メンタルヘルスという言葉を聞いたことがありますか?日本では2000年代から、精神的なケアについて広く認知されてきました。以前は精神的な不調で病院にかかると、周囲からよくない印象を持たれたり、精神疾患そのものがとても悪いものだと思われていたりしました。差別的な言葉もたくさんあったと思います。精神的なケアの必要性が広く知られるようになった今でも「メンタルヘルスとはいったい何なのか?」ということが、よくわからないという方もたくさんいらっしゃるでしょう。ここでは、メンタルヘルスの定義や不調を感じた時のケアについて解説していきます。
目次
- おわりに
メンタルヘルスとは「心の健康」のことです。日本におけるメンタルヘルスの取り組みは昭和59年に、初めて過労による自殺が労災認定されたことから始まります。昭和の終わりから、平成16年頃まで主に職場でのストレスと自殺、その予防について様々な調査と検討が行われました。平成18年には厚生労働省から「労働者の心の健康の保持増進のための指針」が出されました。その中でメンタルヘルスケアとは「事業場において事業者が講ずる労働者の心の健康の保持増進のための措置」と定義されています。また同指針には「心の健康問題が労働者、その家族、事業場及び社会に与える影響は、今日、ますます大きくなっている。事業場において、より積極的に心の健康の保持増進を図ることは、労働者とその家族の幸せを確保するとともに、我が国社会の健全な発展という観点からも、非常に重要な課題となっている。」(引用 労働者の心の健康の保持増進のための指針公示第6号 平成27年11月30日 厚生労働省)とも記述されています。つまり、働く人の心の健康を守ることは、その家族の幸せや国の発展に重要な役割を果たすということです。
臨床心理士とは・・・
悩みを抱える人との対話をベースに、精神分析や心理療法を使って問題の解決をサポートする「こころの専門家」です。
うららか相談室には、多くの臨床心理士が在籍しています。
メンタルヘルスの普及は過労による自殺の労災認定から始まりました。では、心の健康問題はどのような原因があり、人にどんな影響を与えるのでしょうか?キーワードを2つ挙げていきます。
①ストレス
心の健康を考えるにあたって、キーワードとなるのは「ストレス」という言葉です。なんだか嫌なことがあったり、心に負担を感じたりすることを「ストレス」と表現することが多いかと思います。「ストレス」とは外から刺激を受けた時に生じる緊張状態のことを指します。それは、嫌なことだけでなく、うれしいことや楽しいことでも負担がかかっていれば同様です。ストレスは心にも体にも様々な影響を与えます。例えば、うれしことがあった日や楽しみな予定の前日には気持ちが高揚してなかなか眠れない・・・というように、心を揺さぶる出来事は体にも変化を及ぼします。仕事の失敗や対人関係の悩みが続くと、同様に眠れない日々が続くこともあるかと思います。
ストレスによる体の反応、不調にはサインがあります。個人差があるので、ご自身のサインを知っておくことが大切です。眠れない、食欲がわかない、逆に食べ過ぎてしまう・・・など思い当たることがあるのではないでしょうか?
