母子分離不安とは、子どもが母親と離れることに対して抱く不安のことです。小さな子どもの分離不安はごく自然なものですが、その度合いが強かったり、年齢が上がっても続いたりする場合は、心配になる親御さんもいることでしょう。
今回は、母子分離不安について、その原因や対処法などをお話していきますので、心配しすぎずより良い親子関係を築くための参考にしていただければと思います。
目次
- 母子分離不安とは
- おわりに
母子分離不安とは何なのか、基本的な部分から見ていきましょう。
・養育者と離れることへの不安
心身のお世話や心地よい時間を通して快適な状態に満たしてくれる養育者は、子どもの適切な発達には欠かせない存在です。小さな子どもにとっては、いつも一緒にいる養育者が世界のすべてといっても過言ではありません。
そんな養育者が目の前からいなくなることに不安を覚えるのは自然なことですが、これを「分離不安」と呼びます。母親に限らず、慣れ親しんだ養育者との間に生じる不安なのですが、これまでは母親が主たる養育者であることが多く、そのため「母子分離不安」という言葉が一般的になっています。本稿でも、便宜上「母子分離不安」または「分離不安」と表記することとします。
・正常な発達の一環でもある
赤ちゃんは、生後5か月頃にはよく知っている人とそうではない人とで反応を変えるようになります。両親など見慣れている人を見ると笑い、知らない人に対しては真顔になったりします。そして8か月頃には、見慣れない人から顔をそむける、泣く等、あからさまな回避反応をするようになります。いわゆる「人見知り」です。これは、赤ちゃんが養育者をしっかり認識して愛着を持っていることの表れでもあります。
また、乳幼児は自分が見えていない場所でも世界が続いているという認識がまだないため、目の前から母親がいなくなると、世界から消えてしまうかのような恐怖や不安を抱きます。このような不安は泣く、後追い等、大人からすると困る行動の元にもなり得ますが、子どもにとってはごく正常な発達の一環と言えます。
・新規場面では分離不安が再燃することも
このように、分離不安は生後8か月頃から見られるようになり、2~3歳頃には落ち着いてきます。
ただし、保育園入園、親と離れて行う習い事を始めたときなど、不安が強まるような新規場面では分離不安が再燃することもよくあります。行きたがらない、母親にしがみついて離れない、泣く、駄々をこねるなどの行動として表れることが多いですが、新しい環境に慣れるにつれて軽減していきます。
・小学校での母子分離不安とは
分離不安は小学校入学後にも見られることがあります。入学してしばらくや、連休明け、長期休暇明けには、登校を嫌がる、腹痛や吐き気、夜尿や甘えといった退行など、分離不安があると思しき状態になるお子さんもいます。
もう小学生なのに…と心配になるかもしれませんが、就学は大きな環境の変化ですし、入学の前後に転居や保護者の就業など生活上の変化も伴う場合は尚更、一時的に分離不安が強まって上記のような行動が表れることは何もおかしくありません。
母子分離不安の原因となるのは、どのようなことなのでしょうか。
・乳幼児期の分離不安は成長の一過程
生後5か月頃からの分離不安は、赤ちゃんがよく知っている人とそうでない人とを見分けられるようになり、愛着が形成されているために現れる現象です。子どもの正常な発達の過程と考えられます。
この時期は、養育者が別の部屋に行くなどして視界から消えると、自宅など慣れ親しんだ場所に居ても分離不安が引き起こされます。
・3歳以降は環境の変化が主な原因
2~3歳頃になると、目の前から養育者がいなくなってもまた戻ってくることを理解できるようになるので、離れても不安を感じなくなったり、感じたとしても遊んだりしながら待つことができるようになります。
しかし、初めて行く場所や知らない人がいるなど、未知の状況では分離不安が出てくることも珍しくありません。幼児期~学童期の分離不安は、こうした環境の変化が主な原因です。
・性格や環境側に原因がある場合も
分離不安の表れ方には個人差があるので、8か月頃になっても特に後追いなどしない子もいれば、3歳を過ぎても、あるいは新規場面ではなくても母親と離れることを不安がる子もいます。
