認知行動療法は、カウンセリングの手法のひとつです。文字通り、認知の癖や行動を変容させ、より良い捉え方や行動ができるようにしていく方法です。
セルフケアの一環として自分で行うことも可能なので、認知行動療法という名前だけでも覚えておくと、何かのタイミングで役に立つかもしれません。
今回は、そんな認知行動療法についてお伝えしていきます。
目次
- 認知行動療法とは
- おわりに
認知行動療法(英語の”Cognitive Behavior Therapy”の略でCBTとも呼ばれます)とはどのようなものか、その概要から見ていきましょう。
・様々な症状の治療や不安感などの軽減に用いられる
認知行動療法は、アメリカの精神科医ベックによって、うつ病の治療技法として開発されました。その後、対象となる疾患を広げながら世界中で用いられるようになり、日本でも1980年代から使われるようになりました。
現在では、うつ病・不安症・恐怖症・強迫性障害・心的外傷後ストレス障害など、様々な病気や障害の治療に用いられ、効果が認められています。
明確な診断名が付くほどの症状ではなくとも、不安感や恐怖感、人間関係におけるつまずきやストレスへの対処法としても有効です。
副作用がなく、いったん身につければ日常生活のあらゆる場面に応用できるので、とても活用性の高い方法と言えます。
・考え方の癖を修正するための心理療法
認知行動療法の「認知」とは、簡単に言うと物事の捉え方を指します。つまり、何かを見聞きした時にそれをどう捉え、どのような体験として受け止めるかを「認知」と言いますが、認知は人によっても状況によっても大きく異なります。
たとえば、コップ半分の水を見て「もう半分しかない」と思う人もいれば、「まだ半分もある」と捉える人もいます。このような認知には、その人がそれまでの人生で培ってきた捉え方の傾向や、その時の気分・感情が反映されることが多いです。そして、その認知によって生じる感情や考え(自動思考と呼ばれます)に沿った行動を選びがちです。
自分を辛くさせるような認知の癖がついてしまっている場合、認知を変えていくことでより楽な受け止め方ができるようにして、気持ちや行動もより適応的なものにしていくのが、認知行動療法です。
認知行動療法を通じて、自分の悩みとじっくり向き合ってみませんか?
うららか相談室では、あなたの「変わりたい」という気持ちを、臨床心理士などの専門家がしっかりとサポートさせていただきます。
ここからは、実際の認知行動療法のやり方についてお話します。実践する専門家や施設、治療を受ける方のお困り事などによって実際のやり方は様々ですので、基本的な部分をご紹介します。
・30分以上のセッションを16~20回ほど行うのが基本
医療機関やカウンセリングルームなどで系統立てて認知行動療法をする場合は、1回30~50分のセッションを16~20回ほど行うことが多いです。
治療者と話し合って、今のお悩みやその要因などを整理して共有し、その日に取り扱う課題(アジェンダと呼ばれます)を設定して、認知行動療法を進めていきます。
セッション中に認知行動療法を行うだけでなく、次のセッションまでの間に普段の生活の中で行うホームワークが出されるのも、認知行動療法の特徴です。ホームワークのアジェンダも、セッションの中で決めます。
次回のセッションでホームワークの内容を振り返り、認知の癖や適切な行動などへの理解を深め、その日のアジェンダを決めていく、という流れが基本です。
実施機関や症状などによっては、必ずしも連続したセッションではなく、単発的に認知行動療法を活用するなど、実際のやり方は様々です。
・ストレスフルな出来事への感情や思考、反論を出す
認知行動療法の基本的な流れを、「コラム法」と呼ばれるやり方を例にご紹介します。
以下の項目に沿って、記録表に記入していきます。
☑状況:ストレスを感じた出来事やモヤモヤする事など気になっていることを客観的に書く
☑感情:その出来事で感じた気持ちを挙げ、その強さを数値化する
☑自動思考:その出来事が起きたときに自動的に浮かんだ考え(自動思考)を挙げる
☑それ以外の考え:自動思考の反論となる、自分を楽にする適応的な考えを挙げる
☑結果:気持ちや自動思考がどう変化したか、再度数値化する
実践の前後に不安の度合いを測る質問紙に記入する、1~10で言うとどれくらいかを考えるなどして、お悩みの強さを数値化し比較することで、認知や感情の変化を見ることもあります。
上記のコラム法を例にして、普段の生活の中でセルフで行う場合のやり方を具体的にご紹介します。
・メールの返信がないのは自分のせい?
