日常生活を送る中で、誰しも気分が落ち込んだ経験が一度や二度はあるのではないでしょうか。
「気分が落ち込んでしまって、なかなか立ち直れない。」
「気持ちが沈んで、仕事が手につかない。」
といった悩みを抱えている人は少なくありません。
そういった時に自分に合った対処法や立ち直り方を知っていると、早く気持ちを切り替えることができ、早く回復することができます。
そこで、このコラムでは、気分が落ち込む原因や理由から解説し、気分が落ち込んだ時の対処法・立ち直り方をご紹介します。
また、気分が落ち込んだ時の心理状態と病気の可能性についても解説し、気分が落ち込んだ時にやってはいけないことについて理由も含めてご説明します。
目次
- おわりに
どのようなことが気分の落ち込む原因や理由になりやすいのかを見ていきましょう。
●人間関係
人間関係は、特に気分が落ち込む原因になりやすいです。家族、友人、恋人、職場の上司・同僚など、人間関係でうまくいかないことがあったり、嫌な思いをしたりすることで、気分が落ち込む人は多くいます。また、「あの時、こんなことを言ってしまったから、相手に嫌われたんじゃないか?」と人付き合いにおける自分の言動が気になり、気分が落ち込む場合もあります。
●学業・仕事
学生であれば、「成績が思ったように上がらない。」といった悩み、社会人であれば、「仕事でミスをしてしまった。」、「仕事が思うようにうまくいかない。」といった悩みで気分が落ち込む場合があります。
●家族
先の人間関係にも含まれますが、家庭内や親族関係のトラブルで気分が落ち込む場合もあります。
また、子どものいる家庭の場合、子どもの入園・入学に関する悩みや子どもの発達、学業成績などの悩みが親の気分の落ち込みにつながる場合もあります。
●自分自身のこと(他者との比較)
他者と自分を比較して、自分自身を否定することにより、気分が落ち込む場合もあります。中には、気分の落ち込みが激しく「自分には存在価値がない。」と思い詰めてしまう人もいます。
●金銭問題
家計が苦しい、借金を抱えているといった金銭的な問題が気分の落ち込みの原因になる場合があります。
●自律神経の乱れ
自律神経とは、体を活動させる“交感神経”と体を休ませ回復させる“副交感神経”の2つによって、内臓、血管、筋肉などをコントロールし、体内の環境を整えてくれる神経のことです。
この自律神経のバランスが崩れると、心と体にさまざまな不調があらわれます。心の不調の一つとして気分の落ち込みが起こる場合があります。
●ホルモンバランスの変化
女性の場合、月経、妊娠・出産、更年期など、女性ホルモンが関わるライフイベントによって、気分の落ち込みがあらわれることが少なくありません。
月経前になるとホルモンバランスが崩れ、身体症状だけでなく、イライラや不安に加え、気分の落ち込みが出現することもあります。この月経が始まる2週間前頃から心身が不安定でつらい状態を「月経前症候群(PMS)」と言い、その中でも心の不安定さが際立って強く出てしまう場合は「月経前不快気分障害(PMDD)」と診断されることがあります。
出産前後にも、気分の落ち込みがあらわれる場合があります。妊娠すると、体のホルモンバランスが大きく変化します。また、子どもを産むことに対する不安から、気分が落ち込みやすくなります。そして、出産直後にも、ホルモンバランスが大きく変化するため、一時的に気分が落ち込みやすくなると言われています。
更年期にも気分の落ち込みがあらわれる場合があります。閉経期のホルモンバランスの崩れをきっかけに、自律神経が乱れ、イライラや不安に加え、気分の落ち込みがあらわれます。
更年期の気分の落ち込みは女性だけではありません。男性の場合も、男性ホルモンの減少により、気分の落ち込みがあらわれる場合があります。
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そもそも「気分が落ち込む」というのは、気持ちがめいる、ふさぎこむといった状態になることです。
では、気分が落ち込んだ時、精神的にどのような状態になるのでしょうか?
