不安という感情は、誰もが生活の中で感じる感情のひとつです。人前での発表や、新しい環境に変わるとき、仕事で失敗したときなど、不安を感じることは自然なことですよね。
しかし、不安が過度に強くなったり、特別な理由もなく急に不安感に襲われたり、不安がずっと続いたりして日常生活に支障が出ている場合は、注意が必要かもしれません。
今回は、急に不安感に襲われる原因や、不安障害の可能性、対処法などについてご説明します。
目次
- 不安とは?
- おわりに
不安とは、これから起こりうることに対して、危険性の有無、大丈夫かどうか、どう対応したら良いのかなどを悩み考えることによって生じる、不快で、憂うつな感情のことをいいます。「失敗したらどうしよう」「うまくいかないかもしれない」などと、まだ起きていないことに心がとらわれているような状態です。
不安は、人が生命の危機や危険を避けて生活していくために、とても大切な感情です。不安な感情があるからこそ、人はケガやトラブルを回避するために、適切に行動を選択することができます。
しかし、不安が強くなりすぎたり、コントロールできなくなるなど、日常生活に影響が出ている場合は、注意が必要です。
上記で述べたような、自然な反応としての不安とは別に、急に強い不安感に襲われることもあります。苦しい不安感のために生活に支障が出たり、不安な気持ちが頭から離れず、ぐるぐるとネガティブなことを考え続けてしまうのは、とても辛いことです。このような不安感に襲われる原因は何なのでしょうか。よく見られる原因について、紹介します。
・ストレス
ストレスは、不安と密接に関わっています。過度にストレスや疲れがたまっていると、感情のコントロールができなくなり、些細なことに対して不安や恐怖を感じ続けてしまうことがあります。
「夜になると急に不安になる」「不安で涙が止まらない」などの不調がみられる場合、ストレスが原因のひとつであることが少なくありません。また、これらの不調が続いている場合は、うつ病や適応障害の可能性も考えられます。思い当たる節がある方は、早めに医療機関などを受診しましょう。
・自律神経の乱れ
自律神経のバランスの乱れも、急な不安感の原因になります。
自律神経には、「交感神経」と「副交感神経」の2種類があり、これらがバランスを取りつつ身体の働きをコントロールしています。交感神経はストレスや危険を感じると活性化し、体を非常事態にすぐ対応できる状態にしますが、これが過剰になると慢性的な不安感を引き起こすことがあるといいます。一方、副交感神経はリラックスを促進し、不安感を和らげる役割を果たします。
ストレスや不規則な生活、栄養不足、血糖値の乱れなどは交感神経を過剰に刺激し、副交感神経の活動を抑制します。このような状況に置かれていると、特に思い当たることがなくても漠然とした不安感が続くことがあります。
・不安障害
特に理由もなく強い不安感に襲われたり、動悸や過呼吸などの身体症状が現れている場合は、不安障害の可能性も考えられます。不安障害にはいくつかの分類がありますが、代表的なものを以下にご紹介します。当てはまる症状がある場合は、無理をせず、早めに医療機関などに相談しましょう。
1) パニック障害
パニック障害は、突然、急激な不安・恐怖と、動悸や息苦しさなどのさまざまな身体症状を伴うパニック発作が出てきてしまう障害です。「このまま死んでしまうのではないか」と感じるほどの症状が出ることもありますが、内科などの医療機関を受診しても、特に異常は発見されないことが特徴です。
一度このようなパニック発作が出てしまうと、「次にまた発作が出たらどうしよう」という予期不安が生じ、パニック発作が出やすい状況や場面を避けて行動するようになるため、生活に大きな支障をきたすことがあります。
2) 社交不安障害
社交不安障害は、人前で何かをすることに強い不安を感じ、緊張、発汗、赤面、動悸、震え、どもりなど、さまざまな身体症状を伴うことがあります。会議や授業中の発言、人前で字を書くなど、自分に他人の目が向いている状況で不安を感じるため、そのような状況を避けるようになります。
3) 全般性不安障害
特定の対象にではなく、様々なことに対して次々と過剰な不安を生じる場合は、全般性不安障害と診断される場合があります。たとえば、「自分が何かの病気になるのではないか」「家族が事故に遭うのではないか」と不安になったり、天災・災害に関する不安など、様々なことが絶えず心配になってしまいます。誰もが感じる不安の内容ではありますが、不安感が強く、日常的に落ち着かない、そわそわする、集中できないといった精神的な症状のほか、頭痛、肩こり、筋肉の緊張、めまいなどの身体的な症状が現れることもあります。
