赤ちゃんを出産した後に、
「出産後から常にイライラしている。私、どうしちゃったんだろう?」
「育児に参加しようとしてくれている夫に対してもイライラしてしまう。」
と悩むお母さんは非常に多いです。
また、お母さんだけでなく、
「これまでほとんど怒ることなんてなかった妻が、出産後からずっとイライラしている。」
「イライラしている妻にどう関わったらいいのかわからない。」
と悩んでいるお父さんも少なくありません。
このような産後のイライラが起こるのは“ガルガル期”だからかもしれません。
そこで、このコラムでは、ガルガル期とは何か、どのくらいの期間続くのかについて解説します。
また、ガルガル期の対処法や対策、パートナーにできることについてもご紹介します。
目次
- おわりに
ガルガル期とは、医学用語ではなく、産後のホルモンバランスの乱れによって、精神状態が不安定になりイライラしやすい時期のことです。
この産後のイライラは、母親の脳から放出される「オキシトシン」というホルモンが引き起こしていることがこれまでの研究によってわかってきました(*1)。
オキシトシンは、出産時に子宮を収縮させて出産を促し、脳にも直接働きかけて、わが子やパートナーへの愛情を深める働きがあるため、別名「愛情ホルモン」とも呼ばれていますが、逆にその愛情を邪魔する相手に対しては、わが子を守ろうとする防衛本能も働き、攻撃性を高めます。そのため、産後は気が立っていて、イライラしてしまうというわけです。
このように、オキシトシンの働きとわが子を守ろうとする防衛本能の働きによって、愛情を邪魔する相手に対しては、動物が「ガルルルル…」と威嚇するように攻撃性が高まることが、「ガルガル期」と呼ばれる理由です。
産後にイライラしてしまうガルガル期という時期があることをご説明しましたが、「こんなイライラした状態はいつまで続くの?」と思われた方もいらっしゃるでしょう。
ホルモンバランスの乱れによるものですので、個人差はありますが、ガルガル期は産後すぐから始まって1~3ヶ月程で落ち着く人もいれば、半年以上続く人もいるようです。
イライラだけでなく、以下のような症状が2週間以上続く場合には、ガルガル期ではなく産後うつと診断される可能性がありますので、医師や保健師に相談しましょう。
・からだが疲れやすく、何もする気力がない。
・理由もないのに不安になる。
・食欲がなくなる。
・あまり眠れない。
・悲しくなり、泣いてしまう。
・必要以上に自分を責めてしまう。
ガルガル期でイライラが止まらないときの対処法や対策をご紹介します。
「これは自分に合いそうだな。」と思えるものがありましたら、ぜひ試してみてください。
●赤ちゃんと離れてお母さんがリフレッシュする時間を作る
産後の生活の中で、特にガルガル期は、お母さんが赤ちゃんを守ろうと必死になっている時期のため、赤ちゃんと離れることは考えられないかもしれません。しかし、お母さんが常に神経を張り詰めていてイライラしていると、赤ちゃんを守っていくための体力も気力もどんどん削られてしまいます。赤ちゃんを守るための体力・気力を回復させるためにも、お母さん自身がリフレッシュする時間を作ることが大切です。
例えば、美容院やエステに行く、マッサージや整体で体をほぐしてもらう、一人での買い物をする、友人と会う、元々の趣味の時間に使う、といったことがお勧めです。
「リフレッシュしたいけど、赤ちゃんと離れる時間なんて、どうやって作ったらいいの?」と思われた方もいらっしゃるでしょう。
時間の作り方として以下の方法を検討してみてはいかがでしょうか?