気分が落ち込むと起こりやすい心理的な変化を見ていきましょう。
●悲しい・寂しい気持ちになる
泣きたくなったり、孤独を感じたりと悲しい・寂しい気持ちになります。また、寂しいと感じているのに誰にも会いたくないといった矛盾した気持ちが出てくることもあります。
●不安な気持ちになる
些細なことから不安な気持ちになりやすいです。「これから○○はどうなるのだろう?」、「こんなことが起こったらどうしよう…。」といった心配がぐるぐると頭の中を巡り、そのスパイラルから抜け出せなくなることもあります。
●やる気が出ない
何もする気が起きず、いつもだったらスムーズにできていたこと(家事や身支度を整えることなど)ができなくなる場合もあります。
元々好きだったこと・楽しいと感じていたことに対しても興味・関心が薄れ、やる気が出ない場合には、後にご説明する病気の可能性も考えられますので、注意が必要です。
●集中力がなくなる
集中力が低下し、仕事が手につかなくなったり、資料などを読んでいても何度も同じ文章を読んでいたり、話しかけられても気づかなかったりといった状態になることがあります。
●イライラする
気分が落ち込む原因となった出来事によってイライラする場合もありますし、気分が落ち込んでいると様々なことがうまくいかなくなり、それによってイライラが強くなる場合もあります。
●物事をネガティブに捉えやすくなる
気分が落ち込んでいる時は、物事をネガティブに捉えやすくなります。
例えば、出勤した時に上司に挨拶をして返事がなかったとすると、いつもなら「聞こえなかったのかな?」とスルーできる人でも、気分が落ち込んでいると「私が何か上司の気に障ることをしたのではないか?」とネガティブに捉えてしまうといったことが起こるのです。
気分が落ち込んだ時の対処法や立ち直り方をいくつかご紹介します。
「この方法は自分に合いそうだな。」と思えるものがありましたら、一度試してみてください。
●質のよい睡眠を十分な時間とる
気分が落ち込んで何もできない時は、エネルギーが不足している状態です。ぐっすり眠ることで、エネルギーを回復しましょう。
気分が落ち込んでいると、なかなか寝つけなかったり、夜中に起きてしまったりと睡眠の質が下がることがあります。そんな時には、以下の「睡眠5原則」を心がけてみましょう(*1:「健康づくりのための睡眠ガイド2023―成人版」より)。
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第1原則:適度な長さで休養感のある睡眠。
・6時間以上を目安に十分な睡眠時間を確保する。
・規則正しい起床時刻を心がける(休日に夜ふかし・朝寝坊をしない)。
第2原則:光・音・温度に配慮した、良い睡眠のための環境づくり。
・夜間のパソコン・ゲーム・スマホの使用は避ける。
・寝室はなるべく暗くする。
・心地よい温度にする。
第3原則:適度な運動、食習慣、寝る前のリラックスで眠りと目覚めのメリハリをつける。
・日中は積極的にからだを動かす。
・しっかりと朝食を食べる。
・就寝間際の夕食、夜食は控える。
・日中のうちにストレスを発散させ、寝る前にリラックスする方法を身につける。
第4原則:嗜好品とのつきあい方に気をつける。
・夕方以降のカフェイン摂取、飲酒、喫煙は控える。
第5原則:眠れない、眠りに不安を覚えたら専門家に相談する。
・睡眠時間を十分に確保しても、生活の妨げになるような睡眠の悩みが続く場合、治療を要する疾患が隠れていることもあるため医療機関や専門家に相談をしましょう。
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●おいしいもの・好きなものを食べる
気分が落ち込んでいる時は、食欲がなくなることもありますが、「これを食べたい!」と思えたり、食べた後に「おいしい!」と感じられたりすることで、落ち込んだ気分が少し上向きになります。
そういった日々の食事の中で、おいしいと感じられるものや好きなものを食べることが気持ちを立て直すきっかけとなることもあります。
ただし、ここで注意が必要なのは、糖質の摂り過ぎです。
