人からすごいと思われたい、仕事の頑張りを認めてもらいたい、SNSで「いいね」やコメントがたくさんほしい、そういった欲求を承認欲求といいます。承認欲求は誰しもが持っている欲求で、とても自然なものですが、あまり強すぎると周囲から嫌がられやすくなったり、満たされない気持ちを抱えやすくなったりします。
では、承認欲求はどうして強くなってしまうのでしょうか。また、周囲に迷惑をかけずに承認欲求を満たす方法や承認欲求が強い人との上手な付き合い方はあるのでしょうか。
目次
- 承認欲求とは
- まとめ
承認欲求とは、他人から認められたいという欲求のことで、細かい具体例を挙げると、「褒められたい」「必要とされたい」「好かれたい」「すごいと思われたい」という欲求が、承認欲求にあたります。心理学者のアブラハム・マズローが提唱した「欲求5段階説」の概念の一つです。
仕事を頑張ったら褒められたい、周りの人から必要とされたい、友達から好かれたい、SNSの中ですごいと思われたい、といった気持ちは、とても自然なもので、承認欲求は誰もが持っているものです。誰だって人から好かれたいですし、すごいと思われたら気分がいいですよね。
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近年、他者承認欲求と自己承認欲求という言葉が見れらることがあります。マズローの「承認欲求」は「自尊心」として扱われることがあり、必ずしも他者から認められたい欲求が承認欲求ではないことを理解するために、この考え方が有用なのではないかと思われます。自尊心とは、自分自身に対する尊重の念、自分に価値があると感じること、存在そのものを肯定していることを指し、近年では「自己肯定感」と呼ばれたりもします。以下は、近年見られる自己承認欲求と他者承認欲求の一般的な説明になります。
また、承認欲求には、賞賛を得たいという欲求だけでなく、他人から拒否されるのを回避しようとする欲求が含まれていることは、社交不安(対人恐怖)のメカニズムを把握する際に使われることがあります。
◇他人と比較する
承認欲求が強いと、他人と自分を比較して、自分が優れているところを探そうとする傾向があります。「あの人よりは仕事ができるから大丈夫」「あの人達と比べて裕福な生活をしている」といったようなことを心の中で比べて、優位であることを望みます。
◇注目を浴びたい
承認欲求が強いと、他者から認められたい、褒められたい、すごいと思われたい、という欲求が強くなるので、周囲から注目を浴びようとします。分かりやすい例でいうと、ブランド物を身に着けたり、高級車に乗ったりと、目立つ行動が多くなります。
◇愛されたい
承認欲求が強いというのは、先述の通り、自尊心が低いということでもあります。
自尊心が低下する原因には様々なものがありますが、大きな原因の一つに、幼少期に適切な愛情を受けられなかった、ということが挙げられます。親から愛情をたくさん受けると、子どもは「自分はありのままでも愛されている」という自尊心が育ちますが、虐待や条件付きの愛情(親の言いなりなど)を受けると、「ありのままの自分に価値がある」という自尊心が育たず、他人に愛されることで自分の欲求を満たそうとしやすくなります。
◇自分に自信がない
自尊心が低下する大きな原因の一つに、自信を失うということが挙げられます。
自信を失うのは、例えば、対人関係で失敗したり、仕事が上手くいかなかったりしたときに起こります。
発達障害を抱えている人は、こうした失敗を多く経験する傾向があり、自尊心の低下が見られやすくなります。ただし、発達障害を抱えているからといって、他人から認められたい欲求が強いとは言えません。
◇コンプレックスを持っている
自尊心が低いと、劣等コンプレックスを抱えやすくなります。
自分の性格や、学歴、会社名、年収、容姿など、自分が劣っていると感じることから回避するために、自分のことを周囲にさらけ出せない傾向があります。ただし、自分が劣っていると感じていることで、自分を成長させようとする原動力となることがあります。これを劣等感といい、劣等コンプレックスと区別されます。
◇自分の話ばかりする
劣等コンプレックスを抱えていると、自慢話をしたりすることで、自分が劣っていると感じることから回避する傾向があります。これを優越コンプレックスといいます。
自分の不幸自慢をする人も、同様に劣等コンプレックスを抱えているがゆえに、虚栄を張っているものと考えられます。
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承認欲求が強いと、他人からの評価が気になってしまい、精神的にしんどくなりやすく、他人に認められるための行動によって周囲が迷惑することがあります。では、強すぎる承認欲求を克服するにはどうしたらいいのでしょうか。
◇ありのままの自分を受け入れる
