親御さんをはじめとする養育者の方々の中には、子どもに怒鳴ってしまうというご経験がある方も決して少なくないでしょう。怒鳴ることを止めたいと思いながらも、つい繰り返してしまうことにお悩みの方も多いかと思います。
ここでは、怒鳴ることで子どもや親子関係にどんな影響があるのか、どう対処すればよいのか、そして、怒鳴るのをやめるためにできることとは何か、というお話をしていきます。怒鳴ってしまうご自分にお困りの方のご参考になれば幸いです。
目次
- おわりに
「子どもに怒鳴る」とはどんなことか、それはどのような影響を及ぼし得るかを見ていきましょう。
・怒鳴ることが常に悪とは限らない
「怒鳴る」という言葉には怒りの感情を伴うイメージが強いかと思いますが、単に「大きな声で呼ぶ」「声高に叫ぶ」というような意味も含まれています。
たとえば、小さい子どもが命や安全にかかわるような危険な行動をしそうなとき、大きな声を出して制止するのは必要な対処です。逆に、静かな声で子どもを否定するような暴言を投げかけるのは、怒鳴ってはいなくても適切な養育とは言えません。
このように、怒鳴ること自体が必ずしも常に悪というわけではありませんし、怒鳴りさえしなければいいというわけでもありません。
・感情的に怒鳴るのは子どもに悪影響
人間は間違える生き物ですし、ましてや子どもは経験的にも精神的にもより未熟な存在ですから、悪いことや良くない言動をすることも当然ありますし、そういったときに教えたり叱ったりすることが必要な場面もあるでしょう。何がどのように良くないのかを話して聞かせることは、子どもの社会性を伸ばすためにも大切なことです。
しかし、怒りの感情のままに、あるいは、人格否定のような子どもを傷つける言葉とともに怒鳴ることは、子どもの心身に悪影響を及ぼすおそれがあります。
・心や対人関係、健康面など様々な面で不安定になりがち
長期的に怒鳴られて育つ子どもに起こり得る具体的な影響には、このようなものがあります。
☑ 人の顔色をうかがうようになる
☑ 怒られないようにすることが判断基準になってしまう
☑ 自信や自己肯定感が損なわれる
☑ 心理的に不安定になり、対人関係に困難が生じやすい
☑ 問題行動や体調不良
大人から怒鳴られることは、子どもにとって非常に恐ろしいことです。恐怖心でいっぱいになると、日頃から人の顔色をうかがい、とにかく怒鳴られないようにしなくては、と考えるだけで精いっぱいになってしまいます。怒られないことを最優先にしがちなので、言動そのものの善悪がよく分からず、社会的な場面で不適応を起こしやすくなってしまいます。
いつ怒鳴られるか分からない不安や緊張、「怒鳴られてばかりの自分はダメな人間だ」という思いを抱えて過ごすのは、自信の無さや自己肯定感の低下を招きます。それは、親子関係以外の人間関係においても困難や様々な問題行動につながります。
また、言葉による暴力は脳機能や自律神経にも影響を及ぼすため、体調面においても様々な症状が出ることがあります。
子どもにとって悪影響があることは分かっていても、どうしても怒鳴ってしまうこともあるでしょう。そんなときは、その後の対処で少しでも悪影響を減らせると良いですよね。どんな対応ができるとよいか見ていきましょう。
・怒鳴ってしまったことは謝る
怒鳴っている時やその直後は怒りやイライラでいっぱいでも、少し時間が経って落ち着いてくると、「怒鳴る必要はなかったかな」という気持ちや、「また怒鳴ってしまった」という後悔がわいてくることもあるでしょう。
そういうときは、子どもに対して「怒鳴ってしまってごめんね」と謝り、怒鳴ったのは大人側の事情によるもの(元々イライラしていた、疲れていた等)であり、あなたが悪いから怒鳴られたのではないということを、子どもの年齢や理解力に応じて分かりやすい言い方で伝えると良いでしょう。
・何を伝えたかったか説明する
そして、本当は何を伝えたかったかを、改めてお話するのも大切なことです。
「危ない行動を止めたかった。怪我をしてほしくないから、もうこういうことはしてはいけないよ」「さっきの○○という言葉は、とても悲しい気持ちになったよ」「時間がないときは、準備に協力してくれると助かるんだけど、どんなことならできそう?」というように、怒鳴りたくなってしまった感情の元にどんな思いや考えがあったかを話し、子どもと話し合うことができるといいですね。