気分が落ち込んでいる時は、気分を上げようとつい甘いものや炭水化物に手が伸びてしまう方も多いのではないでしょうか。たしかに甘いものを食べることで一時的には気分が良くなりますが、糖質をたくさん摂ると、血糖値が乱高下し、強い眠気、集中力の低下、イライラ、焦燥感などが起こるので、気分の落ち込みを悪化させてしまう恐れがあるのです。
そのため、糖質を控えて、代わりのエネルギー源となるタンパク質を多めに摂るようにすることがおすすめです。
●体を動かす
運動をすることで、気持ちが上向きになると言われています。
「運動」と聞くと、ハードな筋力トレーニングやジョギングなどをしなければならないように思う方もいらっしゃるかもしれませんが、ヨガやストレッチなど気持ちよく体を動かせる運動をするだけでも気分を立て直すのに十分な効果があります。
ウォーキングを兼ねて散歩をすることも気持ちのリフレッシュにつながりますし、有酸素運動になるので脳の活性化につながります。
気分が落ち込んだ時は体を動かそうという気持ちになりづらいかもしれませんが、気分を変えるために軽い運動から始めてみると、気分を立て直すことに役立つでしょう。
●趣味や没頭できる作業をする
自分の好きなことをすると落ち込んだ気分を切り替えやすくなります。趣味のある人は、その活動をするだけでも気分が上向きになってくることがあるでしょう。
また、気分が落ち込んだ時には何か没頭できる作業をするのもおすすめです。
例えば、いらない紙をひたすらハサミで小さく切る、ティッシュペーパーを「もう、ちぎれない。」というところまで手で小さくちぎる、梱包材のプチプチをひたすら潰す、無心でお皿洗いをする、などです。時間を忘れて没頭できる作業をすることで、頭がスッキリして気分の切り替えになります。
●言葉にして外に出してみる
心理学では「話すこと=離す・放すこと」と言われています。
人に「話すこと」で、つらい気持ちを自分の心から「放すこと」につながるのです。
また、話して自分の心から「離して」見ることで、自分の気持ちや考えを客観視することができ、気持ちを切り替えやすくなります。
どういうことがあって気分が落ち込んでいるのか、言葉にして自分の心の外に出して話してみると落ち込んだ気分から立ち直ることに役立ちます。
すぐに話せる人が周りにいない時には、その時の自分の気持ちや考えを紙に書き出してみるのもよいでしょう。書き出すことで手を動かしているだけでも頭がスッキリしてきます。また、紙に書き出した内容を読み返してみると、話すことと同様に自分を客観視することにつながるので、気分を立て直すことに役立つでしょう。
●カウンセラーに相談をしてみる
上記の「言葉にして外に出す」相手として、カウンセラーに相談してみるのもよいでしょう。
専門家の視点から、より客観的なアドバイスをもらえることもありますし、「専門家に話す」という行動をとるだけでも、気分を立て直すことに役立ちます。
気分の落ち込みは、精神的な病気にかかった場合にもよく見られる症状です。
気分が落ち込んだ状態からなかなか立ち直れない時には病気の可能性も考えてみましょう。
「気分が落ち込む」という症状があらわれる病気の一例をご紹介します(*2)。気になる症状がある場合には、心療内科や精神科などを受診し、ご相談ください。
●うつ病
うつ病は、心のエネルギーが枯渇してしまったような状態で、気分が沈んで何もする気が起こらなくなる心の病気です。
気分が落ち込む症状の他にも、眠れなくなる(または、一日中眠くて仕方がない)、食欲がなくなる、やる気が出ない、自分には価値がないと感じる、今まで楽しいと感じられていたことを楽しく感じられない、などの症状があらわれます。
●非定型うつ病
非定型うつ病は、通常のうつ病とは異なる特徴があります。うつ病との最大の違いは、本人にとってよい出来事があれば、一時的に気分が改善するという点です。
気分が落ち込んでいながらも、趣味や旅行など楽しい活動になると、一時的に元気が出てきます。仕事は休むのに遊びには出かけられるため、周囲からは「怠けている。」、「ただのサボり癖でしょ。」などと誤解されることもよくあります。しかし、些細なことで落ち込む、夜になると涙が止まらないといった不安・抑うつ発作、過眠、過食、体が鉛のように重く動けない・起き上がれないといった症状があらわれるため、つらい思いをする人も多いのです。
