「吐くことが怖い。」
「嘔吐した時の苦しさを思い出すと怖くなり、気持ち悪いのに吐けない。」
「人前で嘔吐してしまうのではないかと不安になり、外出ができない。」
このようなお悩みを抱えている人は決して珍しくありません。
「吐いてしまうかもしれない」という不安や恐怖から、外出や人と食事をする場面を避け、生活に支障をきたしている場合、それは嘔吐恐怖症かもしれません。
このコラムでは、嘔吐恐怖症とは何か、その症状や原因について解説します。また、嘔吐恐怖症の克服方法や治し方、嘔吐恐怖症の不安を落ち着かせる方法をご紹介します。
目次
- 嘔吐恐怖症とは
- 嘔吐恐怖症の症状
- 嘔吐恐怖症の原因
- おわりに
嘔吐恐怖症は、DSM-5(*1)の分類では、不安症群に含まれる限局性恐怖症にあたります。「高いところが怖い」と感じる高所恐怖症や、「狭いところが怖い」と感じる閉所恐怖症なども限局性恐怖症であり、同じように「嘔吐が怖い」と感じるのが、嘔吐恐怖症です。
嘔吐恐怖症は、嘔吐することだけでなく、吐き気、吐きそうな状況、他者の嘔吐を見ることに対してや、嘔吐に関するイメージが頭に浮かぶだけでも、恐怖を感じる場合があります。嘔吐恐怖症の人の感じる恐怖は、単に何かを怖がることとはレベルが異なり、恐怖心が実際の危険性や社会文化的状況に釣り合わないほど、過剰に強くなります。
嘔吐恐怖症は、嘔吐に関すること(嘔吐、吐き気、吐きそうな状況、他者の嘔吐を見ること、嘔吐に関するイメージなど)に接した際、身体面、精神面、行動面に以下のような症状があらわれます(参考:*1)。
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【身体面】
・動悸、心拍数の増加
・発汗
・ふるえ
・息苦しさ
・吐き気
・胃の痛み
【精神面】
・極度の不安
・自分をコントロールできず、「どうすることもできない」と感じる
【行動面】
・嘔吐に関する不安を喚起される状況や場所を避ける
(具体的には、外食や飲み会への参加を控える/外出時に電車やバスなどの公共交通機関を利用しない/つわりによる嘔吐を避けるために妊娠や結婚を避ける、など)
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嘔吐恐怖症の人は、上記のような症状によって行動範囲が狭まり、生活に支障をきたすようになります。
カウンセリングを通じて、自身の内面とじっくり向き合ってみませんか?
うららか相談室では、あなたの「変わりたい」という気持ちを、臨床心理士などの専門家がしっかりとサポートさせていただきます。
嘔吐恐怖症の原因は人により様々ですが、代表的な例としては以下の原因が挙げられます。
・過去の経験
幼少期や学生時代に、自分が嘔吐をして苦しい状況になったことや、他者が嘔吐している姿を目にした際に、周りの人の嫌そうな反応を見たことにより、「嘔吐は苦しい。怖い。」、「人前で吐くことは怖いことだ。」と誤った学習をしてしまうことが嘔吐恐怖症となる原因の一つです。
・不安になりやすい性格
不安になりやすい性格の人は、日常生活において、「こんなことが起こったら、どうしよう…」と多くのことに不安を感じます。
その中で、嘔吐することや、人前での嘔吐への不安が特に強くなると、嘔吐恐怖症にまで発展する場合があります。
嘔吐恐怖症の克服方法としては、「曝露法」と「反応妨害法」を組み合わせた「曝露反応妨害法」という方法が代表的です。
「曝露法」とは、嘔吐やそのイメージ、状況など、嘔吐恐怖症の人が不安や恐怖を感じるものに、段階的に身をさらす(曝露する)ことで、「いつもだったら、不安や恐怖を感じていた状況に身を置いても、何も起こらなかった。大丈夫だった。」と確認し、不安や恐怖の対象・状況に慣れていく方法です。
「反応妨害法」とは、不安や恐怖を感じた時にとる行動(=不安や恐怖への「反応」)をとらないようにする(=「妨害する」)方法です。例を挙げて解説します。
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<例>嘔吐恐怖症で、電車の中で嘔吐することを恐れているケース
このケースでは、嘔吐することを恐れている電車の中に身を置くと、電車内のこもった空気やにおいに反応して「嘔吐するのではないか」と不安になり、「マスクを着用する」という行動をとるかもしれません。
反応妨害法では、この「マスクを着用する」という行動をせずに電車内に居る練習をします。
「マスクを着用する」という行動は、一時的には「マスクを着用していれば吐き気は出ないから安心だ」と思えるのですが、このように不安を和らげるために行う行動は「安全行動」と呼ばれ、かえって不安や恐怖を維持・強化してしまう場合もあるのです。
そのため、「マスクを着用しなくても、電車内に居られた」と自信をつけていくために、あえてマスクを着用せずに電車に乗るというわけです。
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この例のように、不安や恐怖を感じる状況で、その不安や恐怖を鎮める行動をしなくても、恐れていることは起こらないということを学習していく方法が「反応妨害法」です。
