「忙しく疲れているのに眠れない。」
「仕事から帰っても、ずっと仕事のことを考えていて常に緊張している。」
このような悩みを抱えている人は少なくありません。
そのお悩みは過緊張によるものかもしれません。
そこで、このコラムでは、過緊張とは何か、その症状や原因について解説します。
また、過緊張で仕事ができないときの一時的な対処法や、過緊張の治し方についても解説します。
目次
- 過緊張とは
- 過緊張の症状
- 過緊張の原因
- 過緊張の治し方
- おわりに
過緊張とは、ストレスなどによって、自律神経のバランスが崩れ交感神経が優位になり、心身がリラックスしづらく過剰な緊張が続いている状態のことを言います。
次の章から、過緊張によってどのような症状があらわれるのか、そもそもどうして過緊張になるのか、その原因を詳しく解説します。
過緊張の症状には、以下のような身体症状と精神症状があります。
●身体症状
・動悸
・息切れ
・不眠
・頭痛
・耳鳴り
・肩こり・首こり
・発汗
●精神症状
・イライラ
・不安
・集中力の低下
・疲労感
・憂うつな気分
これらの症状が起こることで、物事がうまくいかず、さらに緊張が高まってしまうといった悪循環に陥る場合もあります。
●過緊張が要因となる病気
過緊張が続くことで、うつ病や適応障害、過緊張性発声障害、過換気症候群、胃潰瘍などの病気につながる恐れがあるため、過緊張状態が続く場合には、早めに対処することが望まれます。
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そもそも、どうして過緊張になるのか、その原因を解説します。
先ほどご説明したように、過緊張は、ストレスなどによって自律神経が乱れることに原因があります。
そこで、この章では過緊張の原因となるストレスと自律神経について詳しく解説します。
●ストレス
「ストレス」という言葉はよく耳にしますが、心理学では、個人にとって負担となる外部からの刺激や要因を「ストレス要因(ストレッサー)」と呼び、そのストレス要因が引き起こした心と体の反応を「ストレス反応」と呼びます(*1)。
ストレス要因とストレス反応としては、以下のようなものがあります。
【ストレス要因(ストレッサー)】
・生理的ストレッサー:体の不調によるストレス。過労、睡眠不足、病気・ケガなど。
・物理的・化学的ストレッサー:環境によるストレス。騒音、気温、照明、有害物質など。
・心理的・社会的ストレッサー:社会生活によるストレス。人間関係、仕事の多忙さ、家庭の不和、借金など。
(一般的に「よいこと」とされる環境の変化もストレス要因になり得ます。例えば、結婚、就職、昇進、新居の購入などの出来事も大きな環境の変化を伴うため、ストレス要因となる場合があります。)
【ストレス反応】
・身体面:各種の痛み(頭痛、腹痛など)、めまい、吐き気、下痢、発熱、動悸など。
・行動面:仕事での欠勤・遅刻・早退の増加、集中力の低下、生活リズムの乱れ、アルコール・ギャンブル・買い物などへの依存など。
・精神面:情緒不安定(感情の起伏が激しい、怒りっぽいなど)、性格の変化(無気力で無表情になる、引きこもるなど)、メンタルヘルス不全(軽いパニック症状、抑うつ状態など)など。
●自律神経
次に、自律神経についてご説明します。
自律神経とは、体を活動させる“交感神経”と、体を休ませ回復させる“副交感神経”の2つによって、内臓、血管、筋肉などをコントロールし、体内の環境を整えてくれる神経のことです。
通常、日中や緊張時は交感神経が優位に、夜間やリラックス時は副交感神経が優位になり、心身の活動と回復のバランスをとっています。
しかし、過度なストレスなどにより、交感神経が優位になる緊張状態が続き、自律神経のバランスが乱れると、副交感神経がうまく優位になれず、過緊張になってしまうことがあります。
ストレスと自律神経の関係について、架空のAさんの例を挙げて解説します。
(例)いつものAさんは仕事から帰ると家でリラックスして、よく眠ることができ、次の日も仕事を頑張ることができていました。
しかし、最近は上司から怒られることや仕事量が増えて、家に帰ってもリラックスできず仕事のことばかり考えてしまうようになっています。疲れているのに眠ることができず、心身の疲れがとれないまま翌日の仕事をしなければいけません。
この時、いつものAさんであれば、仕事中は交感神経が優位になり仕事に集中できていて、夜間や家に帰ってリラックスしているときは副交感神経が優位になり、心身を回復できていました。
しかし、怒られることや仕事量などのストレス要因が増えて、ストレスにうまく対処できなくなると、自律神経のバランスが乱れ、いつもは副交感神経が優位になる夜間にも交感神経が優位になり、うまく心身を回復させることができなくなっています。
●ストレスを感じやすい人の特徴
ここまで解説してきたことを踏まえると、ストレスを感じやすい人は過緊張になりやすいと考えられます。
そこで、ストレスを感じやすい人の特徴を紹介します。
【HSP(Highly Sensitive Person)】
