かつては「学校ぎらい」「登校拒否」とも呼ばれていた状態が「不登校」と呼ばれるようになり、学校以外の居場所がいろいろと作られてきたりと、不登校をとりまく状況はどんどん変わってきています。
とはいえ、不登校の理由や原因がはっきり分かることはそれほど多くなく、理由が分からないまま不登校の状態を続けることに、本人や周囲がしんどい思いをすることもあります。そんなときに、どう対応したらいいのか、どんな心持ちで過ごせばいいのか、お困りの方のご参考にしていただければと思います。
目次
- おわりに
まずは、不登校の定義を改めて確認するとともに、中学生の不登校の割合など、基本的なところからお話を始めます。
・不登校の定義
不登校とは、文部科学省の定義によれば、「何らかの心理的、情緒的、身体的あるいは社会的要因・背景により、登校しないあるいはしたくともできない状況にあるために年間30日以上欠席した者のうち、病気や経済的な理由による者を除いたもの」を指します。
つまり、年間30日未満の欠席、病気や経済的理由による欠席は、不登校には含まれないのです。
・中学生の不登校割合は増加傾向
文部科学省が発表した資料(「令和4年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について」)によると、令和4年度の中学生合計324万人あまりのうち、不登校に該当するのは193,936人です。割合にすると6.0%が不登校の状態にあるということになります。平均すると、およそ中学生16~17人に1人、クラスに2~3人は不登校生徒がいるという結果です。
お伝えしたように、不登校は年間30日以上の欠席は該当しないため、休みがちな生徒でも欠席が年間30日に満たない場合や、年間30日以上欠席していても病気等によるものの場合は、上記の結果には含まれていません。
前年度(令和3年度)の不登校割合が5.0%だったのと比較すると増加しており、それ以前からも増加傾向が続いています。
また、同資料によれば、令和4年度の小学生の不登校割合は1.7%(令和3年度は1.3%)で、中学生は小学生よりもずっと不登校生徒が多い結果となっています。
子どもの年齢的にも年度ごとにも増えてきている中学生の不登校ですが、どんなことがその原因になるのでしょうか。
・「無気力、不安」が一番多い
文部科学省の調査では、不登校の要因を「学校に係る状況」「家庭に係る状況」「本人に係る状況」の3つに分けています。令和4年度の結果について、3つの状況別にさらに詳しい要因を見てみましょう。
【学校に係る状況】
☑いじめを除く友人関係をめぐる問題:20,598人(10.6%)
☑学業の不振:11,169人(5.8%)
☑入学、転編入学、進級時の不適応:7,389人(3.8%)
☑教職員との関係をめぐる問題:1,706人(0.9%)
☑進路に係る不安:1,837人(0.9%)
☑学校のきまり等をめぐる問題:1,315人(0.7%)
☑クラブ活動、部活動等への不適応:839人(0.4%)
☑いじめ:356人(0.2%)
【家庭に係る状況】
☑親子の関わり方:9,441人(4.9%)
☑家庭の生活環境の急激な変化:4,343人(2.2%)
☑家庭内の不和:3,232人(1.7%)
【本人に係る状況】
☑無気力、不安:101,300人(52.2%)
☑生活リズムの乱れ、あそび、非行:20,790人(10.7%)
このほかに、上記に該当なしが5.0%という結果です。
中学生の不登校の原因は、本人の「無気力、不安」が最も多く、次に「生活リズムの乱れ、あそび、非行」と、ほぼ同率で「いじめを除く友人関係をめぐる問題」が多いという結果です。
・実際の理由とは相違がある場合も
この調査の対象は、各学校や自治体の教育委員会です。つまり、上記の不登校の要因は、教員が自身の主観をもとに回答したものであり、生徒本人や保護者の感覚とは異なることもあるでしょう。
また、中学生の不登校の最多要因とされている「無気力、不安」が本人の感覚と合致していたとしても、なぜ無気力になってしまったのか、何に対する不安なのか、個別により詳しく見ていかなければ実際の不登校の理由はなかなか分かりづらいだろうとも思います。
・生徒を対象とした調査結果とは隔たりがある
児童生徒を対象にした調査(「令和2年度 不登校児童生徒の実態調査」)によれば、最初に学校に行きづらいと感じたきっかけは、多い方から順に見ると以下の通りです。
☑身体の不調(32.6%)
☑勉強が分からない(27.6%)
☑先生のこと(27.5%)
また、「きっかけが何か自分でもよく分からない(22.9%)」「特にきっかけはないと思う(1.5%)」との回答もありました。
「最初のきっかけとは別の学校に行きづらくなる理由」については、多い方から以下の順となっています。
