対人恐怖症とは、読んで字のごとく、対人場面に関する恐怖感や不安感を持つ状態を指します。人間は社会の中で生きる存在である以上、対人恐怖を抱える人はおのずとしんどい思いをしがちです。
そのような方々が少しでも気持ちを楽に人と接することができるよう、対人恐怖症に関する情報や改善法をお伝えしていきます。
目次
- 対人恐怖症の症状
- おわりに
対人恐怖症に関心がある方の中には、社交不安障害という言葉を聞いたことがある人も多いことと思います。はじめに、両者の違いから見ていきましょう。
・対人恐怖症はより以前からある広義で一般的な呼称
対人恐怖症と社交不安障害は、内容的に明確な違いがあるわけではありません。
対人恐怖症は昔から一般的に使われる呼び方で、人と関わるときにちょっとした緊張や不安を感じがちな状態から、常に対人場面で強い苦痛を感じる人にまで、幅広く使われてきた経緯があります。
・社交不安障害は診断名
社交不安障害は比較的新しい言葉で、かつて対人恐怖症と呼ばれていたものに概ね代わる診断名です。対人恐怖症は日本人特有のものと考えられていましたが、欧米にも同様の症状を抱える人が少なくないことが分かり、国際的な診断名として社交不安障害(Social Anxiety Disorder)ができました。社交恐怖症と呼ばれることもありますが、これも同じ病気を指します。
現在は対人恐怖も社交不安障害に含めて考えられるようになっていますが、厳密な区別があるわけではないので、一般的にはだいたい同じものと考えてもらって良いでしょう。本稿でも社交不安障害と同様の意味で対人恐怖症という言葉を使用することとします。
対人恐怖症というと、本人の性格や気の持ちようと思われがちですが、上記の通り、正式な病名です。より詳しく知るべく、具体的な症状について見ていきましょう。
・社会的な場面にまつわる様々な症状が
対人恐怖症の症状は、以下のように様々なものがあります。
☑ 人前での発表、スピーチ、電話、字を書くこと、会食など社会的状況への強い緊張
☑ 人からどう思われているかとても気になる
☑ 人の視線が気になる、自分の視線が人を不快にさせていると感じる
☑ 自分の臭いやお腹の音が人を不快にさせていると思い込む
☑ 上記のような場面での発汗、ドキドキ、身体の震え、赤面などの身体症状
☑ これらの症状が起こり得る場面の回避、または生活全般への不安
・本人の性格や気の持ちようの問題ではない
人前に立つとドキドキしたり、権威ある人と話すときに緊張したりするのは、誰にでもあることです。時間と共に落ち着くことができる、または、その場面が過ぎれば普段の状態にすぐ戻れるなら、病気というほどではありません。
しかし、対人恐怖症の場合、緊張する状況が終わっても、人にどう思われたか考え続けてしまう、恥をかいたという思いに囚われてしまうこと、そして、それを苦にするあまり、不安を覚えるような状況を回避してしまい、不登校、仕事を辞めるなど行動の制限や生活への支障が出てくる恐れがあることが特徴です。
そして、これらの症状は本人の意思や努力ではどうにもならないことが多いです。対策をたてて頑張っても完璧にできないと、その失敗部分への対策をまた考えたりして、しんどくなってしまうことも珍しくありません。
カウンセリングを通じて、自身の内面とじっくり向き合ってみませんか?
うららか相談室では、あなたの「変わりたい」という気持ちを、臨床心理士などの専門家がしっかりとサポートさせていただきます。
では、どんなものが対人恐怖症の原因になるのでしょうか。
・体質、経験や環境などが要因となる
主な要因を挙げます。
☑ 遺伝的な体質
☑ 安心感を育めない環境
☑ 人との関わりが少ないなど社会経験を積みにくい家庭環境
☑ 人前での失敗体験
☑ 脳の働きのアンバランス
持って生まれた性質に、褒められることが少ない、あまり人付き合いをしない親の元で育つ、家庭内不和など安心できない環境で育つといった環境要因や、人前で恥ずかしい思いをするなどの体験が重なることが、対人恐怖の発症につながると考えられています。
また、近年になって、脳の働きのアンバランスも関わっていることが分かってきました。
次に、対人恐怖の診断や治療についてお伝えします。
・適切な診断を前提に薬が処方されることも
緊張して心臓がドキドキする症状などから、まずは内科や循環器科を受診する対人恐怖症の方もいるかと思いますが、身体的には異常なしと言われても、そこであきらめずに精神科や心療内科を受診されると良いです。
対人恐怖症には、うつ病や統合失調症、パーソナリティ障害など別の疾患と重なるような症状や、大元に発達障害がある場合もありますので、医師の診察や検査などを通じて正確な診断を受けることをおすすめします。
社交不安障害と診断された場合、症状や状態によって薬が処方されることもあります。
・認知行動療法が有効
対人恐怖症の治療には、認知行動療法が有効であることが知られています。
