になりたい。でも(普段関わりのない第三者の立場である)誰かに自分の話を聞いてほしい。」そんなときにはぜひカウンセリングをご活用ください。
一人になりたいときの心理やその原因、対処法について解説してきましたが、いかがでしたか?
「一人になりたい」と感じ、このコラムを読んでくださっている方にとって、少しでも参考になりましたら幸いです。
「一人になりたい」という気持ちが出てくるのは、心や身体がSOSを発信しているのだと捉えることもできます。そのSOSに耳を傾けて、自分のことを大事にしてあげましょう。
具体的にどのようにして自分のことを大事にしてあげたらいいのかわからない場合には、カウンセラーが一緒に考えることができます。ぜひ、一度カウンセリングでご相談ください。
参考文献
*1:武田友紀 (2020) 「『気がつきすぎて疲れる』が驚くほどなくなる『繊細さん』の本」 (飛鳥新社)
*2:日本精神神経学会 日本語版用語監修、高橋三郎・大野裕監訳 (2014) 「DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル」 (医学書院)