「もうストレスが限界かも・・・」
「体の調子が悪いのに、検査をしても異常がないと言われた。これってストレスが原因?」
「うちの子、最近よく泣いているけど、もしかしてストレスが限界に達しているのでは…?」
このような悩みを抱えている人は少なくありません。
ストレスが限界に達したときに現れる変化は、大人だけではなく、高校生や中学生、小学生にも起こり得ます。心や体の不調から本人が「ストレスが限界」と感じている場合もあれば、周りの人が異変に気づき、心配するケースもあるでしょう。
そこで、このコラムでは、ストレスによって現れる症状や体の異変、ストレスが限界に達した時の症状やサイン、さらにストレスが関係する病気について解説します。あわせて、日常の中で取り入れやすいストレスの対処法や解消法もご紹介します。
目次
- おわりに
ストレスで起こる症状は身体面→行動面→精神面の順で現れるパターンが多いと言われています(*1)。
身体面、行動面、精神面、それぞれの症状を解説していきます。
【身体面の症状】
ストレスで起こる体の異変としては、以下のような症状が挙げられます。
・検査では異常が見つからない身体症状
頭痛、腹痛、胸痛、生理痛、めまい、吐き気、下痢、発熱・ほてり、動悸、喉の違和感、疲れやすさ、体のだるさ、睡眠状態が悪くなる(寝つきが悪い、途中で起きてしまう、予定よりも早く目が覚めてしまう、寝過ぎてしまう)など。
・検査上の異常を伴う疾患や症状
胃潰瘍、過敏性腸症候群、高血圧、不整脈、喘息、気管支炎、風邪をひきやすくなるなどの免疫力の低下、蕁麻疹、円形脱毛症、月経困難症など。
※ストレスによって、これらの疾患や症状が発症したり慢性化したりする場合、「心身症」と呼ばれます。心身症は総称であって病名ではありません。
【行動面の症状】
行動面では以下のような症状が現れます。
仕事での欠勤・遅刻・早退の増加、集中力の低下、ミスの増加、もの忘れ、生活リズムの乱れ、異性トラブル、アルコール・ギャンブル・買い物などへの依存など。
【精神面の症状】
精神面では以下のような症状が現れます。
・気分や感情の変化
感情の起伏が激しく落ち着かない、気分の落ち込み、怒りっぽい、不安、焦り、感情表現が乏しくなるなど。
・考え方の変化
「自分なんていない方がいい(いても意味がない、役に立たない)」といった自己評価の低下、「自分が悪いんだ」と自分を責める、「自分は孤独だ」と孤独感や疎外感を覚えるなど。
・メンタルヘルス不調
やる気が出ない、ひきこもる、軽いパニック症状など。
前章で解説した、ストレスで起こる症状や体の異変に対して改善しようと試みても変化が見られない場合や、普段ならできる行動ができなくなった場合、ストレスによる症状で生活に支障をきたしている場合は、ストレスが限界に達している可能性が高いでしょう。
ストレスが限界に達した時の自分で気づく症状とサイン、周りの人が気づく症状とサインの例を以下に挙げます。これらの症状やサインが現れており、ストレスが限界に達していることに気づいた時には、一人で抱え込まず、早めに専門家(医師、臨床心理士、公認心理師など)に相談することをお勧めします。
◆自分で気づく症状・サイン
・理由もなく泣く。自分の意思とは関係なく勝手に涙が出てくる。
・趣味などの好きなことや興味のあることを楽しめない。
・普段ならストレスが解消される行動をしてみても、心身の疲れが回復しない。
・ストレス解消のための行動をする気力が湧かない。
・疲れているのに眠れない。横になっても寝付けない。
・食欲がなくなる、または、食べ過ぎる。
・「生きていても意味がない」、「いなくなりたい」、「死にたい」と考える。
・普段できている生活上の行動(家事、育児、入浴、歯磨き、洗顔、身だしなみを整えるなど)ができなくなる。
・自分や他者を傷つけたいと考える。
◆周りが気づく症状・サイン
・アルコールやたばこの量が増える。
・お風呂に入らなくなるなど清潔さを保てず、身なりに気を遣わなくなる。
・表情が暗く元気がない、または、平常時よりも多弁で行動しすぎるようになる。
・仕事の遅刻、欠勤、早退が増える。
・家事や仕事などで、平常時はしないようなミスをする。
ここまでストレスで起こる変化や症状、ストレスが限界に達した時のサインや症状について解説してきました。
では、ストレスで起こる病気にはどのようなものがあるのでしょうか。
ストレスを要因とする病気には、以下のようなものがあります(参考:*2)。以下の内容が自分や周りの人に当てはまると感じた場合は、医療機関の受診を検討することや、専門家(医師、臨床心理士、公認心理師など)に相談することをお勧めします。
1.気分障害(うつ病・双極性障害)
◆うつ病
うつ病は、落ち込んだ憂うつな気分が続き、興味や喜びがなくなるといった特徴があります。また意欲が低下することに伴って、以下のような症状が出現します。
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【症状】
・憂うつな気分/気分が落ち込む
・イライラする
・物事に興味がもてなくなる/喜びを感じられなくなる
・食欲がなくなる(体重減少)/食欲が増加する(体重増加)
・眠れない/寝過ぎる
・焦燥感がある
・疲労感がある/やる気が起きない
・自分には価値がないと感じる/必要以上に自分を責める