【周りの人を頼る】
赤ちゃんを周りの人に預けて、お母さんが自分のために使える時間を確保するのも1つの方法です。
・パートナー:男性もわが子と触れ合うと、先ほどご説明した「愛情ホルモン」であるオキシトシンが体内で増えるため、お父さんと赤ちゃんの親子間の愛情が深まります。つまり、お父さんに赤ちゃんを預けて、お母さんが自分の時間を作ることは、お父さんにもお母さんにも赤ちゃんにもメリットがあると言えます。
・家族:両親やきょうだい、義父・義母や親戚など、信頼できる家族を頼るのもよいでしょう。
【利用できるサービスを使う】
・自治体の産後ケアサービス:退院直後の母子に対して心身のケアや育児のサポート等、きめ細かい支援を実施するサービスです。宿泊型、デイサービス型、訪問型(アウトリーチ型)があり、助産師、保健師、看護師など専門の担当者が支援にあたります。赤ちゃんのケアをプロに任せてお母さんが休養をすることも可能です。
・一時預かり保育事業:保育園や認定こども園、地域の子育て支援センターなどの施設で、乳幼児を短時間預けられる保育サービスです。お母さんのリフレッシュ目的での利用も可能です。多くの施設は生後6ヶ月から利用可能となりますが、一部の施設では生後57日から預けられる場合もありますので、ガルガル期に利用することが可能な場合もあります。
・ベビーシッター:自宅で保護者の代わりに赤ちゃんを預かり世話をしてくれるサービスです。お母さんが外出している間に赤ちゃんのお世話をしてもらうこともできますし、お母さんが自宅にいて赤ちゃんのお世話をしてもらっている間に自宅で休養することもできます。
●寝る
出産後のお母さんは赤ちゃんのお世話で日々の睡眠時間が不足しています。睡眠不足は感情のコントロールがしづらくなり、負の感情に対して敏感になると言われています(*2)。ガルガル期に睡眠不足が重なることで、イライラが増してしまう恐れがありますので、赤ちゃんのお昼寝に合わせてお母さんも一緒に寝るようにするなど、少しの時間でも寝ることで、イライラを抑えることにつながります。
●今ガルガル期だと周りに宣言する
お母さんがイライラしている理由がわからないと、周りの人たちはどのように対応したらよいのかわからず困ってしまうことがあるかもしれません。また、「理不尽にイライラをぶつけられた。」と感じた周りの人たちとの関係が悪くなってしまう恐れもあります。
そうなってしまう前に、「今ガルガル期って言って、ホルモンバランスの乱れでイライラしやすい時期らしくて、私もイライラしていることが多いと思う。」と自分から宣言し、周りの人の理解を得ておくとよいでしょう。
ガルガル期であることを宣言することに加えて、「私がイライラしているときは、赤ちゃんのお世話を代わってほしい。」、「私がイライラしていたら、話を聞いてほしい。」など、周りの人たちにどう対応してほしいのかということも伝えておくことがお勧めです。
●誰かに話してみる
理化学研究所脳科学総合研究センターの実験によると、育児中のお母さんがリラックス状態となった時間の一つとして、お母さんがお父さんと向き合って会話をしていた時間がありました。お父さんがお母さんの気持ちに寄り添って話を聞いてくれたことでリラックスにつながったと考えられるそうです(*1)。
このように安心できる相手との何気ない会話をすることがお母さんのリラックスにつながりますので、誰かに話してみることは、ガルガル期の対処法としてお勧めです。
しかし、落ち着いて話をできる時間に、話せる相手がいない場合もあるでしょう。そのような時にはカウンセリングを利用することもお勧めです。オンラインカウンセリングであれば、自宅にいながらビデオカウンセリングや電話カウンセリングを受けられます。「アドバイスは求めていないので、ただ話を聞いてほしい。」といったご要望にもお応えできますので、一度カウンセラーに話してみてはいかがでしょうか。
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「産後の恨みは一生」と言いますが、これは「愛情ホルモン」と呼ばれるオキシトシンが記憶とも深く結びついているホルモンのため、産後の時期の記憶が残りやすいことが一つの要因となっています。産後の大変な時期にパートナーが育児に参加してくれなかった恨みはお母さんの記憶に残りやすいのです。
また、2021年のこども家庭庁の調査によると、子育て家庭の離婚件数は、末子の年齢が0~2歳までの時期に最も多くなっています(*3)。
産後の記憶が残りやすいことと上記の調査結果を踏まえると、産後の夫婦の関係性がその後の家族の生活に大きく影響すると言っても過言ではないでしょう。
では、産後のガルガル期に、パートナーにできることはなんでしょうか?
