昨今では、子どもの自尊心を高める学校づくりが重視されています。このように、「自尊心」は教育などといった心理学以外の場でも関心を持たれることが多いです。教育現場では、自分には価値があると思うこと、自分を大切に思うこと、という意味で「自尊心」が使われています。なんとなく心がもやもやしていて、学校や職場で自信が持てなかったり、人間関係のトラブルが多かったり、いつも不安や悩みを抱えていてストレスが溜まるなどの問題に困っている方は、自尊心の低さが影響している可能性があります。
こちらの記事では、自尊心についての説明と、自尊心を高める方法を紹介していきます。
目次
- 自尊心とは
- 自尊心が低い原因
- おわりに
自尊心という訳語がつけられたself-esteem(セルフエスティーム)は、1965年に社会学者のRosenbergが先駆けとなって研究を行なったもので、「自尊心とは、対象としての自分自身に対する肯定的あるいは否定的な態度のこと」と定義しています。
その上でRosenbergは、自尊心について以下のようにも述べています。
自尊心尺度(Rosenberg,1965)は、言葉が簡易で分かりやすいため、現在でも心理学や教育学の分野で使用されています。日本語訳も複数出ていますが、今回は次の訳を挙げておきます。
興味のある方はチェックしてみて下さい。
Ⅰ.質問1~3で以下の回答をした数が2個以上あれば1点を追加
質問1⇒そう思わない、全くそう思わない
質問2⇒そう思わない、全くそう思わない
質問3⇒強くそう思う、そう思う
Ⅱ.質問4~5で以下の回答をした数が1個以上あれば1点を追加
質問4⇒そう思わない、全くそう思わない
質問5⇒強くそう思う、そう思う
Ⅲ.質問6で以下の回答をしていれば1点を追加
そう思わない、全くそう思わない
Ⅳ.質問7で以下の回答をしていれば1点を追加
そう思わない、全くそう思わない
Ⅴ.質問8で以下の回答をしていれば1点を追加
強くそう思う、そう思う
Ⅵ.質問9~10のどちらかで以下の回答をしていれば1点を追加
強くそう思う、そう思う
0~1 自尊心が高い
2~3 自尊心が中程度
4~6 自尊心が低い
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自尊心と似た言葉がほかにもいくつかあり、解釈も様々なため、一般の方にはとても分かりにくいです。こちらでは、自尊心と似た意味で使われる自己肯定感、自尊感情、自己効力感について、解説していきます。
自己肯定感とは、「ありのままの自分を受け止め、自己の否定的な側面も含めて、自分が自分であって大丈夫という感覚」のことをいいます。(特別支援教育大事典, 2010)
つまり、どんな自分でも「大丈夫」と認めており、他者の評価は関係なく、自分で「自分はこれでいいんだ」と自信を持っている感覚です。
自己肯定感は、1994年に心理学者の高垣忠一郎が提唱した言葉です。
ちなみに、日本人は海外と比べて自己肯定感が低いと言われることが多いですが、田中(2017)によると、過去の調査において「私は全ての点で自分に満足している」という項目に否定的な回答をした者の中で、その理由として「現状に満足してしまったら、今後の成長が望めないから」と考えるものが41.3%いたことから、「日本の文化に適応するための自己呈示の方略や測定方法による問題である可能性」も指摘されています。
また、榎本(2010)によると、「褒めることは、自己肯定感を高める機能を持つと考えられるが、一方で失敗や挫折等ストレスのかかる状況を経験し、打たれ強さを持ち、逆境にめげずに強く前向きにものごとに取り組むとができたとき、真の意味での自己肯定感を獲得していくのではないか」と述べています。
つまり、自己肯定感は、失敗や挫折を経験しても、その意味を前向きにとらえ、できる努力をした上で、得られるものと考えられます。
自尊感情とは、自分自身を肯定的に評価する気持ちを意味します。
一時的にこのような気持ちをもつのではなく、その気持ちが根付いていなければ自尊感情とは言えないと述べている文献もあります。(LD・学習障害事典, 2006)
Rosenbergのself -esteemが自尊感情と訳されることも多いのですが、self-esteemについてRosenbergは、「基本的には自分自身に対する態度、評価、信念だと定義している」と述べており、感情よりももっと幅広い概念と捉えるべきと指摘しています。(仁平, 2015)
自己効力感は、心理学者のバンデューラが1997年に提唱したself-efficacy(セルフエフィカシー)の訳語で、「自分はできる!」と自分の能力などを信じ、うまくいくことをイメージできる感覚をいいます。
自己肯定感は「できる自分もできない自分も丸ごと受け入れる感覚」ですが、自己効力感は「できる自分をイメージすることが原動力になる」といったように、「できない自分」については大きく触れられていないという点でも違いがあります。
できる自分しか認められないと、失敗したときに「自分はだめだ」と感じてしまいやすいので、「自己肯定感」も同時に併せ持つことが理想的です。「自己効力感」ばかりを高めることを考えた場合、できない自分についてはどのように処理するかが問題になります。
自尊心や自己肯定感、自尊感情、自己効力感は、おもに心理学の言葉ですが、プライドは古くから誰が提唱したわけではなく日常的に使われてきた言葉です。