とても敏感で刺激を受けやすい気質を生まれつき持っている人です。「繊細さん(*2)」と呼ばれることもあります。五感の感覚をはじめ、相手の感情やその場の雰囲気など、周りの人が気づかない小さな変化を敏感に感じ取るため、その小さな変化がストレス要因となりやすく、ストレスを感じやすいと言えます。
【発達障害】
発達障害は生まれつきの脳機能の違いにより、物事の捉え方や行動、コミュニケーションに違いがあるため、日常生活で困りごとを抱えやすくなります。発達障害の特性によって、対人関係がうまくいかないことや、失敗・困難に陥ることが多く、ストレスを感じやすい場合があります。
発達障害の中でもASD(自閉スペクトラム症)の人に多い感覚過敏の特性によって、五感が敏感な人がいます。光を眩しく感じやすい、大きな音だけでなくザワザワとした雑音が苦手、部屋の中のにおいを強く感じてその場にいられない、味を強く感じやすく濃い味のものは食べられない、肌触りのよくない衣類は着用できないなど、苦手な感覚への刺激があると強いストレスを感じます。
また、ADHD(注意欠如・多動症)の人は多動性の特性によって、常に動いてしまうことで疲れやすく、その疲れがストレス要因となることもあるでしょう。
このように、発達障害の人はその特性によってストレスを感じやすい場合があります。
そのほかにも、ものごとの捉え方が極端で、完璧主義的な人、白黒ついていないと気が済まない人や、不安になりやすい人、せっかちな人、自分に自信がない人などもストレスを感じやすくなります。
また、トラウマ体験が原因で引き起こされるPTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状の一つである過覚醒では、交感神経が過度に活性化する過緊張状態がみられます。
過緊張で仕事ができない場面での対処法をご紹介します。
一時的に緊張を和らげることに役立ちますので、試してみてください。
●腹式呼吸(*1)
人は心理的なプレッシャーがかかると浅く早い呼吸になる傾向があり、リラックスしているときは自然と腹式呼吸をしています。腹式呼吸によるリラックス法は、意識的に身体をリラックスした状態にすることで、心もリラックスさせる方法です。緊張場面で行うことで、気持ちを落ち着かせる効果があります。
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①肺を空っぽにするイメージでゆっくり「フゥー」っと口から息を吐き出します。
②すべて吐ききったら2~3秒息を止め、その後、ゆっくり鼻から息を吸い込みます。
③肺の隅々まで空気がいきわたったような感覚になったら、2~3秒息を止め、再び口から吐き出します。
※①~③を繰り返しながら、深く眠っているときのように楽に息をすると、全身がリラックスします。
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●ストレッチ
身体の凝っているところをほぐすストレッチをすることで緊張を和らげやすくなります。
・首をゆっくり回す
・肩に手を置き、腕を後ろにぐるぐる回す
・背伸びをする
など、気持ちよく筋肉を伸ばせるストレッチをするとよいでしょう。
●五感を使ったリラックス法
五感を使ってリラックスする方法です。自分の一番敏感な感覚から始めることがお勧めです。
それぞれの感覚に合わせたリラックス法をご紹介します。
視覚:気持ちの落ち着く写真・動画・絵を見る。外の風景を眺める。
聴覚:好きな音楽を聴く(音楽でなくとも、波の音や小鳥のさえずりなど自分がリラックスできると感じる音なら何でもOK)。
嗅覚:好きな香りを嗅ぐ。
味覚:ホッとすることのできる飲み物や食べ物を口にする。飴やチョコレートなどを口の中でゆっくり溶かしながら味わうことに集中する。
触覚:ふわふわした物(タオルハンカチや小さなぬいぐるみ、クッションなど)に触れる。緊張でカーッと身体が熱くなっているときは、手を水で洗ったり冷たい物を触ったりして冷やす。逆に緊張で身体がこわばり冷たくなっているときはホッカイロなどで手を温める。
先ほどご紹介した一時的な対処法だけではなく、深いリラックス状態となることで過緊張を治す方法もあります。
習得するまでに時間がかかる場合がありますので、落ち着いて取り組めるときに試してみてください。
ご紹介する2つの方法は、練習して習得することができれば、仕事の場面などで一時的に緊張を和らげることにも役立ちます。
●漸進的筋弛緩法(*3)
アメリカのジェイコブソン博士が、心と身体をリラックスさせるために創案した方法が「漸進的筋弛緩法」です。意識的に筋肉の緊張をゆるめることで、心身ともにくつろげるようにする方法です。
具体的には、身体の部分ごとに、ギュッと力を入れて緊張させた後に、パッと力を抜いて、その脱力した感じを味わうというやり方です。
力を入れるときのコツは、最大の力の70~80%の力を入れることです。また、脱力した後は、力の抜けた「だら~ん」とした感じを味わいましょう。あわてずに、ゆっくりのんびり体をほぐしていくイメージが大切です。
