うつ病の一種として「非定型うつ病」があるのをご存じですか?従来のうつ病はかなり広く知られるようになりましたが、非定型うつ病はまだまだ認知度が低く、誤解されることも珍しくないように思います。
今回は、非定型うつ病の概要や治し方、周囲の人が非定型うつ病と診断された場合の接し方などをお伝えしていきます。
目次
- 非定型うつ病とは
- 周囲の人の接し方
- おわりに
はじめに、非定型うつ病とはどのようなものか見ていきましょう。
・うつ病の中でも特徴的な症状を示す、うつ病の一種
うつ病と診断される人の中には、従来のうつ病(定型うつ病)だけでなく、それとは一部異なる特徴的な症状を示す人が含まれます。それが非定型うつ病です。
定型うつ病と違って、非定型うつ病では落ち込みだけが続くわけではなく、好きなことは楽しめたり気分が良い時間もあったりするため、本人も周囲の人も病気だとは思えず、わがままや気分屋だと誤解されることもしばしばあります。
しかし、非定型うつ病はアメリカ精神医学会の診断基準であるDSM-5にも定義されている正式な病名であり、基準を満たした場合にのみ診断がつきます。
・他の病気や障害と併存することも
非定型うつ病は、従来の(定型)うつ病とだけ診断されたり、不安障害やパーソナリティ障害など他の疾患と誤診されたりすることも多いと言われています。
また、誤診ではなく、実際にそれらの疾患と非定型うつ病が併発することもあり、定型のうつ病と比べると新しい疾患であることも加えて、診断が難しいところがあります。
ここからは、より詳しく非定型うつ病の症状や診断基準をご紹介します。
・激しい気分の浮き沈みや過眠・過食などが主症状
非定型うつ病の症状には、以下のようなものがあります。
☑気分の浮き沈みが激しい
☑過眠
☑甘いものを大量に食べたくなる
☑人のちょっとした言葉や態度に過敏で、激しい反応をする
☑体が鉛のように重く感じる
従来のうつ病が、好きなことへの意欲が低下し、本来なら嬉しいことがあっても気分が落ち込んだままであるのに対し、非定型うつ病では好きなものや嬉しいことに対しては気分が良くなり、誘いに応じて外出を楽しめたりもします。反面、少しでも嫌なことがあると非常に落ち込むなど、気分反応性と呼ばれる症状が特徴のひとつです。
他人のちょっとした言動を非常に敏感に捉え曲解してしまったり、否定や批判を過剰に恐れるあまり自分から人間関係を避けたりする拒絶過敏性も見られます。
また、1日10時間以上も眠るといった過眠、甘いものや食事量および体重の増加、身体の重さなどの症状も見られます。
・不安や抑うつ、怒りの発作が出ることも
上記の症状に伴って、不安や抑うつ、怒りなどが急激に強まり、発作のように表出されるのも、非定型うつ病によくある症状です。
発作の表れ方は多種多様で、たとえば、悲哀・イライラ・絶望感などの気分の高まり、急に涙が出る・動悸・胸部や腹部の不快感などの身体症状、自傷行為・叫ぶ・物や他人に激しく当たるなどの行動があります。
これらの発作は、夕方から夜にかけて起きることが多いと言われています。
・DSM-5のうつ病の基準+非定型うつ病の特徴を満たすと診断される
アメリカ精神医学会のDSM-5では、定型のうつ病の診断基準として、抑うつ気分、興味・喜びの喪失、希死念慮などの症状が2週間以上続いている等が挙げられています。これに照らし合わせ、うつ病に該当した場合、さらに非定型うつ病の特徴にも当てはまるかを確認します。つまり、非定型うつ病にも、従来のうつ病の主要な症状は共通するのです。
うつ病の診断基準を満たすことに加えて、気分反応性があることと、①明らかな体重増加または食欲の増加、②過眠、③身体が鉛のように重い感覚、④長期間の拒絶過敏性によって著しく社会的・職業的な障害がある、のうち2つ以上の特徴が見られ、なおかつ他の型のうつ病などの基準を満たさない場合、非定型うつ病と診断されます。
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お伝えしてきた通り、非定型うつ病はうつ病の一種ですが、そもそも、うつ病は気分障害の一種です。気分障害には、うつ病、非定型うつ病のほかに、双極性障害なども含まれ、それらの病気はそれぞれ似た症状もあり、診断が難しいところもあります。
・定型うつ病や双極性障害との比較
従来のうつ病や双極性障害との違いはどのようなところにあるのか、もう少し詳しくお話します。
【うつ病】
☑好きなことへの興味や楽しみが感じられなくなる(うつ状態だけが続く)
☑朝から午前中に抑うつ気分が強まる
☑食欲が低下し、不眠が見られることが多い
☑周囲から見ても病的な状態だと分かりやすい
【非定型うつ病】
☑楽しいことがあったときは一時的に気分が良くなる
☑夕方から夜に抑うつ気分や症状が強まる
☑食欲が亢進し、過眠が見られることが多い
☑周囲からは病気だとは分かりづらく誤解を受けやすい
【双極性障害】
☑抑うつ状態と躁状態を繰り返す
☑躁のときは万能感、気分の高揚、睡眠欲求の減少などが見られる
☑浪費や極端に活動的な行動などによって社会生活に著しい支障がある
☑周囲から見ても病的な状態だと分かりやすい
・より正確な診断には経過観察が必要
うつ状態で受診をしていったん定型うつ病と診断されても、経過の中で気分反応性など非定型うつ病の特徴が見られたり、躁状態が出てきたりして診断が変わることもあり得ます。
また、双極性障害やパーソナリティ障害、不安障害などと非定型うつ病が合併することもあります。
いずれの場合も、正確な診断や治療には、長期的な経過観察が欠かせませんので、医師の指示通り通院を続けることが大切です。
それでは、非定型うつ病の原因とはどのようなものでしょうか。なりやすい人はいるのでしょうか?
