軽く見がちな心の不調ですが、放っておくと命に関わることもある、大事な問題です。精神疾患の認知は広がってきていますが、障害年金や社会保障制度に関する注意点などは、あまり知られていないように感じます。
今回のコラムでは、心の不調を自覚した時に、どんな流れで行動をしたら良いか、具体的な手順と注意点を社会福祉士の行成ひとみさんに解説してもらいました。
また、身近な人が精神疾患になった時の支え方もアドバイスしていただきましたので、参考にしていただければと思います。
目次
2011年、厚生労働省は、がんや脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病の4大疾病に新たに精神疾患を加えて5大疾病とし、国として対処が必要な疾病のひとつに加えました。
「5人に1人は一生の間に何らかの精神疾患にかかる」と言われており、これはあなたの身の回りにいる親しい人がうつ病や不安症、統合失調症などの精神疾患にかかる可能性は十分にあるという数値です(※1)。
また、自殺者の9割は何らかの精神疾患を抱えていた可能性がある、という研究結果もあります(※2)。うつ病などの精神疾患は「死ぬ可能性のある病気」なのです。
臨床心理士とは・・・
悩みを抱える人との対話をベースに、精神分析や心理療法を使って問題の解決をサポートする「こころの専門家」です。
臨床心理士の資格は厳しい学習条件が求められ、心理業界では長年にわたり根強い信頼性を持っています。
うららか相談室には、多くの臨床心理士が在籍しています。
メッセージ・ビデオ・電話・対面、あなたが一番話しやすい方法で、悩みを相談してみませんか。
以前は楽しめた趣味をする気が起きない。いつも暗く沈んだ表情をしている。会話をしていても声が小さく、覇気がない。物忘れが増えた。
こういった症状がある場合、精神的な不調を抱えている可能性があります。
精神的な不調は風邪のように誰にでも起きやすいものですが、治療せずに放置すると癌のように悪化してしまう可能性もあります。
では、精神的な不調を自覚したとき、または身近な人にそのような症状がみられたとき、具体的にどうしたらいいでしょうか。
うつ病などの精神疾患では、入院して治療を行う場合もあります。そのような場合、民間の医療保険に加入していると、お金の心配をすることなく治療に専念できます。
しかし、メンタルクリニックで治療中に民間の医療・生命保険に加入しようとした場合、審査が通らず加入できないケースがほとんどです。
そのため、生命保険に加入していないのであれば、精神科や心療内科などを受診する前に、最低限の医療・死亡保障が受けられる保険に加入することをおすすめします。
どの保険に入るか迷うようであれば、都民・県民共済など簡単に加入手続きができるものを選ぶとよいでしょう。
保険の加入の確認ができたら、なるべく早くメンタルクリニックの受診を検討しましょう。
できるだけ早く受診した方がいい方は、以下のような症状のある方です。
・2週間以上続く気分の落ち込み
・「死にたい」考えが頭に浮かんでしまう
・突然涙が出てきてしまう
・仕事にいかなければならないのに、身体が動かない
ここで大事なのは、お勤め中の方の場合は、不調が原因で仕事を退職してしまう前に受診することです。会社に所属しているときに受診しておくことで、厚生年金加入期間中に初診日を作ることができます。
これは、もし症状が悪化して障害年金を請求することになった場合に、初診日が退職前と退職後では受け取れる年金額が大きく変わってしまうためです。
また、メンタルの不調が原因で会社を休む場合は、4日間連続して休みを取るようにしましょう。健康保険の「傷病手当金」という制度は、在職中にケガや病気が原因で4日以上仕事を休んだ場合に、お給料の6割ほどを給付してもらえる制度です。
休んだり、出勤したり、を繰り返すと、「4日以上連続して休む」という条件を満たせず、傷病手当金を受け取れません。
傷病手当金は、一度受け取り始めたら、会社を退職してからも引き続き、最長1年半受給することができるので、その間お金の心配なく治療に専念することができます。
精神疾患の治療は数年単位の長い時間をかけて行われることが多いため、通院医療費を少しでもおさえることも重要です。これには、自立支援医療(精神通院医療)という制度を利用することで、通常3割負担の医療費を原則1割負担まで減らすことができます。
