最近では、社会問題化している「8050問題」(80代の親が50代のひきこもりの子どもを支える問題)をとりあげた小説やニュースが話題になり、ひきこもりへの関心が高まっています。厚生労働省では、「ひきこもり推進事業」を実施し、全国に「ひきこもり地域支援センター」を配置、ひきこもり支援にかかわる人材育成を行っています。
親はいつまでも子どもの面倒をみることができません。かといって、ひきこもっているお子さんを放っておくことができず、関わり方に悩んでいる方はたくさんおられると思います。
また、「社会的ひきこもり」と呼ばれる、特に疾患がない方の中には、「本当は社会参加したい」「早く働きたい」という意思のある方も少なくないでしょう。
ここでは、ひきこもりの実態と抜け出すためのヒントをいくつか紹介していきます。少しでも参考になれば幸いです。
目次
- ひきこもりとは
- ひきこもりの原因
- おわりに
ひきこもりとは、様々な要因の結果として社会的参加(義務教育を含む就学、非常勤職を含む就労、家庭外での交遊等)を回避し、原則的には6か月以上にわたって概ね家庭にとどまり続けている状態(他者と交わらない形での外出をしていてもよい)を指す現象概念です(齊藤万比古 2007)。
また、特定の病気や障害ではなく、ひきこもっている状態を「社会的ひきこもり」と呼びます。
WHOが主導する国際的なプロジェクト(世界精神保健調査)の一環として、平成14~18年度に行われた調査(川上 2007)から、ひきこもりの平均開始年齢は22.3歳、生涯にひきこもり経験がある人の割合は1.2%、そして、30~40歳台よりも20歳台に、女性よりも男性に多いことが分かりました(齊藤 2007)。
また、内閣府が平成30年度、満40歳から満64歳を対象に本人と同居者に対する調査(※1)を実施したところ、以下のことが分かりました。
「自室からは出るが家からは出ない、または自室からほとんど出ない」という人は0.22%
「普段は家にいるが、近所のコンビニなどには出かける」という人は0.65%
「普段は家にいるが自分の趣味に関する用事の時だけ外出する」という人(準ひきこもり群)は0.58%
このように、ひきこもりが長期化している場合には、抜け出すきっかけをつくるのが難しいと感じます。
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前述した内閣府の調査では、誰にでも起こりうる人間関係の問題や病気などの出来事がきっかけで、ひきこもりになってしまった人が多いことがうかがえます。
また、内閣府が平成27年、満15歳から満39歳を対象に実施した調査(※2)では、ひきこもりのきっかけとして「不登校」「職場になじめなかった」「就職活動がうまくいかなかった」という回答も多数ありました。
これらを踏まえて、ひきこもりに多く見られる原因について述べていきます。
思春期は自我を確立する期間ですが、周囲と自分を比較して、外見や身体能力、学業などに劣等感を抱きやすくなります。また、失敗は誰しもが経験することではありますが、劣等感が強いために自信を持てず、必要以上に「自分はだめなやつだ」などと思い込んでしまう傾向があります。その際に、周囲のサポートがうまくいかなかったり、挫折が続いたりすると、失敗をうまく乗り越えられず、傷つくのが怖くて人と関わるのを避けてしまうことがあります。
社会人の場合は、「仕事の人間関係が苦痛だった」「仕事でミスをしてばかりで自分に合っていない職業だった」などのように、毎日の仕事や職場の人間関係がうまくいかないことは多大なストレスになります。仕事のストレスで退職に追い込まれたり心身を病んでしまったりした結果、業務や人間関係に自信をなくして「社会に出るのが怖い」という心境に陥ってしまうことがあります。
前述した「社会的ひきこもり」には段階があり、時間の経過とともに次のような特徴がみられます。
1.混乱期
状況:部屋から出ない、会話をしない
本人:どうしたらいいかわからない、やり場のない気持ち
2.やや安定期
状況:ひきこもってはいるが、混乱は少ない
本人:気持ちは落ち着いているが、焦りと不安を抱えている
3.安定期
状況:少しずつ家族のコミュニケーションが増えてくる
本人:信頼できる人となら話がしたいと思う
4.ためらい期
状況:何かしたいと言うものの実行はしない
本人:何かしたいが、不安でいっぱい
5.試しの時期
状況:適度な対人交流や自分なりの社会参加が可能
本人:試行錯誤で行動を起こしつつ、様子をうかがう
