就職活動や転職活動をしているとき、自分の将来について考えるとき、自分がやりたいことを探すときなどに、「自己理解を深めることが大切」と言われるのをよく耳にしますよね。
「自己理解を深めた方がいいんだろうな」となんとなくわかっていても、「そもそも自己理解って何?」、「自己理解を深めるメリットってあるの?」、「どうやって自己理解を深めたらいいの?」といった疑問をもつ人もいるでしょう。
そこで、このコラムでは、自己理解とは何かということや、自己理解を深める必要性、自己理解を深める方法を心理学の観点から解説します。
目次
- 自己理解とは
- おわりに
自己理解とは、自分の気質や性格、タイプ、価値観、考え方、態度・行動などを深く知り、それを自分自身が納得して受け止めることをいいます。
つまり、自己理解は、自分自身のことを、「自分はこういう人間だ」と多面的によく理解し、納得して受け止めることです。
自分の感情や行動に意識を向けて内面的に自分自身を理解することを「私的自己理解」、自分が他者からどう見られているのかを理解することを「公共的自己理解(公共の自己理解)」と言います。
では、自己理解はなぜ必要なのでしょうか?
この章では、自己理解を深めるメリットについて解説します。
・自分に最適な選択・意思決定ができる
人生の中で、何かを選択をし、意思決定をする場面は多くあります。自己理解を深めることで、自分の軸ができるので、他者に流されず、自分の価値観や「自分がどうしたいのか」を大事にした選択・意思決定を人生のあらゆる場面でできるというメリットがあります。
また、就職活動中の学生や転職活動中の社会人の場合、自己理解ができていると、自分の興味・関心について理解しているので、自分のやってみたい仕事や「自分がこれからどうなっていきたいのか」がわかり、就職活動をしたり、キャリアプラン、ライフプランを立てたりする際に役立ちます。加えて、自分の強みや弱みを理解していると自己PRなどにも役立ちます。就職活動や転職活動において「自己理解を深めましょう」と言われるのは、このためです。
・自分に合った物事への取り組み方がわかる
自己理解を深めることで、自分の得意なこと・苦手なことがわかるので、物事に取り組む際に自分に合った取り組み方がわかります。
例として、異なるタイプのAさんとBさんの物事への取り組み方を見てみましょう。
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Aさん:物事を順序立てて進めていくことが得意なタイプ
Bさん:物事は、興味をもったもの、目についたものから取り組むことが得意なタイプ
〔取り組むべき課題のリストが①~⑩まである場合のそれぞれに合った進め方〕
Aさん:①→②→③…→⑩とリストの順番どおりに課題に取り組むとスムーズに課題をこなせる。進行表が手元にあるとより進めやすい。
Bさん:リストの順番に関係なく、Bさんが興味をもった課題や取り組みやすい課題からどんどんこなしていくとスムーズに課題をこなせる。どの課題を終わらせたのかがわかるチェックリストを活用するとより進めやすい。
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また、苦手なことに取り組む場合に、自分の得意なこと・苦手なことをよく理解していると、「苦手なことは得意なことでカバーしよう」と考えることもできますし、自分ではできないことを把握していると、「周りの人からどういう手助けをしてもらえるとうまくいくのか」といった手立てを考えることができ、苦手なことでも取り組むことができます。
自己理解が深まり、自分に合った物事への取り組み方がわかると、目標を達成するまでの過程がスムーズに進み、成長につながるというメリットがあります。
・ストレスに対処しやすくなる
自己理解を深めることで、自分にとってどんなことがストレス要因になりやすいのかということがわかるため、ストレスを溜めないように工夫することができます。また、自分にどういった特性があるのかを理解しているとストレスへの対処がしやすくなります。
また、対人関係上でのストレスとして、「他者からどう見られているかわからなくて怖い」といった悩みを抱える人は少なくありません。しかし、「公共的自己理解」として、自分が他者からどう見られているのか、どういう人間に見られやすいのかということを理解していると、そういったストレスは軽減されるでしょう。
他にも、「他者と比べて自分はできていない」と自分を過小評価してストレスに感じる人も多いですが、自己理解が深まっていると、自分のことを過小・過大評価することなく適切に評価できるため、他者との比較によるストレスを感じることも少なくなります。
・他者の視点に立って考えられるようになり、コミュニケーションがスムーズになる
他者理解とは、他人の立場に立って考え、相手の気持ちや意図、価値観などを理解することをいいます。
こうした他者理解を深めるためには、「自分の発言や行動が相手にどのように受け取られるのか(どう見られるのか)」という視点を持ち、他者の立場に立って想像することが必要になってきます。これは、公共的自己理解を育む上でも重要なプロセスです。このような想像を繰り返すことで、自己理解・他者理解の両方が深まり、自分にとっても相手にとっても適切なコミュニケーションのあり方が見えてきます。その結果、他者との関わりがよりスムーズになっていきます。
以上のように、自己理解を深める大きなメリットは、「自分らしく生きられるようになる」ということだと言えるでしょう。自分らしく生きられるようになると、ストレスが少なく、心地よく生活することにつながります。
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このコラムを読んでくださっている人の中には、
「自己理解を深めるメリットはわかったけど、自己理解を深めるのって難しい」
「自己理解を深めようとすると、なぜか抵抗感があってできない」
と感じている人もいらっしゃるのではないでしょうか?