1ヶ月以上治療を継続する必要がありそうな場合、メンタルクリニックの医師に「自立支援医療申請用の診断書を書いてもらいたい」旨を伝え、診断書をもらうことができたら役所の窓口に提出しましょう。
治療が始まったあと、家族などの身近な人にできることは何があるでしょうか。
一番には、メンタル疾患当事者の「味方」であり続けることです。
特にうつ病や双極症などの「気分障害」と呼ばれる疾患を治療中の方にとって、「孤独」が自殺のトリガーとなってしまうことがあります。この「孤独」とは、一人暮らしなどで物理的に孤独な状態だけでなく、精神的なよりどころがない状態でも陥ってしまいます。
支える立場にいる人は、その病気に関する本を1冊手元に置いておくと良いでしょう。ただ、病気の症状は人によって異なります。大切なのは、薬を医師の指示通りに服用できているか、普段と異なる様子はないかなど、その人をしっかり見守ることです。そして「どんなあなたでも、あなたはただそこに居てくれるだけで良いのです。それだけで私にとってあなたはかけがえのない存在なのだから。」とメッセージを伝えることも有効です。
たとえ病気で、できなくなったことが増えたとしても、それがあなたの存在価値を揺るがすことはない、というメッセージを伝えることで、メンタル疾患の当事者は安心して治療に専念することができます。
ただ、すべてにおいて献身的に支える必要はありません。適度な距離を置いて、症状に振り回されず、自分自身のことを一番に考えることで、病気の人を支えるゆとりができるのです。
うららか相談室では、臨床心理士・社会福祉士などの専門家を選び、メッセージ・ビデオ・電話・対面形式のカウンセリングを受けることができます。
匿名で相談ができるため、家族や友人に知られることなく、安心して相談していただくことが可能です。
精神疾患には症状に波がある場合がほとんどです。毎日しっかり薬を飲んでいても、その波は小さくなるかもしれませんが、なくなることはないのです。これは、健康な人であっても同じことが言えます。
そのような場合の症状のコントロールに役立つのが、カウンセリングです。
カウンセリングによって認知行動療法や元気回復行動プランなどをカウンセラーと一緒に取り組むことで、気分の波に対してどう対処すればいいのかがわかります。
中でも、元気回復行動プランは家族などの「支える人」と共有することで、どんな症状が出たときにどうすればいいのかがわかるため、療養生活の助けとなるでしょう。
また、カウンセリングでは家族や友人との関係、どう症状と向き合っていけばいいのかなどをカウンセラーと一緒に考えていくことができます。これは、メンタルクリニックの受診の限られた時間だけではなかなか話をすることが困難です。
本来、うつ病などの疾患は「薬物治療」と「精神療法」を併用して治療を進めていくのが望ましいのですが、精神療法は医療機関では十分に受けられない場合がほとんどです。
通院している医療機関に臨床心理士などの心理スタッフがいて、カウンセリングが受けられる状況であればいいのですが、そうでないクリニックが多いでしょう。また、医療機関でのカウンセリングは本人のみで、通常家族はカウンセリングを受けられません。
支える家族にも、看病疲れやどう接したらいいかわからなくなったときにはカウンセリングが必要です。
うつ病や不安症を抱える人は日本国内では18%と言われていますが、この数値は先進国の中では低い方です。3割を超える国も少なくないのです。これには、日本ではメンタルクリニックの受診に対する心のハードルが高いことも要因として考えられます。
うつ病などは、症状が軽いうちに受診し、治療することで早期に回復する可能性があります。そのため、精神的な不調を感じる場合は、風邪を引いたときに内科を受診するように、気軽にメンタルクリニックを受診することが大切です。メンタルクリニックに行く勇気が出ないときは、まずは自分の話しやすい方法で相談できる、オンラインカウンセリングから始めてみてはいかがでしょうか。
(参考文献)
※1 学校保健 https://www.gakkohoken.jp/special/archives/219 (参照 2020-01-14)
※2 張 賢徳 "特集 自殺対策と精神保健" https://www.jspn.or.jp/uploads/uploads/files/forpublic/107-03.pdf (参照 2020-01-14)