親との関係は、子どもの人格形成に大きな影響を及ぼすといわれています。子どもを過剰にコントロールしたり、不機嫌な態度や暴力で支配しようとしたりする親は「毒親」とも呼ばれ、親子関係を悪化させるだけでなく、子どもの人生そのものに大きな悪影響を与えてしまうことがあります。
今回は、毒親に育てられた人の特徴や、生きづらさへの対処法のほか、子育てで自分が毒親にならないためのポイントなどについても解説します。毒親育ちでつらい思いを抱えている方や、自分が毒親なのではないかと不安に思っている方の参考になれば幸いです。
目次
- 毒親とは
- おわりに
「毒親」とは、医学的・心理学的な正式名称ではありませんが、子どもの人生を支配して、「毒」と表現されるような悪影響を子どもに及ぼす親を指す言葉として広く使われています。具体的には、過干渉・過保護、無関心、暴力・暴言、心理的攻撃などが主な特徴として挙げられます。それぞれ詳しく見ていきましょう。
・過干渉・過保護
過干渉・過保護な親は、子どもの行動を必要以上にコントロールしようとします。子どものことを心配するあまり、過干渉や過保護になってしまう親も少なくないかと思いますが、毒親に多く見られる特徴は、子どものことを思ってではなく、親の願望や期待、世間体といったものを子どもに押し付けて、子どもをコントロールし、支配しようとすることです。具体的な行動の例として、「子どもの友人関係を過度に監視・管理する」「子どもの将来や進路を本人の意思を無視して勝手に決める」などが挙げられます。
・無関心
過干渉とは対照的に、子どもに対して全く目を向けずに無関心すぎる親も毒親といわれています。深刻な場合は、日常的な身の回りの世話でさえ放棄して、ネグレクト(育児放棄)という虐待の一種にいたるケースもあります。また、子どもを放って仕事ばかりしていたり、ほかの兄弟ばかり世話を焼いて特定の子どもだけを無視するなどのケースもあります。
・暴力・暴言
暴力や暴言によって子どもを傷つける行為は、毒親の典型です。暴力や暴言によって子どもを支配したり、ストレスのはけ口にしたりする行為は、心や体を深く傷つけるだけでなく、脳の働きにも悪影響を及ぼす可能性があるといわれています。また、暴力の対象が子ども以外、たとえば配偶者や高齢の家族に向けられることもあります。そのような場面を子どもに見せつけたり、日常的に暴力的な態度を取ったりすることで、恐怖を植え付け、支配しようとするケースもあります。
・心理的攻撃
暴力や暴言といった、誰の目にも明らかな虐待行為だけではなく、心理的に子どもを追い詰めることも毒親の特徴の一つとして挙げられます。たとえば、子どもの個性を認めない、気持ちや考えを軽視する、安心できる家庭環境を与えないといった行為です。具体的には、「あなたのためを思って」と一方的に考えを押し付け、子どもに罪悪感を抱かせて従わせようとするケースや、「あなたにはできない」などと子どもを否定するような言葉を日常的にかけ続けるといった行動が挙げられます。
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毒親のもとで育った人は、心に深い傷を抱え、大人になってからも自己肯定感、対人関係、感情・行動のコントロールなどについて、何らかの問題に悩まされることが少なくありません。よく見られる傾向としては、次のような特徴が挙げられます。
・自己肯定感が低い
毒親に育てられた人は、自己肯定感が低いという特徴があります。親からずっと認められなかったり、否定的な言葉を受け続けたことで、無意識のうちに「自分はダメだ」と思い込み、自己評価が低くなってしまいます。また、親の期待に応えるため、完璧主義になる場合があり、少しの失敗でも強いストレスとなって、自信をなくすという負のループに陥ってしまうことがあります。
・人や物に依存しやすい
毒親に育てられた人は、親に否定されてきた経験によって自尊心が低く、自分以外の誰かや何かを頼って生きようとすることがあります。友人や恋人などに依存して過剰に愛情を求めたり、満たされない心を買い物やギャンブル、お酒などで満たそうとするケースもあります。
・常に相手の顔色を伺ってしまう