一口にひきこもりと言っても、家族とさえ口をきかない、自室にこもっている、趣味の外出はできるなどと、様々な状態があることがわかります。
ひきこもる人の心理には次のようなものが考えられます。
人間関係や学業、身体能力、容姿などの劣等感を抱えており、自分に自信をなくしている状態です。
人間関係のトラブルや、気にしている容姿や身体能力についての悪口を言われたことなどにより、心が傷ついている状態です。
外に出るのは怖いものの、いつまでもこのままではいられないと焦っている状態です。
なんらかの人間関係のトラブルが原因で、人を信じることができない状態です。
「寂しい」「誰かに助けてもらいたい」けれど、人と関わって「非難されたくない」「傷つきたくない」といったように、相反する複雑な感情を抱いている状態です。
ひきこもりからの脱出方法について述べていきます。
1.今の心境を受け入れる
ひきこもっている状態から抜け出したいと思っているのにきっかけがなく、今のままではだめだと焦っていると、うまくいかない自分が嫌になってさらに抜け出しにくくなります。
焦りがあるのは「早く現状から抜け出したい」という気持ちがあるからですが、まずは自分の今の状況や心境を分析して受け止めましょう。
2.落ち着いたら、自分がどうなりたいかを見つめなおす
現状を受け入れて焦りがなくなったら、「働きたい」「学校に行きたい」などのように、自分が本当はどうしたいのか、何をやりたいのかということにも目を向けてみましょう。
日記をつけるなどして気持ちを整理するのも、心境の変化が分かり、客観的に自分を振り返るのに役立ちます。
3.スモールステップを実践する
目標までの道のりを細かく分けて少しずつ着実に達成していくことをスモールステップといいます。
自室にこもりきりな方は、いきなり働くことを試みるのではなく、まずはコンビニに昼食を買いに行ったり、本屋に行ったりすることなどから始めてみましょう。
一人で買い物に出られるようになれば、次は信頼できる友人と二人で会うなどといったように、少しずつ外出の機会を増やしていきましょう。
4.通学や就労を開始する際は、関係機関と連携する
休んでいた学校への通学を再開したい場合は、スクールカウンセラーや信頼できる先生に相談してみましょう。
就労支援は、地域のハローワークや若年者就業支援センター(ジョブカフェなど)の利用を考えてみましょう。心身の障害を抱えている場合は、就労移行支援を受けることができて、就労が定着するようにアドバイスをもらえたりします。
5.無理をしすぎない
社会復帰できても焦らず、就労は短時間から始めるなど、無理をしすぎないようにすることも大切です。急に生活を変えると、ストレスをうまく処理することができずに落ち込んでしまうことがありますので、自分の心の状態に気を配りましょう。
6.いつでも助けを求められるようにする
ひきこもりから抜け出すときは不安がつきものだと思います。家族やカウンセラー、信頼できる友だちなどのように、辛くなったら話を聞いてもらえる相手がいると心強いです。
悩みを一人で抱え込むのではなく、誰かに話すことで気持ちが救われることがあります。社会復帰する際は、信頼できる相談相手を作ることも大切です。
ひきこもりの原因には、心の病気や発達障害が隠れている場合もあります。
ひきこもりには、統合失調症などの精神疾患や発達障害により周囲との摩擦が生じてひきこもる場合と、そういった疾患や障害などの生物学的な要因が原因とは考えられない場合がある(西,安間 2021)といい、後者は前述した「社会的ひきこもり」と呼ばれるものです。
特に、ひきこもりが長期化していたり、自室から全く出ず、家族のコミュニケーションに困っていたりする場合は、以下の疾患や障害を疑うことも参考になります。
不安障害のうち、次のものはひきこもりに陥りやすいと考えられます。
社交不安障害
人前で恥をかくことを強く恐れて、社会的な場面を回避するようになります。
パニック障害
電車内などの逃げられない場所で動悸などを伴う突然のパニック発作が起こり、また発作が起こるのではないかという不安から外出を回避するようになることがあります。
うつ病は、1日中気分が落ち込んでいる、何をしても楽しくない、眠れない、食欲がない、疲れやすいといった症状があらわれる精神疾患です。外出する気力すらも湧かなくなることがあります。
適応障害は、ある出来事や環境がストレス要因となり、ストレスによって引き起こされる情緒面や行動面の症状によって、社会的機能が著しく制限されている状態をいいます。
