自分自身の価値というものを改めて考えたことがない方は、無意識的に価値があることを前提に生きられているということかもしれません。逆に、自分には価値がないような感覚が生じると、そこから目を逸らして生きるのはなかなか難しいものです。
自分には価値がないという感覚を「無価値感」とも呼びますが、これを軽減するにはどうしたらいいのでしょうか。
この記事では、自分に価値を感じられない原因やその克服方法などをご紹介していきます。
目次
- 無価値感の原因
- おわりに
はじめに、自分への無価値観とはどのようなものか見ていきましょう。
・どうしようもなく湧いてくる「自分には価値がない」という思い
自分に価値があると常日頃から実感している人はそれほど多くないかもしれません。とはいえ、冒頭でもお伝えしたように、改めて「自分自身に価値を感じているか」と問われたとき自信を持って「はい」とは言えなくても、明確に「いいえ」と言えるほどでもなく、日頃無価値感を感じることもないならば、おおむね自分には何となく人並みの価値があるという前提は持てていると言えるでしょう。
無価値感を抱えている人の場合、誰かから問われるまでもなく、日頃から「自分には価値がない」という感覚が内側から湧いてきてしまいます。「あなたには価値があるよ」と言われても、容易に信じることができず、私に価値なんてあるはずがないと思えてしまいます。
・自分は生きる価値のない、大切に扱われない存在という感覚
無価値感をもう少し詳しく言うと、程度の強弱や状況によっての濃淡はありますが、たとえば「自分は誰からも認められず求められない、この世界に不要な存在なのだ」「私は生きる価値のない、生きていてはいけない人間だ」というような感覚です。
人から雑に扱われても、悲しく思う一方で、こんな価値のない自分は大切にされなくて当たり前とも感じてしまいがちです。
そんなふうに自分に価値がないと感じてしまうようになる原因とは、いったいどんなことでしょうか。
・日本社会の雰囲気や文化
日本には謙遜という文化があり、身内や自分自身を褒めたり評価したりすることを避ける傾向が強かったこともあり、そもそも自分に価値を感じづらい社会風土と言えます。
・子ども時代からの不当な扱い
それでも、人から存在を大切にされたり認められたりする経験を通じて自己評価を高めていくことは可能ですが、家族や親族からの虐待、教員からの過度な叱責や人格攻撃、いじめなど不当に扱われる環境で育つと、自分に価値を感じられなくなっても何もおかしくありません。
虐待には、暴力などの身体的な虐待や必要な世話をしないネグレクト、性的虐待だけでなく、無視や子どもの前で両親が喧嘩をする、子どもの存在や資質、容姿などを否定や揶揄する等の言動も心理的虐待として含まれます。
・周囲と比較されるなど、安心できない環境
きょうだいや親戚、友人などと何かにつけて比較される環境に長らくいるのも、無価値感を抱きやすくなる要因のひとつです。誰かに比べてネガティブな評価をされる場合はもちろん、ポジティブな評価をされる場合であっても「この状態を維持できなくなったら、その時の自分には価値がなくなってしまう」と考えるようになるなど、自分に自信や価値を感じにくくなる傾向が見受けられます。
また、比較されること以外でも、親の顔色を伺わなくてはならない、本音を言えないなど、安心して過ごせない環境も、本来の自分ではダメなんだという自己認識につながってしまいます。
・トラウマ体験
被災体験、被虐待や性被害などトラウマになるような体験がきっかけとなって、自分に価値を感じないようになることも珍しくありません。
カウンセリングを通じて、自身の内面と向き合ってみませんか?