認知行動療法は心理療法の一環で、過剰な不安を引き起こす不適応的な認知(考え方の癖)を、より不安を小さくするようなものに修正していく方法です。
具体的には、思考や感情などを書きながら過剰な思い込みや自分の癖を知り、もっと楽な別の捉え方を考えてみる、症状が出ると予測される場面を書き出して実際にどうなったか検証する、不安を感じる場面(例:スピーチをしているところ)を録画して自分で見てみる等、様々なやり方があります。
また、暴露療法(エクスポージャー)が用いられることもあり、これも認知行動療法の一種です。不安が比較的小さいものから敢えて行動に移し、少しずつ慣らしていく方法です。
対人恐怖症の症状を強めてしまう恐れがある、やらない方が良いことについてもお伝えします。
・回避を続ける
不安や緊張を覚える場面を避けてしまう行為は、対人恐怖症の中核的な症状のひとつです。嫌な場面を回避できると直後は少し安心するのですが、次にまた同様の状況に遭遇することへの不安をかえって強めてしまうことになります。
そして、回避せざるを得ない場面が増えていくと、人との関わりが少なくなる、学校に通えなくなり中退する、昇進のチャンスを逃す、仕事を辞める、引きこもり等々、生活に支障が出てしまうことになりかねません。また、そうなるとさらに不安が強まり、自己評価が下がるなど、心理的にもとても苦しい状況に置かれることにもなってしまいます。
したがって、できる限り回避はしないようにすることが、対人恐怖症の克服にはとても重要です。
・放置して長引かせる
早めに治療に繋がることが、対人恐怖症を悪化させない大切なポイントです。放置すればするほど回避が積み重なり、状態を悪くしがちです。そうなると、改善までの時間も長くなるおそれがあります。
不安や緊張が強すぎて辛かったら、あるいは回避したいと考えてしまうことが何度か続いたら、早めに心療内科やカウンセリングを検討しましょう。
・不安を完全になくそうとする
対人恐怖症の方には、人からどう思われるか過剰にとらわれてしまう症状があり、それは良く思われたい完璧主義な傾向の裏返しとも考えられています。
そして、不安がまったくない状態にならないと、人前で話すなど特定の社会的な場面に臨めないと考えてしまいがちです。完璧に不安をなくすことは難しいので、その結果、回避に至り悪循環に陥ります。
そうならないためには、不安を完璧にゼロにすることは不可能であること、不安や緊張を抱えたままでもいいからとにかくやってみるのが大切であることを念頭に置くとよいです。不安をなくそうとするとかえって良くないと理解するのも、改善への一歩です。
対人恐怖症の人に向いている仕事には、どんなものがあるでしょうか。
・対人接触やイレギュラーが少ない職種
人との接触や電話応対の機会が少なく、やることが決まっているような仕事なら、対人恐怖症の人も比較的安心して働けます。在宅勤務ができるお仕事も、人目を気にせず能力を発揮しやすいと言えます。
それ以外のお仕事であっても、不安なときに相談できたりサポートが得られるような職場環境であれば、無理なく働くこともじゅうぶん可能だと思います。
・上司や同僚に相談しよう
できるだけ自分に向いている仕事をしていても、不安になる状況が訪れることもあるでしょう。そうなったときに即座に回避はせず、少し負担を減らしてもらう、別の形で貢献できないか検討するなど、一緒に働いている上司や同僚に相談すると良いでしょう。
対人恐怖症の人にとっては相談すること自体がハードルの高いことだったりしますが、そのような工夫を試すことで自信につながり、症状の改善も期待できると思います。
対人恐怖症に関してカウンセリングでできることをご紹介します。
・認知行動療法を中心とした治療が可能
カウンセリングでは薬物療法はできませんが、それ以外の様々な治療法が実施可能です。認知行動療法を中心に、対人恐怖症の要因になった経緯や出来事について一緒に振り返り、症状の改善につなげることもできます。
また、睡眠や食事、運動など生活習慣を整える、心や身体をリラックスさせる方法、「今ここ」に意識を集中するマインドフルネスなど、そのときの状態に応じて症状を出にくくするためのいろいろな提案も可能です。
対人場面への緊張や不安にいったん囚われると、本人にしか分からないような非常に強い苦しみに見舞われてしまいがちです。しかし、それはあなたのせいではありません。困っている方は、対人恐怖症の症状をチェックしてみて、当てはまるようなら早めに専門家に相談しましょう。
不安や緊張を一瞬で治す方法はなかなかありませんが、専門家とともに適切な対応を取れば少しずつ辛さを軽減することは充分可能です。自信をもって本来の能力を発揮できる状態に近づけるよう、まずは一歩を踏み出せるといいですね。
<参考文献>
・貝谷久宣 監修 『社交不安症がよくわかる本』 講談社 2017
・田島治 監修 『これって性格? それとも「社交不安障害」?』 大和出版 2013