それは子どもの持って生まれた性格や環境、それまでの経験にもよります。たとえば、繊細でいろんなことに不安を感じやすい性格の子は、分離不安も強い傾向があります。また、赤ちゃんの頃からいろんな人に預けられたりして母親と離れることに慣れている子の場合、入園・入学に際しての分離不安はそれほど強くないことが多いです。
置かれた環境が子どもに合わないときや安心感が得られない状況では、性格や経験に関わらず分離不安が出てくることもあります。
ここからは、分離不安への対処法についてお話します。
・親子で楽しめる時間を作る
分離不安を軽減させるには、子どもの心の中に安心感や信頼感を育むことが大切です。親子で一緒に遊んだり何かをしたりする時間を持ち、楽しさや嬉しさを共有すると良いでしょう。
・見通しを立てやすくなる声かけをして徐々に慣らす
養育者といったん離れてもまた自分の元に戻ってくることが理解できれば、分離不安は消失していきます。その理解を促すような声かけをするのも対処法のひとつです。
たとえば、「〇時くらいに迎えにくるね」「帰ったら一緒に好きなもの食べようね」など、またすぐ会える見通しを持ちやすくなる具体的な言葉をかけるのも、安心感を高めることに繋がります。
・別れ際に泣かれても普段通りに接する
保育園や幼稚園に送っていった際、大泣きされて困ってしまう親御さんも多いことと思います。泣いている子どもを置いていくことを辛く感じてしまうかもしれませんが、親が悲しそうにすると子どもはますます不安になってしまうおそれがあります。
いつも通りに笑顔で「また後でね」と離れて、実際に後でまた会えたという体験の積み重ねが、分離不安を軽減していきます。
臨床心理士とは・・・
悩みを抱える人との対話をベースに、問題の解決をサポートする「こころの専門家」です。
うららか相談室には、多くの臨床心理士が在籍しています。
母子分離不安が強いお子さんの場合、育て方の問題や発達障害、分離不安症との関連が心配になることがあるかもしれません。実際のところ、どうなのでしょうか。
・分離不安は母親のせい?
「母子」分離不安という呼称や、主に子育てするのが母親であることが多かった経緯から、子どもが分離不安を示すと「自分のせいではないか」と考えてしまうお母さん方も少なくないかもしれません。
しかし、先述の通り、分離不安の背景には、環境や子ども自身の性格など様々な要因が考えられますので、母親や愛情不足のせいにするのは無理があります。自分を過剰に責めなくても大丈夫です。
・発達障害とは必ずしも関係ない
分離不安は正常な発達の一環でもあるので、分離不安があるからといって発達障害と結びつける必要はありません。
ただ、発達障害のお子さんは新規場面や不慣れな状況への対応、対人コミュニケーションが苦手な傾向はあるので、その分、分離不安が強めに出ることはあり得ます。人と上手く関われない、衝動性が強い等、分離不安以外にも気になるところがある場合は、専門機関に相談するのも一手段です。
・不安が非常に強い場合は分離不安症の可能性も
分離不安は成長や環境への慣れとともになくなっていくことがほとんどですが、不安が非常に強かったり長く続いたりする場合は、分離不安症になっている可能性もあります。
正常な反応としての分離不安と分離不安症との違いは、症状の持続期間と強さです。症状が1ヶ月以上続いていて、子ども自身が非常に辛い思いをしていたり、日常生活に大きな支障が出ている場合にのみ、分離不安症と診断されることがあります。
分離不安症の治し方は、親や保育園・学校の先生などに望ましい対応を助言し実行してもらう行動療法が中心です。子どもや親へのカウンセリングが行われることもあります。
慣れ親しんだ大切な相手と離れることは大人でも辛いことがありますが、経験が少なく狭い世界にいる子どもにとっては一大事とさえ言えます。そのような状況で不安を抱き、離れがたさを表出できるのは、順当な発達の一環です。
成長や時間の経過とともに乗り切れることがほとんどですが、激しく泣かれて親子ともども辛いときや長引いて心配だというときは、先生など子どもに関わっている大人や専門家に相談すると良いでしょう。