何をやっても無駄な気がする、全てうまくいかない気がする、そんな気持ちになっていたら、もしかすると学習性無力感に陥っているかもしれません。学習性無力感に陥ってしまうと、自分のことを無力だと感じ、全て努力することを諦めてしまいます。
では、学習性無力感とはどのようなことが原因で起こるのでしょうか。また、学習性無力感に陥ってしまった場合、どのように対処していくのがいいのでしょうか。
目次
- 学習性無力感とは
- まとめ
学習性無力感とは、長期間にわたって回避できないストレスにさらされると、ストレスから回避するための抵抗すら諦めてしまう現象のことを指します。
ストレスにさらされると、普通はそこから回避しようと努力しますが、その努力も無駄だと分かると、「自分は無力だ」「何をしても意味がない」と学習してしまい、努力をしなくなってしまいます。この傾向を発見し、学習性無力感と名付けたのがマーティン・セグリマンという心理学者です。
セグリマン教授が行った実験では、特定のストレスを与える装置が付いた部屋に犬を入れて行われました。
Aグループの犬は、部屋内のパネルを押せば、ストレスが回避できます。対してBグループの犬は、何をしてもストレスが回避できないようにします。この結果、Aグループの犬は積極的にスイッチを押すようになったのに対し、Bグループの犬は何の抵抗もしないようになってしまいました。その後、両グループとも仕切りを飛び越えるだけでストレスを回避できる部屋に移したところ、Aグループの犬は仕切りを飛び越えたのに対し、Bグループの犬は何も行動を起こしませんでした。
このように、自分が何をやってもストレスを回避できないと学習し、環境が変わっても行動を起こさなくなってしまうことを、学習性無力感と言います。
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学習性無力感に陥るまでの流れは、
という順番になります。
例えば、職場で常にイライラしている上司から、いつも理不尽に怒られているとします。最初は、上司に少し優しく言ってもらえるようにお願いしたり、人事部の人に対応してもらえないか相談したりするかもしれません。しかし、自分なりに色々と動いたとしても状況が変わらないと分かると、今後も上司から理不尽に怒られる状況は続くだろうと、努力することを諦めてしまいます。これが学習性無力感に陥るまでの流れです。
では、上記の流れの中でストレスを回避できないと認識してしまうのは何が原因なのでしょうか。
◆常に他人から否定される環境にいる
常に他人から自分を否定される環境にいると、学習性無力感に陥りやすくなります。
例えば、
といった環境に身を置いていると、「自分がどう頑張っても、おそらく現状は変わらないだろう」と認識してしまうため、学習性無力感に陥ってしまいます。
◆正しいやり方を知らない/教えられていない
怒られたり、失敗ばかりしていても、いつか結果を出すことができるという根拠があれば、学習性無力感に陥りにくくなります。しかし、結果を出すための道筋が提示されていない場合には、「自分の力だけでは、到底ものごとを実現できない」と認識してしまうため、学習性無力感に陥りやすくなります。
例えば、
といったことが挙げられます。
同じ環境にいても、学習性無力感に陥ってしまう人と、そうでない人がいます。では、学習性無力感になりやすいのは、どのような人なのでしょうか。
◆完璧主義
完璧主義者であるほど学習性無力感になりやすいとされています。完璧主義である人は、高い目標を設定しがちで、その目標が完全に達成できないとひどく気にかけてしまう傾向があります。目標を高く設定することは悪いことではありませんが、そうすると目標を達成できる可能性は下がります。目標をきっちりと設定している場合だけではなくて、ぼんやりと思い描いている高い理想像があるような場合や、幼少期から「いい子」でいようと周囲の期待に応えるタイプの人も同様です。理想や期待を達成できないと認識してしまう場面が多くなると、「自分は何をしても、どうせ無理なんだ」と諦めてしまうため、学習性無力感に陥りやすくなります。
◆睡眠が乱れている
睡眠サイクルが乱れ、睡眠の質が下がると、やる気が出にくくなります。人は寝ている間に、身体の疲れを癒すだけでなく、脳の中もメンテナンスして整理をしています。睡眠の質が下がると、身体だけでなく脳も疲れて、ストレスがたまりやすくなるため、学習性無力感に陥ってしまう可能性も高くなります。
◆成功体験が少なく、自己肯定感が低い