・考えがまとまらない/集中力がなくなる/決断することができない
・生きていることがつらいと感じる
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◆双極性障害
双極性障害は、気分が落ち込む「うつ」と、気分が高まる「躁」を繰り返す心の病気です。
「躁」状態とは、気分が異常に高揚し、思考・意欲・行動が活発になりすぎて、自分ではコントロールしにくくなる状態を指します。具体的には以下のような症状が出現します。
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【躁状態の症状】
・気分が異常に高揚している状態が持続し、開放的になる一方で、イライラして怒りっぽくなる
・普段の行動とは明らかに異なる以下のような変化が現れる
①自尊心が肥大、誇大する
②睡眠欲求が減る
③普段より多弁であったり、しゃべり続けようとする切迫感がある
④次々とアイディアが浮かび、いくつもの考えがせめぎ合っている
⑤注意散漫になる
⑥目標を達成しようとする活動が増える、または焦燥感が出てくる
⑦困った結果につながる可能性が高い活動に熱中する
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2.ストレス障害(適応障害・急性ストレス障害・心的外傷後ストレス障害)
◆適応障害
適応障害は、「これが原因だ」と比較的はっきりわかるストレス要因に反応して、気持ちの面や行動面に不調が現れることが特徴です。ストレス要因は一つの出来事である場合もあれば、複数のストレス要因が重なっている場合もあります。
◆急性ストレス障害
生死に関わるような大きな事故や犯罪に巻き込まれる、あるいは災害などの強いストレスを経験した後、以下のような症状が現れます。
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【症状】
・その出来事が繰り返し苦痛を伴って思い返されるフラッシュバックが起こる
・悪夢を見る
・その出来事に関連することを回避する
・神経が高ぶった状態が続き、イライラしたり、過度に警戒したりする
・不眠や不安などが強く現れる
・現実感がなくなる、感情が麻痺したように感じる
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これらの症状が1か月以内におさまる場合、急性ストレス障害と診断されます。
◆心的外傷後ストレス障害(PTSD)
急性ストレス障害と同様の強いストレスを経験した後の症状が1カ月以上続く場合は、心的外傷後ストレス障害と診断されます。心的外傷後ストレス障害は、通常強いストレスを経験した後、3か月以内に発症する場合が多いですが、ときには数カ月~数年を経て発症する場合もあります。
3.アルコール依存症(アルコール使用障害)
先ほど、ストレスで起こる行動面の症状の一つとして、アルコールへの依存を例に挙げました。アルコールに依存した結果、お酒を飲む量、飲むタイミング、飲む状況などを自分でコントロールできなくなり、日常生活への支障や苦痛が生じる場合、アルコール依存症(アルコール使用障害)と診断されます。
ストレスは、アルコール依存症の直接的な原因ではありませんが、ストレスによる行動面の症状が悪化した結果として起こりうる病気と言えるでしょう。
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ストレスが限界に達し、病気にまで発展することを防ぐには、ストレスに対処することが必要です。
そこで、この章ではストレスへの対処法として、「ストレス要因を減らす方法」と「ストレスを解消する方法」に分けてご紹介します。
1.ストレス要因を減らす方法
ストレス要因を減らすことで、ストレスが限界に達してしまうことの予防につながります。
◆自分のストレス要因を知り、変えられることからストレス要因を減らす
ストレス要因を減らすには、まず自分にとって何がストレス要因になっているのかを知る必要があります。
ストレス要因の例は、以下のとおりです。
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・体の不調によるストレス
→過労、睡眠不足、病気・ケガなど
・環境によるストレス
→騒音、気温、照明、有害物質など
・社会生活によるストレス
→人間関係、仕事の多忙さ、家庭の不和、借金など
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他にも、一般的に「よいこと」とされる環境の変化もストレス要因になり得ます。例えば、結婚、就職、昇進、新居の購入などの出来事も大きな環境の変化を伴うため、ストレス要因となる場合があります。
体の不調がストレス要因である場合には、身体面の治療をしたり、生活習慣を改善したりしていくことで、ストレス要因を減らすことができるでしょう。
また、環境がストレス要因である場合には、環境を変えたり、調整したりすることで、ストレス要因を減らすことができます。
ただし、社会生活がストレス要因である場合には、すぐに改善することが難しいでしょう。そのため、社会生活によるストレスを感じやすい人は、コミュニケーションスキルを高めることで、ストレス要因を減らしていくことがお勧めです。次の項目で詳しく解説します。
