プレゼンやスピーチなど、人前で話したり発表したりするときに緊張するのはとても自然なことです。しかし、常に緊張しやすい、極度の緊張で吐き気がしたり息苦しくなったりする、という場合は、できれば緊張をほぐす方法を知りたいものですよね。本記事では、なぜ緊張するのか、緊張しないためにはどうすればいいのか、について解説していきます。
目次
- まとめ
緊張には交感神経と副交感神経をあわせた自律神経という、内臓などのはたらきを無意識的に調整する神経のバランスが関係しています。自律神経のバランスは、活動時に交感神経が優位に、リラックス時に副交感神経が優位になります。
人が不安やストレスを感じると、交感神経が刺激され緊張状態になることがあります。すると、血流が増えて心臓がドキドキしたり汗をかいたりといった身体的な変化が生じます。
なぜこのような反応が起こるのでしょうか。
人間は脅威となるものに警戒心を抱いたり、失敗が許されないときに興奮状態になったりすることで、様々な危機を回避してきたと考えられます。今の日本では、余程のことがなければ食べ物がなくて困るという心配をしなくていいですが、昔は狩りに失敗したら食べ物にありつけないですし、命を脅かす外敵などから瞬時に身を守る必要もあったはずです。
そういった人間の本能的なことを考えると、人前で話すときや発表をするとき、苦手な人と会うときや電話に出るときなどに、緊張するのは人間としてとても自然な反応といえるかもしれません。
しかし、同じ場面でも緊張しやすい人と緊張しにくい人がいます。適度な緊張は危機回避などに効果的な役割を果たしますが、極度の緊張によってうまく実力が発揮できなかったり、緊張してしまうかもしれないという不安がストレスになったりして、悩んでいる人は少なくありません。では、緊張しやすい人にはどのような特徴が挙げられるのでしょうか。
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自分ならうまくやれるという自信がない人は、失敗することや笑われることに対して不安が大きく、緊張しやすくなります。
「~しなければいけない」「~すべき」というものごとの捉え方をよくする人は、少しの失敗も許されないと感じるぶん不安が大きく、緊張しやすくなります。
周りからどう思われているかを強く気にしている人は、他人に嫌われたくないという不安が大きく、緊張しやすくなります。
緊張しやすい人は不利益ばかり被るわけではありません。緊張とうまく付き合うことで、次のような長所になることがあります。
先のことをほとんど考えないために、不安になることも緊張することもないけれど、失敗したときに対処できない人もたくさんいるでしょう。
緊張しやすい人は、失敗したときのことを先回って想像し、不安になっていることが多いと考えられます。これは言い換えると、どのような失敗が起こる可能性があるかをしっかりと考えて、リスク管理をすることができるということでもあります。
緊張しやすい人は、ミスや失敗をしないように慎重になります。ミスや失敗をすることが必ずしも悪いことではありませんが、特に仕事では、その慎重さが求められることもあります。緊張しない人に比べると、緊張しやすい人は、うまく緊張をコントロールすることができれば、ミスや失敗を少なくすることができるでしょう。
極度の緊張でうまく人前で話すことができず、プレゼンやスピーチが下手だと感じる人もいるかもしれませんが、緊張しているか否かよりも、どれだけ練習や準備をしたかということのほうがプレゼンやスピーチの上手さに影響します。緊張しやすい人ほど、練習や準備をしっかりと済ませることが多く、プレゼンが上手になりやすいでしょう。
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では、緊張とうまく付き合っていくにはどうすればいいのでしょうか。緊張をほぐす方法や、緊張しやすい場面での対策について見ていきましょう。
緊張するスピーチやプレゼン前には、しっかりと準備をするようにしましょう。緊張していないように見える人も、実はしっかりと準備や練習をしてきたからそう見えるだけであることが少なくありません。準備や練習をすればするほど自信につながり、緊張しにくくなります
緊張の原因となる不安を解消するリラクゼーション法には、様々な方法があります。簡単にできるのが呼吸法と呼ばれるもので、10秒呼吸法では腹式呼吸により以下の方法で深く呼吸をします。
ゆっくりと呼吸を行うことで、自律神経のバランスを整えます。
ほかにもリラクゼーション法には、自律訓練法という、体の感覚を味わうことで不安や緊張をほぐす方法などがあります。自律訓練法は、習得すれば自分で実践することもできますが、カウンセラーなどの専門家の指導の下で実施するのが好ましいとされています。
失敗をしない人間はいません。失敗を経験して、多くの人は成長します。
また、他人は思うほどあなたのことを注意深く見ていません。周りからどう思われるかを意識しすぎる必要はないのです。
しかし、緊張したときに落ち着こうと頑張ると交感神経が刺激され、体が緊張する悪循環を招きます。
失敗や他人の目はそれほど気にするものではないと分かっていても、どうしても不安になる人はマインドフルネスという考え方を習得してみるといいかもしれません。
マインドフルネスは自分の体や心をあるがままに観察できるようになる一種のスキルで、失敗や他人の目に対する余計な不安を増幅させないようにするのに効果的だと考えられます。
マインドフルネスを習得するために、マインドフルネス瞑想という方法がよく使われます。瞑想とありますが、心理学的なアプローチになるため宗教性は除かれています。
マインドフルネス瞑想は主に呼吸だけに意識を向けることを続ける方法で、呼吸から意識が離れた場合は、また呼吸に意識を戻すということを繰り返します。こうして、過去や未来への不安に左右されにくくなる感覚を掴むことができると考えられています。
極度の緊張で吐き気がしたり、常に緊張して息苦しいという人は、医療機関で診断を受け、治療を行うと改善することがあります。
社交不安障害(SAD)は、人と話をしたり人前で行動したりするときに、失敗することへの不安に加え、赤面や震えなどが他者に伝わって恥をかくかもしれないという恐怖によって、そういった場面を回避するようになるなど日常生活に支障をきたしている状態です。
社交不安障害はうつ病や依存症を併発することが多く、専門家のもと、薬で不安を抑えたり、認知行動療法という精神療法で恐怖を感じる場面に徐々に適応したりすることで、治療するようにしましょう。
そのほか、全般性不安障害や心身症、体の不調による緊張などの可能性も考えられます。
緊張しやすいのは必ずしも悪いことだけではなく、先を見通してミスを減らすことができるというメリットがあるとも考えられます。緊張をほぐす方法として、呼吸法や自律訓練法などのリラクゼーション法を試してみてはいかがでしょうか。緊張しないためには、マインドフルネスという一種のスキルを習得するのもいいかもしれません。カウンセリングでは、緊張しやすい原因や、自分に合った対策をカウンセラーと一緒に考えていくことができます。
極度の緊張で苦しい方は、社交不安障害などの可能性もあるため、医療機関での受診をお勧めします。
<参考文献>
坂入洋右(2011)心身の過緊張の調整に有効なカウンセリング技法, バイオメカニズム学会誌, Vol.35, No.3
朝倉聡(2015)社交不安障害の診断と治療, 精神神経学雑誌, Vol.117, No.6, pp.413-430
金井嘉宏 笹川智子 陳峻霎 嶋田洋徳 坂野雄二(2007)社会不安障害傾向者と対人恐怖症傾向者における他者のあいまいな行動に対する解釈バイアス(原著), 行動療法研究, Vol.33, No.2, pp.97-110