また、プライド(pride)の日本語訳として自尊心があてられることもありますが、Rosenberg(1979)は、「その人が高い自尊心の持ち主だというときには、優越感、傲慢さ、うぬぼれ、他者の軽蔑、尊大なプライドなどをもっていることを意味しているわけではない」と述べており、自尊心とプライドの意味合いは同じものと考えないほうがいいでしょう。
自尊心が低い人は、消極的でマイナス思考になってしまい、不安や悩みが絶えなかったり満足できなかったりといった心理状態に陥りやすい傾向があるといわれています。
具体的な特徴を見ていきましょう。
自分に自信がなく、自分の言うことを聞いてもらえないと思っていたり、周囲の人たちに決めてもらった方が楽だと思っていたりする傾向があります。
他人に合わせてしまって自分の意見が言えず、自分のやりたいことがわからなかったり、我慢していることが多かったりするため、不満を感じやすい傾向があります。
自分に自信がなく、自分一人で判断したり決めたりすることが難しいため、決断を余儀なくされるような場面で不安になることが多い傾向があります。
例えば、友だちに「こうした方がいいよ」と指摘されると、まるで自分の人格まで否定されたように感じて落ち込んでしまうことがあります。仕事などでも、注意されたことやミスを否定的に受け止めて、くよくよと思い悩むため、疲弊してしまいやすい傾向があります。
自分に自信がなく、学業や仕事、遊び、人間関係などに意欲が持てなかったり、失敗を恐れたりするため、「自分から行動しよう」と前向きになることが難しい傾向があります。
ものごとを否定的に受け止めることが多く、失敗したときに「次は頑張ろう」という気持ちになりにくいため、「自分はダメな人間だ」と思って深く落ち込んだり、次も失敗するという負のループに陥りやすかったりする傾向があります。
自尊心が高い人は、自分で判断したり行動したりすることが多く、ものごとに積極的に取り組めたり、学校や職場でも生き生きと過ごせたりする傾向があるといわれています。
具体的には、以下のような特徴があります。
「○〇さんが羨ましい」と思ったときに、その人と比べて具体的にどこが劣っているかということを意識するのではなく、「自分なりに頑張ろう」と前向きなエネルギーに変えることができます。
他人と違う意見であっても、「自分はこうしたい!」「これでいい」といったように、自分の意思で決断したり判断したりすることができます。
ものごとを肯定的に捉える傾向があり、自分のミスを認めることができたり、他人からの注意や忠告を素直に聞き入れたりすることができます。例えば、注意や忠告を受けた際、「プライベートとは切り離された仕事上での注意だ」「その場面では好ましくなかった言動に対しての忠告だ」といったように、自分の人格とは分けて考えることができます。
日頃から家族や友人など、周囲の人に感謝することが多いです。
学業や仕事に前向きに取り組む姿勢が見られることは、海外や日本のいくつかの研究でも示唆されています。自分を受け入れることができて、失敗しても「いい経験をした」とポジティブに捉えられるため、積極的に行動することに対して不安が少ないのだと思われます。
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自尊心が低い原因は、以下のようなことが考えられます。
両親の自尊心が低く、家庭でも親の愚痴を聞かされたり、親に気分の浮き沈みがあったりして、いつも顔色をうかがわなくてはならない状況であると、家庭でのびのびと過すことができません。こうした場合、自分は大切にされている、という気持ちが育たず、自尊心が低くなりやすいです。
また、自尊心が高い大人が身近にいなければ、自分を大切にするという意味がわからないため、自分の自尊心が低いことにも気が付きにくいです。
親や祖父母などから怒られてばかりいて、褒められた経験の少ない子は、自分の価値を認めることが難しくなります。また、ほかの誰かを認めたり、褒めたりすることも苦手な傾向があります。
前述のRosenberg(1965)の研究結果では、「親が子どもに関心があるか」ということが自尊心と関係していると示唆されています。例えば、両親が自分の友だちを知っているか、夕飯時の家族の会話の参加度、子どもの意見への関心などの項目が挙げられています。
例えば、虐待やネグレクト、アルコール依存症などが存在するような機能不全家族に育ち、自尊心が低いまま生活をしている人は、人間関係がうまくいかない、何をしても面白くない、生きている価値が分からないなどの問題を抱えやすくなるため、さらに自尊心に悪影響を及ぼすという負のループから這い上がれないでいることも原因の一つです。
例えば、子どもの希望しない習い事や進路を決めたり、友だちや部活、仕事や結婚にまで口を出したりする過干渉な親のもとで育ち、自分に決定権がなかった場合、自分の価値を認めにくく、自分一人ではものごとを決断することが難しいほど、自尊心が低くなることがあります。
次に、自尊心を高めるために試してみてほしいことをいくつか紹介します。
1.自分はこのままでいい!と受け入れる
無理に変わろうとするのではなく、視点を変えて、自分の良いところも悪いところも受け入れることが大切です。
