みなさんは「冬季うつ病」という言葉を耳にしたことはありますか?
私が住んでいるオランダでは、冬季うつ病対策の呼びかけが例年10月の後半から始まります。
もしかすると、みなさんが感じるその不調は、冬季うつ病の症状と関係するかもしれません。
目次
- 冬季うつ病とは
- 冬季うつ病の原因
- 冬季うつ病の対策
- おわりに
冬季うつ病とは、正式名称を「季節性情動障害(SAD)」といい、春と夏には気分が晴れやかになり、秋と冬には落ち込む傾向を持つ精神的な病です。
秋冬になるにつれて日照時間が短くなると、体内時計に乱れが生じて昼と夜のリズムが崩れることが、冬季うつ病と深く関係しています。
一般的な症状としては、下記が挙げられます。
寒くなると栄養を蓄えて冬眠する動物がいるように、私たちも寒くなる時期には自然と活動量が減ったり、食欲が増したり、なんだか寂しくなったりと、季節に合わせて心身が揺れ動くことがあります。上記の例に挙げたような症状が、秋から冬にかけて2年以上続いていたり、春になると症状が無くなり、特に何もストレスがなく季節性の症状であるとしか考えられないときに、精神科や心療内科で「冬季うつ病(季節性情動障害)」と診断されます。
臨床心理士とは・・・
悩みを抱える人との対話をベースに、精神分析や心理療法を使って問題の解決をサポートする「こころの専門家」です。
うららか相談室には、多くの臨床心理士が在籍しています。
メッセージ・ビデオ・電話・対面、あなたが一番話しやすい方法で、悩みを相談してみませんか。
冬季うつ病(季節性情動障害)の原因は、多くの場合、太陽の光が不足しているためと考えられています。こちらについて、詳しく見ていきましょう。
まず、冬になると日照時間が短くなるため太陽の光にあたる時間が短くなります。このことは、無意識的に私たちの体内時計に影響を与えており、秋冬にかけて様々な混乱を引き起こすと考えられています。
目から入る光刺激により分泌が操作される「メラトニン:睡眠を安定させたり、生体時計の調整を行う作用のあるホルモン」は通常、日中の光刺激によって抑制され、夜間になると再び生成されて自然な眠りを誘うはたらきをします。しかし、日照時間が短くなることにより、光刺激による抑制が弱くなると、日中でもメラトニンが多く生成されるようになります。その結果、日照時間が短い冬季には、夜でもないのに眠気が起こりやすくなってしまうといわれています。
また、太陽の光には、脳内の「しあわせホルモン」と呼ばれている「セロトニン:感情や気分のコントロール、精神の安定に深く関わる物質」を生成する力があるとされています。秋冬は日照時間が減ることで、セロトニンが必然的に減少し、気分の落ち込みが続きやすいと考えられています。
カウンセリングを通じて、こころのメンテナンスをしてみませんか?
うららか相談室では、臨床心理士などの専門家にメッセージ・ビデオ・電話・対面でお話していただくことができます。
冬季うつ病(季節性情動障害)はその名の通り「季節性」の症状であり、秋冬を経て、春夏が訪れた時点で回復していきます。これが、冬季うつ病とうつ病の大きな違いです。細かい症状についても見ていきましょう。
冬季うつ病の症状には、集中力の低下や興味関心の減退など、うつ病の症状と重なる点も多々ありますが、身体的な不調において特徴的な違いがあります。例えば、うつ病では食欲不振や不眠の症状が多く見られますが、冬季うつ病では過食(食欲増加)や過眠に陥りやすいという傾向を持っています。
精神的な面でも、うつ病は抑うつ(憂うつな気分)の症状が目立ちますが、冬季うつ病はどちらかといえば、倦怠感(気だるさ)や身体的な疲労といった症状を感じやすいという微妙な違いが見られます。
冬季うつ病に対する特効薬のようなものは、現時点では存在していません。同じ環境にいても冬季うつ病になる人とならない人がいるという個人差についても研究段階です。「冬季うつ病(季節性情動障害)」と診断を受けた方、あるいはその傾向がある方は、「これをすれば治る」という考え方ではなく、それぞれに合った対策を見つけていく必要があります。
※冬季うつ病の正確な診断と対策は、精神科や心療内科を受診されることをおすすめします。
一般的な冬季うつ病の対策には、下記が挙げられます。
それぞれについて、詳しく見ていきましょう。
◇高照度光照射療法
