人生は誰しもがうまくいくことばかりではありません。辛くても今できる努力を絶やさない人もいれば、「もう無理だ」と何もかも投げ出して人生を棒に振ってしまう人もいます。後者のように自暴自棄になると、一時の感情によって人生で取り返しのつかないことをしてしまい、後悔することがあります。
自暴自棄になる心理状態や原因、自暴自棄になりやすい性格、立ち直る方法、身近な人が自暴自棄になったときの対応の仕方などについて述べていきます。
目次
- 自暴自棄とは
- おわりに
自暴自棄とは、自分の思い通りにならないので、「もうどうでもいい」という気持ちになって、投げやりな行動をする様子のことをいいます。(新明解国語辞典より)
例えば、やけ食いをしたり、大量のお酒や睡眠薬を飲んだり、自傷行為をしたり、無差別的に他人を巻き込む事件を起こしたりするなど、自暴自棄の心理は非常に危険といえます。
自暴自棄になる心理には、以下のようなものが挙げられます。
何もかもうまくいかず、辛い八方塞がりの状況に陥ってしまって、現実逃避したい気持ちを抱えているケースです。
例えば、仕事や学業を頑張っても、上司や親に認めてもらえなかったり、結果が出せなかったりすると、もうこれ以上は頑張れないと思い、半ば諦めてしまっているケースです。「やることはやったので悔いはない」と思える人は、結果が伴わなくても諦めることができますが、自暴自棄になる人は、未練が残っており、諦めきれていない気持ちを抱えていることがあります。
SOSの気持ちを言葉で表せないけれど、「本当は誰かに助けてもらいたい」「話を聞いてもらいたい」「自分の気持ちをわかってもらいたい」などといった気持ちが潜んでいることがあります。親や先生に反抗したり家庭内暴力を振るったりする子どもが、自分の気持ちを言葉で表現できないときによく見られる心理です。
嫌なことが重なったりして頭が混乱し、先のことを考えられなかったり、冷静な判断ができなかったり、何をどうすればいいか分からないような心理状態になっていることがあります。
自分の存在に価値がない、誰にも必要とされていないと思い、「もう自分なんかどうなってもいい」といったように、投げやりな気持ちになっていることがあります。
例えば、生育環境の影響により、他人と信頼関係を築くのが苦手で大人になっても人間関係のトラブルを抱えたり、自分に自信がなく不安になったりと、何をしてもうまくいかないような生きにくさを感じていることがあります。
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自暴自棄になる原因には、以下のようなことが考えられます。
例えば、大人であれば、仕事でうまくいかず、家庭にも安らげる居場所がないといった状態、子どもであれば、学校では怒られてばかりで、勉強が苦痛に感じる、友だちとのトラブルがある、部活が辛いといった状態のように、複数の悩みや嫌なことが重なると、自分一人では問題を抱えきれなくなることがあります。
自分がどれだけ頑張っても足を引っ張る家族がいたり、親からあなたはダメな人間などと言われ続けたり無視されたり、家庭が貧困であったりと、本人が努力しても解決するのが難しい事情が原因になってしまうことがあります。
自暴自棄になることが多い場合には、心の病気が疑われることがあります。
例えば、双極性障害では、気分が高揚して活動的になる躁状態と気分が落ち込む抑うつ状態を繰り返しますが、躁状態では多額のお金を使ってしまったり、モラルから逸脱した行動が見られたり、抑うつ状態では、食事や生活習慣がおろそかになったり、無気力になったりするなど、自暴自棄になっているように見えやすくなります。
また、適応障害では、仕事に遅刻や欠勤をしたり、アルコールを大量に摂取したり、怒りっぽくなって言い争いをしたり、モラルから逸脱した行動が見られるなど、自暴自棄になっているように見えやすくなります。適応障害は、例えば職場の人間関係や業務内容などといった特定の環境におけるストレスが、本人にとって大きな苦痛に感じる場合に発症しやすく、そうした環境から離れると症状が改善することが特徴です。結婚や子どもの誕生、引っ越し、昇進といった一般的には喜ばしいとされるような環境の変化であっても、本人にとってはストレスとなり、適応障害の発症につながることがあります。
ストレスを自分一人では処理しきれない、もう耐えられない、気力が湧かないといったように、否定的になることが増えるようなら、心の病気を疑うことも必要です。
自身の性格が影響して、自暴自棄に陥りやすくなることがあります。
次のような特徴が自分にも当てはまると感じる人は、自暴自棄になってしまう前にストレスを上手く処理できるよう、日頃からできる対応を考えるといいでしょう。
例えば、職場で不機嫌な人がいると「自分のせいではないか」と不安になったり、失敗すると必要以上に落ち込んで立ち直れなくなるほど悩んだりするような、ものごとを否定的に考えてしまう性格が影響することがあります。
例えば、自分が上手くいかないのは「○○がいるからだ」と考えたり、「社会は理不尽であり、自分は認められない」と考えて努力することを諦めたりといったように、社会や周りのせいする性格が影響することがあります。
自分の外見が嫌いであったり、性格が悪いと思っていたり、良いところが何もないと感じていたりして、自分自身に不満を持っていると、毎日が楽しくない、自信がもてない、他人とうまく付き合えない、趣味も楽しめないといったことから、さらに自分のことが嫌いになるという悪循環を生み、自暴自棄に陥りやすくなります。
怒りっぽく我慢強くない人は、他の人がイライラしないことでもキレてしまうことがあります。人生では少々苦手であってもやり遂げないといけないこともありますが、そのような場面でも我慢できなくなり、ストレスや怒りを爆発させてしまうことがあるでしょう。
