恋愛でうまくいかないことがあったときや仕事で失敗が続いたときに、「なんてダメな人間なんだ」と自分で自分を否定してしまうことはありませんか。このようなことが多く、「自己否定が治らない」「自己否定が強いのは病気なのではないか」と悩んでいる人も少なくありません。この記事では、自己否定が止まらない原因と克服方法について解説します。
目次
- 自己否定とは
- まとめ
自己否定とは、自分自身のあり方を否定することを指します。具体的には、「自分はダメな人間だ」「自分なんていないほうがいい」といった感覚を抱くことをいいます。
自己否定が止まらない人は、生活に対して無気力になったり、社会に出て他人とコミュニケーションを取るのが怖くなったりと、様々な問題を抱えやすくなります。
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では、自分で自分を否定する原因は一体何が考えられるのでしょうか。
いじめを受けた過去がある不登校経験者は、自己否定や無気力の状態を体験しやすいことが分かっています。社会への適応と自己否定には大きな関連があると考えられています。
子どもは親から愛情を受けることで、ありのままの自分に価値があるという感覚を育むといわれています。幼い頃に親から虐待やネグレクトなどを受けたり、親のサポートが得られなかったりすると、自分のあり方に対して否定的な評価をしやすくなると考えられます。
学校だけでなく、社会生活や人間関係などで大きな失敗を経験した人は、自分のあり方に対して否定的になりやすいと考えられています。
自分のことを自分だけの基準で評価するか、社会的な基準で評価するかによっても、自己否定の傾向が異なります。社会的な基準とは、周りの人の能力や成績によって決まるため、優れた他人と比較するほど、自分を否定しやすくなると考えられます。
自分のことを自分だけの基準で評価する傾向が強い人に関しては、自分の理想が高いほど、自己否定をしやすくなると考えられます。
強い自己否定が止まらない場合に、考えられる病気や障害について挙げてみます。
大きな気分の落ち込みが続くことを主な症状とするうつ病では、自分がダメな人間だと感じる「無価値感」を抱える傾向があります。無価値感は、自分の能力や性格などを否定したり過小評価したりすることをいいます。うつ病の症状・サインの例として、ほかには以下のようなことが挙げられます。
うつ病の治療は、医師の指導に基づく服薬と休養、精神療法(カウンセリングなど)の3本柱を基本として行われます。
思考や反応、対人関係のパターンなどが、ほかの多くの人と異なったり極端であったりすることにより、日常生活に支障をきたす場合に、パーソナリティ障害と診断される場合があります。パーソナリティ障害では、「自分のことをどのように捉えているか」が不安定であることが多く、現実に見合わず高い評価を持っている人もいれば、中には否定的なイメージを抱えている人もいます。パーソナリティ障害にはいくつかの種類がありますが、特に回避性パーソナリティ障害では、自分に対する否定的なイメージが見られやすくなります。
パーソナリティ障害の治療は、おもに精神療法(認知行動療法など)を中心に、一定期間の不安や気分の落ち込みなどを和らげるために服薬が用いられることがあります。
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止まらない自己否定を克服するには、どのようにすればいいのでしょうか。
気分の落ち込みや自分自身への無価値感が強くなっているのは、うつ病の兆候かもしれません。このような場合には、次のようなことが兆候を悪化させる可能性があります。例えば、自己否定をする原因は仕事ができないからだと考えて残業をすることや、一人で自己否定をする原因を考え込むことなどが挙げられます。まずは、十分な睡眠や自分の好きなことができる時間を確保し、心身を休めるようにしましょう。
自己否定の克服とは、自分のあり方を受け入れるということです。これを自己受容といいます。自己受容は、自分自身の好ましい面も好ましくない面も受け入れることであり、自己否定をするような自分の一面すらも受け入れるということになります。決して単に自分を好きになることを目指すのではなく、自分の欠点にも「なんとか折り合いをつけていく」「それほどひどくないという感覚をもつ」といった表現がされています。なかなかすぐにできるものではありませんが、自己受容に関連する方法について以下に挙げていきますので、参考にしてみてください。
悩んでいるときや自分の気持ちが分からないときに、体の内側がモヤモヤしたり頭が重い感じがしたりすることがありませんか。カウンセリングでよく用いられるフォーカシングという技法の過程では、このような身体の感覚(フェルトセンスといいます)に注意を向けることで、自分の状態を客観的に観察しやすくします。例えば、日常生活の中で言いたいことが言えなかったときや思い通りにいかなかったときなどに、ゆっくりと身体の感覚に注意を向けてみます。次第に身体の変化に気づく習慣ができると、そのような自分の一面を客観的に捉えられるようになるため、自分を受け入れやすくなると考えられています。
他人に褒められたり認められたりすると、自己受容が高まることが分かっています。さらに、他人を受け入れることと自分を受け入れることは関連していると指摘されています。他人の言うことを否定したり疑ったりしがちな人は、相手を肯定・信頼してみるようにするといいでしょう。例えば、相手から褒められた場合は否定せず、素直に感じたままを相手に伝えるようにするといったことが挙げられます。
社会の繋がりを実感することや良好な人間関係を築くことは、自分のあり方を受け入れることに影響を与えると考えられています。良好な人間関係があると、他人から受け入れられやすくなったり、他人を受け入れやすくなったりすることも指摘されています。趣味などを使って、積極的に人との繋がりをつくることで自分を受け入れやすくなると考えられます。
困ったときに他人の助けを求めることが難しい人は、自己否定が強い傾向があることが分かっています。困ったときなどは信頼できる人に話を聞いてもらうことで、他者から受け入れられることにもつながると考えられます。また、誰かに話をすることによって、自分の内面を客観的に受け入れることにつながるでしょう。
カウンセリングでは、カウンセラーとの対話によって自分自身に対する洞察を深めることで、自己受容を目指していくことができます。自己否定が強いことやそれ以外の日常的な悩みについて、原因や解決方法をカウンセラーと一緒に考えていくことで、自己否定を克服していきます。
いじめ・不登校や親などのサポートが得られにくいこと、社会生活での失敗などを経験している人は、自己否定が強い傾向があります。
自分がダメな人間だと感じる無価値感は、大きな気分の落ち込みを主な症状とするうつ病の一つの特徴でもあります。
自己否定を克服するとは、良いところも悪いところも含めて自己受容をするということです。自己否定を克服するには、心身を休めて安定させ、自分の身体の感覚に注意を向ける習慣をつくったり、良好な人間関係の中で相手とお互いに受け入れ合ったりすることが効果的と考えられます。
<参考文献>
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作田澄泰 中山芳一(2012)コミュニケーション行為による自己肯定感向上に関する研究―キャリア教育の視点からみた道徳授業実践を通じて―,岡山大学教師教育開発センター紀要,2号,pp.14-23
佐藤有耕(2013)大学生の自己嫌悪感を高める自己肯定のあり方,教育心理学研究,49巻,3号,pp.347-358
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うつ病|こころの病気を知る|メンタルヘルス|厚生労働省,https://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_depressive.html(2021-06-08 最終閲覧)
無価値感 | e-ヘルスネット(厚生労働省),https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/heart/yk-058.html(2021-06-08 最終閲覧)