光療法ともいい、特殊な人工光を一定時間、継続的に浴びるという治療法です。睡眠障害の治療でも、よく用いられます。オランダのメンタルヘルスを専門とするPsyQという組織では、光療法は冬季うつ病患者の80%に改善効果が見られるとの研究結果を出しています。
◇うつ病治療と合わせた光照射療法
うつ病の治療では、十分な休養をとって抗うつ薬を飲んだり、精神療法によってストレスを軽減したりと、様々な方法を組み合わせて行われます。冬季うつ病でも、光照射療法で効果が十分でない場合などに、うつ病と同じように治療が行われることがあります。ただし、春になって症状が自然と軽減されているにもかかわらず抗うつ薬を飲み続けることがないように、注意しなければいけません。
私の住むオランダでは、冬の日照時間が日本よりも短く、毎年数万人の人々が冬季うつに悩まされており、テレビやSNS等でもその対策について頻繁に紹介されています。では、どのような予防法があるのか、その例をみなさんにご紹介します。
予防法1. 朝に出かけること
秋冬の朝は、布団から出たくないという人も多いと思いますが、規則正しい生活は冬季うつ病の予防に欠かせません。朝に外の光を浴びることで、睡眠ホルモンであるメラトニンの生成を抑制する効果が期待できますので、目覚めたらなるべくすぐに起き上がり行動する習慣をつくってみてください。
予防法2. 運動をすること
いきなり運動習慣を身に着けるということはなかなか難しいことです。冬季うつ予防のためには、激しい運動をするというよりも、日常生活の中で工夫して身体を動かしていきましょう。例えば、エレベーターではなく階段を選んでみたり、買い物へはなるべく徒歩で行くようにしたりなど、寒さで冷えてしまいがちな身体をほどよく温め、血行を良好にする意識をしてみましょう。
予防法3.日光浴をする
普段、オフィスや家にいる時間が長い方は、休憩時間に外に出たり、窓際に座って太陽光を浴びるように意識をしてみましょう。太陽光を浴びることで、体内時計や自律神経(内臓のはたらきを調整する神経)を整えることに繋がります。
予防法4.バランスのとれた食事をする
冬場のカロリー制限やダイエット、不規則な食事時間は体調を崩したり、心のバランスを失うことにつながりやすいです。一日三食、しっかりと栄養を考えた食事を意識しましょう。
予防法5.必要に応じてマルチビタミンのサプリメントを服用
オランダではよく秋冬にビタミンDのサプリメントの服用を推奨されています。これは、ビタミンDの多くが太陽光により生成されていると考えられているためです。バランスのいい食事の確保に自信がない人は、ほどよくサプリメントを活用することも検討してみてください。
予防法6.身近な人に、冬季うつについて話してみる
冬季うつ病を発症する人は少なくありません。気分が晴れないことや眠気が止まないことなど、気軽に話せる誰かとシェアするだけでも、心が軽くなることがあります。他の誰かも同じ思いを抱えているかもしれませんし、聞き手もみなさんのお話を聴くことで予防ができるかもしれません。お一人で悩まず、誰かと共有することをしてみてください。カウンセリングで、抱えている悩みをカウンセラーにお話し、ストレスの要因となる考えや行動、環境について整理を行うことによっても、精神的な不調を予防することができます。
うつ病も冬季うつ病も、「心の持ちよう、意識を変えればすぐ治る」と誤解されやすく、周りの人も自分自身も、時としてその症状を軽視してしまいがちです。「もしかしたら、冬季うつ病にあてはまるかもしれない」と思ったら、なるべく早く専門家のもとへ受診されることが早期解決のカギであり、再発防止につながります。
精神科や心療内科は、なかなか予約がとりづらく、予約から受診までにかなりの日数を必要とするところが現在ほとんどです。「大丈夫」と安易に自己診断せず、まずは早いうちに気軽に受診してみることも検討してみてくださいね。
参考サイト
・Winterdepressie
https://www.psyq.nl/depressie/winterdepressie#:~:text=Een%20winterdepressie%20is%20het%20gevolg,veelal%20het%20gebrek%20aan%20licht.
・Treatment Treatment seasonal affective disorder(SAD)
https://www.nhs.uk/conditions/seasonal-affective-disorder-sad/treatment/