この「曝露法」と「反応妨害法」を組み合わせた克服方法が「曝露反応妨害法」となります。不安や恐怖を感じる状況に身をさらし、その場で不安や恐怖を鎮める行動をせずに過ごすという方法になります。
曝露反応妨害法は、不安が軽度のものから、段階的に重度のものへとステップアップしていきます。最終的には、嘔吐に関する不安や恐怖を感じる対象やその状況に接しても、過度な不安や恐怖を感じずに過ごせるようになることを目指します。
嘔吐恐怖症の治し方としては、薬物療法と心理療法(カウンセリング)が有効です。
薬物療法としては、不安を抑える薬が役立つ場合があります。心療内科や精神科などの医療機関を受診し、症状に合った処方薬を服用することで、症状が軽減していきます。
心理療法(カウンセリング)では、上記の曝露反応妨害法やその人に合った克服方法をカウンセラーと相談しながら進めていきます。曝露反応妨害法の場合、不安や恐怖を覚える状況に身をさらしていくことになるため、1人で行うよりも、カウンセラーと一緒に、安全に進めていくためのステップなどについて相談しながら実践していくことがお勧めです。
前章で嘔吐恐怖症の克服方法と治し方を解説しましたが、克服するまでの間に、嘔吐恐怖症の不安が高まり「今、この不安をどうしたらいいのか、わからない」と困ることもあるでしょう。
そこで、嘔吐恐怖症の不安が高まった時に、その不安を落ち着かせる方法をご紹介します。
・深呼吸
嘔吐恐怖症の不安からドキドキと心拍数が急激に増加している時は、呼吸が浅くなっていることが多いのではないでしょうか。そのような時には、息をゆっくり吐くことを意識した深呼吸をすると、不安が落ち着きやすくなります。具体的な呼吸法としては、腹式呼吸がおすすめです。
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【腹式呼吸(参考:*2)】
①肺を空っぽにするイメージでゆっくり「フゥー」っと口から息を吐き出します。
②すべて吐ききったら2~3秒息を止め、その後、ゆっくり鼻から息を吸い込みます。
③肺の隅々まで空気がいきわたったような感覚になったら、2~3秒息を止め、再び口から息を吐き出します。
※①~③を繰り返します。
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・視点を転換する
電車やバスの中などで、吐き気がすると「ここで吐くと周りの人に迷惑をかけてしまう」、「今吐いたら、変な目で見られてしまう」といった思いから、「吐いてしまったらどうしよう…怖い」と嘔吐恐怖症の不安が高まります。
この不安を落ち着かせるために、視点を転換してみるのも一つの方法です。
あなたが逆の立場で、電車やバスの中で嘔吐してしまった人を見たら、「迷惑だな」とか「変な人だ」と感じるでしょうか?想像してみると、「迷惑だな」、「変な人だ」という考えよりも、「つらそうだな」とか「大丈夫かな?」といった心配するような考えが先に浮かんでくる人も多いのではないでしょうか。
このように視点を転換してみると、「困った時はお互い様。もし、吐いてしまっても、助けてもらえばいい。」と考えることができ、不安が落ち着きやすくなります。
・不安な気持ちを話す
嘔吐恐怖症の不安が高まり、「どうしよう、どうしよう…」と心が落ち着かない時には、誰かに不安な気持ちを話すと落ち着く場合があります。
心理学では「話すこと=離すこと・放すこと」と言われています。その時、側にいる人に「今、吐いちゃったらどうしようって不安なんだ」と言葉にして話してみると、不安な気持ちを自分の心から手放すことができ、不安が軽減されやすくなります。
話せる人が周りにいない場合や、身近な人に話すのには抵抗がある場合には、カウンセリングで話すことも有効です。オンラインカウンセリングであれば、不安になった時に、すぐに話せるカウンセラーを見つけやすく、自宅でビデオや電話を通して話すことができます。そこから、嘔吐恐怖症を克服するためのカウンセリングを始めていくことも可能です。
嘔吐恐怖症の不安を落ち着かせるには、ここまでにご紹介した方法の他にも様々な対処法があります。
自分に合った対処法を見つけることが大切です。自分に合った不安の落ち着かせ方がわからない場合には、臨床心理士や公認心理師などの専門家に相談することをお勧めします。
ここまで、嘔吐恐怖症について、症状や原因、克服方法や対処法を解説し、嘔吐恐怖症の不安を落ち着かせる方法をご紹介してきました。
嘔吐恐怖症に悩んでいる人にとっては、「嘔吐」や「吐く」という言葉が繰り返されている、この文章を読むことも、苦しかったかもしれません。それでも、このコラムを読んでくださった嘔吐恐怖症の人にとって、少しでも楽になるための参考になりましたら幸いです。
嘔吐恐怖症を克服し、治していくには、カウンセリングが有効です。その人に合った克服方法や不安を落ち着かせる方法を見つけ、取り組んでいく過程にカウンセラーが伴走します。嘔吐恐怖症のお悩みを、一度カウンセリングで相談してみてはいかがでしょうか。
<参考文献>
*1:日本精神神経学会 日本語版用語監修、髙橋三郎・大野裕 監訳 (2023) 「DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル」 (医学書院)
*2:松崎一葉 監修 (2017) 「こころを強くするメンタルヘルスセルフケアマニュアル」 (現代けんこう出版)