怒鳴ることが必ずしも悪い場面ばかりではありませんが、怒鳴る必要のない状況なのに、つい子どもにヒステリックに怒ってしまうことにお悩みの方も多いことと思います。怒鳴ってから後悔することの繰り返しをやめるには、どうしたらいいのでしょうか。
・怒鳴ってしまうのはどんな時か、どう回避できそうかを考える
子どもに怒鳴るのはどんな時が多いか振り返って考えてみると、自分なりのパターンがあるという方も多いかと思います。時間がないとき、家事がたまっているとき、仕事で疲れているとき、子どもが言うことを聞かないとき等々、怒鳴ってしまうタイミングの傾向を掴むと、対策も立てやすくなります。
子どもに怒鳴ってしまった後で、その状況をメモしておいて、後から落ち着いて見返してみると自分のパターンが見えやすくなるでしょう。
そして、パターンに応じて、どうすれば怒鳴らずに済む可能性が高まるかを考えてみましょう。
・子どもは親とは別人格だと意識する
子どもが思い通りに動いてくれないときについ怒鳴ってしまうというパターンも、とても多いように思います。その背景には、子どもは自分の思うように動くもの、動いてほしい、という期待があると言えます。
日々忙しい中子育てしていれば、親側の事情を優先させたいことがあるのは何もおかしくありません。とはいえ、怒鳴ってしまって親子関係を悪化させたり、子どもに悪影響を及ぼすくらいなら、子どもは親とは別人格の、異なる考えや気持ちを持った存在であることを意識した方が楽かもしれません。
思い通りに動いてくれないこともあって当然だ、と捉え直すと、少しイライラが軽減できるならば、それも怒鳴ってしまって後悔することを減らす大切な手段となるでしょう。
・子どもという「人」ではなく「言動」に問題があると捉える
子どもに怒った時、特にいくつものイライラが積み重なったときなどは、子ども自身に強い怒りを感じてしまうと、その感情は怒鳴るなどの行動に表れてしまいがちになります。そのとき、子どもという「人」に対してではなく、その時の子どもの「言葉」や「行動」に怒りを感じているのだ、と切り分けて考えるようにすると、少し冷静な気持ちを取り戻しやすくなります。
たとえば、子どもがご飯を食べてくれないときは、「食べない子ども」に問題があるのではなく、「せっかく作った食事を食べてくれないという行動」に怒りを感じてしまうのだな、と考えるのです。すると、「なぜ食べないのだろう。お腹がすいていないのかな」等、対策の方に気持ちを持って行きやすくもなります。
いったん怒りに飲み込まれてしまうと、なかなかそんなふうに考えられないという方は、日頃から、「人」と「言動」を分けて捉える練習をしておくのも良いでしょう。
・感情のコントロールを難しくさせる要因に対処する
もし怒鳴りたくなるような衝動や実際に怒鳴ってしまうことの対象が子どもだけではないなら、怒鳴ることの大元に感情のコントロールが困難になるような何らかの要因があるのだと思われます。
仕事や子ども以外のストレス源があるようなら、環境の調整を試みると良いでしょう。また、うつ病・PMS(月経前症候群)・睡眠障害・パーソナリティ障害などの病気の症状として、イライラや怒りっぽさが現れることもあります。思い当たるところや心配な点がある方は、病院や専門家を頼ってみるのも対処法のひとつです。
自分なりの怒鳴るタイミングは何となくわかっても、どうしたら怒鳴らずにいられるか分からない、試行錯誤したけどうまくいかない、というような時や、ご自分の過去の傷つき体験が子どもを怒鳴ることに繋がっていると思われる場合など、自分だけでは対処しきれないと感じたときは、カウンセリングを受けるのも選択肢の一つです。
カウンセリングでは困りごとをじっくり話し、カウンセラーと一緒に最善の対処法を探っていくことができます。
カウンセリングを通じて、自身の内面とじっくり向き合ってみませんか?
うららか相談室では、あなたの「変わりたい」という気持ちを、臨床心理士などの専門家がしっかりとサポートさせていただきます。
日々一生懸命子育てしていれば、時間にも気持ちにも余裕がなくなってしまうのは致し方ないことですし、それゆえに子どもを怒鳴ってしまうこともあるでしょう。強い罪悪感や後悔を感じる方もいるかと思いますが、一度子どもを怒鳴ってしまったら取り返しがつかないというわけでは決してありませんので、その後の対処や今度できるだけ怒鳴らないようにすることを考えていきましょう。
自分で頑張ってもどうしても怒鳴りたい衝動が抑えられないという場合は、専門家の力を借りることも検討されると良いかと思います。