毒親に育てられた人は、「自分の言動によって親を怒らせるかもしれない、失望させるかもしれない」という恐怖が心に深い傷を残しており、常にまわりの顔色を伺うことが習慣となっていることがあります。その結果、自分の意見を言うことができなくなったり、他人から批判されることや嫌われることを極端に恐れたりすることがあります。
・罪悪感を抱きやすい
親がいつも辛そうにしていたり、「あなたのせいで私は大変だ」などと言われて育つと、子どもは「自分も楽しんだり幸せになってはいけない」と思い込んでしまうことがあります。このような思い込みがあると、大人になっても罪悪感を抱きやすく、自己犠牲的になってしまいます。
・自分の考えや意思が分からなくなる
毒親に育てられたことによって自己肯定感や自尊心が低い人は、周囲の期待に過剰に応えようとしたり、嫌なことを断れないなど、自分の考えや感情を抑え込む傾向があります。
・攻撃的な態度を取ってしまう
毒親に育てられた人は、依存的である一方で、うまくいかない対人関係などを背景として、相手を試したり脅したりするなど、攻撃的な態度を取ってしまうことがあります。
・精神疾患を発症する可能性
毒親に育てられた子どもは、自立して社会に出ても、自己肯定感の低さ、対人関係の問題、ストレスにうまく対処できないことなどが要因となり、メンタル不調に陥ってしまう傾向があります。幼少期からの毒親との関わりがトラウマとなって、複雑性PTSDの症状が現れたり、うつ病や不安障害などを発症したりするケースもあります。
・自身の子育てに影響することも
毒親のもとで育った人は、その影響が自分の子育てに現れることもあります。幼い頃に親との間で基本的な信頼関係が十分に築けなかったり、ありのままの自分を受け入れてもらえなかった経験があると、自分が親になったときに、どう子どもを育てればいいのかが分からず、戸惑ってしまうことがあります。また、子育てをする中で「自分も毒親になってしまうのではないか」という不安を抱えながら過ごす人も少なくありません。
毒親のもとで育ったことによる生きづらさを改善し克服していくためには、過去の自分と丁寧に向き合い、新しい考え方や行動のパターンを身につけていくことが大切です。ここでは、具体的な対処法をいくつかご紹介します。
・自分が毒親育ちであることを認識する
改善への第一歩は、「自分の親は毒親だったのかもしれない」「自分の育ってきた環境が今の生きづらさに関係しているのかもしれない」と気づくことです。自分が感じている苦しみや生きづらさは、自分の性格や努力の問題ではなく、育った環境の影響が大きいということを理解することで、自分自身を責める気持ちが和らぎ、回復に向けて前向きになれることがあります。
・毒親への気持ちを整理する
自分の中にある毒親への気持ちを整理することも重要です。これまでの環境や親との関係を振り返りながら、自分の中にどんな感情があるのかを見つめていくことで、自分の本当の気持ちに気づけることがあります。怒りや悲しみ、諦めなど、どんな感情も否定せずに受け止めることで、心が軽くなったり、これからの対処法を見つけるきっかけになったりすることがあります。
・毒親と距離を取る
自分の生きづらさの原因が、親との関係にあるかもしれないと気づいたら、親と精神的にも物理的にも距離を取ることを検討してみましょう。親に対して複雑な気持ちや罪悪感を抱くこともあるかもしれませんが、まずは「親をどうするか」よりも、「自分がどう生きるか」を大切にしましょう。同居している場合は、ひとり暮らしを始める、または顔を合わせる時間を少し減らすなどから始めてもよいでしょう。すでに別々に暮らしている場合は、実家に帰る頻度を減らしたり、電話やメールなどの連絡回数を少しずつ減らすのもひとつの方法です。
・自己肯定感を高める
自己肯定感が高まると、前向きに物事をとらえやすくなり、精神的にも安定します。また、他人に対しても寛容になり、良好な人間関係を築きやすくなります。自己肯定感を高めるために、次のような行動を意識してみましょう。
‣自分の長所や成功体験に目を向ける
‣「完璧でなくてもいい」と考える
‣他人と比較するのをやめる
‣ポジティブな言葉を使う
‣自分を褒める習慣をつける
‣体を整えて心の安定を保つ