うららか相談室では、あなたの「変わりたい」という気持ちを、臨床心理士などの専門家がしっかりとサポートさせていただきます。
自分には価値がないと感じるところがあっても、おおむね滞りなく日常生活を送れているならば、特に病気というわけではない可能性が高いです。しかし、苦しい気持ちが強く、無価値感に苛まれ生活に支障が出る場合は、病気のおそれもあります。
・うつ病
抑うつ状態やうつ病になると自己否定的な気持ちが強まる症状が出ることも多いため、うつ病と無価値感には関連があるとも言えます。
自分には価値がない感覚がとても苦しく、それ以外にも好きだったことも楽しめなくなる・起き上がれない・不眠・頭痛など心身の症状が見られる場合は、うつ病のおそれもありますので早期の受診をおすすめします。
・PTSD
トラウマ体験によるPTSD(心的外傷後ストレス障害)によって、無価値感のようなものが生じることもあります。
被害自体に関して本人に責任はないのですが、自分にも原因があったと感じて自己否定的になったり、トラウマから来る症状で思うように動けないことで周囲に迷惑をかけてしまっていると考えたりすることで、ますます自分をいなくなった方がいい存在だと感じてしまうのも、PTSDに苦しむ人に見られる症状のひとつです。
つらい無価値感を少しずつでも軽減し、いつか手放していくための方法をいくつかご紹介します。
・病気が背景にある場合は適切な治療を受ける
うつ病やPTSDなど病気が無価値感の背景にあると思われる場合は、正しい診断をもとに適切な治療を受けることが最善の道となります。
思い当たることがある方はもちろん、病気がどうか分からない方も、しんどいならば受診を検討すると良いでしょう。
・属性や条件にこだわらない
様々な情報があふれる現在では特に、年齢や性別、職業、ステイタスなど、属性によって人の価値を判断するような捉え方が主流に見えてしまうことがあります。しかし本来、属性や条件によって人の価値が決まることはありませんし、人が他人の価値を測ることもできないはずです。人には生まれながらにして価値があるという大前提に加え、何に価値を見出すかは人それぞれ異なるからです。
条件や属性によってあなたの価値を低める発言をする人がいたとしても、それはその人の一意見でしかなく、自分の中で自身の価値を感じられるようになったら、それだけで無価値感を軽減していくことが可能です。
そのためにも、属性や条件は人としての価値を判断できる材料ではなく、それにこだわっても自分を辛くするだけだと捉え直すと少し楽になれるのではないでしょうか。
・愛されないのは自分のせいではないと捉え直す
自分への無価値感を形成した要因に、周囲の人から大切にされなかったり、愛されていると実感できなかったりした経緯があるならば、まずは「あのような環境で過ごしていたら、自分に価値があると思えなくなっても当然だ」と受け止めてみましょう。
そして、大切にされなかったのは自分のせいではなく、適切に愛したり大切にしたりできなかった相手や、相手にそれを難しくさせた環境などに問題があったのだ、という捉え直しを試みてもらえたらと思います。
自分に価値がないと感じる場面は人や状況によって様々ですが、特に恋愛において無価値感が湧いてくるとき、どう向き合えばよいでしょうか。
・無理しなくても大丈夫な人を選ぶ
元々自分に自信や価値を感じにくい人は、恋愛においても相手に好かれるために、あるいは嫌われないようにするために、相手の望む振る舞いをしてしまいがちです。そのような無理が積み重なるととてもしんどくなったり、対等で健全な関係ではなくなったりすることにもつながります。
それはますます、「そのままの自分では好かれない(=価値がない)」という思いを強めることにもなってしまうため、無理せずお付き合いできる人を選ぶことが大切です。
・恋愛をしていなくても人の価値は変わらない
無価値感が強いあまり、「パートナーがいない私には価値がない」と考えてしまい、少しでも自分に価値を感じられるようになりたい気持ちからパートナーを持とうとしたり、関係を維持しようとしたりすることがあります。
しかし、パートナーがいないと人としての価値が低いわけでも、パートナーができたから価値が高まるわけでもありません。
自分自身の価値を感じられない要因は何か、どんな時に無価値感が強まるかを、自分の心と向き合う時間を持ちながら探っていき、恋愛していない自分にも価値があると思えるようになってからパートナーを見つける方が、健全な関係を築ける可能性は高まるように思います。
・トラウマ症状の可能性があるなら受診や相談を
また、虐待や性被害などの傷つき体験がある場合、不安定な性的関係や恋愛関係を繰り返し、さらに傷付きを深めることがあります。これはPTSDの症状と考えられるため、誰と恋愛をしても安心できず長続きしない、それでもすぐまた次の相手を探そうとしてしまう、というような状態にある人は、治療やカウンセリングを受けるなどして傷つきを癒していくと良いでしょう。
いろいろ試してみても無価値感をどうしても拭えない方は、カウンセリングを受けるのも一手段です。
・無価値感の要因を探る
カウンセリングでは、カウンセラーと一緒に生育歴を振り返ったり、今困っていることを話したりしながら、強い無価値感が作られるまでにはどんな経緯や要因があるのかを探ります。そして、その要因やご本人がどうなりたいかに応じて、最適な対処を話し合います。
・認知行動療法など要因や目的に応じて選ぶ
カウンセラーに話をしていく中で、自分の無価値感がどこから来ているかを知るだけでも、気づきや捉え方の変化が起きることもあります。
また、辛い経験や傷つきが自分には価値がないという思いの要因になっている場合は、トラウマに焦点を当てたセッションをしたり、認知行動療法などを用いて無価値感をより現実的な方向に修正したりすることもあります。
自分の存在価値を実感するのは、なかなか難しいことかもしれません。しかし、自分には価値がない感覚に日々苛まれている方が、そのしんどさを軽減していくことは可能です。
ご紹介した方法なども参考にしていただき、まずは自分の無価値感を意識しなくても過ごせる程度を目指していけるといいですね。