近年、障害のある本人(以下、障害児・者)に対する兄弟姉妹(以下、きょうだい児)の関わりに注目した研究が増えてきています。きょうだい児は、子どものころは親とともに障害のあるきょうだいの世話を焼き、親亡き後も何らかの形できょうだいを支え続けることが多いです。また、親や親戚からきょうだいへの関わりを期待され、自由に人生を決められない、恋愛や結婚を積極的に考えることが難しいといった悩みを抱えやすくなります。
このコラムでは、きょうだい児やパートナーが抱えやすい悩み、特に結婚の悩みの乗り越え方などについて、解説していきます。
※このコラムでは、単に兄弟姉妹のことをきょうだいと表しています。
目次
- きょうだい児とは
- おわりに
きょうだい児とは、障害児・者のきょうだいのことを指します。
きょうだい児への支援の必要性を最初に提唱したのは、イギリスの小児科医Holt(1958)で、「きょうだいの人格発達や情緒の発達に、家庭内の障害児・者の存在が影響しているのではないか」という指摘により、きょうだい児が受ける心理的負荷についての研究が進められました。
その後、Graliker,Fishler,and Koch(1962)によると、専門家がきょうだい児に心理的な支援を行った場合に、障害児・者の存在はきょうだい児の人格発達に良い影響を及ぼすといい、きょうだい児の心理的な支援の必要性が説かれています。
日本では、1963年に設立された「全国心身障害者をもつ兄弟姉妹の会」が、「全国障害者とともに歩む兄弟姉妹の会」に名称を変えた1995年の翌年以降、きょうだい児の支援の必要性が提唱され始めました。(柳澤, 2007)この会は、自助グループ(同じ困難を抱える者が集まるグループ)として、現在でもきょうだい児支援の中心的な組織です。
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きょうだい児が抱えやすい悩みには以下のようなことが挙げられます。
世の中は障害について理解がある人ばかりではないため、きょうだい児は、親しくなった友だちや好きになった人に、障害のあるきょうだいがいることをどのようにカミングアウトしようか悩むでしょう。特に、車いすを必要とする人や視覚障害・聴覚障害のような身体障害ではなく、見た目で分かりにくい発達障害などは、どのように説明すれば相手に理解してもらえるのかといったことで悩みやすくなります。相手が障害に対する理解のない人だと感じたとき、傷ついたり、やはり話すことはやめようと思ったり、ぎりぎりまで隠し通そうとしたりすることがあります。
また、障害のある人のお世話に慣れているからといった理由で周囲から頼られすぎるのが辛いということを分かってもらえず、きょうだいについて知られたくないと思うことがあります。
小さいころから、障害のあるきょうだいの世話で親が苦労していることを知っているため、例えば、地元を離れて自分の行きたい大学に行ってもいいのだろうか、就職や結婚は実家に近い方がいいのかなどといったように、自分の人生を自由に決めることに抵抗を感じてしまうことがあります。
特に、両親や周りの人たちが、「あなたの人生だから好きにしていい」と言うのではなく、「あなただけ、好きなように生きていてずるい」と否定するようなことを言う場合には、「自分は自由に生きられない」「好きにするのは自分勝手なのでは?」などと思い込んでしまいやすくなります。
例えば、結婚を考えたときに、「障害のあるきょうだいのお世話を将来するようになるとパートナーの協力も必要になるため、相手に負担をかけてしまう」といったことに引け目を感じることがあります。
Lobato(1983),McHale&Gamble(1989),Meyer&Vadasy(1994)Rosenberg(2000)などの海外の研究では、きょうだい児が抱えやすい心理的な問題がいくつか指摘されています。以下にその特徴を挙げていきます。
親が障害のある子に手をかける時間が長くなるため、自分にあまりかまってもらえないという寂しさを抱きやすくなります。
障害のある子に手がかかって忙しい母親に、もっと甘えたい、かまってもらいたい、と思うことはわがままなのではないかという罪悪感を覚えてしまうことがあります。
母親にかまってもらえないだけでなく、障害のあるきょうだいの世話や手伝いもしないといけないことで、どうして自分ばかりが我慢をしなければいけないのだろうという不満や怒りを感じることがあります。
障害のあるきょうだいの面倒を見ないといけない、自分は親のためにしっかりしないといけないなどというように、早く精神的に大人になることを期待されるので、子どものころからプレッシャーを感じやすくなります。また、障害のある子の扱いに慣れているからといった理由で、周囲からお世話を期待されるため、精神的に追い詰められることがあります。
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きょうだい児のパートナーにとって、付き合っている段階できょうだいが関わることは少ないですが、結婚するとなるときょうだいは親戚になるため、より多く関わることになります。
きょうだい児のパートナーが抱えやすい悩みについて、以下に述べていきます。