◆コミュニケーションスキルを高め、社会生活によるストレス要因を減らす
社会生活の中で、特に多いストレス要因として人間関係が挙げられます。コミュニケーションスキルを高めることで、人間関係が円滑になりやすく、ストレス要因を減らすことにつながります。
ストレス要因を減らすために役立つコミュニケーションスキルとして「アサーション」というものがあります。
アサーションとは、自分も相手も大切にした自己表現のことです(*3)。
アサーションでは、自己表現のタイプを「攻撃的」、「非主張的」、「アサーティブ」の3つのタイプに分けて考えます。
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攻撃的:自分の意見や気持ちを表現しますが、自分のことだけを考えており、相手への配慮を欠いている自己表現のタイプです。
非主張的:自分の気持ちや意見を率直に表現できないタイプです。自分よりも他者を常に優先している自己表現のタイプです。
アサーティブ:自分の気持ちや意見を率直に表現する一方で、相手の気持ちや意見にも素直に耳を傾ける自己表現のタイプです。
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アサーティブな自己表現ができるようになることで、気持ちのよいコミュニケーションがとりやすくなり、ストレス要因を減らすことにつながります。
アサーションを身に着けるための方法として、アサーショントレーニングというものがあります。書籍などを通して学ぶ方法や、カウンセリングの中でカウンセラーと一緒にアサーショントレーニングを行っていく方法があります。
2.ストレスを解消する方法
ストレスが限界に達してしまう前に、心身に溜まったストレスを解消することが大切です。
◆休養
心身が疲れ、ストレスが溜まっているなと感じたら、休養しましょう。
休養するためには、十分な時間の質の良い睡眠をとることが役立ちます。以下の「睡眠5原則(*4)」を心がけてみましょう。
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第1原則:適度な長さで休養感のある睡眠。
・6時間以上を目安に十分な睡眠時間を確保する。
・規則正しい起床時刻を心がける(休日も夜ふかし・朝寝坊をしない)。
第2原則:光・音・温度に配慮した、良い睡眠のための環境づくり。
・夜間のパソコン・ゲーム・スマホの使用は避ける。
・寝室はなるべく暗くする。
・心地よい温度にする。
第3原則:適度な運動、食習慣、寝る前のリラックスで眠りと目覚めのメリハリをつける。
・日中は積極的にからだを動かす。
・しっかりと朝食を食べる。
・就寝間際の夕食、夜食は控える。
・日中のうちにストレスを発散させ、寝る前にリラックスする方法を身につける。
第4原則:嗜好品とのつきあい方に気をつける。
・夕方以降のカフェイン摂取、飲酒、喫煙は控える。
第5原則:眠れない、眠りに不安を覚えたら専門家に相談する。
・睡眠時間を十分に確保しても、生活の妨げになるような睡眠の悩みが続く場合、治療を要する疾患が隠れていることもあるため、医療機関や専門家に相談をしましょう。
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◆頭の中で考える・イメージをするストレス解消法
・ストレス要因である問題についての捉え方を変える
ストレス要因となっている問題について整理したり、捉え方を変えてみたりすることでストレスが解消する場合があります。具体的には以下のように考えます。
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問題について考える:問題を細かく分けて整理する、優先順位を考える、対策を具体的に考える。
考え方を変えてみる:問題について悪い面も良い面も両方考える、「問題は過去のこと」として反省を活かし次のアクションを考える。
問題を受け入れる:「生きていれば、そんなこともある」、「まぁ何とかなる」、「時が解決してくれる」と問題を受け入れる。
自分をなぐさめる、励ます:「その問題に対処するのは大変だよね」、「私よくやってるよ」、「私頑張ってるじゃん」と問題によって傷ついた自分をなぐさめたり、問題に対処している自分を励ましたりする。
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・好きなもの・楽しいことをイメージする
好きなものや楽しいことをイメージすることで、実際に行動をしなくてもストレスが解消される場合があります。以下のようなことをイメージしてみましょう。
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・好きな食べ物や飲み物を思い浮かべる。
・好きな人(恋人、パートナー、子ども、家族、好きなアーティストなど)の顔を思い浮かべる。
・好きなお店や風景をイメージする。
・行きたい場所を思い浮かべる。
・旅行したい場所や旅行プランを考える。
・住みたい街や住みたい部屋を想像する。
・宝くじが当たったらどうするか想像する。
