人と一緒に食事をすることやお店での飲食に対して、常に強い恐怖や抵抗感を抱く人は、会食恐怖症かもしれません。近年、少しずつ知られるようにはなってきましたが、まだまだ他の恐怖症と比べると知名度が低く、人との食事を避ける症状によって誤解されてしまうこともあり得ます。
ここでは、会食恐怖症の症状や治し方などを一通りお話していきます。
目次
- 会食恐怖症の症状
- 会食恐怖症の原因
- おわりに
会食恐怖症とは何か、基本的な定義から見ていきましょう。
・会食恐怖症とは
会食恐怖症は、人と一緒に食事をする状況に対して大きな不安や恐怖、緊張などを感じ、その状況を避ける状態を指します。一人での食事であっても、レストランなど周囲に誰かがいるところでは食べづらい場合も含まれます。
たとえば、あまり行きたくない職場の忘年会や親戚の集まりなど、気の進まない会食であっても、心理的に嫌なだけで食事自体は普段と同じようにできる場合は、会食恐怖症とは異なります。
・社交不安障害の一種
会食恐怖症は、社交不安障害(Social Anxiety Disorder 社会不安障害ともいいます)の一種に分類されます。社交不安障害の主な症状には、人前で何かをすることへの恐怖や緊張、その状況の回避がありますが、それが特に食事をする場面に強く出る場合、会食恐怖症と呼ばれます。
会食と並行して他の場面にも症状がある場合は、診断名としては社交不安障害で、会食恐怖はそのうちの症状のひとつという位置づけになることもあります。
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会食恐怖症の症状をもう少し詳しくお伝えします。
・人と食事にまつわる状況への恐怖や回避が主な症状
☑ 人と一緒に食事をすることへの強い恐怖、緊張、不安
☑ 一人での食事でも、誰かに見られているかもしれないと考えると心身に緊張が走る
☑ それらの状況で動作のぎこちなさ、腹痛や吐き気、飲み込みづらさ等が生じる
☑ 会食場面を避ける
食事中に出す音やマナーなど、会食中に自分が周囲からどう見られているのか、不快にさせてしまっているのではないかとても気になってしまう、または、会食という状況自体に強い不安を抱いてしまうことや、それにまつわる心身の症状、そして、そうなる恐れのある場面を避けてしまうことが、会食恐怖症の主な症状です。
・飲み物だけなら大丈夫など、個人差も大きい
このように、会食恐怖症は食事と他者が重なる状況に関して症状が出るものなので、たとえば、一人で自宅や個室で食べるなら問題ありません。
また、家族や安心できる相手との食事なら問題なく食べられるというケースもあります。さらに、少人数での食事は無理だけど大勢での宴会は何とか行ける、人前では固形物は食べられないけど飲み物だけなら大丈夫など、症状の出方や程度には個人差も大きいです。
・社会的機会の損失や二次的な病気を引き起こすリスクも
学校の昼食、職場でのランチや親睦を深めるための食事会など、私たちの社会生活において会食は人間関係を深めるためにとても大きな役割を果たします。会食恐怖症の人はそのような場面を避けてしまうため、人と仲良くなる機会や仕事のチャンスを逃してしまいがちです。
そのため、自己評価の低下、うつ病や適応障害など別の疾患につながることもあります。単に食事が苦手という範疇を超えた、とても苦しい病気と言えます。
ここからは、会食恐怖症の原因となり得るものを挙げていきます。
・食事に関する嫌な体験が引き金になることが多い
☑ 学校給食や家庭内での食事場面に関する否定的な体験
☑ 生来的な性質
☑ 脳のバランスの乱れ
会食恐怖症の原因は、元々の繊細な性格や不安の多い養育環境に、会食場面での否定的な体験が重なることが多いとされています。
特に学校給食や部活動の合宿等での完食指導、家庭内で嫌いなものを食べるよう強要されるなど、会食場面で人前で叱られたり恥ずかしい思いをした体験や、自己否定感を増してしまうような体験は、発症の大きなきっかけになり得ます。
会食恐怖症は適切な治療をすれば改善できます。会食恐怖症は社交不安障害の一種と分類されるとお伝えしましたが、治療法も社交不安障害のそれと共通します。どんな治し方があるか見ていきましょう。
・薬物療法も選択肢の一つ
会食恐怖の治療には、不安感や緊張感を軽減したり、それらの症状からくる抑うつを改善したりすることを狙いに、薬物治療が用いられることもあります。
薬物治療と下記の認知行動療法やその一種であるエクスポージャー(暴露療法)などが併用されることが多いです。
・認知行動療法が効果的
会食恐怖症の治療には認知行動療法が有効です。認知行動療法には様々な種類があり、具体的には下記のような方法が中心とされています。
☑ 会食場面での考え方の癖やそれに代わる思考を書いて、考え方や行動を変えていく
☑ エクスポージャー(不安を感じる状況を不安の度合いの低いものから試していく方法)
☑ 自分に向きがちな意識を、料理の味や食器、同席者など外側に向ける
・安心できる場所で少しずつ回避を減らしていくことが大切
会食恐怖症の人は、会食のことを考えるととても強い苦痛や不安が生じてしまうため、目の前の不安を減らすために会食場面を避けたくなります。この「回避」は、会食恐怖症を長引かせ徐々に悪化させかねない、会食恐怖症の主たる症状のひとつです。
回避によっていったん不安は軽くなるものの、その後はますます会食への不安が強まってしまうため、できるだけ回避を減らしていくことが重要です。エクスポージャーほど系統立てた方法ではなくても、信頼できる人との短時間の軽い飲食など、少し不安だけど何とかできる状況から実行に移し、徐々に慣れていくことが改善をもたらします。
・きっかけとなった体験へのアプローチ
給食に関する不適切な指導、みんなの前で叱られた、吐いてしまって恥ずかしい思いをした等、会食恐怖症のきっかけとなるような体験がある場合や、直接的な体験ではなくとも背景に虐待などのトラウマ体験がある場合は、そこに焦点を当てた治療が行われることもあります。
きっかけと思われる体験を話して整理し直すことや、EMDRなどのトラウマ治療も、会食恐怖症治療の選択肢のひとつです。
ここまでご紹介してきた治療法のうち、薬物療法以外の方法であればカウンセリングの中で取り組むことができます。薬物療法も併用したい方、頭痛や腹痛、吐き気、不眠など身体症状もある方は、心療内科など医師のいるところを受診しましょう。
カウンセリングだけであれば医師のいないカウンセリング施設等でも対応可能ですが、ご希望の治療法がある場合は、それを実施可能なカウンセラーが居るか事前に確認しておくと良いでしょう。
会食恐怖症は本人の苦痛が強いにもかかわらず、周囲の理解がじゅうぶん得られず、それによってさらに苦しい思いをしてしまうことも少なくありません。
単に食事会に行くのは気が進まないとか、好き嫌いやアレルギーのため食べられるものがあるか心配、というようなことではなく、本人の気の持ちようでどうにかなるものでもないことを周囲が理解することも重要です。
もし会食恐怖症の人と一緒に食事をする機会があれば、無理に食事を勧めたり、なぜ食べられないのか根掘り葉掘り聞いたりはせず、会食恐怖症の人が食べていなくても気にせず普段通り食べるなど、安心してその場にいられる状況にするのも、周囲の方々にできる大切なことです。
会食恐怖症の人は、その症状だけでも苦しいものですが、それによってより良い人間関係や仕事の機会などを逸してしまうことで、もっと悲しい思いをすることも少なくありません。適切な治療をすれば改善しますので、お早めに心療内科やカウンセリングに繋がっていただければと思います。