この章では、パートナーにできることをご紹介します。
●ガルガル期のことを理解する
ここまで解説してきたガルガル期について理解し、「ああ、妻は今ガルガル期なんだな。ホルモンバランスの乱れでイライラしているんだったら、妻は自分でもどうしようもなくてつらいだろうな。」とお母さん側の立場で捉えてみるとよいでしょう。
また、前章で挙げたガルガル期の対処法についても理解し、お母さん自身がリフレッシュする時間を作れるように協力するということもパートナーにできることの1つです。
●話を聞く
前章で、お父さんがお母さんの気持ちに寄り添って話を聞いてくれたことがお母さんのリラックスにつながったという実験結果をご紹介しました。ずっと赤ちゃんと向き合っているお母さんにとって、言葉の通じる大人に、自分の気持ちに寄り添ってもらいながら話を聞いてもらう時間は貴重です。
パートナーが話を聞く際は、アドバイスをするよりも「うん、うん。」と相槌を打ちながら傾聴することが大切です。また、パートナーが体も顔もお母さんの方に向けて、「あなたの話を聞いていますよ。」という姿勢で話を聞いてくれると、お母さんは安心することができ、パートナーを“親子の愛情を脅かす敵”ではなく“安心させてくれる味方”だと捉えられるようになります。
●育児に参加する
「産後の恨みは一生」と言われる理由として、オキシトシンが記憶と結びついていることをご説明しましたが、裏を返せば「産後の“恩”は一生」とも言えます。産後にパートナーが育児に参加し、“一緒に子育てをする仲間”になれると、その恩はお母さんの記憶にしっかりと残ります。そのため、ガルガル期にパートナーが育児に参加することは、後々の夫婦関係を良好に過ごせる可能性を高めると言えるでしょう。
また、ガルガル期に限ったことではありませんが、前章でご説明したように、お父さんが赤ちゃんを抱っこして触れ合うと「愛情ホルモン」であるオキシトシンが体内で増えるため、お父さんが育児に参加することで父子間の愛情が深まるというメリットがあります。
パートナーが育児に参加することは、ガルガル期を乗り越えるためにも、夫婦関係・親子関係を良好に過ごすためにも、必須の条件と言えるのではないでしょうか。
ここまで解説してきたように、産後のガルガル期はホルモンバランスの乱れによって起こるものではありますが、お母さんとしては育児で大変な時期に、パートナーや家族にイライラをぶつけてしまうと自分が自分でないようでつらい思いをすることもあるでしょう。イライラすると体力・気力を消耗して疲れてしまう場合もありますし、怒りたくもないのに怒ってしまうことで自己嫌悪に陥ってしまうお母さんも少なくありません。
誰かに話して、ガルガル期であることを理解してもらい、そのつらさに共感してもらえるだけでも、気持ちが楽になることがあります。周りに話せる人が見つからない場合は、一度カウンセラーに話してみてはいかがでしょうか。
参考文献
*1:NHKスペシャル「ママたちが非常事態!?」取材班 監修、ふじいまさこ 著 (2016) 「ママは悪くない!子育ては“科学の知恵”でラクになる」 (主婦と生活社)
*2:柳沢正史 監修 (2024) 「快眠法の前に今さら聞けない睡眠の超基本」 (朝日新聞出版)
*3:こども家庭庁 (2021) 「令和3年度 全国ひとり親世帯など調査結果の概要」