強すぎる承認欲求を克服するには、自分の価値を認めることが大切です。自分の短所やコンプレックスにばかり目が行っていると、ありのままを受け入れるのは難しいかもしれません。長所も含めて自分を理解すること、自分のできることから小さな成功体験を積み重ねていくことなどが有効です。こうしたステップとして、カウンセリングや認知行動療法という精神療法が効果的です。
◇全ての人に好かれようとしない
誰しも人からは好かれたいと思いますし、嫌われたいと思う人はいませんよね。しかし、人には相性があるので、全ての人に好かれるというのは難しいです。家族や友達、自分が好きになった人に好かれたいと思うのは普通のことですが、全ての人に好かれようとすると、自分の意見が言えなかったり、相手の顔色ばかりうかがってしまったりするため、窮屈な思いをすることになります。
全ての人に好かれなければいけないという前提を持っている人は、そうした考え方の癖に気づいて、相手が10人いれば何人かは相性が良くない人もいるだろう、くらいに気軽に構えてみましょう。
◇他人を気にせず、自分らしく生きる
他人が自分のことを批判しようと、賞賛しようと、その人が自分の人生に責任を持ってくれるわけではありません。
容姿にコンプレックスがあっても、それをいいと言ってくれる人は必ずいますし、受け入れてオシャレを楽しむことで、自分にしか出せない個性を出すこともできます。学歴は変えられなくても、仕事のスキルアップを図ることで、年収は大きく変えられるかもしれません。大企業に勤めることより、昔からやりたかった夢を実現したい、と思う人もいるかもしれません。他人は勝手に言いたいことを言いますが、気にせず自分が思うような人生を生きることで、承認欲求は満たされていくでしょう。
では、自分の周りに承認欲求が強い人がいる場合、どのようにしてうまく付き合っていくのがいいのでしょうか。
◇相手を褒める
承認欲求が強い人は、他人から認められたい、すごいと思われたい、という欲求が強く、褒めることで相手は満足します。うまくやっていきたいと思っているのであれば、適度に相手を褒めることで、「この人は自分のことを認めてくれている」と安心し、好意的な態度になってくれるでしょう。
◇相手を気にかける
承認欲求が強い人は、自分に注目してほしいという気持ちが強く、相手を気にかけてあげることで、「この人は自分のことを見てくれている」と思い、好意を抱いてくれやすくなります。髪型やファッションがいつもと違えば、「雰囲気変わりました?」と聞いたり、いつもより元気がなければ「大丈夫ですか?」と声をかけたりすることで、相手は心を開いてくれやすくなるでしょう。
◇疲れたら距離を置く
中には、他人を巻き込んで自分の承認欲求を満たそうとする人もいます。承認欲求が強い人とのかかわりの中で、自分の精神がすり減っていると感じたら、少し距離を置くようにしましょう。
承認欲求は誰もが持っている自然な欲求ですが、承認欲求が強すぎると他人からの評価ばかりが気になったり、満たされない思いを抱えたりして、しんどくなりやすいです。もし、承認欲求が強くて悩んでいるのであれば、自分の中で小さな成功体験を積み重ね、他人の評価を気にしないことが大切です。なかなかうまくできない方は、カウンセリングを活用することで、着実にこのような取り組みができるでしょう。
また、周りに承認欲求が強い人がいれば、相手を褒めて気にかけるようにすることで、相手からは好意を持たれやすくなり、上手に付き合っていくことができますが、対応に疲れたときは、少し距離を置くようにしましょう。
(参考)
正木大貴(2018), 承認欲求についての心理学的考察 ─現代の若者とSNSとの関連から─, 現代社会研究科論集 = Contemporary society bulletin : 京都女子大学大学院現代社会研究科博士後期課程研究紀要 (12), 25-44
COSMOPOLITAN, ポジティブに解消!専門家に聞いた「承認欲求」を満たす方法, Yahoo!ニュース, 2020/9/24, 最終閲覧2021/02/21
https://news.yahoo.co.jp/articles/34ec2812f1f132b3989fef71025f2e3656e435fa
吉澤英里(2020), 承認欲求と評価への恐れが社交不安に及ぼす影響, 社会心理学研究 36 (1),10-15
廣瀨清人 菱沼典子 印東桂子(2009), マズローの基本的欲求の階層図への原典からの新解釈, 聖路加看護大学紀要 35, 28-36
笹川智子 猪口浩伸(2012), 賞賛獲得欲求と拒否回避欲求が対人不安に及ぼす影響, 目白大学 心理学研究 8, 15-22
佐々木淳 菅原健介 丹野義彦(2001), 対人不安における自己呈示欲求について ―賞賛獲 得欲求と拒否回避欲求との比較から, 性格心理学研究 9(2), 142-143