他の人が気にならないようなことにも気が付きやすく、それによってストレスを溜めてしまう人がいます。例えば、気にしなくてもいいような人間関係の変化を見過ごすことができずに、イライラをつのらせやすい神経質な特性が影響することがあります。
相手にどう思われているのかが不安になり、周りに合わせたり、不満があっても口に出せなかったりする人は、不満が続くと、意見を言えない分、暴れたりアルコールを大量に摂取したりといった行動に気持ちが現れてしまうことがあります。
先のことを考えず、感情に任せて行動してしまう人は、例えば、つい怒りが爆発して相手を殴ってしまったり、危険だと分かっているのに猛スピードで車を走らせてしまったりして、「どうしてあんなことをしたんだろう」と後悔することがあります。
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自暴自棄になってしまったときには、次のようなことを試してみましょう。
1.信頼できる人に助けを求める
人生においては、一人で解決できないような悩みもたくさんあります。信頼できる身内や友人に相談するなどして、解決のヒントをもらいましょう。辛いときは他人を頼ってもいいと思うこと、我慢できなくなる前に言葉で誰かに気持ちを伝えることが大事です。誰かに話を聞いてもらうだけでも、もやもやとした気持ちがすっきりとしやすくなります。
2.ゆっくり心と体を休ませる
自暴自棄になるのは、心がかなり疲弊している状態です。冷静に自分を見つめなおせるよう、好きなことをしてリラックスする、信頼できる人に会う、美味しいものを食べる、ゆっくり睡眠をとるなど、意識して心身を休ませましょう。
3.好きなことや心地よいことに没頭してみる
嫌な気分になっているときは、好きな音楽を聴く、好きなカフェでのんびりする、好きな映画を見る、ドライブに行く、スポーツをするなど、好きなことに没頭すると気分が晴れやすくなります。
4.自分の悩みと向き合う
リラックスするだけで、仕事や学業のような具体的な悩みそのものが解決するわけではありません。心が安定しているときに、何が問題なのかを考えてみたり、身近な人に相談するだけでは解決できない場合はカウンセリングや専門機関などで問題解決に詳しい人に頼ったりすることも大事です。
5.現実を受け入れる
仕事がうまくいかない、人間関係に不満があるなどと思っている人は、「それも今の自分である」と一度受け入れてみてください。そのうえで、今後どうなっていきたいのかを考えましょう。
例えば、仕事が合っていないと感じるなら、そのことを受け入れ、ほかの部署で自分に合う業務がないか考えたり、不眠が続いて辛いのであれば、休職を視野に入れたりするなど、「自分にはこれしかない」と思って可能性を狭めるのではなく、ほかの方法を探る姿勢も大切です。
家族や親しい友人、職場の人が自暴自棄になっていたら、とても心配だと思います。その場合は、次の方法を試してみて下さい。
1.否定せずに悩みを聞いてあげる
自暴自棄になっている人は、激しく落ち込んでいる状態であることが多いので、家族や周囲の人は、「何か困っていることがあるの?」といったように話しやすい雰囲気を作りましょう。本人からはネガティブな発言が多くなるかもしれませんが、「そう思うんだね」「そんなに辛かったんだ」などと、否定せずに相手が話しやすくなるような言葉をかけましょう。
2.安心させて相手を受け入れていることを伝える
自暴自棄になって泣き叫んだりしている場合は、少し落ち着くまで見守って待ち、話が出来る状態になったら、「大丈夫だよ」といったように声をかけ、安心させてあげましょう。
本人は、「もう何もかもうまくいかない」などと悲観していることが多いので、「うまくいかなくても自分はあなたの味方だよ」「どんなあなたであっても見捨てない」といったように、ありのままのあなたを受け入れていることを伝えてみましょう。
3.クールダウンできる方法を一緒に考える
ある程度落ち着いているときに、「いきなり暴れ出してびっくりした」といったように自分の正直な気持ちを伝えて、相手はどのような気持ちだったのかを聞き、イライラしたときや激しく落ち込んだときの対応を一緒に考えておきましょう。「困ったときはいつでも話を聞かせてほしい」といったことを話し、相手が言葉で自分の気持ちを伝えられるようにしておくと、自暴自棄な行動を防げるかもしれません。
4.自分の状態にも気をつける
自暴自棄になっている人は、「誰も分かってくれない」といったように思い詰めていることが多いため、どんな自分であっても味方でいてくれる人が身近にいることは心強いです。しかし、支えになる人も誰かに思いを聞いてもらいたかったり、いつも支える側ばかりで重荷に感じたりすることがあるでしょう。支え続ける人も我慢ばかり強いられると、同じような心理状態になってしまうことがあります。
親子や夫婦などの関係において、相手を支えるのが辛いと思い始めたら、カウンセラーなどに想いを吐き出したり、早めに専門家に相談したりすることも、支える側の人の心を守るうえで大切です。
自暴自棄になる心理、原因、性格や特徴について、自分や身近な人に兆候があると感じたら、自暴自棄にならないように予防するための対応を考えておきましょう。また、自暴自棄になっている人を支えることはとても忍耐力のいることです。支える人も自身のストレスや心理状態に目を向けることを忘れないでください。
<参考文献>
・太田充, 吉田恵子, 深澤ひろむ(2005)児童生徒のキレやすさに関わる実態調査の分析-校種と性別に焦点をあてた調査研究, 山梨県総合教育センター研究開発部研究紀要
・武村登茂子(2018)少年犯罪は減り、社会不安の減らない「日本」, 名古屋市立大学22世紀研究評論集, 11巻
・法務省, 令和2年版犯罪白書のあらまし
http://www.moj.go.jp/content/001332851.pdf (2021-07-20 最終閲覧)
・宮口幸治(2021)「どうしても頑張れない人たち」新潮新書
・金田一京助 山田明雄 柴田武 山田忠雄(1989)新明解国語辞典第四版, 三省堂