赤ちゃんが無事に産まれて、ほっとするのもつかの間、お世話に明け暮れる毎日、夜中に何度も起きる、なかなか泣き止まないなど、戸惑うことも多いですよね。
特に一人目の出産ですと、分からないことだらけで不安ですし、様々な情報や育児本が溢れていて、何を信じて子育てをすればいいのか悩みます。
ここでは、母親であれば誰しもが経験する可能性のある「産後うつ」の症状と治療、対処法、周囲の対応、予防などについて述べていきます。
目次
- 産後うつの背景
- 産後うつとは
- 産後うつ病の症状
- 産後うつ病の治療
- おわりに
厚生労働省の「平成31年第1回妊産婦に対する保健医療体制の在り方に関する検討会」の資料によると、「妊娠・出産・産後の不安に関する状況」について、妊産婦のうち、妊娠・出産・産後の期間に不安や負担を抱えている方は、8~9割程度いるという結果になっています。
また、「産後2週間未満の方」の不安の内容をみてみると、「自分の体のトラブル」は56.1%の方が感じており、続いて「十分な睡眠がとれない」は54.2%、「妊娠・出産・育児の疲れ」は53.4%の方が感じています。
また、晩婚化に伴い平均出産年齢が上がっていることや、出生時が2500g未満の低出生体重児の割合が9.4%とおよそ10人に1人の割合であることなどが、出産に不安を感じる原因となっていると考えられます。
同資料によると、「結婚や出産を取り巻く状況」すなわち育児環境について、「妊娠中又は3歳未満の子どもを育てている周囲や世間の人々に対する意識」という項目では、「社会全体が妊娠や子育てに無関心・冷たい」が36.3%(非常にそう思う、まあそう思うの合計)、「社会から隔絶され、自分が孤立しているように感じる」が33.8%となっています。
また、「地域の中での子どもを通じたつきあい」という項目では、「子育ての悩みを相談できる人がいる」と回答した割合が2003年の73.8%から2014年には43.8%に減少、「子どもを預けられる人がいる」という項目も57.1%から27.8%に減っています。
以上の結果をみても、子育てが母親一人にかかる負担感、孤独感、不安などが浮き彫りになっています。
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産後うつとは、「分娩後の数週間、ときに数か月後まで続く、極度の悲しみやそれに伴う心理的障害が起きている状態」です。(MSDマニュアル家庭版による)
ここでは、参考までに、国際的に普及している、英国王立精神科医学会による「エジンバラ産後うつ病自己評価票」を挙げておきます。
各質問に対して、過去7日間の自分の気持ちに最も近いものを選び、点数を合算します。
合計点数が9点以上だと、産後うつ病の可能性があるといわれています。
質問は以下の10項目です。
1.笑うことができたし、物事の面白い面もわかった。
「いつもと同様にできた」(0点)
「あまりできなかった」(1点)
「明らかにできなかった」(2点)
「全くできなかった」(3点)
2.物事を楽しみにして待った。
「いつもと同様にできた」(0点)
「あまりできなかった」(1点)
「明らかにできなかった」(2点)
「全くできなかった」(3点)
3.物事が悪くいった時、自分を不必要に責めた。
「はい、たいていそうだった」(3点)
「はい、時々そうだった」(2点)
「いいえ、あまり度々ではなかった」(1点)
「いいえ、全くそうではなかった」(0点)
4.はっきりとした理由もないのに不安になったり、心配した。
「いいえ、そうではなかった」(0点)
「ほとんどそうではなかった」(1点)
「はい、時々あった」(2点)
「はい、しょっちゅうあった」(3点)
5.はっきりした理由もないのに恐怖に襲われた。
「はい、しょっちゅうあった」(3点)
「はい、時々あった」(2点)
「いいえ、めったになかった」(1点)
「いいえ、全くなかった」(0点)
6.することがたくさんあって大変だった。
「はい、たいてい対処できなかった」(3点)
「はい、いつものようにはうまく対処しなかった」(2点)
「いいえ、たいていうまく対処した」(1点)
「いいえ、普段通りに対処した」(0点)
7.不幸せなので、眠りにくかった。
「はい、ほとんどいつもそうだった」(3点)
「はい、ときどきそうだった」(2点)
「いいえ、あまり度々ではなかった」(1点)
「いいえ、全くそうではなかった」(0点)
8.悲しくなったり、惨めになった。
「はい、たいていそうだった」(3点)
「はい、かなりしばしばそうだった」(2点)
「いいえ、あまり度々ではなかった」(1点)
「いいえ、全くそうではなかった」(0点)
9.不幸せなので泣けてきた。
「はい、たいていそうだった」(3点)
「はい、かなりしばしばそうだった」(2点)
「ほんの時々あった」(1点)
「いいえ、全くそうではなかった」(0点)
