高校生の子どもをもつ親御さんの中には、
「せっかく希望の進学校に入学したのに、学校に行けない。どうしてなのか?」
「最近、学校を休みがちだけれど、休ませて大丈夫なのか?無理にでも行かせた方がいいのか?」
といった悩みを抱えている人が少なくありません。
このコラムを読んでくださっている方も、同じようなことでお悩みではないでしょうか?
そこで、このコラムでは文部科学省の調査結果をもとに現在の高校生の不登校の原因や傾向についてご紹介し、学校を休み始めた初期の頃から回復期までの親の対応(子どもへの接し方のポイント)について解説します。
目次
- おわりに
文部科学省の令和5年度の調査(*1)によると、全国の高等学校における不登校生徒数は68,770人(前年度60,575人)であり、前年度から8,195人増加し過去最多となりました。
在籍生徒に占める不登校生徒の割合は2.4%(前年度2.0 %)でした。40人クラスに不登校の生徒が1人いるくらいの割合になります。
文部科学省の同調査では、不登校生徒数の増加の背景として、「高等学校進学やクラス替え等に伴う不適応の増加やコロナ禍の影響による登校意欲の低下などが考えられる。」と述べられています。
では、不登校の原因として考えられることを詳しく見ていきましょう。
不登校の原因と言っても、それが一つだけとは限りません。
いくつもの要因が重なり合って、結果的に不登校につながる場合も多くあります。
文部科学省の調査でも、不登校の原因についての調査方法が令和4年度(*2)と令和5年度では変化しています。
令和4年度までの調査では、不登校に関わる要因を主に「学校」、「家庭」、「本人」の3つに分けて集計していました。回答方法は「不登校の要因」について「主たる要因を一つ選択。」という形式でした。
しかし、令和5年度の調査では、「不登校の要因」ではなく、学校側が「不登校生徒について把握した事実」について「複数選択可。当てはまるものをすべて回答。」という回答方法に変更されています。
では、どんなことが高校生の不登校の要因になりやすいのでしょうか。文部科学省の令和5年度の調査結果から考えてみましょう。
高等学校の不登校生徒について学校側が把握した事実として、多い順に並べると以下のとおりです。
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①学校に対してやる気が出ない等の相談があった。(32.8%)
②生活リズムの不調に関する相談があった。(26.7%)
③不安・抑うつの相談があった。(16.7%)
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この結果から、生徒本人のメンタル面での不調や生活リズムの不調が不登校の要因として影響していると考えられます。
メンタル面での不調や生活リズムの不調となる高校生特有のきっかけについて、よくあるケースとしては以下のようなものがあります。
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・進学校の生徒の場合、「バーンアウト」と呼ばれるように、レベルの高い進学校に入学するための受験で燃え尽きてしまって、入学後には心身が疲弊してしまっている。
・高校卒業後の進路について、アイデンティティが確立されていないため、「自分はどのように生きていけばよいのかわからない。」、「そもそも自分がこれからどう生きていきたいのかもわからない。」という不安や悩みが生じる。
・高校生は学校の授業や宿題、学校行事などに加え、部活動、塾・予備校、アルバイトなど活動の幅が広がり、多忙であるため、心身の疲労が蓄積し、ストレスが増加しやすい。
・SNSなどの利用により、自分と同年代の人と比べて、自分のできていないこと、自分には足りていないことに目が向きやすく、気分の落ち込みにつながる。
・コロナ禍に登校しない期間があったことにより、登校意欲が低下している。また、登校する生活リズムになかなか戻せない。
・高校生の年代から睡眠リズムとしては夜型になるのだが、高校に通学するためには朝型の生活にする必要があり、生活リズムが乱れやすい。
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このようなきっかけからメンタル面での不調、生活リズムの不調が起こり、不登校につながるケースがあるようです。