身内や知り合いに同じような障害のある人がいない場合は、障害についての知識が少ないため、一体どこが健常者と違うのか、どのように対応をすればいいのかといったイメージが湧きにくく、障害のある親戚への接し方に悩むことが多くなります。
手足の身体障害や視覚障害、聴覚障害では、それぞれ困っていることが異なりますし、見た目では分からないような軽度の知的障害や発達障害、精神障害などでは、これまでに関わったことのない人も多いため、何に困っているのか、さらにイメージがつきにくくなります。
パートナーの助けになりたいと思っても、障害の知識や対応を知らないうえに、「こんなことを手伝ってもらえると助かる」といった話をしてもらえない場合は、どのように協力すればいいのか分からなくなることがあります。
きょうだい児は、子どものころから親の負担を減らすために、障害のあるきょうだいを世話したり家事を手伝ったりするので、精神的に大人になるのが早い傾向があります。パートナーであるきょうだい児の「関係のない相手に負担をかけてはいけない」といった責任感が強く、一人で悩みを抱え込んでしまう姿に対して、「自分は頼りにされていないのではないか」と感じることがあります。
きょうだい児は、将来のきょうだいの世話などで、結婚したパートナーに迷惑をかけるのではないかと悩むことも多いと思います。ただし、きょうだい児に限らず、人はそれぞれ誰かに協力してもらわなければ過ごせない何かしらの事情があることは多いものです。
パートナーに迷惑をかけてしまうからと一人で思い悩まずに、人生を一緒に過ごしていく相手を信頼して話をしてみましょう。そのために準備しておくことなどについて、以下に挙げていきます。
1.きょうだいの対応について自分の親と共通理解を深める
親が障害のあるきょうだいの世話をほとんどしている場合、きょうだい児にあたる子どもに対して、詳しい障害の情報や困りごとについて話をしていないことがあります。母親が、きょうだい児にあたる子どもに迷惑をかけたくない、あるいは社会の偏見が怖いと感じて、悩みをオープンにしない場合、両親が年老いた後にきょうだい児が障害や病気の情報や対応についてほとんど知らされておらず、今後の生活やお金の管理などに困り果てることがあります。
親が年老いた後または親亡き後に、きょうだい児自身が慌てないようにするために、親が元気なうちから情報を共有しておきましょう。例えば、どのようなことに困っているのか、どのように対応しているのか、将来は在宅支援にするのか施設の利用を考えるのかなどといったことを、家族で話し合っておくと安心です。
もちろん、そのときにならないとわからないこともありますが、ある程度の見通しをつけて、障害や病気の情報や悩みごとを共有しておくことは将来の安心につながります。
2.ケースワーカーなどの専門職に相談できる体制を作る
障害のあるきょうだいが子どものころに療育を受けていたり、就労支援を受けていたりするのであれば、市町村の障害福祉担当のケースワーカーと関わりがあるでしょう。生活や将来のことで悩みがあればいつでも相談できるように、地域の相談窓口を確認し、障害のあるきょうだいを主体的に支えることになったときでも焦らないように情報収集をしておくと安心です。
通常は、住所により担当が決まっているので、初めて相談する場合でもつないでもらえます。また、発達障害であれば、都道府県の発達障害者支援センターなどでも相談に乗っていますので、困ったときの窓口を知っておくと便利です。
お金の管理や重要な決断が自分でできない場合は、成年後見制度が活用できます。成年後見制度は、成年後見人に選ばれた人が本人の代わりに適切なお金の管理や契約の支援を行う制度をいいます。こちらは、市町村の担当窓口、社会福祉協議会、地域包括支援センターなどで相談に乗っています。メリットやデメリット、疑問点をよく確認してから利用の判断をすることをおすすめします。
3.医療的なケアについては実際に関わっておく
医療的なケアが必要であれば、聞いたり見たりしているのと実際にお世話するのとでは体感が異なることが多いため、普段お世話をしている家族のもとで実際に関わって、一体どのようなことが大変なのかを確認しておくとよいでしょう。
医師に診療を要請する往診や定期的に診療を行う訪問看護なども利用していることが多いので、困ったときに相談できるよう連絡先や所在地を確認しておくと安心です。
4.そのうえでパートナーにきょうだいの障害のことをカミングアウトする
障害や医療ケア、介護の情報、今後の見通しや対応について考えていることなどを、きょうだい児である自分自身が整理したうえで話をすると、パートナーへのカミングアウトに対する不安が軽減しやすいでしょう。
情報が不足している状態でカミングアウトを受けても、多くの人は「どう対応していいかわからない」などと、未知のことに対する不安を抱えてしまいます。
障害のあるきょうだいのことをパートナーに打ち明けることは勇気がいりますが、結婚目前で話すよりも、親しくなってなんでも話せそうな雰囲気だと感じたときにカミングアウトするのがいいと思います。それで態度を変えるような人であれば、様々な困難のある結婚生活を乗り越えるのは、その人とは難しかったのかもしれません。
また、きょうだい児のパートナーは、もっと自分を頼ってほしいけれど、何に困っているかわからない、障害についての情報を知らないということが多いです。
