泣きたくないのに泣いてしまう、泣き虫だと思われたくないのに泣くのを我慢できない…このようなことで「すぐ泣くのをやめたい」とお悩みではないですか。自分の意見を言うときに涙が出るという人や、自分のことを話すと泣く傾向がある人の中には、自分が病気なのではないかと思う人もいるようです。
では、すぐに泣いてしまうのは一体なぜなのでしょうか。また、涙もろいのを直す方法はあるのでしょうか。
目次
- まとめ
そもそも人はなぜ泣くのでしょうか。
まず、涙には目を潤して保護する生理的な役割があり、微量の涙が持続的に分泌されています。
その上で、人が涙を流す理由は大きく分けて2つあります。
1.反応性の涙
目にゴミが入ったとき、それを外に流し出すために涙が出ます。
2.情動性の涙
感動したときや辛いとき、悲しいときなどに流れる涙です。一般的に「泣く」という言葉で表される涙がこちらです。感情が動かされたときに流れる涙は、人間以外の動物には見られないといわれています。
いずれの場合も、涙が出るのは自律神経という神経によるものです。自律神経とは、私たちの内臓などのはたらきを調整している神経で、特に意識していなくても(私たちが寝ている間でも)はたらき続けます。例えば、汗が出たり心臓の鼓動が早くなったりといったことも、自律神経のはたらきによるものですが、汗の量を頭の中でコントロールすることや心臓の鼓動を突然止めることはできません。同様に涙も自由にコントロールすることは困難になっています。
2.の情動性の涙を流す理由ははっきりとは分かっていませんが、感情が動かされたときに涙を流すことでストレスが緩和されることが分かっています。例えば、映画で感動して号泣したり、つらいことがあって一人で泣いたりしたあとに、気分がすっきりとした感覚を味わったことがある人は多いのではないでしょうか。
また、ポジティブな感情である「うれしい」ときや「感動した」ときに涙を流すことについて、「ストレスが関係あるのか?」と思うかもしれませんが、自律神経が影響を受けるストレスにはポジティブなものもネガティブなものも含まれます。
涙を流すことでストレスが緩和されるメカニズムにはいくつかの説があります。
一つは、泣くことによって否定的な現実と向き合い、葛藤しながらもそれを受け入れることができるからという説です。
また、赤ちゃんや小さな子どもは泣くことでコミュニケーションを図り、親に甘えたり助けられたりすることができます。このことで大きな安心感を得られるように、心理的に自分の安全が脅かされるかもしれないときに、泣くことによって周りの人にその状態を知らせるという意味があることも指摘されています。
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では、すぐに泣いてしまうのは一体何が原因なのか考えてみましょう。
普段から大きなストレスを抱えている人は、ちょっとしたことが重なるだけで高ストレス状態になり、自律神経のはたらきにより涙が出やすいと考えられます。自分や周りのことで不安やつらい悩みがあるときや、仕事や家事で心身が疲れていたりするような場合に、大きなストレスを抱えやすくなります。
例えば、友達や恋人とケンカになったときに、自分の言いたいことがうまく表現できずに、泣いてしまったことはないでしょうか。うまく伝えられないが否定されたくない、相手に分かってもらいたいという心理によって、泣いてしまいやすくなると考えられます。自分の意見を言うときに涙が出るという人や、自分のことを話すと泣くという人は、否定されることを恐れているのかもしれません。
映画を観たり誰かの悩みを聞いたりしたときに、まるで自分のことのように相手の心情が感じとられて、泣いてしまったことはないでしょうか。このように共感しやすい人は、「涙もろい」といわれますが、生まれつきの特性による影響が大きいと考えられます。
例えば、上司に軽く注意されたり恋人に少しでもそっけない態度を取られたりしただけで、「自分はダメな人間だ」「嫌われた」と極端に考えたり激しい思い込みをしたりする人は、自分の中で否定的に捉えられた事実が多い、あるいは相手との関係に不安を抱えやすいことから、すぐに泣いてしまいやすいと考えられます。目の前の出来事をどのように捉えるかということは人によって異なるものですが、これまでの経験などによってネガティブに捉えやすくなってしまっているのかもしれません。