10.自分自身を傷つけるという考えが浮かんできた。
はい、かなりしばしばそうだった(3点)
時々そうだった(2点)
めったになかった(1点)
全くなかった(0点)
以上です。
もしかして産後うつかも、と思っている方は、相談や受診の参考にしてみて下さい。
産後うつ病の主な症状には、
などが挙げられます。
また、疲労感、睡眠障害、頭痛、興味の喪失、不安が強くなるなどの症状が併発する場合もあります。
マタニティブルーは、「the 3rd day blue」との別名があり、出産後3日後をピークに症状が出現し、10日~2週間あれば、特に治療を必要とせずに、よくなっていきます。
マタニティブルーは、出産した母親の約半数に認められる症状だといわれるほど一般的で、その原因は、「女性ホルモンの急激な変化」「母親になるという責任の重さ」「月経前症候群(PMS)(※)の既往」などとの関連が指摘されています。
(※)月経前症候群(PMS)・・・月経の3~10日ほど前になると、精神的・身体的に不快な症状があらわれ、生理が始まると症状がなくなる傾向のこと
マタニティブルーも、気分の浮き沈み、涙もろさ、不眠、不安、意欲低下などの産後うつと似た症状がありますが、産後うつと違うのは、自然と治っていくというところです。
マタニティブルーは、治療を必要としませんが、稀にそのまま産後うつ病に移行する場合もあります。マタニティブルーが長引いていると感じたり、産後数週間~数か月経っても、うつのような状態が続いたりしているなら、婦人科、心療内科、各自治体の保健師に相談することをおすすめします。
うつ病の治療には、一般的に抗うつ薬などの治療薬を使います。妊娠中や授乳中に薬を飲むことに抵抗があり、受診が遅れてしまう方も多いようです。
現在では、どの時期にどの程度の副作用が起こるか、という医療情報(エビデンス)も蓄積されてきていますので、治療方針について、医師とよく相談しましょう。
内服治療の他にカウンセリングも効果がありますし、十分な休養、周囲の人の理解や協力も必須です。
産後のつらい気の落ち込み、一人で悩み続けないでください。
このようなことでお悩みではありませんか?
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産後うつは、きちんと治さないと長引くこともあります。
慢性化、重症化してしまうと、「このまま消えてしまいたい」「赤ちゃんが可愛く思えない」「母親としてだめだ」などと、どんどん悪い方向へ考えてしまいます。
さらに追いつめられると、虐待などをしてしまう可能性もはらんでいます。
また、軽い産後うつ病でも、赤ちゃんは母親の憂鬱な気分を感じ取り、不安定な気持ちになってしまうこともあります。
大切な赤ちゃんのためにも、「産後うつかな?」と不安に感じたら、まずは地域の保健師など身近な専門職に話してみましょう。
ここで大切なのは、もし気分が落ち込んでしまっても、それは母親のせいではなく、急激なホルモンバランスの変化や、授乳による不規則な生活で睡眠不足になるなど、うつ病が発症しやすい要因がそろっているためだと理解することです。
疲れているな、と感じたら、自分を責めずに、周囲の協力を得て、ゆっくり休みましょう。
これまでも述べてきましたが、産後うつは決して、珍しい病気ではありませんし、罹患した方の甘えではありません。
産後うつになってしまった奥さまや娘さんを責めたり、焦らせたり、不安にさせる言動には注意しましょう。
基本は、夜中の授乳で睡眠不足であることも多いので、ゆっくり休めるような環境を作ってあげることが大切です。
また、ホルモンバランスの変化による不調もあり、出産前と同じように家事ができなくなるため、周囲の人は育児をおおらかに見守ることも大事です。
現代の母親は、情報が氾濫する中、初めての育児で混乱していることも多いので、あれこれと細かく口出しをしたりするのではなく、「何かできることはあるかな?」と、やってほしい家事などについて、具体的にきいてみましょう。
「私は、大変でも一人で子育てをした」とか、「なんで部屋が汚いの?食事はこれだけ?」などと、落ち込んでいるところに、さらに傷つくことを言うのはもってのほかで、やってはいけません。
加えて、産後うつ病から回復してもらうために、家事支援サービスやベビーシッターなども積極的に利用することも考えましょう。
「ずっと家にいるのに」などと思わずに、赤ちゃんのお世話をするための必要経費と考えましょう。
大切な赤ちゃんに元気に幸せに育ってもらうためには、母親が心身ともに健康でいることが大事なのです。
家族や身近な人たちも、「一緒に子育てをしていく」という感覚でいて下さい。
働きたくてもキャリアの中断が不安でも、出産や育児のために、やむを得ず仕事を休んでいる女性は世の中にたくさんいます。
子育てが「妻の手伝い」ではなく、「共に育てていく」という責務だと捉えると、父親自身が子育てで重要な役割を担っていることを実感できるかと思います。