ストレスの影響が大きくなると、例えば過敏性腸症候群などの心身症として、体の病気が生じやすくなります。
②生育環境
精神疾患にはなんらかの形で「成育歴」の影響があるといわれています。家庭内で弱い立場にある人への身体的・心理的虐待や貧困などの生活困窮を経験すると、それによってストレス耐性や物のとらえ方(認知)に変化が生じます。もちろん、環境だけが精神疾患の原因ではありませんが、全く影響がないということもありません。ストレスの影響を受けやすいため、心身に不調が見られやすくなります。
次に、メンタルヘルスの不調として、精神的な症状について見ていきましょう。
具体的に、メンタルヘルスの不調には以下のようなものがあります。
①うつ病
非常に広く知られている精神疾患です。「憂うつな気分」や「気持ちが重い」という状態が1日中あり、それが長期間続くというのが代表的な症状です。それだけではなく、イライラする気持ちが続いたり、死にたいという気持ちになったり、食欲不振や不眠という身体的な症状も現れます。
②適応障害
ストレスによって引き起こされる情緒面や行動面での症状が社会的な機能を著しく妨げている状態のことです。会社の忙しさや引っ越しなど、ストレスの原因が明らかであり、原因から離れることで症状が改善します。
③不安障害
対象がない漠然とした不安感を覚える「全般性不安障害」やパニック発作をともなう「パニック障害」、人前で話すことに不安と恐怖を感じる「社交不安障害」などがあります。パニック障害では動機やめまい、呼吸困難のような状態に陥る「パニック発作」があり、また発作が起きたらどうしようという予期不安がつきまといます。不安障害全般において、不安を感じる状況(電車や人混みなど)を避けるようになり、社会生活に支障をきたしてしまいます。
④自律神経失調症
ストレスや生活習慣の乱れから、呼吸や睡眠、心拍数などのコントロールをしている自律神経のバランスが崩れてしまう不調です。心の健康問題が原因であることもありますが、体へのストレスやホルモンバランスの影響など、体の状態が要因となっていることもあります。気力の低下やイライラ感など精神的な症状もありますが、頭痛や動機など身体的な症状も現れます。
⑤依存症
アルコールやギャンブルといったストレス発散の道具を適度に抑えることができず、生活が破綻してもそれなしではいられない状態になってしまうことを指します。中には合法なものだけでなく、シンナーや大麻、覚せい剤などの薬物依存症も含まれます。最初は趣味やストレス発散のためにしていたことが、依存してしまうことで仕事や生活そのものに支障をきたすようになります。
そのほか、不眠症などの睡眠障害、過食症などの摂食障害・・・といったように、メンタルヘルスの不調には様々な種類があります。
いずれも、不調のレベルを超えて疾患となってしまえば、精神科での治療が欠かせないものです。上記のような症状のサインがみられる前にメンタルヘルスケアを行うことが大切です。
生活を脅かす状態でなくとも、メンタルの不調を感じたらどうすればいいのでしょうか。自分で取り組めることから、専門家と行うケアまでさまざまな方法があります。
①セルフケア
何よりも大切なことは自分自身で心の健康を保つために、日ごろから自分をケアしてあげることです。具体的にはストレスをためない暮らしを実践することが必要です。
といったことがセルフケアとして挙げられます。
ゆっくりと散歩をしたり、集中して仕事に取り組んだ後には休憩や休暇をとったり、湯船につかって気持ちをリフレッシュするなど、取り入れやすいことから始めてみましょう。
②誰かに相談する
セルフケアに取り組むことはとても大切ですが、ストレスや悩みは一人では抱えきれません。そんなときはぜひ人を頼ってください。友人、家族、同僚など気軽に話せる人を増やしておくことで、相談相手を作ることが大切です。
身近に相談できる人がいない、他人に心の内を話すのは抵抗があるという方は専門家によるカウンセリングをおすすめします。カウンセリングは相談することを前提とした関係なので、相談する後ろめたさや気まずさなどを感じにくいというメリットがあります。
うららか相談室では、気軽なメッセージカウンセリングからビデオ・電話や対面でのカウンセリングまで、幅広いニーズにお応えできるメニューが揃っています。ぜひお気軽にご相談ください。
メンタルヘルス不調を予防するためには、自分にとってのストレスは何なのかきちんと知ることが大切です。「自分は大丈夫」と思っていても、日常生活での出来事や暮らしている環境によって、さまざまなストレスが発生しています。「自分にとって、何が負担となっているのか」について、きちんと整理しましょう。そして、ストレスをためないようにリラックスできる習慣を身に着けていきましょうね。
<参考文献>
知ることからはじめよう みんなのメンタルヘルス 厚生労働省, https://www.mhlw.go.jp/kokoro/index.html(2022-03-02参照)
働く人のメンタルヘルスポータルサイト こころの耳 厚生労働省, https://kokoro.mhlw.go.jp/(2022-03-02参照)
<引用>
労働者の心の健康の保持増進のための指針公示第6号 平成27年11月30日 厚生労働省