様々な要因が重なり合って不登校の原因となっていることがわかりましたが、「原因が一つじゃないのなら、親はどうしたらいいの?」と思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで、不登校の初期~回復期において、それぞれの時期にできる親の接し方のポイントについて解説していきます。
下島(2022:*3)は不登校の一般的な経過を以下の3つの時期に分けています。
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①初期(不登校開始期)
体調不良を訴えるなど、学校を休む日が増え始める時期です。
遅刻や早退、保健室などで過ごすことが増えることもあります。
②中期(ひきこもり期)
学校には行かなくなり、ほとんど家庭で過ごすようになります。昼夜逆転の生活になったり、学校の話を嫌がって、家族との関わりを避けようとしたりすることもある時期です。
③後期(回復期)
家族との会話が増え、学校や進路のことを気にするような発言がみられることもあります。外出も増える時期です。
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各時期の具体的な期間は子どもによって異なります。
それぞれの時期によって子どもの状態は違ってきますので、親の働きかけ方も切り替えていくことが必要です。
【初期(不登校開始期)の親の接し方】
下島(2022)によると、この時期は、車で下り坂を走っているような状態です。安全走行のために下り坂ではブレーキをかける必要があるように、不登校初期は、無理に以前と同じようなペースを維持させようとしない方がよいでしょう。
・まずは「行きたくない」気持ちを受け止める
子どもが「○○だから休みたい」と言い出したときに、親は「○○だから」という理由の部分にばかり目を向けがちです。子どもにとっての「理由」が親にはたいしたことではないように思えても、「そんなことで休みたいの?!」と頭ごなしに否定せず、まずは「休みたい(行きたくない)ほど、つらい」という気持ちを受け止めてあげてください。
この時期に必要なことは、子どもが自分の気持ちを言葉で表すことと、それを受け止めてもらえる安心感を得ることです。
・子どもが話しやすい状況をつくる
子どもが「行きたくない理由」を話さない場合には、それなりの事情があります。無理に問い詰めるより、話しやすい状況をつくることを心がけましょう。
「行きたくない理由」を話さないのは、以下のような事情が考えられます。
①話したくない
子どもにもプライドがあるので「うまくいっていないこと」は話しにくいものです。また、話せば親から過度に心配されたり、騒がれたりするのではないかと恐れていることもあります。
②自分でもわからない
子ども自身もどうして学校に行きたくないのか・行けないのか理由がわからないこともあれば、複数の理由が重なり合っているので、うまく言葉にできないこともあります。そこを問い詰められると、子どもとしては困ってしまい、つらいと感じることもあります。
何か事情があって話さない時に、子どもが話しやすい状況をつくるには、一緒に料理をする、一緒に食事の後片付けをする、コーヒーブレイクやティータイムを一緒にとるなど、時間を共有することから始めるとよいでしょう。親も落ち着いて話を聞ける状態になりやすく、子どもも手を動かしながらだと話しやすいことが多いようです。
また、テーブルを挟んで真正面に座って話すよりも、何か共通の作業をしながら同じ方向を見て話したり、90度の位置に座って話したりする方が緊張せずに話しやすいと言われていますので、話しやすい位置を工夫してみるとよいでしょう。
・一旦休むことを選択してもよい
学校を休む日が増え始めるこの時期に、「休ませてもいいのだろうか?」、「『休みたい』と言われて休ませたら、このままずるずる休み続けてしまうのではないか?」と悩まれる親御さんは多くおられます。高校生の場合、学校を休むことで出席日数が足りずに単位を落としてしまうことや、それにより進級できなくなることを心配するのも親心としては自然なことでしょう。
しかし、「休みたい」という子どもに対して、親が「単位を落とさないように、学校に行きなさい!」と言っても、子どもの「休みたい(行きたくない)気持ち」がなくなるわけではありません。むしろ、親から登校することを無理強いされたことにより、学校に行きたくないほど傷ついていた子どもの心がさらに傷つけられてしまい、親子関係が悪くなる場合もあります。
一旦休んで、心身の疲労やエネルギーが回復すれば、短期間で再度登校できるようになることもありますので、「一旦休ませよう」と考えてもよいのではないでしょうか。