では、急に不安感に襲われたとき、どのような対処法があるのでしょうか。ここでは、気軽に取り入れられそうな対処法をいくつかご紹介します。自分に効果がある方法を知っておくだけでも安心できるかもしれません。
・深呼吸
不安を感じているときは、無意識に浅い呼吸になってしまっていることがあります。呼吸を意識して、ゆっくり、大きな深呼吸をすることで、心も体もリラックスすることができます。
また、息を吸うと同時に下腹部を膨らませ、息を吐くときに下腹部をへこませる呼吸を、腹式呼吸といいます。腹式呼吸は、自律神経を調節して整えたり、全身の筋肉の緊張を緩ませ、体のストレス反応を落ち着かせる効果があります。
・運動をする
軽い運動をすることも、不安な気持ちを改善するのに効果的な方法のひとつです。運動に取り組むことが気分転換になり、不安を引き起こす要因から気をそらすことができます。
そして、運動をすると疲労しますが、その疲労感が、睡眠の質の向上にもつながり、疲労回復やストレス解消効果が得られます。
また、運動によって、「セロトニン」や「エンドルフィン」というホルモンが分泌されるといわれています。
セロトニンは「幸せホルモン」とも呼ばれ、心身をリラックスさせる効果があり、不足するとイライラや不安・恐怖などのストレスを感じやすくなります。
エンドルフィンは、痛みやストレスを和らげたり、多幸感をもたらしたりする作用があるといいます。
日常的に運動を続けることで、セロトニンやエンドルフィンが安定的に供給され、精神の安定やストレス解消に効果を発揮します。
普段あまり運動する機会がない方は、ウォーキングや、ゆっくりとした短距離のジョギングなどから始めるのがおすすめです。
・マインドフルネス瞑想
急な不安感などのメンタル不調には、マインドフルネス瞑想も効果的です。
マインドフルネスとは、「過去・未来や余計な思考にとらわれず、今、この瞬間に意識を向ける」心の在り方のことです。心配事や不安な気持ちなど、つい頭に浮かんでしまうことを手放し、「今」だけに集中している状態がマインドフルネスであり、その状態を意識的につくっていく手法として「瞑想」が用いられています。
マインドフルネスの考え方は、カウンセリングや心理療法、セルフケアに多く取り入れられ、うつ病や不安障害などの治療や予防にも用いられています。
マインドフルネス瞑想の基本的なやり方は、以下の通りです。
はじめは短い時間で5分などと決めて行い、慣れてきたら徐々に時間を延ばしてみましょう。
(1) あぐらや正座、椅子に腰かけるなど、楽な姿勢で座り、姿勢を整えます。
(2) いつもの自然な呼吸に意識を向けます。
(3) 感情や思考が浮かんでも、それを追わずに、意識を呼吸に戻します。
(4) (2)~(3)を繰り返します。
マインドフルネス瞑想で「今、この瞬間」だけに集中できる状況をつくることによって、脳を休ませ、不安やストレスの原因となる思考や感情に振り回されにくくなる効果がありますので、ぜひ実践してみてください。
「急に不安感に襲われる」「強い不安感が続いている」などでお悩みの場合、カウンセリングを受けてみるのもおすすめです。
カウンセリングでは、自分の気持ちや考えをカウンセラーに話すことによって、気持ちが落ち着いたり、すっきりする効果が期待できます。
そして、不安感に襲われるときの状況についてカウンセラーと話すことで、自分の不安を客観的に捉えられるようになり、その結果、自分だけでは気づけなかった不安の原因や、自分の考え方の癖などを見つけられることもあります。
また、不安の原因や考え方の癖に気づいても、具体的にどうしたらよいのか、一人ではなかなか分からないこともありますが、カウンセリングでは、自分に合った対処法をカウンセラーと話し合いながら探していくことができます。
なお、先ほどご紹介したマインドフルネス瞑想についても、一人で習得するには時間がかかることがあるため、カウンセラーに相談しながら一緒に習得していくのが効果的です。
カウンセリングは、医療機関などで受けられるほか、オンラインのビデオ通話や電話、メッセージを使ったサービスもありますので、自分の状況に応じて利用してみましょう。
不安は、自分を守るための自然な感情ですが、大きくなりすぎたり、不安な感情をコントロールできない状態は、とても辛いものだと思います。今回ご紹介した対処法を試していただき、自分に効果がある方法を探してみてください。
急に不安感に襲われることが多かったり、強い不安が続いたりして日常生活に支障が出ている場合は、医療機関やカウンセリングでの相談を検討してみましょう。一人で抱え込まず、助けを求めることも大切です。