その上で、例えば「自分のせっかちなところはミスが増える原因になるので、もう少し落ち着こう」といったように、直したいところを変えていくのはいいでしょう。ありのままの自分を認めた上で、「もっとよくなろう!」と決意するのは良いことです。また、「せっかちだけれど、素早く行動できるところは長所だ」といったように、別の角度から考えたり視点を変えたりしてみることも大事です。
2.他人といちいち比べない
他人と比べるのではなく、比べるのであれば、過去の自分と比べて「こんなことができるようになった!」と考えるようにしましょう。
3.他人に認められなくても自分のことを認める
誰かに褒められないと不安になる人は、自分で「今日も元気に過ごせた!」「今日も無事に一日が終わった」などといったように、どんなに些細なことでもいいので、自分自身を褒めたり認めてあげたりするようにしましょう。
4.他人から無理に好かれようと思わない
みんなから良く思われようとすると、上手くいかなかったと感じたときに落ち込んでしまうことも多いです。また、他人に合わせすぎると、疲れやすくなります。自尊心が低い人は、周囲の反応を気にし過ぎるところがあるので、自然体の自分で過ごすようにしましょう。
5.日常の些細な決断でもいいので自分で決める
自尊心が低い人は、他人に聞かずに自分でものごとを判断したり決断したりするのが苦手な場合が多いです。「今日はランチで○○を食べる」「休みの日は自分のしたいことをする」などといったように、自分の意思を尊重する習慣をつけましょう。
6.自分の感情に目を向ける
周囲に合わせることが多い人は、自分が何をしたいのか、どんな気持ちなのか、わからないことがあります。「自分は今どんな気持ちでいるのか?」ということに気が付くことも大事です。
7.自分の意見を思いきって言う
周囲に合わせてきた人にとって、自分の意見を言うことはハードルが高いと感じるでしょう。言いたいことがあったときは、「あのとき本当は、~と言いたかった」といったように、具体的なセリフを考え、口に出して練習してみることをおすすめします。
最初はうまく言えなくても、自分の意見を持つことを習慣にすると、自分の意見を言うことのハードルが少し下がります。
8.自分が心地よいと思う時間や場所を増やす
自分が好きなもの、好きな人、場所などを考えてみましょう。自分の好きなことを考えていると、心も満たされやすくなりますし、自信にもつながります。できるだけたくさん考えて、リストアップすると、やりたいことを見つけるのにも役立ちます。
9.マイナス思考になったときは視点を変える
リフレーミングという言葉があります。これは、視点を変えてものごとを見てみるということです。例えば、「仕事で焦ってミスをしてしまった」と後悔していたとします。それを落ち着いて考えてみると、「大きな失敗でなくてよかった」「ミスを次へ生かそう」といったように見ることができます。失敗も経験のうちと考えて、良い面から見直してみる習慣があるとよいでしょう。
自尊心が高い人は、毎日を充実したものにしやすく、自分を大事にできるということを知ってもらえれば幸いです。自尊心が低いかもと思う方は、自尊心を高める方法について、できることから試してみてください。
<参考文献>
・小塩 真司, 茂垣 まどか, 岡田 涼, 並川 努, 脇田 貴文, 中間 玲子, 岡田 努(2015)Rosenbergの自尊感情尺度 : 尺度内容・発達変化・時代変化(自主企画シンポジウム), 日本教育心理学会総会発表論文集, 57, 第57回総会発表論文集, p.28-29
・田中道弘(2017)日本人青年の自己肯定感の低さと自己肯定感を高める教育の問題‐ポジティブ思考・ネガティブ思考の類型からー, 自己心理学, 7, p.11-22
・仁平義明(2015)「自尊感情」ではなく「自尊心」が”Self-esteem”の訳として適切な理由―Morris Rosenbergが自尊心研究で言いたかったことー白鴎大学教育学部論集, 9(2), p.357-380
・Rosenberg(1979)Conceiving the Self, Basic Books
・田島賢侍, 奥住秀之(2012)子どもの自尊感情・自己肯定感等についての定義及び尺度に関する文献検討―肢体不自由児を対象とした予備的調査も含めてー, 東京学芸大学紀要. 総合教育科学系, 64(2), p.19-30
・榎本博明(2010)子どもの「自己肯定感」のもつ意味-自己肯定感の基盤の揺らぎを乗り越えるために, 児童心理第64巻4号, 金子書房, p.1-10、
・茂木俊彦(2010)特別支援教育大事典, 旬報社
・キャロル・ターキントン, ジョセフ・R・ハリス(2006)LD・学習障害事典, 明石書店
・文部科学省(2016)日本の子供たちの自己肯定感が低い現状について, 第38回教育再生実行会議
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kyouikusaisei/chousakai/dai1/siryou4.pdf(2021-07-15 最終閲覧)
・吉川雅智他(2018)自己肯定感等に関する一考察~「折れない、しなやかな心」を巡って~, 京都府総合教育センター研究紀要, 8
http://www.kyoto-be.ne.jp/ed-center/cms_files/kenkyukiyo/3002.pdf(2021-07-15 最終閲覧)