例えば、いじめや人間関係のトラブルなどがきっかけになり、ひきこもりになることがあります。
統合失調症は、幻覚や妄想などによる強い不安や恐怖から外出ができなくなることがあります。症状としての独特な言動から人間関係に支障をきたしたり、家族が周囲の差別や偏見を恐れるあまり外出をさせなかったりするケースもあるようです。
発達障害は、脳の先天的な機能の違いにより社会生活上の困難を抱えやすくなる障害で、代表的なものにASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如・多動症)があります。
ASDは人間関係やコミュニケーションに問題を抱えやすく、思春期に対人トラブルを抱えてしまうことも少なくありません。また、ADHDは多動性や衝動性があり、集団生活や学業で多くの失敗を経験して自信をなくすことがあります。
お子さんがひきこもってしまったら、どうすればいいか分からずに混乱してしまう人も多いと思います。子どもが引きこもってしまった場合の対応について述べていきます。
本人には、ひきこもらなければならないほどショックな出来事や傷つくことがあったと思われます。また、子ども自身もどうすればいいかわからない状態であり、助けてほしいけれど人から非難されることを恐れているのかもしれません。これ以上は傷つきたくないという気持ちや焦る気持ちをありのまま丸ごと受け入れてあげましょう。
非難や励ましではなく、「どんなあなたでも味方でいるよ。本当はとても辛いんだよね」といったように、支援したい気持ちを伝えましょう。
都道府県や政令指定都市に「ひきこもり地域支援センター」が設置されています。また、同じく都道府県と政令指定都市の「精神保健福祉支援センター」でも、ひきこもりの相談や支援を行なっています。ひきこもりの家族会や当事者の会などの情報についても、こちらで聞いてみるとよいでしょう。
ひきこもりから早く脱してほしいと思うあまり、家族は社会復帰を急かしてしまうことがあります。しかし、ひきこもりは繰り返すことも珍しくはないので焦りは禁物です。まずは本人ができたことに着目して、長い目で見守りましょう。
不登校からの復帰は、市町村の教育支援センター、スクールカウンセラー、児童家庭支援センターや学校との連携を行うのがよいでしょう。
また、家庭内暴力やゲーム依存などの問題がある場合は、精神保健福祉センターや都道府県の児童相談所、市区町村の児童家庭支援センターなどに相談し、家庭内だけで抱え込まないようにしましょう。
精神保健福祉センターでは専門医療機関も紹介してくれます。暴力や依存症がある場合は、医療機関の力を借りることも重要です。
家族の辛い気持ちは経験者だからこそ理解できることもあります。機会があればひきこもり家族会に参加して、子どもがひきこもりから脱出した経験を聞いたり、穏やかに過ごす方法を模索してみたりするのも参考になるでしょう。
お子さんが比較的に落ち着いているときに、今後の希望などについて話してみましょう。映画を一緒にみたりゲームを一緒に楽しんだりして、親子の会話を増やせるようにするといいでしょう。
家族がひきこもりから脱出するためのキーパーソンになることが多いので、子どもの変化に気づくことができるように、たわいない会話をすることをまずは目標にしましょう。
ひきこもりの人にとっては、家庭や自室だけが安心できる居場所であることがほとんどです。SOSをうまく出せないお子さんもいますので、「いつでも困ったら言ってね」と伝えるなどして、子どもがSOSを出しやすい環境を作りましょう。本人が辛そうにしていたら、家族が「無理しないで大丈夫だよ」といったように声掛けをしてあげるといいでしょう。
食事のときさえも子どもが自室から出て来ないというケースがあります。その場合は、食事とともに「元気にしている?」といった手紙を添えてみるなどして、話せなくてもコミュニケーションが取れるように工夫してみましょう。たとえ返答がなくても、「何が食べたい?」などと問いかけて、本人の存在をないものにしないようにすることが大切です。
自室に長くこもっている場合は、心の病気を抱えている可能性も考えられますので、精神保健福祉センターに相談してみましょう。ひきこもり専門の医療機関に家族が代理受診をするなどの対応も望まれます。
ひきこもりの実態や脱出方法、周囲のかかわり方について述べてきました。引きこもりを克服するのは容易にはいきませんが、本人の意思を尊重し、できることから始めて長い目で見守ることが大切です。