慣れてくると、緊張することが減り、物事に集中できるようになってきます。
原法では1セッションに40分以上かかりセッション数も多いため、簡易法が作られていますが、ここでは肩と腕の筋弛緩法のみご紹介します。
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椅子に深く腰を掛け、気分を楽にして目を閉じ、静かに座った状態から始めます。
【肩の筋弛緩法】
①力を抜いてゆっくり呼吸をします。
②両肩の間に首を埋めるように両肩をぐっと真上に持ち上げます。
③力を入れて、7秒数えます。
④ストンと両肩を下ろして力を抜きます。肩から背中にかけての筋肉がゆるみ「だら~ん」とした感じを10秒ほど味わいましょう。
※①~④を繰り返します。
【腕の筋弛緩法】
①力を抜いてゆっくり呼吸をします。
②両腕を肩の高さで前に伸ばして握りこぶしを作ります。
③こぶしを固く握り、腕に力を入れて、7秒数えます。
④手の先から肩まで力を一気に抜き、「だら~ん」とした感じを10秒ほど味わいましょう。
※①~④を繰り返します。
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漸進的筋弛緩法の簡易法では、上記のような流れを、両手→両腕→顔→首→両肩→腹部→両脚の順に行っていきます。
●自律訓練法(*3)
自律訓練法はドイツのシュルツ医師によって確立された、緊張状態を和らげ、心身の不調を改善するリラクセーション法です。
自律訓練法の標準練習は、身体のさまざまな感覚に注意を向けながら、自己暗示の言葉「公式」によって心身の緊張を緩和していきます。練習を続ければ、緊張を感じたときもリラックスした状態に戻るコツがわかるようになり、ストレスを感じるような場面にも、落ち着いて対処できるようになります。
以下の説明を読み一人で練習を行うことは難しいかもしれません。その場合は、医師やカウンセラーなどの専門家に指導してもらうことをお勧めします。
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【自律訓練法の標準練習】
背景公式:「気持ちが落ち着いている」
第1公式:「両腕、両脚が重たい」(四肢重感練習)
第2公式:「両腕、両脚が温かい」(四肢温感練習)
第3公式:「心臓が静かに規則正しく打っている」または「心臓が自然に打っている」(心臓調整練習)
第4公式:「自然に呼吸(いき)をしている」「とても楽に呼吸をしている」(呼吸調整練習)
第5公式:「お腹が温かい」(内臓調整練習)または「胃のあたりが温かい」(腹部温感練習)
第6公式:「額が心地よく涼しい」または「額が快く涼しい」(額涼感練習)
消去動作(取り消し運動)
【実際の練習方法(目安は5~10分)】
次の①~③の手順を3セット繰り返したものが、1回の練習になります。
静かで、明るすぎず暗すぎない場所で行います。椅子に座っても、寝ながらでもかまいません。
①姿勢を整えます。身体の力が抜けやすく、安定した楽な姿勢を心がけます。軽く目を閉じ、ゆっくり深呼吸をします。
②今の身体の感じに注意を向けながら、「気持ちが落ち着いている」という背景公式を、数回、心の中で繰り返します。
③「両腕、両脚が重たい」など第1公式から第6公式までを、それぞれの身体の部分に注意を向けながら、数回、心の中で繰り返します。公式は第1公式から始めて、公式の言葉の内容が体感できるようになれば、段階的に次の公式の言葉を加えていきます。
④練習終了時に、「取り消し運動」をします。十分リラックスして緩んだ筋肉を、日常の活動レベルに戻すためです。
まず、両手をグー、パーと開いたり閉じたりします。次に腕の曲げ伸ばしを行います。最後に大きく背伸びをします。
※練習中に不安や焦りが強くなってきた場合には、④の「取り消し運動」をして、練習を一旦終了しましょう。
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ここまで、過緊張の症状や原因、一時的な対処法や治し方について解説してきましたが、いかがでしたでしょうか。
カウンセリングでは、例えば、カウンセラーとの対話を通じて、ストレス要因に対する受け止め方のパターンに気づき、受け止め方の変容によりストレスを感じにくい心の在り方を目指し、過緊張を治していくといった方法などがあります。
コラムでご紹介した一時的に緊張を和らげる対処法や時間をかけて取り組む治し方を試してみても変化がなく過緊張が続く場合や、自分の過緊張のパターンを知り自分に合った対処法を考えたい場合には、ぜひカウンセラーにご相談ください。
<参考文献>
*1:松崎一葉 監修 (2017) 「こころを強くするメンタルヘルスセルフケアマニュアル」 (現代けんこう出版)
*2:武田友紀 (2020) 「『気がつきすぎて疲れる』が驚くほどなくなる 『繊細さん』の本」 (飛鳥新社)
*3:越川房子 監修 (2007) 「ココロが軽くなるエクササイズ」 (東京書籍)