●双極性障害
双極性障害は、気分が落ち込む「うつ」と、気分が高まる「躁」を、交互に繰り返す心の病気です。
「躁」とは、過剰に活動的になり、怒りっぽくなったり、自信過剰になったりする精神状態のことです。
双極性障害には「Ⅰ型」と「Ⅱ型」という2つのタイプがあります。
「Ⅰ型」は、躁状態が非常に重く、ハイテンションになり、怒鳴ったり、やたらと連絡をとったり、多額の買い物をしたりする症状があらわれます。躁状態があらわれた後、またうつ状態となり、ふさぎこむといった気分の波を繰り返します。
「Ⅱ型」は躁状態が軽く、症状がおだやかなので、躁状態の期間中、周囲から見ても、本人もあまり異常を感じません。
気分が落ち込んだ時にやってはいけないことがいくつかあります。
どうしてやってはいけないのか、その理由も含めて解説します。
●お酒を飲む、買い物をするなどの気晴らしは要注意
「気分が落ち込んでいるから、気晴らしをしよう。」と、お酒を飲んだり、買い物をしたりする人は少なくないでしょう。適切な範囲に留められるのであれば、それもよいのかもしれません。
しかし、気晴らしのための飲酒が常習化するとアルコール依存症に発展する恐れもあります。また、買い物も度が過ぎるとお金の使いすぎや借金などの金銭問題で余計に気分が落ち込む原因となる場合もあります。
そのため、お酒や買い物での気晴らしは適切な範囲に留めておくように注意が必要です。可能ならば、先にご紹介したような他の方法での気晴らし・対処法に切り替えた方が安心でしょう。
●気分が落ち込んだ原因は自分にあると考え、自分を責め続ける
気分が落ち込んだ時の心理状態で解説したように、気分が落ち込んでいる時は物事をネガティブに捉えやすくなっています。
そのため、「自分が悪いんだ。」と自分を責め続ける人も中にはいます。自分を責め続けることで、先ほどご紹介したようなうつ病などに発展する可能性が高くなるため、気分が落ち込んでいる時に、自分を責め続けることはやめましょう。
「そうは言っても、自分に原因があるから気分が落ち込んで自分を責めてしまうのに、どうしたらいいのか?」と思われる方もいるでしょう。そういった場合には、自分を責める代わりに、気分が落ち込んだ原因を改めて振り返ってみて、その原因をどうすれば回避できたのか、今後に活かすにはどうしたらいいのかといった対策を考えてみると、前向きな気分に切り替えやすくなります。
自分一人では切り替えが難しいと感じる場合には、カウンセラーに相談することもおすすめです。気分が落ち込んだ原因や改善方法について、カウンセラーがサポートしますので、ぜひご相談ください。
●人生に関わる大事な決断をする
気分が落ち込んでいる時は、考え方がネガティブな方向に傾きやすく、冷静に適切な判断ができないと言われています。気分が落ち込んでいる人やそこから発展してうつ病となった人が、気分の落ち込みから回復する前に、その原因から離れようとして離婚や退職などの大事な決断をしてしまい、後悔してしまうというケースは少なくありません。
気分が落ち込んだ時には、特に人生に関わる大事な決断をすることはやめておきましょう。そのような決断は先送りにして、まずは対処法・立ち直り方を実践し、気分が平常時まで回復した後で、冷静になってから決断をするようにしましょう。
ここまで、気分が落ち込む原因や理由を解説し、気分が落ち込んだ時の対処法・立ち直り方、やってはいけないことをご紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか。このコラムを読んでくださっている方に合った元気になる方法が見つかりましたら幸いです。
気分が落ち込んだ時には、早めに対処をして回復を図りましょう。
気分の落ち込みからなかなか立ち直れない時には、コラムの中でご紹介した病気の可能性も含め、一度、専門家に相談してみましょう。
参考文献
*1:厚生労働省(2023)「健康づくりのための睡眠ガイド2023」
*2:山本晴義 監修 (2015) 「図解やさしくわかる うつ病からの職場復帰」 (ナツメ社)