子どもの頃、お気に入りのぬいぐるみや毛布があって、いつも一緒に居たという人は多いのではないでしょうか。また、大人になってもそれが続いている人や、お子さんがその状態で少し心配だという親御さんもいることと思います。
これは、「ブランケット症候群」「ライナスの毛布(ライナス症候群)」と呼ばれるもので、特に心配すべきことではありません。
ぬいぐるみや毛布が持つ意味や、手放せなくなる背景にあるもの、望ましい対応などを中心に、ブランケット症候群についてお話していきます。
目次
- おわりに
はじめに、ブランケット症候群とは何なのか、簡単にご紹介します。
・特定の毛布などが手放せない状態
ブランケット症候群とは、お気に入りの毛布やタオル、ぬいぐるみなどをいつも持ちたがり、それがないと不安になるような状態のことです。「安心毛布」とも言われます。また、スヌーピーでおなじみの漫画『ピーナッツ』の登場人物であるライナスがいつも毛布を持っていることにちなんで、「ライナスの毛布」「ライナス症候群」と呼ばれることもあります。
手放せなくなるのは、毛布やぬいぐるみなど、温かみのある、手触りがふんわりしたものが多いですが、プラスチックのマスコットなど、硬いものが対象となることもあります。
・子どもに多いが大人にも見られる
ブランケット症候群は生後4か月頃から幼児期にかけてよくみられる状態で、子どもがどこにでもぬいぐるみを持ち歩こうとすることを心配されている親御さんや、自分が子どもの頃大好きなタオルがあった記憶がある、という方々も多いことと思います。
成長するにつれて徐々に減っていきますが、中学生になり思春期に入っても「寝るときだけはこのタオルを握りしめていたい」というお子さんもいますし、中には大人になってもその状態が続く人もいます。
・病気ではないのでご安心を
「ブランケット症候群」や「ライナス症候群」はいずれも正式な診断名や病名ではなく、あくまでも特定のアイテムを手放せないような状態を指す俗称にすぎません。
この状態は病気ではありませんし、親の育て方や子ども自身に問題があるわけでもありませんので、安心していただけたらと思います。
では、ブランケット症候群の原因になるのは、どんなことなのでしょうか。
・自立の第一歩となる移行対象
ブランケット症候群の状態にある子どもが肌身離さず持ち歩くものを、心理学用語では「移行対象」といいます。移行対象は、イギリスの精神分析家であるD.W.ウィニコットによって名付けられたもので、子どもにとっての最初の「自分でない所有物」です。
生まれてすぐの赤ちゃんは養育者と自分の区別がついておらず、言わば一心同体です。しかし、徐々に「自分の内的世界」と「養育者も含む外的世界」とがあることに気づいていき、両者の世界間の橋渡しをするのが毛布などの移行対象です。
小さな子どもは、いつも傍にいるはずの養育者が離れることに不安を抱きます。移行対象はその不安を和らげ、養育者からの自立に向かう一歩を支える役割を果たします。つまり、タオルやぬいぐるみなどを持ち歩きながら、心の中では自立の準備が進んでいるというわけなのです。
・正常な発達の一過程だから心配不要
ブランケット症候群の様相を呈するのは、親の愛情や一緒にいる時間が足りないせいではないかと思う方がいるかもしれませんが、決してそんなことはありません。
D.W.ウィニコットは、移行対象は養育者とのほどよい関係を基盤に生じると述べています。新生児の頃のように、赤ちゃんのすべての要望に応えるようなお世話をする時期を過ぎ、少し手や目が離れてほどほどの距離感で関わるようになった、適切な親子関係のもとに移行対象が作られるということです。
したがって、ブランケット症候群(移行対象ができた状態)は、順調な発達の一過程であり、心配する必要はないのです。
特定のものを手放せなくなるというところから、ブランケット症候群と発達障害の関連が気になった方もいるかもしれません。実際のところはどうなのでしょうか。
・発達障害のこだわりとは別物
発達障害の一種であるASD(自閉スペクトラム症)の症状のひとつに、強いこだわりが出ることがあります。そのため、特定のアイテムに執着するブランケット症候群から、発達障害が連想されるかもしれません。
しかし、先述の通り、ブランケット症候群は成長の中の一過程なので、発達障害の症状であるこだわりとは別物です。ブランケット症候群の状態が見られたからといって発達障害を疑う必要はありませんし、発達障害のお子さんが毛布やぬいぐるみを手放さなくなることもあり得ます。
・発達障害が心配なら専門家に相談を
ブランケット症候群とは別のこだわりがありそう、または、こだわりはブランケット症候群だと思われるけれど他に気になる症状があるなど、発達障害ではないかというご心配がある場合は、保健センターや児童精神科など専門機関に相談することをおすすめします。
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ブランケット症候群には、どんな対処法があるのでしょうか。そもそも、対処は必要なのでしょうか?
・日常で困らないなら対処不要
ぬいぐるみなどを肌身離さず持っているお子さんを見ていると、心配になってしまう親御さんもいるかもしれません。しかし、日常生活で特に困ることが無いなら、対処しなくても大丈夫です。
病的な状態ではありませんので、特に治し方などを気にすることはありません。
・無理に引き離さない
ただ、外出先や保育園・幼稚園にまで、お気に入りの毛布などを持って行きたがって困ってしまうというような場合には、何らかの工夫ができるといいですね。
毛布をハンカチくらいの大きさにカットして持ち歩けるようにする、お気に入りのぬいぐるみと一緒に登園して「バイバイ」をして親が持ち帰る、または、園と相談して可能ならば通園カバンの中に入れておくなど、状況に応じてお子さんや周囲と相談しながら対応を工夫してみてはいかがでしょうか。
決して無理やり引き離したり、お子さんの気持ちに反して捨てたりしないことが大切です。成長して、養育者と物理的にも心理的にも距離ができてくる不安を埋め、自立に向けて歩んでいくために移行対象となるものが必要なのですから、そこで無理に引き離されてしまうと、子どもの心は不安でいっぱいになってしまいかねません。
子どもにとって大切で必要なものという視点で見守っていくのが、適切な対処法と言えます。
・大人がブランケット症候群でも生活に困らなければ問題ない
ブランケット症候群は、一般的には成長とともに執着が薄まっていき、幼児期の終わり頃までには卒業していくものですが、大人になっても完全には消失しないケースもあります。子どもの頃からずっと一緒に寝ているぬいぐるみがある、という大人の方もいるかと思います。これも、生活の中で困ることがないなら、そのままで問題ありません。
多くの場合、大人になるまでには各自適切な対策を編み出していて、社会生活に影響ない範囲でのお気に入りになっていますので、自然に自らお別れしようと思う日が来るまでは、大切にされるとよいのではないでしょうか。
ただ、そのアイテムと離れると仕事や生活に支障をきたすほどの不安や執着があり、ご自分での工夫では対処が難しい場合は、心療内科やカウンセラーなどに相談するとよいでしょう。
小さな子どもによく見られるブランケット症候群は成長の一過程であり、特に問題ないことをお話してきました。また、発達障害とも関連があるわけではないので、過剰なご心配も不要です。
大人に同様の状態が見られた場合も、生活に支障がないなら大丈夫です。
その人にとってそのアイテムが大切なものであることを理解して、あたたかく見守っていきましょう。