今回は、友人にメールをしたのに返信が来ないことを課題にして、コラム法を行った場合を一例とします。
☑状況:昨日、○○さん(友人)にメールしたけどまだ返事が来ない
☑感情:不安90%、焦り80%、怒り30%
☑自動思考:何か怒らせるようなことを書いてしまったんじゃないか90%、
嫌われているのかもしれない、
すぐ返信できそうな内容なのになぜ返事をくれないのだろう
☑それ以外の考え:送信したメールを読み返しても特に怒らせるようなことは書いていない忙しくて返信できないだけかもしれない70%
返信のタイミングは人それぞれだ
☑結果:不安60%、焦り50%、怒り10%
何か怒らせるようなことを書いてしまったんじゃないか30%
実施前は、メールの返信がないのは自分のせいだと思ったり、期待通りのタイミングで返信をくれない相手に怒りを感じたりしていましたが、自分のせいだという証拠はなく、相手側にも事情があるという視点を得ることができ、実施後は不安などの感情や自動思考の度合いが軽減しています。
返信がない現実は変わっていないのに、認知を修正したことによって気持ちを楽にすることができたと言えます。
・文字化して記入することがポイント
医療機関などで行う場合は記録用紙が用意されていることが多いですが、セルフケアとしてご自分で行う場合は、上記のような内容をノートや手帳など何らかの紙に記入していきます。スマホのメモ機能などでも大丈夫です。
また、厚生労働省や医療機関など、記録用紙がダウンロードできるサイトもありますので、それを利用するのも分かりやすくておすすめです。
ここからは、認知行動療法の効果をより詳しくお話します。
・考え方の癖を知り、修正できる
認知行動療法を続けていくうちに、自分によくある自動思考のパターンが見えてきます。「私はいつもこんなふうに考えて、自分を余計に辛くさせてしまうみたいだ」と気づくことができるのは、認知行動療法の効果の第一歩と言えます。
そして、その自動思考への反論を考えることを通じて、より適応的な、過剰に自分を苦しめない別の考え方があることも実感できます。
そして、ひとつの考えだけにとらわれず、別の視点による楽な考え方に自分で到達できるようになっていきます。
・客観的現実を適切に捉えられるようになる
自動思考はその人ならではの考え方の癖なので、客観的現実から離れた思い込みである場合が往々にしてあります。
認知行動療法で自動思考に反論しながら新たな思考を見つけていく中で、より現実に近い捉え方が見えるようになり、思い込みから抜け出しやすくなります。
・余計な感情に振り回されなくなる
自動思考によってネガティブな考えや感情が湧き出てくると、そのことで頭がいっぱいになったり、それによって人との接触を避けてしまったりと、気持ちも行動も振り回されてしまいがちです。
自動思考を修正すれば、それに連動してネガティブな気持ちや考えを抱える時間も短くなり、余計な感情に振り回されず、不適応的な思考や行動をより適切なものに変えていくことができます。
・ストレスの軽減や精神疾患の再発予防
ストレスを溜めがちな認知から現実的・適応的な認知になっていくと、状況が同じであっても、これまでのような捉え方をしなくなるだけで、体感するストレスが軽減されます。
状況自体を変えた方が良い場合ももちろんありますが、どこへ行っても同じパターンで上手くいかなくなるというような場合は、本人の認知を修正することで状況を改善できますし、うつ病や不安障害などの再発予防にもつながります。
認知行動療法は、様々な場所で受けることができます。
・医療機関などで実施可能
認知行動療法が受けられるのは、以下のようなところです。
☑病院・クリニック・カウンセリングルーム
☑オンラインカウンセリング
☑学校
☑会社
お悩みの深刻度やしんどさが強い場合は、精神科や心療内科など病院やクリニックで、診察や薬物療法と並行して認知行動療法を行うことが望ましいケースもあります。
また、カウンセリングルームや、学校・会社など所属機関の相談室にて認知行動療法が受けられるところもあります。通うことが難しい場合や気軽に始めたい時などは、オンラインカウンセリングでも実施可能です。
いずれの場所も、認知行動療法を実施している医師やカウンセラーが居ない場合もありますので、事前にホームページなどで認知行動療法を受けられるか確認しておくと良いでしょう。
何でもネガティブに捉えがちで、自動的に湧いてくる考えが自分を苦しめるものであることが多いなら、認知行動療法で考え方の癖を変えていくと楽になれそうです。
向かない人がいるとしたら、とにかく話を聞いてほしい方や、コラム法の場合は書くことが苦手な方かと思いますが、それ以外の多くの方々に効果が期待できる方法です。セルフで行うこともできますが、一人だと三日坊主になってしまいそうなら、医師やカウンセラーと一緒に取り組んでみると良いでしょう。