自己理解が難しい、自己理解を深めることができないのは、なぜでしょうか?
その理由としては、以下のようなことが考えられます。
・やり方がわからないから
自己理解を深めるといっても、そのやり方がわからないと最初の一歩がなかなか踏み出せませんよね。
自己理解の深め方がわからないから、自己理解が難しい/できない人もいらっしゃるでしょう。
詳しいやり方は次の章で解説しますので、やり方がわからなくて自己理解が難しいと感じている人は参考にしてみてください。
・自分の短所や苦手なことにも目を向ける必要があるから
自己理解を深めていく上で、自分の長所や得意なことを理解するだけでなく、自分の短所や苦手なことにも目を向ける必要があります。自分の短所や苦手なことには目を向けたくない人も多いのではないでしょうか。人によっては、自分の短所や苦手なことに目を向けて落ち込んだり自分を責めたりしてしまう場合もあります。そうなると、自分の短所や苦手なことに目を向けることはつらく、自己理解を深めていくことに抵抗を覚えるのも無理はありません。
このような理由から自己理解を深めることができないと感じている人の場合は、自分の短所や苦手なことを見つけたら、同じ数だけ長所や得意なことを見つけたり、自分の短所・苦手なことをポジティブな言葉に言い換えたりする(たとえば、「作業が遅い」という短所→「慎重さがある」と言い換える)ことで、抵抗感が軽減される可能性があります。
・過去を振り返り、つらい気持ちになることがあるから
自己理解を深めるには、過去を振り返る場合があるため、失敗したことやつらかった経験などを思い出すことがあります。そうすることで、つらい気持ちになる場合があるため、自己理解が難しい/できない人もいるでしょう。
このような場合には、自分一人で自己理解を深めようとせず、誰かに話しながら過去の経験を整理し自己理解を深めていくことがおすすめです。たとえば、カウンセリングで過去の経験を話しながら自己理解を深めていくことで、カウンセラーがつらい気持ちに寄り添い支えることができます。このように、サポーターになってくれる人と一緒に自己理解を深めていくことで、安心して過去を振り返ることができるでしょう。
・理想と現実のギャップが苦しいから
自分のことを理解すればするほど、「本当はこうしたいのに、現実はそうではない」とギャップを感じて苦しくなり、そこで自己理解を深めていくことをやめてしまう場合があるかもしれません。
理想と現実のギャップが苦しい場合には、別の視点(たとえば、できること・得意なことなど)から自己理解を深めていくことによって、そのギャップをどうやって埋めていけばよいのか、どうすれば理想に近づけるのかという手立てを考えることができるようになり、その苦しさを乗り越えられる可能性があります。自分だけでその手立てを考えることが難しい場合には、身近な人やカウンセラーなど相談できる人と一緒に考えていくのもよいでしょう。
自己理解は、自己分析、データの活用、他者からのフィードバックの3つの視点を活用することで深められます。
この章では、自己理解を深めるための具体的な方法をこの3つの視点から解説します。
1.自己分析
自分の考えや価値観、感じ方などを自分で分析して、「自分はこういう人間だ」と理解していく方法です。
具体的には以下の方法があります。
・「20の私」で自分を知る
「20の私」とは、アメリカの心理学者Kuhn & McPartland によって開発された20答法と呼ばれるテストです。
「私は・・・・・です」という文章を思うままに自由に20個書きます。
20の文章を書き終えたら、以下の内容について、自分の書いた文章を読み返してみましょう。
「自分の思う自分」がよく見えてくるはずです。
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・共通点のある文章(多く書いていた内容)
・意外性のある文章
・自分の長所(ポジティブな自己イメージ)と短所(ネガティブな自己イメージ)の割合
・過去・現在・未来それぞれの内容の割合
・現実の自分と理想の自分の割合
・自己紹介をする場合に選ぶ5つの文章
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・出来事についての考えなどを語る/書き出す
何らかの印象に残った出来事について、どんな出来事があったのか、そしてその出来事について自分の考えたことや感じたことなどを誰かに語る、もしくは文章として書き出す方法です。
どんな出来事があったのかを誰かに語ったり、文章に書き出したりすることにより、自分が物事をどういった視点で捉えやすいのか、どういった面に着目しやすいのかという特徴がわかります。
また、その出来事についての自分の考えや感じたことを語ったり書き出したりすることで、自分がどんな考え方のクセや価値観をもっているのか、どういった出来事に対してどのような感じ方をするのかといったことがわかるようになり、自己理解、特に「私的自己理解」が深まります。
・自分の歴史を振り返る
