私たち人間は社会の中で大勢の他者とともに生きているため、他人を意識した結果、自分と比べるのはとても自然なことです。しかし、その結果、落ち込んでしまったり辛くなったりするならば、他人と自分を比較しすぎないようになれるといいですよね。
この記事では、なぜすぐ人と比べて苦しくなってしまうのか、その理由から対処法までお話していきます。
目次
- おわりに
まずは、自分と他人を比べてしまうのはどんな心理が元にあるのか、その原因とも言うべきものが何なのかを見ていきましょう。
・自信のなさ
自信がないと、自分の良くないところや上手くできない部分を意識する機会が多く、すると自然に自分と比べて他者の方が優れているように感じがちです。
自信がないまま生きるのはしんどいですから、どうにか安心したくて、人と比べて自分より下だと思える人を見つける癖ができてしまうこともよくありますが、そうなると、常に誰かとの比較で自分を測るようにもなってしまいます。
それは自分より上だと思える人と比較してしまう機会も増えるということで、ますます自信をなくして落ち込んでしまうことにもつながります。
・正当に評価されない環境
元々自信がないタイプではなくとも、努力や結果を正当に評価されない環境に身を置いている場合も、他人との比較をするようになりやすいと言えます。
そもそも人は誰かに存在を認められているという感覚がないととても生きづらいものですが、自分なりに頑張っているならばなおさら、「認められたい」と願うのはまったく当然のことです。それなのに評価が得られないままでは、評価され適切な自己肯定感を持っている人と比べてとても苦しく感じてしまっても不思議はありません。
・生育環境
生まれ育った環境も、他人と比べて落ち込む傾向を形成する要因になり得ます。親や先生など重要な存在の大人から、きょうだいや周りの子たちと比べられながら暮らしていると、どうしても自分と人を比べる癖が身についてしまいます。
「あなたは○○さんより優秀だ」というように比較されて褒められていたとしても、比べる癖がつきやすいことには変わりなく、その分、自分より上だと感じる人と比べる機会も、比較癖のない人よりは多くなるため、そんなときは落ち込んだり現実から目を逸らしたりと、不適応的な思考に陥りやすいと言えます。
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人と比べて落ち込んでしまうのは誰にでもあるようなことですが、落ち込みが激しかったり頻度が高すぎたりする場合は、病気とも言える状況かもしれません。
・他者との比較は自己理解の一助にもなる
人と比べることを通して、人と自分との違いや似た部分を知り、自分とはどんな人間かを理解していくことにもつながるため、人との比較が常に悪というわけではありません。
したがって、他人と比べること自体が問題というよりは、常に人と比較する癖や、他者同士も比較してそれを表現してしまうこと、また、比較したときに落ち込みや怒り、自己否定など辛い感情が湧いてしまうことが問題と言えます。
他者と比較して「私はこういうタイプなんだな。こういう時には気を付けよう」などと自己理解や行動コントロールにつなげられたり、前向きに「あの人に近づけるよう自分なりに頑張ろう」と思えたりするなら病気ではありませんが、そうではない場合は、たとえば以下のような病気が隠れていることもあり得ます。
・うつ病
うつ病の症状のひとつに、「自分は何をやってもダメだ」と感じるなど、強い落ち込みや自己否定感があります。うつ病を発症したため、その症状として人と比べて落ち込むこともありますし、元々比較の癖があったために自分より優れている人と比べて落ち込むことが続き、それが抑うつ状態やうつ病の引き金になる場合もあります。
他人と比べて落ち込む以外の症状があるならうつ病のおそれもあるため、早めに医療機関を受診すると良いでしょう。
・社交不安障害
人の目がとても気になって、注目を浴びる状況への非常に強い恐怖や不安を感じる場合、社交不安障害と診断されることがあります。人からどう思われるかを気にしてしまうため、どうしても周囲と比べて自分はうまくできないと感じがちです。
他人との比較で落ち込んでしまうのと連動して、その不安や緊張のせいで社会的な場面を避けてしまって学校生活や仕事に支障を来たしているようなら、社交不安障害の可能性もあります。
人と比べて落ち込む癖を直したいと思っている人も多いかと思います。自分をしんどくしてしまうこの癖をやめるには、どんな方法があるでしょうか。
・人の意見や投稿などを真に受けない
インターネットやSNSなどで目にする情報は玉石混交です。他者の投稿や意見を目にして自分の現状に落ち込んだり、嫉妬や不満を感じたりすることがあってもおかしくありませんが、そう感じる頻度やしんどさが大きいようであれば、受け止め方や対応を調整できるといいですね。