【中期(ひきこもり期)の親の接し方】
不登校真っ只中の子どもは、「エネルギー切れ」の状態ととらえましょう。エネルギーが回復するのを待つ姿勢が大切です。
・登校の無理強いはせず、心と体を休ませ、回復を促す
初期に一旦休ませても心身の疲労が残り、エネルギーが回復できなかった場合、子どもがそれだけの大きなダメージを受けていたのだと考えた方がよいでしょう。
「今は回復に必要な充電期間だ。」と親が割り切ってこれからの生活を考えていくことで、親の気持ちが楽になります。親の気持ちが楽になると、子どもの負担も減り、回復のためのエネルギーがたまりやすくなります。
登校の無理強いはせず、心と体を休ませエネルギーの回復を促しましょう。
・生活面では最低限のルールだけ決める
「回復に必要な充電期間」と割り切るにしても何も決めずに過ごしていると、子どものエネルギーはうまくたまっていきません。最低限のルールは決めておきましょう。
ただし、子どもは親から一方的に決められたルールや、自分が納得できないルールは守れません。子どもと一緒にルールを決めた方がよいでしょう。
<最低限のルールとして決めておくことの例>
・起きる時間
・インターネット・ゲームとの付き合い方
・1日に「これだけ」はやっておくこと
・帰宅時間・連絡方法など
【後期(回復期)の親の接し方】
エネルギーが十分にたまったら、また前に進んでいくことができる状態になります。しかし、不登校の回復期は、急発進にならないように、焦らないことが大切です。
・「学校に行こうかな」と言い出したら、背中を押しすぎず淡々と準備を進める
子どもの口から学校や勉強のこと、進学のことなどを気にする言葉が出始めたら、動ける状態になってきたサインです。
そのようなサインが見られ、子どもが「学校に行こうかな」といった前向きな発言をしてくれると、親としては嬉しい気持ちになるでしょう。しかし、この時、「わぁ!嬉しい!がんばれ!」といった親の激励は、子どもに「失敗できない」というプレッシャーを与えてしまう恐れがあります。親の「がんばれ!」と思う気持ちは心の中だけで唱えるようにして、子どもに対しては「無理しなくていいよ。でも、あなたが行こうかなと思っているんだったら、先生に話しておくね。」とあまり背中を押しすぎずに再登校の準備を進めましょう。
・登校を再開する時には、焦らず徐々に慣らせるよう親がブレーキ役となる
長期間家で過ごしていた状態からの登校再開時は、心身ともに疲れるものです。ここで無理に「今日から毎日、全ての授業に出席する!」と張り切りすぎると、すぐにまた「エネルギー切れ」の状態となり、逆戻りする恐れがあります。
子どもが再登校前から肩に力が入りすぎていたり、登校を再開してから張り切り過ぎているようなら、親がブレーキ役となるつもりで「急がずゆっくりでいいんだよ。」、「よくがんばってるね。家ではゆっくり休もうね。」と声をかけてあげることで、子どもは安心し、徐々に慣らしていこうと考えやすくなります。
【接し方に迷ったら、専門家に相談を】
ここまで、各時期における接し方のポイントをお伝えしてきましたが、「そもそも、うちの子は今どの時期なのかわからない。」、「うちの子に合った接し方がわからない。」、「ルールを決める時の話し合いはどうやったらいいの?」といった悩みが出てくることもあるだろうと思います。
そういった時は、専門家に相談することを考えてみてください。
子どもについて困っていること、子どもの将来についての不安など、心のモヤモヤを話せる場をもつことで、親の気持ちは安定しやすくなります。親自身の不安な気持ちを吐き出せる場所を見つけましょう。子どもは親の様子をよく見ているものです。親が自分のことで悩んでいる様子がわかると「心配させないために、がんばらなければ!」と無理をしてしまう子どもは少なくありません。そうならないためにも、親も自分の心のメンテナンスを心がけていきましょう。
臨床心理士とは・・・
悩みを抱える人との対話をベースに、問題の解決をサポートする「こころの専門家」です。
うららか相談室には、多くの臨床心理士が在籍しています。
子どもが高校で不登校となり、欠席日数が増え、留年や退学が迫ってくると親としては心配ですよね。
そこで、この章では不登校の高校生のその後の進路についてお話しします。
文部科学省の令和5年度の調査(*1)によると、高等学校における中途退学者数は46,238人であり、中途退学の主な理由としては、進路変更によるものが最も多く、19,087人となっており、割合は41.3%だったとのことです。
希望の進路変更先を多い順に並べると以下のとおりです。