周囲に迷惑をかけていないから問題ないという考え方もありますが、冒頭で述べた8050問題などのように、親の高齢化やひきこもりが長期化するケースも増えていますので、早期解決に向けて動き出す勇気も必要と感じます。
子どもの引きこもりを家族だけで解決するのはとても困難です。関係機関や専門家に相談して、無理せずにできることから始めてみましょう。
※1
内閣府, 平成31年3月, 生活状況に関する調査(平成30年度)
調査対象:全国の市区町村に居住する満40歳から満64歳の5,000人および同居する成人
調査時期:平成30年12月7日~12月24日
調査方法:調査員による訪問留置・訪問回収
調査実施機関:一般社団法人 中央調査社
※2
内閣府, 平成28年9月, 若者の生活に関する調査
調査対象:全国の市区町村に居住する満15歳から満39歳の5,000人と同居する成人家族
調査時期:平成27年12月11日~12月23日
調査方法:調査員による訪問留置・訪問回収
調査実施機関:一般社団法人 中央調査社
<参考文献>
濱崎 由紀子, タジャン 二コラ(2018)ひきこもり研究から見える現代日本社会の病理, 現代社会研究 20, 37-49,
齊藤 万比古(2009)思春期の引きこもりをもたらす精神疾患の実態把握と精神医学的治療・援助システムの構築に関する研究, 厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 こころの健康科学研究
川上 憲人(2007)平成 16~18 年度厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業)こころの健康についての疫学調査に関する研究 総合研究報告書 こころの健康についての疫学調査に関する研究, こころの健康科学研究事業 12, 16
ひきこもり支援推進事業 |厚生労働省, https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/hikikomori/index.html(2021-08-20 最終閲覧)
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厚生労働省委託事業「ひきこもり状態にある方の社会参加に係る事例の調査・研究事業」報告書 ひきこもり状態にある方やその家族に対する支援のヒント集, https://www.mhlw.go.jp/content/12000000/000774122.pdf(2021-08-20 最終閲覧)
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京都府, 〈社会的ひきこもり〉社会的ひきこもりQ&A(心の健康について)[京都府精神保健福祉総合センター], http://www.pref.kyoto.jp/health/health/health07_f.html(2021-08-20 最終閲覧)
斎藤 環(2015)ひきこもりを脱出したい人へ | メディカルノート, https://medicalnote.jp/contents/150722-000009-OMBPNJ(2021-08-20 最終閲覧)
特集2 長期化するひきこもりの実態|令和元年版子供・若者白書(概要版) - 内閣府, https://www8.cao.go.jp/youth/whitepaper/r01gaiyou/s0_2.html(2021-08-20 最終閲覧)
うつ病|こころの病気を知る|メンタルヘルス|厚生労働省, https://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_depressive.html(2021-08-20 最終閲覧)
内閣府, 生活状況に関する調査 (平成30年度), https://www8.cao.go.jp/youth/kenkyu/life/h30/pdf/s1.pdf(2021-08-20 最終閲覧)
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ひきこもり | e-ヘルスネット(厚生労働省), https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/heart/yk-053.html(2021-08-20 最終閲覧)