自分が働きすぎていると感じたことはありますか?働き方や就労時間に対する考え方は、この30年でめまぐるしく変化しました。1989年に「24時間戦えますか」というキャッチコピーが流行語になった頃には、「過労死ライン」なんていうものが定められるとは想像もしていなかった人が多いと思います。このコラムでは、過労うつのサインや対処法、予防方法をお伝えします。社会人として10年以上を経過したビジネスパーソンの方も、もう一度過労について考えていただければと思います。
目次
- 日本の労働状況
- おわりに
厚生労働省の調査によると、日本の労働者は年間平均2000時間程度働いています。年間休日を120日ととらえれば1日8時間程度であり、企業の定める週40時間程度の労働に収まっているようにみえます。しかし、これはパートやアルバイトなど短時間労働とフルタイムの労働をわけずに計算した値です。週60時間以上働いている人の割合をみると、30代~40代男性が多いという結果も出ています。
1か月に100時間を超える時間外労働があると、それは「過労死ライン」を超えた労働とされ、病気や自殺、健康上のリスクが高まるとされています。このラインがあることで、精神的な疾患や健康上の問題が、劣悪な労働環境によるものと認定されやすくなります。労災による補償も得やすくなりますので、自分が毎月どれだけの時間働いているかはよく見ておくようにしましょう。
臨床心理士とは・・・
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長時間働く体力と気力があり、病気とは無縁と思える人は、うつについて考えたことがないかもしれません。しかし、「うつは心が弱い人がなるもの」「自分はタフだから大丈夫」と思っている人こそ、過労にもうつにも気を付けていただきたいと思っています。
過労によるうつは不眠や頭痛など、身体的な異変から自覚することが多いとされています。うつ状態になるメカニズムは、ストレスや睡眠時間の乱れによって幸福感を感じるホルモンであるセロトニンの分泌量が減少してしまうことです。本人の体力や気持ちの強さとは関係なく、脳がうまく働かなくなることによって起こるものなので、労働時間が多く生活が不規則な方は誰でも、過労うつになるリスクがあるのです。
労働時間という目安はあるものの、自分が過労かどうかを客観的に判断できる人は少ないと思います。以下のような状態が続いていないか、自分の状況を振り返ってみてください。
① 仕事の自由度が低い
仕事量が多くとも、自分なりのやり方で成果をあげられる業務には達成感を感じやすいものです。意に反してやらなければならない仕事をこなさなければいけなかったり、納得のいかないやり方をしなければならないことが続いていませんか?
② 上司による口出しが多く、サポートが少ない
上司から業務指示とはいえないようなダメ出しにあっていないでしょうか?そのときの気分で思い付きの提案をする上司も世の中にはいます。上司のその時々の意見に合わせて修正ばかりしていては、到達点を見つけられずストレスがたまりますよね。
③ 報酬が少ない
金銭的な報酬は、仕事への正当な対価です。報酬が低ければ苦労が報われたと感じることができず、また気分転換にお金を使うということもできないため、ただただ疲労が残ることになってしまいます。
上記のような状態が続くと、次に紹介するような身体的なサインが現れ始めます。
① 夜中に目が覚める
長時間労働による不規則な生活が続くと、睡眠をはじめとした生活リズムが乱れやすくなります。不規則な生活では自律神経のはたらきが乱れ、体をリラックスさせる作用がうまく機能しなくなってきます。起きているときのように興奮がおさまらず、十分に睡眠をとれなくなってしまうのです。
② 頭痛や腰痛がする
うつ状態は脳機能の低下で起こる症状ですが、痛みをやわらげるホルモンであるノルアドレナリンの分泌が低下するため、頭痛や腰痛を感じやすくなります。
③ 下痢や便秘などお腹の調子がすぐれない
自律神経は消化器の調整も行っています。うつの初期症状は下痢や便秘など消化器にも現れやすいのです。
過労によるうつは、疲労とストレスの蓄積で起こりやすくなります。以下のような方法で休息とストレス発散をできるように心がけましょう。
① 頭から仕事のことを切り離す方法をみつける
メンタルに不調を抱える前に、仕事のことを忘れる時間を作りましょう。仕事によってうつを発症する人はとてもまじめで、四六時中、仕事のことを考えてしまう傾向にあります。意識的に仕事のことを忘れることで生活にメリハリをつけましょう。
脳のリソースを仕事に割けない状態を作り出すには、パズルゲームをしたりカラオケにいったりすることが有効です。スポーツをしてプレイに集中する環境を作ってもよいでしょう。
② 仕事関係以外の人と話す
長時間働いていると、職場の人とばかり接する時間が増えてしまいます。職場の環境にとらわれず、異なる価値観を持つ人と話すことで自分の状態を客観的にみることができます。
うららか相談室では、うつなどの病気になっていなくても、話し相手や愚痴聞きの相手としてカウンセリングを利用することも可能です。ぜひお気軽にご利用ください。
過労の辛いストレス、一人で悩み続けないでください。
このようなことでお悩みではありませんか?
うららか相談室では、臨床心理士やキャリアコンサルタントなどの専門家にメッセージ・ビデオ・電話・対面で悩みを相談することができます。
もし家族や同僚など身近な人が過労によるうつになってしまったらどうすればよいでしょうか?周囲からできることを考えてみましょう。
① 精神科の受診をすすめる
うつの最中にいる本人は、自分の状態がどのようなものか気づいていないこともあると思います。不眠や頭痛などの身体的な症状を改善するためにも、受診を勧めてあげられるとよいと思います。精神科の受診には抵抗を示す方もいらっしゃると思うので、できる範囲で初回の受診に付き添うなどサポートできるとよいですね。
② そばにいる時間を増やす
元気づけようと励ましたり外出に誘ったりするよりも、ただそばにいれる時間を増やせるとよいと思います。相手がヘルプを求めることができる距離にいることで、サインを見逃さずにいることができます。一緒に過ごすうちに本人から「つらい」「もうどうしようもない」などという言葉が出るかもしれません。そのときは無理に元気づけようとせず、具体的にどんなことに困っているのか聞けるとよいでしょう。
③ 休むという選択肢を伝える
過労になりやすい人は「休むことは無責任だ」「自分が休んだら周りから責められてしまう」と必要以上に自分を追い込んでしまいます。周囲から「休む」という選択肢を提案し、本人が休みやすい状況を作りましょう。
2015年に大手広告代理店の新入社員が過労のため自殺したことは、みなさんの記憶に新しい事件だと思います。現在は働き方改革により働き方も多様化し、残業を減らす努力をする企業も多くなってきています。しかし、まだまだ残業の多い業種・業態は存在する状況であり、労働時間が長い人とそうでない人の差がとても極端になってきています。
また、「過労死ライン」を超えていなくても、業務内容や精神的な負担が自身の容量をオーバーしていれば、過労うつになる可能性は十分にあり得ます。自分の労働時間と心の状態をきちんと意識し、うつの兆候がないか、定期的に振り返ってみましょう。
(参考文献)
令和元年版過労死防止対策白書 厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/karoushi/19/dl/19-1-1.pdf(参照:2020-06-05)
過労死ライン 日本の人事部 https://jinjibu.jp/keyword/detl/927/(参照:2020-06-05)
うつ病で頭痛が起こる?医師が教えるうつ病のすべて せせらぎメンタルクリニック
http://seseragi-mentalclinic.com/depheadache/(参照:2020-06-05)