産後うつは、ホルモンバランスの急激な変化や睡眠不足、慣れない育児、孤独感などから、誰でもなりうる可能性があると述べてきました。
特に、以下のような方は、産後うつに注意した方がいいといわれています。
次に具体的な対策を挙げてみます。
1.周囲に育児の協力を求める
お子さんが生まれたら、あるいは生まれる前に、身近な家族へ、お手伝いをお願いしたい、と相談しておきましょう。
上の子がまだ小さい場合や初めての出産である場合、里帰りや両親の協力も必要になります。自分が生まれたときの話を聞いたりして、少しずつ不安を解消していきましょう。
2.母親学級などでママ友だちを作っておく
初めての育児は、不安や分からないことだらけです。産婦人科や自治体で行なっている母親学級に参加し、知識を得ると同時に、気軽に話し合えるママ友だちを作っておくと、産後も心強いです。
また、職場などで、少し年上のお子さんがいる先輩ママと知り合いになっておくと、分からないことを相談できますし、頼りになります。
3.いざというときの小児科、専門機関をチェックしておく
里帰りをする方や産後に過ごす地域に詳しくない方は、お子さんが生まれる前に、地域の医療機関の体制や場所をチェックしておくと安心です。
また、保健センターなどの相談窓口なども確認しておくと、困ったとき、悩んだときにスムーズに相談できます。
4.利用できる支援について調べておく
最初は、慣れない子育てでぐったりしてしまうことも考えられます。
身近に協力してくれる身内がいない場合は、費用は多少かかりますが、思い切って家事支援サービス、ファミリーサポート、ベビーシッターなどを依頼するという手段も有効です。
くたくたになって不機嫌でいるより、支援サービスを利用し、赤ちゃんやご主人と快適に過ごす、という選択肢も考えておくと気持ちが楽になります。
また、保育園の利用は、就労以外に母親の病気などの理由でも入所可能です。生後43日から預かってくれる保育園もあるようですが、発育が安定した生後5か月くらいからなら可能、という保育園が多いようです。利用希望の際は、市町村の児童福祉課に相談してみて下さい。
5.手軽に気分転換できる趣味を見つけておく
赤ちゃんのお世話で疲れたときに、好きな音楽を聴く、綺麗な写真集を見る、好きな作家の小説や漫画を読むなど、手軽に楽しめるお守りのような趣味を持っておくと便利です。
赤ちゃんのお世話が思い通りにいかなくてイライラしたときも、赤ちゃんが寝ている時間に、すっきりと心を切り替え、エネルギーを充電できるように、何か自分一人でもできる楽しみを見つけておきましょう。
産後うつについて述べてきましたが、ストレスの多い今の時代、産後うつは珍しいことではありません。おかしいな、と感じたら、地域の保健師などに相談してみましょう。
また、普段から、育児の不安や悩みを周囲の親しい人に話す、協力をお願いする、家事支援サービスやベビーシッターを利用してみる、といったことができると、少し気が楽になるかもしれません。
育児は長く続くので、無理せずに休養をとり、辛いときは周囲の助けを借りながら、ゆったりした気分でお子さんを見守れるといいですね。
<参考文献>
⻄ ⼤輔, 妊娠・出産に伴ううつ病の症状と治療 | e-ヘルスネット(厚生労働省), https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-03-001.html(2021-10-25参照)
産後うつ病 - 22. 女性の健康上の問題 - MSDマニュアル家庭版, https://www.msdmanuals.com/ja-jp/%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%A0/22-%E5%A5%B3%E6%80%A7%E3%81%AE%E5%81%A5%E5%BA%B7%E4%B8%8A%E3%81%AE%E5%95%8F%E9%A1%8C/%E7%94%A3%E8%A4%A5%E6%9C%9F/%E7%94%A3%E5%BE%8C%E3%81%86%E3%81%A4%E7%97%85(2021-10-25参照)
公益社団法人 日本産婦人科医会(2017)妊産婦メンタルヘルスケアマニュアル~産後ケアの切れ目ない支援に向けて~, http://www.jaog.or.jp/wp/wp-content/uploads/2018/03/mentalhealth2907_L.pdf(2021-10-25参照)
厚生労働省(2019)第1回妊産婦に対する保健医療体制の在り方に関する検討会, https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/000479293.pdf(2021-10-25参照)