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①別の高校への入学 10,602人
②就職 3,402人
③高卒程度認定試験の受験 1,359人
④専修・各種学校への入学 637人
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【転校】
希望の進路変更先として最も多かったように、別の高校へ転校をして卒業をめざすという道があります。
転校先としては、通信制高校、定時制高校などがあります。また、4番目に挙がっていた、専修・各種学校への入学という選択もあるでしょう。
特に希望する生徒が多い通信制高校は、それぞれの学校で特色が異なります。
生徒のやりたいことや目標を全面的にバックアップするような学校もあれば、まずは生徒がやりたいことを見つけられるようにメンタル面のサポートを充実させている学校もあります。不登校経験のある生徒のサポートを充実させるため、教員のほとんどがカウンセラー資格をもっているような学校もあります。
転校を考える際には、転校先の学校の特色をよく調べて、子どもの希望に合った学校を選ぶことが大切です。
【就職】
不登校の高校生の進路として、希望の進路変更先で2番目に多かった就職という道もあります。
ただし、高校を中退した場合、最終学歴が「中卒」となるので、求人数も職種も限られます。
文部科学省の説明では、次にご説明する高卒認定試験に合格することで、「高等学校卒業者と同等以上の学力がある者として認定され、就職、資格試験等に活用することができる」とのことですが、「中卒」の状態から就職する際には、「わかものハローワーク(※)」などの就職支援の機関で相談した上で、就職活動を進めた方が安心でしょう。
※わかものハローワーク:正社員を目指す若者(おおむね35歳未満)を対象に、担当者制による職業相談から自己理解・職務理解のサポート、能力開発の支援、応募準備のサポート、就職後の職場定着支援まで、一貫した支援を無料で実施している就業サポート機関。
【高卒認定試験を受験し進学】
先ほど就職について述べた際に最終学歴が「中卒」となると、求人数や職種が限られるということをお伝えしました。
最終学歴を更新するためには、「高等学校卒業程度認定試験(略称:高卒認定試験)」を受け、進学する必要があります。
この試験に合格することで、「高校卒業者と同等以上の学力がある」と認定され、大学・短大・専門学校の受験資格が与えられますので、そこから受験をして進学することが可能となります。
【進路を決める際に大切なこと】
進路を決める際に大切なことは、子どもの意思を大切にすることです。
親は自分が問題を乗り越えてきたノウハウがあり、子どもより人生経験も豊富なため、子どもが失敗しないように「こっちの進路の方がいいのでは?」とついアドバイスをしたくなるものです。
しかし、失敗しない環境を親が整えてしまうことで、子どもは自分で問題を乗り越えるという経験をするチャンスを逃してしまいます。
子どもは、自分が選んだ進路に進み、その環境に身を置くことで、自分に合った最適な環境を選ぶ力が身についていきます。また、問題にぶつかった時に試行錯誤して乗り越えることで「こうすればいいんだ」と問題解決能力も上がっていきます。これらの力を身につけるためにも、子ども本人の意思を尊重することが大切です。
ここまで、現在の高校生の不登校の原因や傾向についてご紹介し、学校を休み始めた初期の頃から回復期までの親の接し方のポイントについてお話してきましたが、いかがでしたでしょうか。
高校生の子どもの不登校に悩んでおられる方にとって、少しでもご参考となりましたら幸いです。
カウンセリングでは、不登校の子どもを支える親御さんの心理面でのサポートを行なっています。
接し方や子どもの進路について悩まれた時はもちろんのこと、親御さん自身のエネルギーが切れてしまいそうな時や心のモヤモヤを吐き出したい時にも、ぜひカウンセラーにご相談ください。
※参考資料
*1:文部科学省初等中等教育局児童生徒課 (2024) 「令和5年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について」
*2:文部科学省初等中等教育局児童生徒課 (2023) 「令和4年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について」
*3:下島かほる (2022) 「登校しぶり・不登校の子に親ができること」(講談社)