☑勉強が分からない(41.8%)
☑生活リズムの乱れ(34.9%)
☑友達のこと(32.9%)
上記以外にも様々な要因が低くはない割合で回答されており、不登校に至るまでにはいくつもの要因が複雑に絡まっていたり、本人でさえも原因が分からないということも珍しくないことがうかがえます。
・今後はより実態に近い調査結果が期待される
このように、生徒が回答する不登校のきっかけや理由は、教員が回答した調査結果とは異なっていた事情も踏まえてか、文科省の不登校に関する調査はその項目等が見直されることが発表されました。
2023年度分の調査からは、主たる不登校要因について複数回答が可能になったり、生徒自身や保護者、スクールカウンセラーに確認するよう推奨したりすることになったのです。今後は、より実態に近づいた内容になることが期待されます。
不登校の理由が分かれば、そこに対応することも選択肢のひとつに挙げやすいですが、理由が分からないときは本人も周囲も困ってしまうことが多いかと思います。理由が分からないときは、どのように対応すればいいのでしょうか。
・原因や理由を追究しない
何事においても「分からない」状態は不安を強めます。不登校の理由を本人に聞いても「分からない」としか言わない、黙ってしまうなど、理由や原因がはっきりしないときも例外ではなく、つい不安から不登校の理由を問いただしたくなるのも無理はないかと思います。
しかし、子ども自身もなぜ学校に足が向かないのか分からなかったり、頭や心が混乱していたり、自己否定的な気持ちでいっぱいだったりする場合も珍しくなく、そこに理由を追求されると余計に苦しくなってしまいます。気持ちが追い詰められると、その場しのぎに実際の感覚とは異なる表向きの理由を挙げることにも繋がりかねません。
そうなってしまうと、ますます適切な対応が難しくなるため、理由を追究するのは避けた方が良いです。
・無理に学校に行かせようとしない
明確な理由がないのに学校に行かない姿を見ていると、「サボっているだけではないか」「特に理由がないなら、ちょっと頑張れば学校に行けるのではないか」と思えることもあるかもしれません。
しかし、だからといって本人に無理に学校に行くよう求めるのは、得策ではありません。理由もなく学校に行けなくなることもありますし、理由があっても何らかの事情で本人はそれを認識できない、あるいは認識はできても言えないということは、本当によくあります。
人は信じてもらえないと傷つきます。不登校の子どもも例外ではありません。理由は言えなくても学校に行けないだけの感覚が体内にあるために不登校になっているのですから、そこを尊重することが望ましい対応のひとつです。
・本人の気持ちや考えがまとまるまで見守る
状況や気持ちが落ち着いてくると、心の中を見つめる余裕が出てきます。すると、以前は分からなかった感情や考えが見えてくることがあります。そんなふうに、少しゆっくり過ごすと不登校の理由が分かってくることにも繋がるため、周囲は本人のペースを尊重して見守っていくのも適切な対応と言えます。
臨床心理士とは・・・
悩みを抱える人との対話をベースに、問題の解決をサポートする「こころの専門家」です。
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不登校の理由が分かっているかどうかに関わらず、親が不登校の中学生にできる対応について、いくつか挙げておきます。
・本人の意思に反して対外的な対応をしない
親としては心配になってしまうのは無理もありませんが、心配なあまり、本人の意思に反して学校や子どもの友人など対外的な相手に接触して、本人のことや不登校の理由について話そうとするのは避けた方が良いでしょう。
・いつでも話を聞く用意はあることを伝える
子どもに不登校の原因を追究しない方が良いことは既にお伝えした通りですが、ふと子どもの方から話をしたくなるタイミングが訪れるかもしれません。そんなときのためにも、親子関係の安定のためにも、「親側から色々聞いたりはしないけれど、話したい気持ちになったらいつでも聞くよ」というように伝えておくと良いでしょう。
世間では、女子は比較的話をするけれど男子は何も言わないというようなことも見聞きしますが、性差よりは個人差が大きいように思いますし、何かあったら聞いてくれる親がいるという安心感は、男女問わず大切なことと言えます。
・安心できる環境を整える
不登校の児童生徒は増加しているとはいえ、学校に行かない子どもは全体から見ればまだまだ少数派です。少数派でいることは大きな不安を伴うことでもありますから、子どもが安心感を持てる環境を整えることは重要な親の対応のひとつです。