困難な状況に置かれていても、必ず現状を回避できるという自信があれば、学習性無力感に陥りにくくなります。このとき、自分自身にいくつかの成功体験があって、しっかりとした根拠に基づいて自信を持っていればいいのですが、自身の成功体験が少なく、漠然とした自信しかない場合は、すぐにその自信も打ち砕かれてしまいます。このようになってしまうと、困難なことに全く歯が立たないと感じられるため、学習性無力感に陥りやすくなります。
◆過去に強い人格否定をされたことがある
過去に、信頼していた人に裏切られたり、虐待やいじめに遭っていたり、恋人や配偶者からモラルハラスメントなどの人格否定をされ続けていた人も、潜在的に「自分は何をやっても無駄」「自分が認められることはない」と考えてしまう傾向があり、学習性無力感に陥りやすくなります。
では、学習性無力感を克服するにはどうしたらいいのでしょうか。
◆環境に原因がないか考えてみる
学習性無力感に陥ってしまうのは、そもそもストレスが多い環境に長期間置かれていることが原因です。まずは、その環境自体に原因がないか、一度考えてみましょう。
いつも理不尽に怒ってばかりの上司がいる、親のしつけが厳しく自己否定ばかりされる、など、そもそも環境自体に原因があるということが分かるだけで、少なからず学習性無力感は緩和されます。「環境が変われば自分にもできる」というイメージが掴めて、今まで無気力になってしまっていた別の環境で結果を出すことができれば、学習性無力感を克服することに繋がります。
◆成長したことを数え、自己肯定感を高める
自己肯定感が低くなっている人は、これまでにできたことや、自分が成長したことを数え、自己肯定感を少しずつ高めてみましょう。一生のうちで、何もできていない、何も成長していないということはありません。どんな人でも、生まれたときから比べると、何かしらできるようになったことや成長したことがあります。出来なかったことに目を向けるのではなく、できたこと、成長したことに目を向けることで、自己肯定感が高くなり、学習性無力感が改善されやすくなります。
◆達成できそうな小さな目標を設定し、実行する
大きな目標を前にすると、「自分には無理だろう」と諦めてしまいやすくなります。しかし、ハードルを下げて、小さな目標を設定すると、達成するのも簡単に感じられるため、また取り組んでみようと思えてきます。そういった小さな目標に向けて、自ら実行し、達成する経験を積むことで、「自分にはできる」という気持ちを高めることができます。
完璧主義の人は特に、「100%できないといけない」という思い込みはいったん置いておきましょう。「達成する」という経験に意味があるので、最初は本当に小さな目標からでも少しずつクリアしていくことが大切です。
◆成功している人に会う
「自分にはできない」と思っていても、実際に成功している人に会うことで、「同じ人間でもここまでできるんだ」という気持ちにさせられます。「どうしてその人は成功できたのか」「どんな努力をしたのか」ということに意識が向けば、自然と自分も取り入れてみようと思えるでしょう。成功体験は、必ずしも自分のものでなくても、知ることで自信に繋がっていきます。会ってみたい人のイベントや、好きな本の著者の講演会などがある場合は、積極的に参加してみてはいかがでしょうか。
自分で考えたり、行動を試してみたりしても、学習性無力感が解消しないときには、カウンセリングを活用するのも一つの手です。例えば、学習性無力感とうつ病が併発しているような状態に陥ってしまっているというようなことも可能性としては考えられます。カウンセラーに相談することで、環境に潜んでいる原因や、自分に合った克服方法について、専門的な立場から分析・アドバイスをもらうことができます。一人で悩んでいると、どんどん自分を否定してしまったり、自分を受け入れられずに自己嫌悪に陥ってしまったりする場合もあります。第三者に話すだけでも、ストレスを軽減することができて、つらい気持ちもきっと緩和されますので、ぜひカウンセリングをご活用ください。
臨床心理士とは・・・
悩みを抱える人との対話をベースに、精神分析や心理療法を使って問題の解決をサポートする「こころの専門家」です。
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学習性無力感とは、ストレスが回避できない状況に長期間置かれることで、だんだんとストレスを回避すること自体を諦めてしまう状態を指します。環境が変わっても、無力感は続くため、うつ病の症状ともよく似ていると言われています。仮にうつ病だった場合、そのまま放置しておくことは、大変危険です。本記事で紹介したような原因が思い当たらないような場合や、強い絶望感を感じる場合、あるいは判断ができない場合には、心療内科や気軽に利用できるカウンセリングを活用し、専門家に相談するようにしましょう。