・若い女性に多いと言われている
定型うつ病が比較的中年男性に多いとされているのに比べて、非定型うつ病は性別では男性よりも女性に、年代では10代の若年層の発症が多いと言われています。
病前性格は、他人の目を気にしがちで自己主張をあまりしないタイプが多いとも言われていますが、もちろん、そのような性格の人が必ず発症するわけではありません。
・明確な原因は不明だが元々の資質や環境なども要因となる
非定型うつ病の直接的な原因はまだはっきりと分かっていませんが、元々の資質に加えて環境や家族歴、生活習慣など様々な要因が影響すると考えられています。
過去にトラウマがある、家族にうつ病の既往歴がある、元々不安や緊張を感じやすい性格なども発症のリスクを高めることがあります。
非定型うつ病にはどのような治療法があるのでしょうか。
・休養および薬物療法と心理療法が中心
非定型うつ病の治療は、基本的にはうつ病の治療と同様に、じゅうぶんな休養を取ること、薬物治療や心理療法が中心となります。
ただし、うつ病治療に用いられる薬の一部は非定型うつ病にはあまり効果がない場合もあるため、適切な治療のためには継続的な通院と正確な診断が前提となります。
心理療法では、カウンセラーに気になっていることや困り事を話したり、認知行動療法などを用いて発症や悪化の要因になっていると思われる考え方の癖を探り、修正を試みたりします。
・その他の治療法
上記以外の治療法として、脳に電流を流して一時的なけいれんを起こす「電気けいれん療法(ECT)」や、磁気を利用して脳に刺激を与える「経頭蓋磁気刺激治療(TMS)」もあります。
どちらも薬物治療で効果が得られない場合や、重症で心理療法の対象にならない場合などに検討されることが多いです。
周囲に非定型うつ病の人がいる場合、どのように接したらよいのか迷うことも多いかと思います。どんな接し方が望ましいのでしょうか。
・わがままではなく病気の症状だと捉える
非定型うつ病の気分反応性や拒絶過敏性という特徴から、好きなことは楽しむ元気があるのに嫌なことだけ避けているように見えて、「わがまま」「仮病」と思われることも珍しくありません。
非定型うつ病と診断されている場合、それらの状態はわがまままや仮病ではなく、病気の症状だと捉え、その症状自体のしんどさに加え、誤解されがちな苦しさにも寄り添えると良いかと思います。
未受診の段階では安易にわがままだと決めつけず、受診を勧めたり、必要なら一緒に病院を探したりする形でサポートの意思を伝えておくのも良いでしょう。
・病気を理解し穏やかに接する
職場に非定型うつ病と診断された人がいた場合、まずはどのような病気なのかを理解し、欠勤をずる休みとは捉えず、どんな仕事なら比較的負担が少なくできるか、休職するかどうか等、本人とよく相談してひとつずつ決めていくと良いです。
相談の際は本人の訴えを否定せず、穏やかに話をしていくと良いでしょう。
・無理のない範囲で行動を促す働きかけはしてもいい
一般的に、定型うつ病の人に「頑張れ」と言って励ますのは望ましくないことは広く知られるようになりましたが、非定型うつ病の場合は必ずしも「頑張って」が禁句というわけではありません。休養ばかりを促すよりも、本人の気持ちを聞きながらできることはやらせたり、頑張れるよう励ますのは大切なことです。
運動不足も悪化の要因なので、外出に誘ったり一緒に散歩したりするのも大切なサポートになり得ます。
・怒らず一緒に考える姿勢を示す
非定型うつ病は若年層に多いので、家族と同居している人も多いかと思います。過食や希死念慮など苦しい症状や行動化があっても、怒られたり心配をかけてしまったりするのが怖くて親に言えないこともあるかもしれません。
家族は、望ましくない行動に対しては厳しく怒ったりせず、その行動自体は望ましくないけれど、そうしてしまうほど苦しかったのだろうと伝え、どうしたらいいか一緒に考える姿勢を示しておくと良いでしょう。
従来のうつ病に比べるとまだ誤解されることの多い非定型うつ病ですが、お話してきた通り、正式な診断基準を持つうつ病の一種です。
周囲から誤解されることが多いだけでなく、自分自身で病気なのかもしれないと気づくことも難しい場合があるため、少しでも生きづらさや日常生活での支障を感じたら、心療内科への受診を検討してみてください。