皆さんは、「箱庭」を体験したことはありますか?興味はあるけれど、実際にやったことはない、という方も多いのではないでしょうか。なんとなく抽象的で、治療効果がわかりづらいといった印象もある箱庭ですが、実際はどんな時に使われる療法なのでしょうか。今回は、箱庭療法とはどういうものなのか、治療効果や、向いている悩みについて、臨床心理士の奴田原カウンセラーに解説していただきました。
箱庭療法とは、心理療法の一技法です。セラピストが見守る中で、クライエントが、砂の入った箱の中に、人、動物、植物、建物、乗り物などのミニチュアを置き、自由に何かを表現したり、物語を創って遊んだりすることを通して行います。
歴史的には、1929年にロンドンの小児科医M.ローエンフェルトによって作られ、その後スイスのユング派アナリストであるD.カルフによりユング心理学の考えを取り入れ発展しました。日本では1965年に河合隼雄によって導入され、現在は病院や学校や相談機関など様々な分野で使われています。
臨床心理士とは・・・
悩みを抱える人との対話をベースに、精神分析や心理療法を使って問題の解決をサポートする「こころの専門家」です。
臨床心理士の資格は厳しい学習条件が求められ、心理業界では長年にわたり根強い信頼性を持っています。
うららか相談室には、多くの臨床心理士が在籍しています。
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・幅広い年齢層に行える
箱庭療法の成立過程からも分かるとおり、子供を対象に作られた治療法であり、ミニチュアを取って箱庭に置ける方なら誰でも行うことができます。
・言語表現を介さずに行える
通常のカウンセリングは対話を通して行いますが、箱庭では箱の中に物語を創って遊んだり、最終的に1つの作品を作るので、自分の気持ちを言葉として表現するのが苦手だったり、何か心の中にもやもやした気持ちがあるけれど言葉にならない、といった方でも取り組みやすいと思います。
・イメージが活性化されやすい
砂に触れるだけでも子供の頃の砂遊びを思い出し童心に返ったり、ミニチュアを見ているだけでも想像力が湧いてきたりと、イメージが広がっていきます。イメージは一つの意味に固定されず多様性があり、言葉にならないもやもやした気持ちと似ているものが1つの作品として表現できるようになります。
・客観的に振り返れる
最終的に1つの作品が出来上がり、その作品をクライエント自身が見て感じて味わうことができます。
・無意識にあるものを意識化して自己表現ができる
箱庭療法は、カウンセリングルームという守られた空間で、さらに箱の中に作品を作ってもらいます。この箱庭の枠も一つの守りとなります。箱庭を作る行為をセラピストが見守るという関係性もクライエントの安心感となり、何重にも守られた空間で、クライエントは安心して自由に自己表現ができます。この自己表現が治療効果の1つになります。
自己表現とは、自身の内にあるものを別の形にして外部化するという意味があり、心の内に秘めた何かを作品に表現することを意味します。
もう少し詳しくお話しします。心には大きく分けると意識と無意識の領域があります。
意識とは自分の体験を認識できていることでもあり、ある意味自身をコントロールしているのは意識であるため、社会生活においてはほとんど意識を使って生きています。
その中で色々な葛藤や感情が湧いてきます。その都度しっかり向き合っていけると意識の方におさめることができますが、向き合いきれず無意識に追いやってしまう事があります。辛い体験や強烈な感情ほど無意識の深い部分に追いやってしまうかもしれません。
生まれてからすべてのことに折り合いをつけて生きている人はいないと思います。人は何かしらの葛藤や矛盾を抱えて生きています。
心の中に何か引っかかるけど言葉にならない場合や、頭ではこうした方がいいのは分かっているけど動けない(動かない)場合など、自分でも何が原因でそうさせているのか分からない時ってありますよね。それは先ほど追いやってしまった感情や感覚が無意識にあり意識化できずに症状として表れているとも言えます。
無意識に押しやって分離したものと向き合うことで統合がなされ人は成長していきます。対話を使ってこれを行うことも可能ですが、無意識にあるものを言語化するのは難しく、イメージを通して扱った方が表現しやすくなります。
最初の話に戻りますと、無意識に押しやったものをイメージを用いて箱庭に表現することで、無意識化にあるものを意識化することができ、完成した箱庭は自己表現の1つになります。
・内面に向き合うことで自己理解が進み、人格的成長を促す
本当に不思議で、意識的に「今日はこれを作ろう」と前もって考えてきたクライエントさんがいます。実際に作り始め、初めは予定通りに作っていきますが、途中で“あれ?ここにこのミニチュアは合わないな~”とか、棚にあるこのミニチュアが気になって置いてみたくなったとか、“ここは柵を置くのではなく橋にして川を渡らせよう”とか、よくわからないけどすべて破壊したくなったとか、意識を超えた感覚や動きが生まれてきます。
これはイメージの活性化であり内面の動きでもあり、意識を超えた無意識からの動きでもあります。この動きに対して迷いや葛藤や妥協しながらどう箱庭を作っていくか、無意識にあるものを意識に治めるこの過程は人格的成長となります。
同時に、このイメージの活性化は普段は無意識化に抑えていた気持ちに触れることでもあり、自身の内面にあるものに触れる体験は自身に向き合い自分を知ることにもなり、自己理解が進むことにもなります。
・癒しや浄化作用
セラピストが見守り、クライエントが見守られる関係は、母子関係の母親に包まれる体験と似て、安心感が得られます。また、砂に触れるだけでもリラックス効果があり、気持ちが軽くなることがあります。
具体的にというのは難しいですが、思考タイプで考えすぎてしまう方や、何に悩んでいるのかはっきりわからないが苦しんでいる方、自身の心の様子を知りたい方に向いていると思います。ただし、セラピストとの関係が大切になるので、まずはセラピストと関係を作り安心感が得られてから作ることをお勧めします。
逆に注意が必要な方がいます。イメージが活性化されやすいので、統合失調症の方やうつ症状が重くエネルギーが低下している方には負担が大きく、行うのは難しい場合が多いです。
カウンセリングを通じて、自身の内面とじっくり向き合ってみませんか?
うららか相談室では、あなたの「変わりたい」という気持ちを、臨床心理士などの専門家がしっかりとサポートさせていただきます。
箱庭療法は自身に向き合い自己を表現し、人格的成長をもたらす効果のある心理療法です。
気軽に受けていただきたいですが、どうしても自身に向き合う作業にもなるので、ある程度ご自身と向き合うモチベーションは必要になってきます。それでも自身の内面に触れる体験は様々な気づきや変化をもたらすので、興味のある方はぜひ検討してみていただければと思います。
※うららか相談室の対面カウンセリングで箱庭療法を受ける際の注意点
上記で述べたとおり、まずはセラピストとの関係を作ってから箱庭療法を受けることを推奨しています。私の対面カウンセリングでは箱庭療法を受けることも可能ですが、箱庭療法を受けたいという場合、対面以外のカウンセリングでも構いませんので、通常のカウンセリングを1回以上受けられることをお勧めします。
また、医療機関に受診している方は、主治医の了解を得てください。
(※緊急事態宣言中は、対面カウンセリングは行なっておりません。)