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◆体を動かし行動するストレス解消法
・体(手)を動かす
体を動かすことや手先を使って作業をすることでストレスを解消する方法です。体全体や手先を動かし、「スッキリした」と感じられることであれば、どんなことでもOKです。以下に例を挙げます。
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・運動をする。ウォーキング、ジョギング、ストレッチ、筋トレなど。
・外に出て散歩をする。
・紙を破る、ハサミで小さく切り刻む。破ったり切ったりしてできた紙吹雪をまき散らす。
・家事をする。料理、洗濯、掃除、棚の中を整理するなど。
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・趣味や好きなことをする
趣味などの自分の好きなことをする時間は、ストレスの解消に役立ちます。「こんなにストレスを溜める前は、何をしている時間が好きだったかな?」と思い出してみましょう。以下に例を挙げます。
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・絵を描く。
・モノを作る。編み物、アクセサリー作り、セルフネイル、プラモデルの組み立て、家具の組み立て、DIYなど。
・ゲームをする。
・テレビを見る。
・本や漫画を読む。
・映画を観る。
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・自分を癒す
ストレスによって疲れた自分を癒すこともストレスの解消法として効果的です。自分がリラックスして過ごせることを探してみましょう。以下に例を挙げます。
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・お風呂に入ってゆったり湯船につかる。
・自分でマッサージをする(家族に頼むのもよいですし、専門店でマッサージをしてもらうのもよいでしょう)。
・深呼吸をする。
・ヨガをする。
・瞑想をする。
・好きな香りを嗅ぐ。
・布団にくるまりダラダラ過ごす。
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・自分の外に出す
自分の内に溜まったストレスを外に出すことで、ストレスが解消されることは多くあります。以下のような方法を試してみましょう。
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・誰かに話す。(家族、友人、パートナー、職場の同僚、カウンセラーなど誰かに話すだけでも楽になることがあります。)
・今の気持ちを紙などに書き出す。
・手紙を書く。
・絵、イラスト、文章などで表現する。
・泣けるドラマや映画などを観て、感情を外に出すように泣く。
・クッションに顔をうずめて大きな声を出す。
・海に向かって叫ぶ。
・クッションを叩く。
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3.カウンセリング
1~2でストレスへの対処法をご紹介しましたが、「そもそも自分のストレス要因がわからない」、「自分には、どの解消法が合うのかわからない」という人もいらっしゃるでしょう。そのような場合、あなたに合ったストレスへの対処法をカウンセリングで一緒に考えることができます。どんなことがストレス要因になりやすく、どんな解消法が合うのかを整理していくこともできます。
また、先ほど述べたように、カウンセリングで誰かに話すだけでも、ストレス解消になる場合があります。心理学では「話すこと=離す(放す)こと」と言われています。カウンセリングで自分の気持ちを言葉にして「話す」ことで、ストレスを自分から「離す(手放す)」ことにつながります。
ストレスが限界に達したと感じたら(もちろん、ストレスが限界に達する前でもかまいません)、ぜひカウンセリングをご活用ください。
ここまで、ストレスで起こる症状や体の異変、ストレスが限界に達した時の症状やサイン、ストレスで起こる病気について解説し、ストレスの対処法や解消法をご紹介してきました。
「ストレスが限界」と感じるほどの過度なストレスは、蓄積することで心身に様々な影響を及ぼします。
「ストレスが溜まっているな」、「なんだか疲れているな」と感じたら、ストレスが限界に達してしまう前に、ストレスを解消していくことが大切です。
自分のストレス要因や自分に合ったストレス解消法を考えたい場合や、ストレス解消のために誰かと話したい・話を聴いてほしいという場合には、カウンセリングで一度相談してみてはいかがでしょうか。
参考文献
*1:松崎一葉 監修 (2017) 「こころを強くする メンタルヘルスセルフケアマニュアル」 (現代けんこう出版)
*2:日本精神神経学会 日本語版用語監修、高橋三郎・大野裕 監訳 (2014) 「DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル」 (医学書院)
*3:平木典子 監修 (2016) 「よくわかるアサーション 自分の気持ちの伝え方」 (主婦の友社)
*4:厚生労働省(2023)「健康づくりのための睡眠ガイド2023―成人版」