・物事の受け止め方や行動パターンを見直す
毒親育ちの人は、無意識のうちに「〇〇すべき」「悪いのは自分だ」といった、自分が苦しくなりやすい思考パターンを持ちやすいです。こうした考え方のクセに気づき、少しずつ修正していくことで、心の負担が減り、生きやすさにつながることがあります。考え方が変わると、それに伴って感情や行動も前向きに変化していきます。焦らず、自分のペースで少しずつ取り組んでいきましょう。
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毒親に育てられた人は、自分が親になったとき、自分も同じように子どもを傷つけてしまうのではないかと不安を感じてしまうかもしれません。では、自分が子育てで毒親にならないためには、どのような対処法があるのでしょうか。
・適度な距離感を保つ
毒親にならないためには、子どもと適度な距離感を保ち、過干渉になりすぎないことが大切です。親が過度に介入しすぎると、子どもは自分で考えたり行動したりする機会を失い、自己肯定感や自信を育みにくくなってしまいます。「心配でつい口を出してしまう」という気持ちは親として自然なものですが、子どもを信じて見守る姿勢を意識してみましょう。また、見守りながらも、「いつでもサポートするよ」という気持ちを伝えておくと、子どもの安心感にもつながります。
・ありのままの子どもを認めてあげる
毒親にならないためには、子どものありのままを受け入れ、無条件で認めてあげることも重要です。親が自分の不安を解消するために、子どもに過度に頑張らせたり、自分の思い通りに行動させようとすると、子どもは「良い子」を演じたり、常に親の顔色を伺うことが習慣となってしまうことがあります。子どもは、「何もしなくても、存在そのものが親に受け入れられている」「ありのままの自分を愛されている」という実感を持つことで、深い安心感を得ることができます。この安心感が親子の信頼関係の土台となり、その後の人生でも他人と健全な人間関係を築く力や、精神的な自立につながっていきます。
・親自身が心を安定させる
毒親にならないためには、親自身が心を安定させることも大切です。親自身のメンタルが不安定だと、子どもに対して些細なことでも理不尽に怒鳴ったり、感情的になるなどの行動につながってしまうことがあります。そうした関わりが続くと子どもの心に深い傷を残し、子どもは常に親の顔色を伺うようになり、信頼関係が築けないまま大人になることがあります。誰でも感情的になってしまうことはあるものですが、少しでも心を落ち着ける工夫をしたり、感情をそのまま子どもにぶつけないようにする努力をしてみましょう。
「毒親育ちで生きづらい」「自分が毒親ではないかと不安」といった悩みを抱えている場合、カウンセリングを受けることもおすすめです。毒親育ちで生きづらさを抱えている人は、毒親との距離の取り方や自分の考え方のパターンなどについて、頭では分かっていてもなかなか変えられないことも多いものです。カウンセリングでは、自分の状況や問題、毒親との関係などを、専門家の客観的な視点から見つめ直し、整理することができます。そして、問題の根源を探り、解決や改善に向けた具体的な方法を一緒に考えていくことができます。
カウンセリングは、カウンセリングルーム併設の医療機関で受けられるところもありますし、オンラインのビデオ通話や電話、メッセージを使ったサービスもありますので、自分の状況に応じて利用してみましょう。
今回は、毒親育ちの人の特徴や、生きづらさへの対処法、子育てで毒親にならないための対処法などについて説明しました。先に述べたように、改善への第一歩は、「自分の親は毒親だったのかもしれない」と気づくこと、そして自分が感じている生きづらさは、自分の性格や努力の問題だけではなく、育った環境の影響が大きいということを理解することです。親という存在は人生において大きく、簡単に切り離せないことも事実ですが、生きづらさを感じている場合は、一度自分と親との関係について見つめ直してみましょう。毒親に関する問題は、自分だけや親子だけで解決することが難しい場合も多いです。困ったときは、カウンセリングなど第三者を頼ることも考えてみてください。