生まれてから、現在までの自分の歴史として、印象に残っている出来事やその時の思いなどを振り返る方法です。年表に書き起こしてもよいでしょう。自分の歴史を振り返ったり、書き起こした年表を眺めてみたりすると、自分が何を大事にしているのか、どんなことが好きまたは嫌いなのか、人付き合いではどういうことを感じやすいのかなどが見えてくるので、自己理解が深まります。
2.データの活用
各種の検査や診断などのデータを活用し、その結果をもとに自己理解を深めていく方法です。
自己理解を深めるのに役立つ検査や診断には様々なものがありますが、以下のようなものが例として挙げられます。
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・心理検査(性格傾向やその時の心の状態がわかる検査)
・知能検査(知的能力を総合的に測り、得意・不得意なことがわかる検査)
・職業興味検査(仕事に対する興味の特徴を知る検査)
・職業適性検査(自分の能力面の特徴を知り、自分に適した仕事を探すための検査)
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検査や診断の結果を見て、「これが自分のありのままを示しているんだ」と鵜呑みにすることは、自己理解を深めることではありません。
結果を見て、「どう感じたのか?」ということを振り返ることが自己理解を深めることにつながります。
「確かに、この結果の通りだな」と感じることもあれば、「この結果は本当に自分自身のことをあらわしているのか?間違っているのではないか?」と疑問に感じることもあるでしょう。このように「どう感じたのか?」について掘り下げ、「結局自分はどういう人間なのだろう?」と考えることが自己理解を深める上で大切です。
3.他者からのフィードバック
他者から自分がどう見えているのかフィードバックを聞く方法です。
自分だけで自分のことをあれこれ考えてみても、「外(他者)から見た自分はどういう人間なのか?」ということはわかりづらいでしょう。家族や友人、知人など、色々な人からフィードバックをもらうことで、自分のことが客観的に見えてくるようになります。
以下のような質問をしてみると「他者からどう思われているのか?」という自己理解を深めることに役立つでしょう。
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・自分に対するイメージを聞く質問:「私ってどんな人?どういうイメージ(印象)?」
・自分の長所・短所を聞く質問:「私の長所(強み)は何だと思う?」、「私の短所(弱み、直した方がいいところ)って何だと思う?」
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ここまでの章で解説してきたように、自己理解を深めていく過程において、カウンセリングが役立つ場面があります。
この章では、自己理解を深めるためにカウンセリングでできることをご紹介します。
・「話すこと=離すこと」:自分を客観視することができる
心理学では「話すこと=離すこと」と言われています。
カウンセリングで話すことで、自分の心から「離して」物事を捉えることができるので、自分の気持ちや考えを客観視することができます。
たとえば、自己分析の方法としてご紹介した、出来事についての考えなどをカウンセラーに話したり、自分の歴史を振り返る際にカウンセラーに話しながら振り返りをしたりすることで、「話してみると、自分はあの時本当はこう感じていたんだなと気づいた」と自分を客観視して気づきを得ることが多くあります。そういった気づきの積み重ねにより、自己理解が深まります。
・カウンセラーからのフィードバックをもらえる
カウンセリングで話すことで、その話を聴いたカウンセラーからの「あなたにはこういう性格特徴・特性があるのでは?」といったフィードバックをもらうことができます。自分では気づかなかった自分の性格特徴や長所・短所などを知ることができ、自己理解を深めていくことに役立ちます。
・自己理解を深めていく上での支えになる
自己理解を深めていく上で、過去の振り返りや理想と現実のギャップがつらい時に、カウンセラーは自己理解を深めていく過程の伴走者として、支えになります。
一人で自己理解を深めていくことに難しさを感じた時には、カウンセラーがそのつらさを受け止めます。また、話を整理しながら聴いていきますので、自己分析の助けになるでしょう。
ここまで、自己理解とは何かということや、自己理解を深める必要性・メリット、自己理解を深める方法を解説してきましたが、いかがでしたでしょうか。
自己理解を深めることは、自分がどういう人間で、これからどうしたいのか?何を大切にしたいのか?ということが明確になり、「自分らしく生きられるようになる」ことにつながります。
自己理解を深めていく過程が難しいな、つらいなと感じた場合には、カウンセラーが伴走者としてサポートしますので、カウンセリングを通して自己理解を深めてみてはいかがでしょうか。
<参考文献>
内閣府 (2007) 「ユースアドバイザー養成プログラム(改訂版)」