例えば、将来は障害福祉のサービスをフル活用して在宅支援をする、介護が重くなれば施設利用を考えている、お金の管理は自分がする、障害年金を考慮すると自分たちが支援するのは~円くらいになる、週に2回くらい様子を見にいく、困ったときはケースワーカーの○○さんに相談するなどといったように見通しがあれば、パートナーの不安も軽減しやすくなります。
5.パートナーの親への説明
結婚することになったときに、パートナーの親へ自分のきょうだいの障害のことを話すのはためらわれると思いますが、4.で述べたような対応を事前にパートナーに話しておいたうえで、パートナーの親に会えば不安は軽減されやすくなると思います。なかには「わざわざ苦労しそうな人と結婚しなくてもいいのに」といった考えを持つ親もいるかもしれませんが、パートナー自身が理解を示してくれていて、困ったときは手を貸してくれるのであれば、親への説得も協力してくれるでしょう。あるいは、パートナーの親が、障害のある人を支える仕組みや制度を知らなくて不安であったり、障害の状態が分からないため、手のかかる親戚がいるなんて大変だと思い込んでいたりすることもあります。
たとえ、手がかかる障害であったとしても、事前に対応を考えておけば、身体は不自由でも自分で判断することはできる、身体の介護は訪問サービスで賄うことができるなどといったように、障害について知識のないパートナーの親にも納得のいくように説明ができると思います。
6.家族の問題を抱えている人は多い。自分だけが特別ではないと考える
生まれつき障害のあるきょうだいがいる方は、子ども時代や若いころに何度も葛藤を乗り越えてきていると思います。
ただし、それまで順風満帆だった人でも、ずっと上手くいくとは限りません。誰しも遅かれ早かれ親の介護問題に直面しますし、自分自身もいつまでも若くはなく、健康への不安も出てきます。また、自分は平気と思っていても知らぬ間にストレスを溜めていることもありますし、身内がうつ病になるなど、人生には予想できないことがたくさんあります。そういった視点で考えれば、「きょうだい児である自分が幸せになっていいのだろうか?」などと悩む必要はないといえるでしょう。一人で抱え込んで辛くなってしまっている方は、きょうだい児の自助グループへの参加も検討してみてください。
きょうだい児が抱きやすい感情、きょうだい児やパートナーの悩み、結婚への不安を軽減する方法などをお伝えしてきました。近年は、障害を個性ととらえる見方もありますが、実際は特別な配慮が必要なことが多く、一般の方々には「めんどう」「大変そう」というイメージがまだまだあることは否めません。
しかし、人生では「自分は大丈夫」と思っても、思わぬ病気にかかったり事故に遭ったりすることもあり、障害があることは決して特別なことではありません。協力的なパートナーに出会えたら、一人で抱え込まず、悩みを共有して一緒に対応を考えられれば、様々な不安が軽減されると思います。きょうだい児も当然持っている自分自身の人生を大切にしてください。
<参考文献>
・柳澤亜希子(2007)障害児・者のきょうだいが抱える諸問題と支援のあり方.特殊教育学研究, 45(1), p.13-23
・黒岩めぐみ 金泉志保美(2019)病気や障害を持つ子どものきょうだい児への支援に関する研究の動向と課題, 群馬保健学研究, 40, p.1-7
・立山清美 立山順一 宮前珠子(2003)障害児の「きょうだい」の成長過程に見られる気になる兆候-その原因と母親の「きょうだい」への配慮―, 広島大学保健学ジャーナル, 3(1), p.37-45
・桑山友里(2017)発達障害児・者のきょうだいに関する研究と支援の動向, 中京大学心理学研究科・心理学部紀要, 17(1), p.63-72
・Holt,K(1958)The home care of severely retarded children Pediatrics, 22, p.744-755
・Graliker,B.V,Fishhler,D,&Koch,R.(1962)Teenage reactions to a mentally retarded sibling.American Journal of Mental Deficiency, 66, p.838-843
・Lobato,D,J(1983)Siblings of handicapped children;A review Journal of Aurism and Developmental Disorders,13, p.347-364.
・McHale,S.M.&Gamble,W.C.(1989)Sibling relationships of children with disabled and nondisabled brothers,and sisters.Developmental Psychology,25,421-429
・Meyer,D.J&Vadasy,P.F.(1994)Sibshops;Workshops for siblings of children with special needs.
・Rosenberg,M.S.(2000)Everything you need to know when a brother or sister is autistic.Rosen Publishing Group New York.