ネット上の投稿は、あくまでもその人の一意見であり、都合の良い部分やその人が見せたい一部分だけを強調して書かれていることも珍しくないため、見ていてしんどいならば真に受けないようにしたり、見ないようにしたりするなど、インターネットとの付き合い方を工夫すると良いでしょう。
・自分と他者との境界線を意識する
「自分は自分、人は人」と考えて、自分と他人の境界線を意識するのも大切なことです。
他人と比べて落ち込んでしまう時、それは自分の心の中だけで起きている変化で、客観的には何も起きていません。つまり、他者に落ち込まされたり嫉妬を煽られたりしているのではなく、自分がそう受け止めているだけだと考えれば、自分の受け止め方を調整するだけでいいのだ、と切り替えやすくなります。
自分の内側で起きている問題だけでなく、実際に比較して優劣をつけたがるような価値観を持つ人が周りにいる場合は、その人の言動はあくまでもその人の価値観だと捉えて振り回されないようにする、それが難しい場合は距離をおくようにするのも大切なことです。
・思い込みをやめる
「みんなもっと頑張っている」「これくらい、誰にでもできる」「こんなふうに思っている人はいない」など、勝手に他者の内面や行動を想定して、それと自分を比較して自己否定感を強めているパターンもあります。「みんな○○なはず」「あの人はこうに違いない」という思い込みをやめるだけで、楽になれることもあります。
・比較対象を自分自身にして自信につなげる
生まれた場所、持って生まれた性質や体質などは一人ひとり違いますから、そもそもスタート地点が違うことを踏まえれば、他者と正確な比較をすることは極めて困難とも言えます。したがって、つい癖でやってしまう比較には正当性は無いのだと捉え直すのも一手段です。
どうしても比べる癖が抜けない場合は、比較対象を他人ではなく自分自身にすると良いでしょう。過去の自分よりは成長できていると思える部分があれば、当面それで良しとしてみましょう。
つい誰かと自分を較べて落ち込んでしまったとき、気持ちを切り替えるためにできる対処法を知っておくと楽です。
・好きなことをする
好きなことをしているときは他のことを忘れられる人も多いことでしょう。どんなことでもいいので、自分が好きなことに没頭して自分を取り戻し、他人を意識の外に置くようなイメージを持つのも良い方法です。
・充分な睡眠や軽い運動を心がける
睡眠不足だと、感情が不安定になって嫌な気持ちに囚われたり、判断能力が低下したりしがちです。その結果、過剰に自分を否定的に見てしまうことにもつながりかねません。しっかり睡眠をとることが、過度な他人との比較をしない秘訣とも言えます。誰かと比べて辛いときは、とりあえず寝てしまうのも有効な手段です。
また、軽く身体を動かすのも、思考を切り替える方法のひとつです。散歩やストレッチなど、簡単な運動でもいいので、身体と連動して思考も動かしていきましょう。
・自分の良さを探してみる
人と比較して落ち込んでいるときは、相手の良いところと自分の劣っているところにばかり目が行っている状態です。そこで、ほんの小さなことでも構わないので、自分の良いところにも目を向けてみると、落ち込みから抜け出しやすくなります。
なかなか自分の良さが思いつかない場合は、人と比べる癖を逆手にとって「人の良いところを見つけるのが得意」など短所を裏返して表現するのも、自分の良さを見つける練習になります。
また、家族や友人、パートナーなどに相談して、その人から見た自分の良いところを教えてもらうのも自信や安心につながるでしょう。
・気持ちを書き出す
誰かと比較していると気づいたら、そのとき頭に浮かんでいる考えや気持ちを書き出すのも有効な方法です。内側にある思いを書いて表現するだけでスッキリすることもありますし、書いた内容を改めて読むことで自分の思考や感情を客観視しやすくもなります。
・カウンセリングを受ける
自分だけでできる対処や、身近な人に話すだけではどうにも処理し切れないくらい辛いときは、無理せず第三者の力を借りましょう。
臨床心理士などによるカウンセリングでは、人と比べる癖がどのようにしてできたのかを考えたり、落ち込んだ時の対処法を話し合ったりしながら、自分なりの最善の対応を探っていくことができます。
他人との比較は、自分を知ることができるという点では、時として必要なことでもあります。しかし、比べ方に偏りがあったり、比べたときにひどい落ち込みや嫉妬に襲われるならば、そのような機会を減らしたり、比べても落ち込まないようになれるといいですよね。
自分の視点だけに囚われると辛くなるので、客観的事実だけを書き出してみるなど、過剰な人との比較をしないでいられるよう、自分に合った対処を探ってみましょう。