負けず嫌いといわれるような人は、ちょっとした失敗によっても自尊心が傷つき、ネガティブな問題や不安を抱えやすくなるでしょう。ここで泣くことは「悔し涙」と呼ばれ、それだけ自分が努力してきた証と考えられることもあれば、完璧主義的にものごとを捉えているために日常生活で不満や不安を抱えやすいからと考えることもできます。
最近すぐ泣くようになった、泣きたくないのに泣いてしまうようになったという変化は、もしかすると、うつ病の初期症状かもしれません。
ほかにも以下のようなことに当てはまれば、早めに医療機関の受診を検討しましょう。生活習慣を見直して、心と体を休めることも大切です。
すぐに泣いてしまう性格そのものが病気として扱われることはありませんが、その背景に不安を抱えやすいことや極端な考え方があり、その影響で日常生活に支障をきたしているような場合には、不安障害やパーソナリティ障害などの診断が当てはまる可能性も考えられます。
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では、すぐ泣いてしまうのをやめたい、涙もろいのを直したいという人はどうすればいいのでしょうか。
日頃から忙しい人や疲れが取れない人は、まずはゆっくりと休むようにしましょう。日常的なストレスを減らす方法として、十分な睡眠や規則正しい生活、趣味などの楽しみの時間をつくることなどが挙げられます。
自信がなくて自分の意見を言うときに涙が出たり、他人から嫌われるかもしれないのが怖いと感じたりする人は、自信をつけるためにまずはできることから小さな成功体験を積み重ねてみましょう。趣味や勉強で着実に自分に能力をつけたり、少しずつ他人に自分の意見を伝えてみたりするのがいいでしょう。いきなり困難なことにチャレンジしようとすると、失敗したり意欲が湧かなかったりして自信を失いやすくなります。
自分の率直な気持ちを相手に伝えられるようになると、すぐに泣いてしまうことを減らせるかもしれません。最初はうまく伝えられないかもしれませんが、自分の気持ちを紙に書いたり日記をつけたりして、表現することに慣れるようにしてみてください。涙の代わりに言葉で伝えられるようになることを目指します。
ある出来事によって泣いてしまうほどネガティブな気持ちになったときは、その出来事を少しでもポジティブに捉えることができないか考えてみましょう。起こった出来事に対して最初に思ったことを紙に書いてみると分かりやすいかもしれません。
例えば、他人からそっけなくされたときに、最初に「嫌われてしまった」と思ったのであれば、そのことを紙に書いて認識し、「相手は忙しいのかもしれない」といったように異なる捉え方も考えてみるように練習してみましょう。
泣きたくないのにどうしても泣いてしまいそうになったら、ほかのことを考えて意識をそらすという手があります。「今日の晩ご飯は何にしよう」「週末は何をして過ごそう」といったように全く関係のないことを考えて、否定的な事実と向き合うことを一旦やめやすくなります。また、深呼吸をすることで、身体に意識が向くだけでなくリラックスしやすくなります。難しい場合は、手や足の先を動かすといったことを意識してみてもいいでしょう。
泣くことで気分がすっきりとしてストレスが緩和しやすいことから、泣きたいときは我慢せずに泣くことも大切です。すぐに泣いてしまう人は、日頃から多くのストレスや漠然とした不安を抱えていたり、考え方が極端になっていたりするかもしれません。涙もろいのを直したい人は、自信を持って自分の気持ちを言葉で表現したり、ものごとの捉え方を考え直したりする練習をしてみましょう。また、日常的に大きな問題や不安、悩みを抱えている人は、それらと積極的に向き合っていったほうがいいかもしれません。カウンセリングでは、カウンセラーとの対話の中で、根本的にその原因や解決方法を考えていくことや、出来事に対する自身の捉え方などについて練習をしたりすることができます。つらかったことや言いたいことをカウンセラーに気兼ねなく話すことで気分もすっきりとしやすく、ストレスを減らすことにもつながるでしょう。
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厚生労働省, 1 うつ病とは:ご存知ですか?うつ病|こころの耳:働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト, 2021-05-21 最終閲覧
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