子どもの登校状況で親が一喜一憂せず、学校に行っても休んでも親側はいつも通りの生活や言動をしていると、子どもは不登校であることに罪悪感を抱かずにすむようになります。不安や焦り、自己否定感を持たなくてもいい、安心できる環境にしばらく身を置いていると、少しずつ自分のこと、学校のこと、将来のことなどを考えるエネルギーが出てくることにも繋がります。
何が安心感をもたらすかは子どもによっても違うので、子どもと相談したり様子を見たりしながら、落ち着いた心持ちで過ごせる環境や雰囲気を家庭内に作れるといいですね。
・焦らずできるだけ楽しく過ごす
不登校の中学生の家での過ごし方としてどんなものが望ましいのか、親は何をさせるといいのか、気になる方も多いかと思います。子どもの状態や状況にもよりますが、「学校に行かなくては」という不安や焦りとともに過ごすよりは、できるだけ楽しくリラックスできる時間が長くなるような過ごし方をすると良いかと思います。
ただ、早寝早起き、軽く身体を動かす、食事は抜かない等、生活習慣を整えることは意識できるといいですね。
不登校の児童・生徒のうち小中学生はフリースクールという選択肢もありますが、フリースクールは中学までということろが多く、中学を卒業したら別の進路を考える必要があります。中学時代に不登校だった生徒のその後は、どんな進路選択があるのでしょうか。
・高校進学
公立/私立、全日制/定時制/通信制/単位制など、高校には様々な種類があります。
定時制や通信制、単位制高校は、入学選抜において中学時代の学力や出席日数はそれほど重視されないところが多く、入学後も授業の選択や学校生活において自由度が高いという特徴があり、不登校生徒の進路としても選びやすいと言えます。
以前は、特に公立高校において中学の出席日数が少ないと受験で不利になったり、不登校生徒を積極的に受け入れる一部の定時制高校や通信制高校などに進路が限られてしまう状況がありました。
しかし、近年は調査書(内申書)に出欠欄を設けない、長期欠席者に配慮した選抜方法が選べるなど、不登校生徒にも不利益のない取り扱いをする自治体が増えてきました。公立高校も含めた高校進学の選択肢が広がっています。
・高等専修学校
高等専修学校とは、中学卒業者を対象とした、社会に出たときに役立つ専門資格や技術の習得が可能な学校です。1~3年制で、農業・商業・工業・美容・服飾・クリエイティブ系など、学校によって様々な分野の勉強ができます。
高等専修学校に通う生徒の中には不登校経験者も多く、少人数教育や本人の興味や希望に合ったカリキュラムを通じて、自立に向けた準備をしていくことができます。
3年制の高等専修学校は、卒業後に専門学校への進学も可能で、なおかつ、ほとんどは大学への進学も可能です。
・高等学校卒業程度認定試験
高校に進学したけれど通うことが難しくなった人や、大学入学資格が付かない高等専修学校に通学・卒業した人が大学に進学したい場合、高等学校卒業程度認定試験に合格すれば、高校を卒業していなくても大学・短大・専門学校の受験資格を得られます。
中学時代に不登校でも、大学に進学して主体的に学びを深めたり、人間関係を広げたりすることも充分可能なのです。
・留学や就職など
中学を卒業してすぐ就職というのは、年齢的な条件もあってなかなか難しいのが現状です。高等技術専門校(学校教育法による「学校」ではなく、職業訓練校)や公共職業訓練に通ったり、家族や知人の仕事を手伝ったりしながら、正規に就職できるタイミングを待つことも可能ではあります。
また、外国の言語や文化に興味がある場合は、海外への進学・留学もひとつの選択肢となり得ます。
不登校の原因は本人にもよく分からないことが多く、原因を探るよりも、家族として共に楽しく暮らしながらできるサポートをしていくというスタンスの方が、お互いに楽になれることもあるように思います。
進路や将来についても、不登校だからといって特別に悲観せねばならないような状況があるわけではありません。必要ならば保護者の方も家族や友人、専門家のサポートを受けながら、子どもを見守っていけるといいですね。
※参考資料
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/futoukou/03070701/002.pdf
文部科学省 不登校の現状に関する認識
https://www.mext.go.jp/content/20231004-mxt_jidou01-100002753_1.pdf
文部科学省 令和4年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について
https://www.mext.go.jp/content/20211006-mxt_jidou02-000018318-2.pdf
文部科学省 令和2年度不登校児童生徒の実態調査 結果の概要